
トランプ米大統領が米景気の後退リスクについて質問され、「過渡期」と言及して10日のNY市場で米株が大幅下落し、マネーが米国債にシフトした現象は、トランプ関税の悪影響を織り込みつつあったマーケット心理を一気に弱気へと追いやったことを示した。11日の東京市場でも株安・債券高の現象が鮮明になったが、3月14日が期限の米つなぎ予算の取り扱いが政治的に破綻するなら、米政府機関の閉鎖を招き、債券に向かったマネーは逆流し、やむを得ずキャッシュに向かうという究極のリスクオフに直面するシナリオも浮上してきた。
米共和党首脳部は11日にもつなぎ予算案を採決する方針を示しているが、上院で可決できない可能性があり、そのケースでは14日までに上下両院で妥協案を模索することになるが、時間切れの場合は政府機関の閉鎖へとなだれ込み、トランプ大統領の政治力の低下とマーケットの混乱に拍車がかかるだろう。
<日米とも株から債券へマネーが大量にシフト>
足元における市場の混乱は、株式市場から債券市場への急激なマネーシフトが特徴だ。10日のNY市場では、ダウ工業株30種が890ドル安で引け、ナスダック総合が約4%安、S&P総合500種が2.7%安と3指数とも大幅に下落した。
一方で、米国債市場では、10年債利回り(長期金利)が10.5ベーシスポイント(bp)低下の4.213%、2年債利回りは7.8bp低下の4.539%とマネーの流入が顕著だった。
11日の東京市場でも、日経平均株価は一時、前日比1000円超の下落となり、3万6000円を割り込む場面もあった。後場に買い戻されて終値は前日比235円16銭(0.64%)安33万6793円11銭まで押し戻した。
円債市場では、長期金利(10年最長期国債利回り)が一時、1.49%まで急低下し、午後は1.505%まで戻して取引された。
<トランプ氏の「過渡期」発言、米景気後退への懸念を噴出させる>
この急激なマネーシフトを引き起こしたのは、トランプ大統領の発言だった。9日に放映されたFOXニュースのインタビューで、米アトランタ地区連銀の算出する「GDP NOW」が今年1-3月期のマイナス成長を示していることなどについて質問され「そのように予測するのは嫌いだ。われわれが進めていることは非常に大きく、過渡期がある。米国に富を戻す」と語った。
米国に富を戻すと言ったものの、足元での米景気の落ち込みを「過渡期」と表現したことに市場は反応した。昨年11月5日の米大統領選以降、トランプ氏の政策は「株買い」とみなし、トランプ関税の米国内への影響が軽微と見続けてきた多くの市場参加者は、今回も株式市場に手を差し延べる「優しい発言」を期待していたが、正反対の冷たく突き放す「過渡期」という発言が、モヤモヤしていた不透明感を「景気後退」への懸念へと決定的に変化させた。
S&P総合500種は200日移動平均線を割り込み、下値不安が増大している。米株の下値を支えるのは米連邦連邦準備理事会(FRB)の利下げだが、7日のパウエル議長の講演では米経済は堅調で直ちに利下げを検討する局面ではないと受け取れる「冷めた」分析を表明。マーケットにおける株式から債券へのマネーシフトを止める要因は今のところ見当たらない。
<米つなぎ予算案、11日に採決へ 上院は議事妨害回避に60人の賛成が必要>
そこに一段との不安心理をあおるような事態が米国で発生しようとしている。3月14日で期限切れとなる米国のつなぎ予算の先行きが全く見通せず、このまま米連邦議会で共和、民主両党の対立が続けば、米政府機関の閉鎖へと向かうことになる。
米下院共和党は、14日の予算切れによる政府機関の一部閉鎖を回避するためのつなぎ予算案を8日に発表。国防費を約60億ドル増額する一方で、非国防費を約130億ドル削減し、連邦政府全体の歳出総額は前年度に承認された水準を下回ると見込まれている、とロイターは伝えている。
米共和党幹部は、このつなぎ予算案を11日に採決する方針を打ち出している。下院は僅差で共和党が多数を占めているものの、上院はフィリバスター(議事妨害)を回避して議事を終結させるために60人の賛成を必要とするため、民主党穏健派の賛成が不可欠になる。もし、上院で可決できない場合は、14日までに上下両院で妥協案を模索することになるが、出来ない場合は政府機関閉鎖へと突き進むことになる。
トランプ大統領は9日、記者団からこの点について質問され「(政府機関の閉鎖は)起こり得る。起こるべきではないし、おそらく起こらない。予算継続決議案(つなぎ予算案)が可決されるだろう。様子を見よう」と述べていた。
<つなぎ予算案、14日までに上下両院で可決できなければドル・米株・米債券のトリプル安も>
もし、つなぎ予算案が上下両院で可決できない場合、米政府機関の閉鎖という現象だけでなく、トランプ大統領の政治的な威信に傷が付き、この先のトランプ関税の実施によるトランプ減税の恒久化のための財源確保やイーロン・マスク氏の率いる政府効率化省(DOGE)による人員削減の先行きにも暗雲が垂れ込めるだろう。
それよりも筆者が懸念するのは、足元で債券市場に流れ込んだマネーの行き場がなくなり、債券市場でも売りが売りを呼んで米長期金利が大幅に上昇する事態だ。これは、トランプ大統領の政策遂行力に対する市場の信認の失墜を意味し、ドル・米株・米債券のトリプル安とリスクオフ心理の強化を生み、マネーはキャッシュへと流れ込むと予想する。
このケースでは、東京市場で株安と円高が進行し、日本株には二重の下押し圧力がかかることになるだろう。その意味で11日の米つなぎ予算案の採決結果と14日までのトランプ大統領と米議会首脳部の政治的な駆け引きは、世界の金融・資本市場の行方を左右すると言っても過言ではない、と指摘したい。
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