
日米の中銀イベントをこなしてマーケットはこう着感を強めている。4月2日に発表予定の米関税政策の内容が不透明で、株価や為替、金利への織り込みが進まないためだ。トランプ米大統領とホワイトハウス当局者は4月2日に相互関税と分野別関税の両方を賦課する方針を明らかにしているものの、ベッセント米財務長官は関税賦課を回避するための交渉の機会が相手国に与えられるとの見解を示している。
米政権はどちらの道を選択するのか──。もし、4月2日に例外なく相互関税の適用を始めると宣言した場合、株などのリスク資産は世界的に大幅下落し、リスクオフ心理の広がりから米長期金利の低下とドル安・円高の現象へと発展する可能性が高まると予想する。その一方、日本や欧州連合(EU)などとは事前の交渉を始めるスタンスを示す道を米政権が選ぶなら、米株高を起点にした株高の世界的な波及や米長期金利の上昇によるドル高・円安へと進みそうだ。その結果によって日銀の金融政策判断にも大きなインパクトを与えると予測する。
<トランプ関税の中味、不透明感強く市場は様子見>
日米の金融政策イベントが終了し、20日のNY市場で米株の3指標はそろって小幅安となり、21日の日経平均株価も前営業日比74円82銭(0.20%)安の3万7677円06銭と小幅続落した。
日米中銀ともトランプ関税がマクロ経済に与える不確実性の高さを指摘したのが特徴だったが、それはマーケットも同様だった。今後のグローバルな国際金融・資本市場の先行きを見るうえで、トランプ関税の中味は最も重要な要素になるが、その「正体」がはっきりしないため、市場価格への織り込みが進んでいない。
<4月2日に例外なき関税賦課か、それとも事前交渉の容認か>
トランプ大統領は19日、FOXニュースが事前収録したインタビュー番組で「私は4月2日を『米国の解放日』と呼ぶ」と発言。また、17日には米大統領専用機で記者団から4月2日に分野別関税と相互関税を課すのかとの質問され「場合によっては両方だ」と語った。
その一方、ベッセント長官は18日、FOXビジネス・ネットワークのインタビューで、トランプ政権は4月2日に貿易相手国に対し、各国の税率や非関税貿易障壁などの要素を反映した関税率案を提示すると述べるともに、「関税の壁」を回避するための交渉の機会を与えるとの考えも示した。
ロイターによると、米ホワイトハウス当局者は18日、トランプ大統領が依然として4月2日に相互関税を発動する方針だと述べた。
米政権が4月2日に関税の賦課でどのような政策を打ち出すのか不透明な部分が多い中で、EUのシェフチョビッチ委員は20日、欧州議会で「EUの全ての対抗措置は4月中旬に発動することになる」と述べた。延期の理由について、同委員は域内の調整や米との協議の時間を設定したいと説明した。
このような状況を考えると、一定の国とは関税賦課を決定する前に、二国間での協議を設定する可能性があるようにみえる。
<例外なしの関税賦課、世界市場にリスクオフの激震か>
そこで、4月2日に例外なく相互関税の賦課を公表するケースと、事前に交渉する方針を打ち出したケースに分けてマーケットの影響を予測したい。
前者の方針を米政府が選択した場合、予め予想できたこととはいえ、日本やEUなど同盟国をも巻き込んだ大規模な関税賦課の方針は、世界経済へのインパクトが大きくなるため、世界規模で市場にリスクオフの激震が走ると予想する。
関税をかけられる中国、インド、東南アジア諸国に限らず、EUや日本の株価が軒並み大幅に下落。経済の縮小均衡を懸念した見方が米株にも波及して、世界中のリスク資産からマネーが逃避するリスクが増大する。
日本も自動車株を中心に大幅に下落し、昨年8月の株価急落の再現かと思われるようなショックが発生している可能性もあると予想する。
リスク資産から流出したマネーは米国債などの安全資産に逃避し、米長期金利の大幅な低下につながる公算が大きい。こうしたリスクオフ心理の下では、ドル売り・円高の注文が出やすくなり、円高の進行が目立つと予想する。ただ、相互関税のインパクトは日本よりも欧州の方が大きくなるとみられ、対ユーロのドルは対円に比べて下落幅が小さいこともあるだろう。
<事前交渉容認なら、株高・金利上昇・円安の展開に>
他方、対中や対インドなど対米貿易黒字の大きな国に対する相互関税は4月2日に発動されたとしても、日本やEUなどとは事前の協議に応じるという対応を選択することも予想される。この「Bプラン」では、前記のAプランと対照的なマーケットの反応になると筆者は予想する。
懸念されていた最悪の事態が回避され、マーケットにはリスクオン心理が台頭。米株は大幅に上昇し、ドル/円でもドル買い・円売りが進み、円安が進みやすくなる。米長期金利が上昇することもドル買い・円売りを誘発する。
<ベッセント財務長官のアイデア通りなら、日本には「よい展開」>
ベッセント財務長官は18日のインタビューの中で、貿易相手国が非関税障壁や為替操作、不当な補助金提供などをやめれば、関税の壁を作らないと言うつもりだと指摘。「4月2日の時点で、事前に取引が交渉されているか、あるいは、各国が相互関税率を提示され、直ちにわれわれとの引き下げ交渉を望むことで、一部の関税は発動しなくて済むかもしれないと楽観している」と述べていた。
もし、日本がこの交渉の対象国になれば、4月2日から日本の自動車の対米輸出に25%の関税がかかる事態は回避され、日本株も米株につれて買い戻される展開が十分にあると予想する。
つまり、日米間で非関税障壁や為替操作(円安問題)に関する事務レベル交渉が開始できるなら、日本にとってはかなり「よい状況」と言えると考える。
<プランBなら注目される次回の金融政策決定会合>
19日の植田和男・日銀総裁の会見を経て、足元における4月30日・5月1日の金融政策決定会合における市場の利上げ見通しは20%まで上がってきた。植田総裁は会見の中で、トランプ関税など米通商政策の中味とその影響に関連し「4 月の初めにはある程度のところが出てくるかもしれないという状況」と述べていた。
もし、上記のプランAで示したような世界的な「リスクオフ」による市場の大混乱に陥っていなければ、日銀が重視している賃上げに関し「春闘の一次集計は、オントラックの中でもやや強め」と植田総裁が指摘していることも踏まえ、「無風の会合」と断定できないだろう、と筆者は予想する。
植田総裁は会見の中で「今日の決定会合でも一部の委員からは、物価の上振れリスクについても引き続き注意したいという発言もあったりしましたので、それも意識しながら次回会合以降、両方の側面を的確に見極めて判断を続けていきたい」と発言しており、今後の物価情勢に対する市場の注目度が一段と高まると予想する。
<2月全国CPIでも高止まる頻繁に購入する品目の価格上昇>
その意味で21日に発表された2月全国消費者物価指数(CPI)の中で、年間15回以上購入する「頻繁に購入する品目」が前年比プラス5.7%と1月の同6.2%から引き続いて高い水準を維持していることに注目したい。
植田総裁は、上昇が目立っているコメの価格に言及し「コメを含む食料品などの価格上昇は、それ自体は天候要因等を背景とするものだとしましても、家計のマインドや予想物価上昇率の変化を介して基調的な物価上昇率に二次的な影響を及ぼし得る点は認識しておく必要がある」と述べていた。
トランプ関税をめぐってマーケットがリスクオフに反応して大幅に変動するという展開にならなければ、リスクオン相場の進展に伴って、日本の物価動向にも市場の関心が向いてくると予想する。
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