一歩先の経済展望

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消費の弱さに言及した植田日銀総裁、利上げ検討は9月会合以降か

2024-06-14 16:48:05 | 日記

 日銀金融政策決定会合後に行われた14日午後の植田和男総裁の会見は、円安が進展した前回4月会合後の状況を踏まえ、バランス重視の「慎重運転」を心掛けた印象だ。ただ、そこから垣間見えた重要なポイントもあった。それは消費の弱さに言及しつつ、賃上げによるサービス価格の状況を見極めたいと指摘した点と、市場が注目した国債買い入れの減額は、能動的な金融政策の手段として用いないとして説明した点だ。 

 総合的に勘案すれば、7月会合では今後1-2年の国債買い入れ額の減少について具体的な計画を示すが、それは引き締め政策の柱ではなく、利上げの判断は時間をかけて9月会合以降に本格的な議論をしていくということを示したと筆者は考える。

 

 <国債買い入れ減額、1-2兆円の可能性>

 この日の会見で、日銀記者クラブに在籍する記者の質問は、国債買い入れ減額に集中した。これまでは月間6兆円規模での買い入れを実施してきたが、7月会合後の減額幅は「相応の規模」になると植田総裁は答えた。それ以上の具体的な言及を避けたが、筆者は1-2兆円規模になる可能性があるとみている。現在の枠組みでも最大1兆円程度の減額は可能であるからだ。

 ただ、植田総裁は国債買い入れ額の減額に関連し「能動的な金融政策の手段に用いないようにしようと思う」と述べるとともに、金融政策の調整は短期金利の調整で行っていく方針を強調した。一部のメディアは量的引き締め「QT」のスタートとの見方を示したが、金融政策の手段は短期金利の調整であることを日銀はマーケットに対して再確認したかったのではないかとも感じた。

 

 <7月利上げの可能性が低い3つの理由>

 その短期金利の引き上げ、つまり次の「利上げ」に関しては、市場の一部で7月説が今回の6月会合直前に浮上していた。だが、7月に国債買い入れ減額の計画を発表するのに合わせて、利上げを決断する可能性は低いと指摘したい。

 確かに植田総裁は、7月の利上げ決定の可能性を否定しなかった。だが、それは毎回の会合での判断は、その会合までに収集したデータや内外情勢を勘案して決めるという中央銀行の「大前提」に立った「お作法」の説明にすぎないだろう。

 7月利上げの可能性が低い理由は3つある。1つは、植田総裁が消費の現状について「非耐久消費財を中心に弱めのデータが出ている」と述べたことだ。また、足元で自動車メーカーの認証不正問題による出荷停止が発生し、それが耐久消費財に与える影響にも言及した。

 2つ目は、国債減額に際して市場参加者の予見可能性と市場の急変リスクとのバランスをとるために1カ月の猶予期間を取った日銀が、7月に利上げと国債買い入れ減額という2つの大きな市場変動要因をあえて併存はさせないとみているからだ。

 3つ目は、賃金上昇からサービス価格上昇への波及が基調的な物価上昇率の上昇にとって重要と認識している日銀にとって、7月30-31日の次回会合までに収集できるデータだけでは不足と感じている可能性がある点だ。実際、政府内には2024年1-3月期の国内総生産(GDP)改定値でも個人消費がマイナスとなっているため、利上げは時期尚早との声がある。そうした指摘にしっかり反論できる材料が欲しいと日銀が思っても不思議ではない。

 実際、植田総裁はこの日の会見で、輸入価格の上昇を起点にした外食価格の値上がりなどによるサービス価格がこれから一段と鎮静化していく動きと、賃上げによるサービス価格への波及の動きがあり「この2つの力の拮抗がどうなるのか見極めたい」と述べた。この見極めは7月31日までには完了しないのではないか。

 

 <張り巡らされた円安警戒網>

 一方、4月の会見後に一部の海外勢は植田総裁の発言に対して「円安に対して無警戒」との印象を持ち、円売りを仕掛けた面があるといわれていた。この日の会見では、円安の影響についても丁寧に言及し、全方位の警戒網を設定していた。

 たとえば、足元での150円台後半の円安に対しては「円安は物価上振れ要因として注視している」「このところの円安を背景に、輸入物価に若干の再上昇の気配がみえる」「基調的物価上昇の判断の上で注視していきたい」と述べ、円安が金融政策に波及する経路について丁寧な説明を心掛けた。

 さらに経済・物価見通しが展望リポート通りに推移していけば、緩和度合いを調整する目的で利上げしていく方針も改めて示し、「ファイティングポーズ」もしっかりと取った。

 会見後に157-158円台でドル/円が推移し、円安が急進展しなかったことをみても、安全運転の成果が出たといえるだろう。

 7月会合で利上げを見送ったとして、秋以降に利上げを本格検討できるかどうかは、経済・物価情勢に加え、岸田文雄首相の政権運営がどのような状況に直面しているかにも大きく影響を受けそうだ。

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