一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

前週に海外勢が日本株を6000億円買い越し、デフレ懸念の中国株売りも背景

2024-07-11 12:56:14 | 経済

 11日の東京株式市場で、日経平均株価は史上初の4万2000円台に乗せた。9日の本コラムで9月末には4万3000円台の達成が十分あり得ると指摘したが、その際の想定を超える急ピッチの上昇となっている。この買い手の中心は海外勢とみられ、前週には6000億円強の買い越しを記録した。海外勢は欧州株や中国株を売って日本株を買っている向きが目立っている。特にデフレ懸念の中国株売りは継続するとの見方があり、日本株上昇は短期間では収束しないのではないか、と筆者は予想する。

 

 <前週の海外勢、日本株買い越し額が3倍に急増>

 財務省が11日に発表した6月30日から7月6日の対外対内証券投資によると、海外勢は日本株を6037億円買い越した。その1週間前の6月23日から6月29日にも1850億円買い越していたが、買い越し規模は3.2倍に急増。その間に日経平均は4万円を回復した。

 7月7日からの週はさらに買い越し額が急増しているとみられるが、複数の市場関係者によると、その中にはサウジアラビアやカタールなどのオイルマネーが含まれていたという。オイルマネーを運用している欧州系ファンドは欧州株売り・日本株買いの大規模な注文を出し、上場投資信託(ETF)の分配金ねん出のための換金売りを飲み込んだ構図になったようだ。

 

 <6月中国CPIやPPIにみるデフレ色>

 また、オイルマネー以外の海外勢の動向では、中国株売り・日本株買いの注文も目立っているという。これも中心は欧州勢とみられるが、テーマは「デフレの中国・脱デフレの日本」となっているようだ。中国国家統計局が10日に発表した6月消費者物価指数(CPI)は前年比プラス0.2%にとどまり、前月比はマイナス0.2%だった。6月生産者物価指数(PPI)は前年比マイナス0.8%と21カ月連続の前年割れとなっている。

 中国当局はデフレに陥っていることを認めていないものの、主要70都市の中で68都市の地価が下落して資産デフレの兆候が色濃くなり、個人と企業の信用が収縮して消費や企業活動が停滞するサイクルに入りつつあるとの懸念が強まっている。特に欧米などの海外勢は「デフレの国の株は買えない」というスタンスであり、代替として日本株が足元で物色されている。

 

 <買い遅れの国内勢>

 日本株の需給に目を転じると、国内勢は戻り売りのスタンスで臨んだ参加者が多く、日経平均株価が4万円台から4万2000円台に上昇する過程では、先に言及したETFの分配金確保のための売りを意識して「早めの売り」で対応した向きもあり、買い遅れているとみられている。

 米連邦準備理事会(FRB)の9月利下げを期待した米ハイテク株の上昇という追い風もあり、日本株の上昇はまだ続くとみている参加者が増えているようだ。中国のデフレ懸念は短期間では解決できないと筆者はみており、中国株売り・日本株買いの流れが継続している間は日本株を支えるエネルギーが供給されると予想している。

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強めの企業物価と共通事業所賃金、9月以降の日銀利上げへ整いつつある環境

2024-07-10 09:52:30 | 経済

 日本の消費者物価(CPI)の動きを先取りすることが多い国内企業物価(CGPI)が、円安などの影響を受けて再び上昇基調を強めている。また、日銀が重視している毎月勤労統計の中の共通事業所による賃金データが5月に目立って上昇し、この先の消費拡大に明るい兆しが出てきている。賃金データはまだ、先行きを見極める必要があるものの、筆者は日銀が9月以降の利上げ検討を本格化させる環境が整いつつあるとみている。

 

 <円安で再加速する輸入物価の上昇>

 日銀が10日に発表した6月の国内企業物価指数は、前年比プラス2.9%と5月の同2.6%から伸びが加速した。ドル/円の月中為替レートが157.9円と円安に振れ、円ベースの輸入物価指数が同9.5%と5月の同7.1%からさらに伸び率を高めたことが大きく影響した。

 CGPIの上昇率加速は数カ月間のタイムラグを伴ってCPIに波及するため、輸入物価上昇を起点にした物価上昇の動きは緩和方向に向かっているとみていた日銀の見方を変える可能性がある。6月の金融政策決定会合における主な意見の中で、ある委員は輸入物価の上昇に関連し「2024 年後半に向けて価格引き上げの波が再び生じる可能性もある」と指摘していたが、今回のデータはそうした見方が正しかったことを裏付けたと言えるだろう。

 

 <5月共通事業所給与、伸び率拡大>

 一方、5月の毎月勤労統計で実質賃金は26カ月連続でマイナスを記録したが、日銀が重視している共通事業所による一般の「決まって支給する給与」は4月の前年比プラス2.0%から5月は同2.7%へと大幅に伸びた。今年の春闘における賃上げ率は、連合によると、33年ぶりの5%台乗せとなる5.10%だった。

 ただ、4月の毎勤統計では大幅賃上げが反映されていなかったため、その原因や先行きについて市場関係者の間で多様な見方が交錯していた。5月のデータが強めに出たことで、日銀は先行きの消費回復のプロセスに自信を深めるのではないか。

 先々のCPI上昇率や賃金上昇率の高まりが見通せるようになれば、現在の0.1%の政策金利は緩和効果が強すぎると日銀が判断する可能性が高まる。言い換えれば、日銀にとって次の利上げの環境が整いつつあると筆者は考える。

 

 <7月利上げには距離>

 ただ、共通事業所による一般の「決まって支給する給与」のデータが1カ月だけ伸びても、基調を判断するにはデータが足りないということになるとみられ、7月利上げの結論に日銀が到達しそうだと考えるのは尚早だ。

 また、5月の家計調査では、2人以上世帯の消費支出が29万0328円と前年比マイナス1.8%と落ち込んでおり、賃上げの効果が消費押し上げに波及するのかどうかは、この先のデータで確認する必要がある。

 したがって物価と賃金、消費などの統計をさらに見つつ、日銀は9月以降に利上げの検討を本格化させるのではないか。

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日経平均は4万3000円台も、マネーゲーム化で買われる4つの理由

2024-07-09 12:42:00 | 経済

 9日の東京株式市場で日経平均株価が史上最高値を更新し、午後には4万1600円台で取引されている。今年1-3月期の国内総生産(GDP)が前期比・年率マイナス2.9%と落ち込んで実体経済が低調な中での株高は、マネーゲームによる「出遅れ日本株」に対するホットマネーの流入と言えそうだ。

 

 <アジア系CTAの買いがトリガーに>

 9日午前の取引で日本株が急上昇したのは、アジア系CTA(商品投資顧問業者)の買いがトリガーになったようだ。

 もともと10日にはETF(上場投資信託)の分配金ねん出のための日本株売りが予想されていたが、9日午前にはその売りを意識した早手回しの売りが散見されていた。市場関係者によると、そこを狙いすましたようにアジア系CTAから大量の買い注文が入り、相場は一気に買い優勢に傾いたという。

 ただ、日経平均が高値追いの展開になるのとは対照的に、日本経済は停滞色を強めている。今年1-3月期のGDPはマイナス2.9%に落ち込み、反動増が予想されていた4-6月期も消費の低迷などで内需の盛り上がりに勢いがなく、輸出の伸びも予想を下回っており、当初予想されていた大幅なプラスは難しくなっている。

 

 <海外勢にとって円安で割安な日本株>

 実体経済とかい離した株価の大幅な上昇を支えているメカニズムは何か──。1つは、円安の進展によってドルベースで取引している海外勢には、日本の株価が割安に見えるということがある。日経平均株価の中で大きなウエートを占める製造業は、この円安で会計上の収益が膨らみ、海外勢にとっては、収益が伸びる日本企業の株を割安で買えるメリットがある。 

 

 <自社株買いや増配のメリット>

 2つ目は、日本企業の進めてきた自社株買いや増配によって、日本株を買うメリットが大きくなっているということがある。ここでも海外勢はドルを円に換えて高配当の日本株を購入すれば、それだけで高水準の利益を獲得できる環境ができている。

 

 <米欧中に懸念材料、消去法の日本株買い>

 3つ目は、足元における米株高への警戒感、英仏に代表される政治不安、中国の資産デフレと景気減速への懸念、中国とのつながりが大きいドイツや東南アジア諸国の景気不透明感の強まりなど、国際分散投資を行っている投資家にとって不確実性が高まっているということがある。そこで、消去法的に日本株買いを進めている海外投資家が増えているようだ。

 

 <利下げのFRBと利上げの日銀>

 4つ目は、この先における米連邦準備理事会(FRB)の利下げと日銀の利上げが予想される中で、ドルを保有している投資家からみれば、円安がさらに進んで為替でロスを生じるリスクが減っている、ということもある。

 以上、大まかに4つの理由を背景として、国内勢の想定を超えた日本株買いが、これから本格化する可能性がある。

 また、4つ目の理由と関連して、日銀の利上げを前提に日本の銀行株上昇の可能性が高まっているとの見方も、海外投資家の日本株物色を強める要因にもなっているという。

 マネーゲームの様相が濃くなっているため、日米の経済データとはあまり関連なく日本株が買われる可能性が高まっており、多くの企業で中間決算期末を迎える9月末には、日経平均株価が4万3000円を突破している展開も十分にあるだろう。

 同時にホットマネーの動きであるがゆえの急速な巻き戻しも、どこかの時点で発生するリスクがある。それが、いつ、どこで起きるのかは、日本発ではなく、米大統領選の動向やFRB高官の発言など米国発の材料で起きる公算が大きいと予想している。

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小池3選と都議補選での自民惨敗、岸田首相の前に3枚のカード 暑い夏に

2024-07-08 12:23:23 | 政治

 現職の小池百合子氏が3選を果たした東京都知事選と自民党惨敗の東京都議補選の結果は、岸田文雄首相の政権運営にどのような影響を与えるのだろうか。補選の結果を見れば、衆院選での自民党苦戦は免れず、自民党総裁選における岸田首相には逆風となった。

 ただ、都知事選での「真の敗者」は立憲民主党であり、岸田首相が総裁選前の衆院解散に踏み切れば、政権の継続が可能になる道も残されているとも見てとれる。これから8月中旬にかけて、1)総裁選に立候補しない、2)立候補して勝利を目指す、3)衆院解散──のうち、どのカードを引くのか、岸田首相の発言から目が離せなくなるだろう。

 都知事選と同時に投開票された都議補選の結果は、自民党にとって強い逆風を認識させた。江東区、足立区、八王子市など9選挙区のうち、自民党は8選挙区に候補者を擁立して2勝6敗となった。特に萩生田光一衆院議員の地元・八王子市で自民党候補が諸派の元職候補に14万4000票対9万8000票の大差で敗れたことは、裏金問題が次の衆院選でも大きなテーマになりうることを示した。

 岸田首相のリーダーシップによる衆院選での勝利は難しいとの見方が自民党内で広がっていたが、東京都選出の同党衆院議員にとっては「落選の危機」が現実味を帯び、岸田首相の下での総選挙は避けたいとの機運が急速に広がることになったのではないか。

 毎日新聞は総裁選の投開票日を9月20日にする案が浮上していると伝えたが、岸田首相が立候補を決断するのは8月中下旬とみられている。

 「打倒岸田」を掲げてだれが立候補し、その中で有力候補がどのように絞り込まれるのか今のところはっきりしないが、このはっきりしない情勢が、岸田首相の立候補の決意を強める要因になると筆者は予測する。どのようにシミュレーションしても勝てないと判断すれば「立候補しない」と会見で述べる場面がやってくるかもしれない。

 しかし、勝算が少しでもあるなら、政権の継続に強い執念を見せている岸田首相は、総裁選への立候補をあきらめないと予想する。

 もう1つ、自民党内では「自爆解散」と言われかねない総裁選前の衆院解散のケースだが、都知事選での蓮舫候補の3位という結果を受け、立憲民主党内に「敗戦」ムードが高まっている今こそ、解散に打って出る好機と岸田首相が賭けに出る可能性もある。自民党内の大勢は「殿ご乱心」とみるかもしれないが、首相の解散権行使を止める法的な仕組みは憲法上、存在しない。岸田首相の決断次第と言える。

 上記の3つのシナリオのうち、1)を岸田首相が決断すれば、日本株は大幅上昇する可能性がある。支持率低下の岸田政権から新政権に移行すれば、高支持率のうちに早期解散・総選挙を断行するとの見方が増え、期待先行での株高予想が広がるとみられるからだ。 

 一方、2)と3)のケースでは、不透明要因が増加すると判断され、株価は一進一退となりそうだ。特に3)を岸田首相が決断した場合は、英国での保守党大敗と政権交代の先行事例を意識した海外勢が日本株売りを仕掛けるリスクもあると予想する。

 都知事選が終わって、いよいよ暑い「永田町の夏」が始まる。

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神田財務官の本音が隠された報告書、事態放置なら日本国債格下げも 

2024-07-03 12:49:13 | 経済

 財務省の神田真人財務官が主催した有識者懇談会が2日に公表した報告書は、エッジの効いた指摘が数多く盛り込まれ、日本経済の「病巣」を端的にえぐり出している。為替介入を指揮した神田財務官の本音が、そこに見えると筆者は感じた。

 円安体質は介入では治癒できず、これまで放置されてきた低迷する対内直接投資に対する抜本的な政策対応が必要であり、現状のままで時間が経過すれば、日本国債は格下げに直面するという厳しい認識があると言える。

 

 <日本経済の弱点、ズバリ指摘>

 霞が関の官僚が作成する報告書は、通常、総花的な構成で何が目玉かあえてはっきり表現しないことが特徴になっていることが多い。筆者が毎日新聞経済部に在籍していたころ、何を見出しにしてよいか迷ってしまう報告書に何度も遭遇した。

 だが、今回の「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会がまとめた報告書は、日本の政策当局者があえて避けてきた日本経済の弱点がはっきりと列挙され、さらに最悪のケースでは日本国債の格下げが現実味を帯びると描き出した。ある意味で画期的な構成となっている。

 

 <貿易赤字とデジタル赤字の現実>

 まず、冒頭で、2023 年末の対外純資産残高は過去最大の471 兆円に達し、33年連続で世界最大の純資産国となっているが、決して楽観できる内容とは言えない、という問題提起で始まる。

 国際収支の内訳をみると、貿易収支は赤字基調となり、その背景に自動車以外の産業の国際競争力低下があると分析し、自動車産業がこの先、電動化やIT化で後れを取ると、さらに赤字が増えることになると警鐘を鳴らした。

 また、輸出拠点の国外シフトや円安でも輸出数量が伸びない構造変化にも言及。貿易収支の赤字構造が抜き差しならぬ事態に直面していることを正面から受け止める分析内容となっている。 

 サービス収支では、いわゆる「デジタル赤字」の現状にも言及し「クラウドや検索サイト、オンライン会議等のプラットフォームのほとんどを外国企業が提供している」と指摘。「日本の企業や教育現場におけるデジタル化の進展に伴い、当面はデジタル赤字が一段と拡大する」との見通しを提示した。

 

 <細る対内直接投資という病巣>

 続いて、第1次所得収支の黒字について分析し、「国境の外側」での投資を優先する日本企業の行動が、直接投資収益の著しい増加となって表れていると分析。対照的に「国境の内側」では、設備投資が長らく停滞し、 2000年から2022年にかけて、民間企業設備ストックの残高は約 18%、年平均ではわずか0.8%しか伸びていない ことに着目した。

 その結果、対内直接投資残高の対国内総生産(GDP) 比は、経済協力開発機構(OECD) 加盟国中で最下位となり、国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計で198 カ国・地域中196 位と著しく低い水準にあることをデータを提示することで明示した。

 政府が6月21日にまとめた骨太の方針では、この対内直接投資が危機的状況になっていることへの認識が欠如していたと筆者は考える。この点を指摘した今回の報告書は円安の大きな要因が、ここに隠されていると強調しているように映る。

 さらに新NISA(小額投資非課税制度)のスタートにより、個人の海外への資金流出額が今年1-4月だけで4.1兆円と昨年1年間の3.5兆円をすでに上回っている現象にも触れ、これまで円資産を選好してきた日本人の投資家のホームバイアスが弱くなっている可能性にも言及している。

 

 <打開策なければ、将来の格下げに現実味>

 このように、円安を招く要因が数多くあることを指摘したうえで、1)日本国債の海外勢の保有比率の上昇、2)日銀による国債購入の縮小が見込まれる──とし、長期金利が上がりやすくなる環境になると指摘している。

 上記で指摘した対内直接投資の先細りは、今は4年連続で過去最高を記録している国内における税収の頭打ちを招き、債務の膨張を抑制できない場合は、日本国債の格下げの可能性が出てくることになる。報告書では「財政危機に直面した他国の事例を見ると、いったん格下げが始まると動きが早い ことが知られている」と率直に述べている。

 7月末で財務官を退任する神田氏は、日本経済に対する大きな懸念をこの報告書で示したのではないか。岸田文雄首相が、本気で政権の継続を考えているなら、日本の対内直接投資の大幅拡大のための政策パッケージを提示するべきだろう。それが、格下げという時限爆弾の破裂を少しでも先に延ばす唯一の方策であると考える。

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