衆院が9日に解散された。その直前に石破茂首相と野田佳彦・立憲民主党代表ら野党トップとの党首討論が行われたが、双方に優劣を決するような有効打がなく、不透明感を強めながら15日公示・27日投開票の衆院選に突入する。
今回の総選挙では、石破首相の発言のブレによる「失望感」と、選挙協力ができないまま候補者が乱立する野党の「無力感」というマイナス要素のぶつかり合いとなっており、減点競争の様相を強めているのが特徴だ。国民の間では食料品などの長引く物価高への対応を求める声が強いものの、野党側は経済政策で決め手を欠き、衆院選公示前の序盤情勢は自民・公明の両党がかろうじて過半数を制している状況ではないか、と筆者は予想する。これからの選挙戦で、減点競争から脱して国民の共感をより強く得た政党が衆院選の勝者になるだろう。
<石破首相対野田代表の論戦、優劣はっきりせず>
9日の党首討論は、従来の45分から80分間に延長され、議論の展開によっては衆院選の流れを決める材料が出てくる可能性もあった。
立民の野田代表は多くの時間を割いて、政治とカネをテーマに石破首相に論戦を挑んだ。「論客」として高名な野田代表の舌鋒は鋭かったものの、石破首相が論点を微妙に外す「弁論術」を駆使したこともあり、言葉に詰まったり、事前の発言と食い違ったことを述べるいわゆる「失言」もなく、優劣がはっきりしないまま終了した。他の野党党首との討論で石破首相は、次第に慣れを発揮してつけ入るスキを見せることはなかった。
この日の討論で新しい情報があったとすれば、野田代表とのやり取りの中で、公認しなかった候補者が当選した場合の追加公認の可能性について「(当選という結果を)国民が判断した場合、(追加で)公認することはありうる」と石破首相が発言したところぐらいだろう。
野党側は、党首討論という晴れ舞台のチャンスを得たものの、それを有効に活用できなかったといえるのではないか。また、野田氏以外の野党トップは、石破首相との論戦力でやや劣勢との印象を与えたのは、今後の選挙戦ではマイナスだったかもしれないと筆者は感じた。
<野党は物価問題対策で追及なし、国民のニーズとかい離か>
野党側はこの日の論戦で、多くの時間を「政治とカネ」の問題に費やしたが、国民の多くが物価高に直面してその解決策を求めているという実態とかい離していたのではないか。
多くの大企業で賃上げ率5%台・ベースアップ3%台の賃金引き上げを実現したものの、中小・零細企業を合わせた全体では、8月の実質賃金が前年比マイナス0.6%と3カ月ぶりに水面下に没したことなどを踏まええると、各種世論調査で見られるように物価高対策で自民党を上回る具体的で効果的な政策手段の提示が野党に求められると考える。
「政治とカネ」の一本勝負で衆院選を戦い続ければ、多くの国民から政権担当能力に関する疑問符を付けられ、裏金問題で膨らんだ与党への不満を現実の投票行動に結びつけることが難しくなると予想する。
<石破首相のブレと野党の選挙協力不発、どちらのマイナスが大きいか>
今回の衆院選全体を展望すると、自民党総裁に就任して内閣を組織した石破首相の発言のブレや石破色の封印とも指摘される「守り重視の政策展開」で、石破首相と自民党は手にするはずだったご祝儀相場を得ることができず、当初の想定よりも低い支持率で衆院選に臨むことになった。
他方、立民を中心とした野党側も15日の公示までに選挙区調整が劇的に進展する可能性が低く、小選挙区で野党候補が乱立したままでの戦いになる見通しだ。立民の小沢一郎・総合選挙対策本部長代行は8日、野党の候補者一本化について「魔法使いでもない限り、難しいんじゃないか」と述べており、バラバラのままで選挙戦に突入する可能性が高いことを示唆した。
このように自民党と野党の双方に、マイナスの材料を抱えて減点の大きさを競う選挙になりそうな様相となっており、一部の週刊誌が報道しているような自民党・公明党を合わせて衆議院の過半数の233議席を割り込む大敗の可能性は、少なくとも公示前の段階では低いと筆者はみている。
<選挙戦で注目される石破首相の発言、失言なら市場に大きな影響も>
ただ、衆参の国政選挙では過去にも首相や党幹部の失言で、その政党が急失速したケースが何度もあり、すでに発言のブレを指摘されている石破首相にとって、軽はずみな発言が大きな打撃になるリスクがかなりあるとみられている。
8日の当欄でも指摘したとおり、27日の投開票まで衆院選の情勢報道は日本株やドル/円の動向にも大きな影響を及ぼしかねない。自民党がこれから発表する衆院選の公約以上に、石破首相の日々の発言の動向にマーケットの関心が集まるのではないかと予想する。