
4日の東京市場で日経平均株価が大幅に続落した。3日の米株式市場の下落要因となった相互関税を含む「トランプ関税」の米経済への打撃が大きい点に改めて市場の関心が集まり、米株の立ち直りなしに日本株の反発はあり得ないとのムードが広がった。トランプ関税によって米企業の稼ぎ頭である多国籍企業が大きな不利益を被り、既存のサプライチェーン(供給網)を維持できないと多くの市場参加者が想定し始めたことが大きいと筆者は指摘したい。
4日(日本時間5日未明)に行われる米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長による講演で、米景気後退懸念への機動的な対応の可能性を示唆するいわゆる「パウエルプット」が出るのかどうかに大きな関心が集まっている。もし、パウエルプットが不発に終われば、世界的な株安連鎖に歯止めがかからず、日経平均株価が昨年8月5日に付けた3万1458円42銭の安値を割り込む可能性もありそうだ。
<トランプ関税がサプライチェーン破壊、米株の下落幅拡大>
3日の当欄で指摘したように、トランプ関税は第2次世界大戦後の世界経済の発展を支えた「自由貿易」のシステムを破壊し、とどめを刺した可能性が高い。その証拠に3日のNY市場で米国外の生産拠点での比重が高いアップルが前日比9.2%の下落となり、ナイキの下落幅は14.4%に達した。
米国内における自動車産業の興隆を目指したはずの自動車関税の影響を受けて、グローバルなサプライチェーンを持つゼネラルモーターズの株価は4.3%下落。トランプ関税の影響で米経済全体が景気後退に陥るのではないかとの懸念からハイテク株の下げも目立ち、エヌビディアが7.8%、アマゾン・ドット・コムが8.9%とそれぞれ下落し、金融株の下げも大きくなった。
トランプ大統領は関税を引き上げて、米国内の製造業の復活を遂げると宣言したものの、マーケットはその実現性を全く信じておらず、トランプ関税に「ノー」を突き付けた格好だ。
短期的に最も問題なのは、世界中に張り巡らされたサプライチェーンがトランプ関税でずたずたに切断され、機能不全に陥ることが明白になったことだ。
サプライチェーンをトランプ関税に対応して利益の出るように再構築するのは至難の技ではないか。プランができたとしても、それを実行して生産をスタートさせるまでに数年単位の時間が必要になる。
<唯一の買い材料が米利下げ、注目されるパウエル講演>
複数の市場関係者によると、相互関税を中心としたトランプ関税の影響をマーケットが消化し終わるにはかなりの期間が必要になるとの見方が多数を占めているという。
特に短期的には、トランプ関税のマイナス効果を埋めるような大きなプラス材料が見当たらず、4日に発表される3月雇用統計の注目度も相当に低下しているという。
その中で、一部の市場関係者が「わらをもつかむ」思いで見守っているのが4日に予定されているパウエル議長の講演だ。市場機能が破壊されるかもしれないというトランプ関税のマイナスインパクトを埋め合わせる能力があるとすれば、FRBの利下げ以外に見当たらない、というのが下落相場に耐えている市場関係者の偽らざる心境ではないか。
<クックFRB理事は利下げに慎重姿勢>
だが、多くの市場関係者はパウエルプットが投下されることを期待しているものの、その実現可能性は低いとみている。というのも3日に米ピッツバーグで講演したFRBのクック理事が金融当局は当面、政策金利を据え置くべきだとの見解を示したからだ。
ブルームバーグによると、クック理事は「現時点ではインフレは上振れ、成長は下振れするリスクがあるというシナリオをより重視している」と述べつつ「インフレ率が上昇し成長は減速するというシナリオは、金融当局に困難な課題をもたらす可能性がある」と指摘。そのうえで「インフレや失業率の状況次第では、金利を現行水準でより長く維持したり、より早期に利下げするシナリオも考えられる」とし、「現時点では、われわれは辛抱強く注意深くなる余地がある」と述べた。
もし、パウエル議長がクック理事と同じようなスタンスで発言するなら、パウエルプットが投下されるとの期待は空振りに終わる可能性が高いだろう。
<株価下落継続なら、逆資産効果で米景気後退に現実味>
だが、相互関税の内容が判明した後の市場の動向は、自由貿易というこれまでの大前提が否定され、どのように対応していいのかわからず、まるで羅針盤を失った帆船のように漂流しつつある。
もともと今年1月中下旬までの米株の上昇テンポが速く、一部で高値警戒感を出始めていた状況であったため、下落局面に入っても明確な下値めどや「セリングクライマックス」の水準感が出にくくなっている。
このため、マーケットが平時であれば「優等生」のコメントになるような「今後の状況を注意深く見守る」という発言がパウエル議長から出れば、マーケットはFRBから見放されて「ラストリゾートがなくなった」と悲観する可能性も今回の局面では相応にあると思われる。
筆者はパウエル議長がその点に着目し、マーケットの大きな変動が「逆資産効果」を生み出し、米経済に大きな悪影響を与えると判断するなら、「機動的に対応する」との決め台詞を発するのではないか、と予想する。
<パウエルプット投入なければ米株続落、週明けに日本株は下値試す展開へ>
日本時間の5日午前零時過ぎから始まるパウエル議長の講演で、上記のような発言があって市場が「パウエルプット」の投入があったとみなせば、米株は大幅に反発し、週明け7日の東京市場でも日経平均株価は大幅に反発すると予想する。
しかし、クック理事の発言の線でパウエル議長が慎重な言い回しに終始するなら、4日の米株はテクニカルに買い戻しの動きが出ても最終的には売りに押される展開になるのではないか。その場合、週明けも下値を探るボラタイルな値動きになり、大底が見えない暗中模索の取引が長期化するかもしれない。
米経済への依存度が大きい日本経済と日本株は、米経済の後退懸念が弱まるまで売り圧力が増すだろう。昨年8月5日の安値をいったんは割り込むことも覚悟する必要があると考える。
ただ、日本株に関しては日本政府による財政支援策が表面化してくれば、大きな下支えの材料として認識されるとみられる。朝日新聞電子版は4日朝、政府・与党が3日、米国の相互関税賦課の決定を受け、国内事業者とともに、国民生活への影響に配慮した経済対策を新たに講じる方針を固めたと伝えた。予算規模によっては、2025年度補正予算案の編成を視野に入れる、としている。
東京市場の関係者にとっても、5日午前零時過ぎからのパウエル議長の講演内容とその後の市場動向は見逃せないイベントとして浮上したと言えそうだ。
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