一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

中東情勢、低い原油価格の危機織り込み ホルムズ封鎖に脆弱な日本の経済安保構造

2024-10-02 14:11:41 | 経済

 2日の東京市場では、イランのイスラエルに対するミサイル攻撃による地政学的リスクの高まりを嫌気し、日経平均株価が2%超の下落を記録した。だが、原油先物価格は小幅の上昇にとどまっており、中東における本格的な戦闘拡大までは織り込んでいない。もし、イスラエルがイランに対して大規模な反撃に出れば、原油先物が大幅に上昇する可能性があり、原油価格の動向が地政学的リスクをより正確に反映する「体温計」になっていると言える。

 仮に中東でイスラエルとイランの直接的な戦闘が本格化し、多数の国を巻き込む展開に発展するなら、中東からの原油輸入が全体の95%を占める日本にとっては、直ちに重大な危機に直面することになる。石油備蓄が240日分あるものの、ホルムズ海峡の封鎖などが現実になれば、東京市場はパニック的な株売りを招くリスクもあり、発足したばかりの石破茂内閣は「最悪のシナリオ」に対応した政策準備を始めるべきだろう。

 

 <イランのミサイル攻撃、日経平均は843円安>

 イランは1日、イスラエルに向けて弾道ミサイルを発射したと発表。イスラエルは180発を超えるミサイル攻撃を受けたものの、防空システムで迎撃したことを明らかにした。イランによると、今回のミサイル攻撃は、イスラエルによるレバノンの親イラン派武装組織ヒズボラに対する軍事行動への報復攻撃という。また、イラン革命防衛隊は、イスラエルが報復に出れば、イランはより壊滅的で破滅的になる対応を行うと表明した。

 このイランのミサイル攻撃のニュースを受けて、1日のNY市場では株売り・債券買いの「リスクオフ取引」が優勢となり、ダウは前日比0.41%安、ナスダックは同1.53%安まで売り込まれる一方、10年米国債利回りは6.3ベーシスポイント(bp)低下の3.739 %で取引を終えた。

 2日の日経平均株価も中東情勢の緊迫を材料に水準を切り下げ、前日比843円21銭(2.18%)安の3万7808円76銭で取引を終えた。

 

 <WTI先物は今年7月の水準下回る>

 一方、1日の米国産標準油種WTIの中心限月11月物は、前日清算値と比べ1.66ドル(2.44%)高の1バレル=69.83ドルに上昇。2日のアジア取引時間帯で71.11ドルまで上昇しているものの、今年7月に80ドル台だった水準を下回ったままだ。

 中国経済の低迷による原油需要への懸念やサウジアラビア増産の方針などを背景に、9月には60ドル台での取引になっていたことを考えると、原油市場の参加者は中東情勢の緊迫で短期的に原油生産が大幅に減少する事態になるというところまでは織り込んでいない、ということだろう。

 つまり、現状の原油市場参加者はイスラエルがテヘランなどイランの中核都市にミサイル攻撃を仕掛け、中東全域の巻きこんだ大戦争になるという危険性が迫っているとは見ていないと判断しているのではないか。

 

 <イスラエルとイラン、それぞれが抱える自制の理由>

 その意味で、イスラエルがイランに対してどのような反撃に出て、報復の応酬になるのかどうかが大きなポイントになる。米国は中東でのエスカレーションが世界情勢を大きな危機に陥れると判断しているとみられ、イスラエルを擁護する姿勢を示しつつも、大規模な反撃を思いとどまるよう水面下でイスラエルに働きかけている可能性があると筆者は予想する。

 また、イランにとっても西側の経済制裁で悪化した経済情勢が、足元での原油輸出の伸びで好転の兆しを見せており、大戦争に発展して原油輸出が落ち込めば、最終的にイランの国益を損なうと考えている可能性があるのではないか。

 世界銀行が7月に公表したイラン経済モニターによると、2023年4-12月の実質国内総生産(GDP)成長率は、石油部門が前年比プラス16.3%、非石油部門が同3.5%となり、失業率も過去最低の8.1%まで改善したという。

 こうした成長の果実を手にしたイランが、自ら手放すような大戦争を覚悟する可能性はかなり低いのではないか。

 

 <ホルムズ封鎖なら、中東依存度95%の日本に大打撃>

 ただ、地政学的な緊張が高まっている中では、偶発的な行為が大々的な紛争に発展するケースが少なくなく、大戦争に発展しないと断言することもできない。

 そこで、可能性は低いものの最悪のケースを想定する必要性も相応に存在する。日本にとって最も危険で経済的なインパクトが大きいのはホルムズ海峡の封鎖だ。

 同海峡は、タンカーが通過できる水深を基準に最も狭いところは3.2キロメートルしかなく、イランが機雷などその海域に設置すれば、タンカーの安全航行が不可能となって、事実上の封鎖が完成することになるという。

 日本の原油輸入のうち、中東からの輸入は2022年度で95.2%を占める。その大部分がホルムズ海峡を通過するので、そこを封鎖されると原油輸入が途絶することに近い状況が生まれる。

 

 <備蓄は240日分、石破内閣は最悪のケースに備える準備に入るべき>

 日本の原油備蓄は、国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄を含めて240日分(約4.8億バレル)の規模となっている。

 仮に中東で大戦争となってホルムズ海峡が封鎖された場合、8カ月たっても和平の道が見えないことになれば、日本の原油は底をつくことになる。

 これはかなり危うい構造ではないだろうか。石破内閣は最悪のケースを想定した対応プランを早急に立てる必要があると指摘したい。

 そして、不幸にも中東の戦火が拡大した場合には、石破首相が直ちに会見して日本の危機克服への対応策を国民に説明するべきだろう。

 もし、国民を不安に陥れるような事態になれば、マーケットの反応は9月27日以降の「石破ショック」とは比較にならない規模で反応する。

 中東情勢が明らかに悪化する前に、石破内閣は危機に備えた対応に入るべきだ。

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