
■DVD:「アイ、ロボット」
「鉄腕アトム」から50年、2003年はアトム生誕の年でもあった。
日本で「アトム」が産声をあげた同じ頃、
海外で産まれたアイザック・アシモフのSF小説「われはロボット」が本作の原作である。
「われはロボット」の初版発行は1950年らしい。
SF好きなら誰でも知っているほどの有名タイトルらしいが、
私は未読のため原作と本作の違いについては比較出来ないことを前置きしておく。
で、原作が古典だからというわけではないと思うが、設定や展開が余りにも古くさくないか。
「ロボットに心はあるのか」という問題は、アシモフや手塚はもちろん、
世界中の小説家や漫画家が取り組んできた題材であろうし、玉石混淆の中からいくつかの名作も生まれてきた。
初出から50年の時を経た2004年に「われはロボット」を引っ張り出してきたからには、
引っ張り出すだけの理由と信念が必要だ。
「指輪物語」が「ロード・オブ・ザ・リング」として見事に映像化されたように、
「われはロボット」の価値を再確認するような映画でなければ映像化する意味がないと思う。
そういう意味では、本作は「鉄腕アトム」や「われはロボット」はもちろん、
手塚やアシモフの影響を受けた作家達が送り出してきた数多のフォロワーの出来にすら達していない。
SFに関しては素人同然の私から観てもB級であることが丸分かりなのだ。
これでは、世を去った後に作品を汚されたアシモフも草葉の陰で泣いていよう。
最初に書いたように原作は未読なのでどこからが映画オリジナルなのかは分からないが、
世界観の設定が圧倒的に作り込み不足だと思う。
「スナッチャー」「ポリスノーツ」などのSFアドベンチャーを手掛けた小島秀夫は、
「SFの場合は何よりもまず設定」と常々言っている。
未来世界を描くなら、完璧な箱庭世界を作ることが先決、というわけだ。
トム・クルーズ主演の「マイノリティ・リポート」は、
ミステリーとしてはこの上ないほど適当なストーリーではあったが、
設定に関しては本作よりずっとマシな未来図を作り上げていた。
本作の場合、ウィル・スミスをカッコ良く見せることと戦闘シーンを派手に見せることにのみ神経が向けられ、
土台となる設定部分は三日ほどの突貫工事で「あらよっ!」と仕上げたような印象を受ける。
グラついた土台の上では、どんなに金をかけた特撮も派手な銃撃戦も空回りするだけだ。
むしろ余計に虚しくさえある。
結局、「ロボットの心」などどこへやら、、、後半はキレたようなドンパチの嵐で終わってしまう。
足らない頭を力押しで誤魔化してやれというハリウッドお得意のやっつけ方だ。
「メン・イン・ブラック」や「インディペンデンス・デイ」など、
難しいことを考えないウィル・スミスファンにはいいかも知れないが、
まともなSF映画を観たいなら止めておいた方が賢明だと思う。
ウィルが乗り込むビルの心臓部はコミック版「銀河鉄道999」のプロメシュームそっくりだと思った。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
タイトル:アイ・ロボット
配給:20世紀FOX
公開日:2004年9月18日
監督:アレックス・プロヤス
出演者:ウィル・スミス
ブリジット・モイナハン
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
私は原作「われはロボット」のファンです。そして、映画の出来栄えは、アシモフの読者として大変腹立たしいものでした。
映画に受け継がれている原作の設定は、「USロボット」という会社があること、その従業員にスーザン・カルヴィン博士がいること、それだけです。
あとは、世界観も、ストーリーも、哲学も、原作とはまったくの別物です。
そもそも「われはロボット」という短編集は、ロボットと人間が相争うという、まさにこの映画のような『設定や展開が余りにも古くさい』ロボットもの小説に対するアシモフの反感が生んだものです。つまり、アシモフが最も嫌っていたテーマとストーリーを、アシモフの名の下に映画にしたのが、この「アイ・ロボット」なのです。
劇中、カルヴィン博士が、ロボットをマシンガンで銃撃する場面がありますが、これはもう最悪ですね。原作のファンならだれでも知っている通り、彼女はたとえロボットに殺されそうになっても、決してロボットを撃ったりしない(人間を撃つことはあっても)人物なのです。これだけを見ても、映画の制作陣が、原作の精神を何も理解していないのは明らかです。
どうせアシモフの名前を使うのなら、原作のどこを探しても出てこない主人公の刑事の名前も、開き直って「イライジャ・ベイリ」にすればよかったんじゃないのと、アシモフのファンでなければ理解できない皮肉(笑)を言ってやりたくなります。
『足らない頭を力押しで誤魔化してやれというハリウッドお得意のやっつけ方』というのは、言い得て妙だと思いますが、実はアシモフも、ハリウッドの映像産業に対して、似たようなことを言っています。
「彼らは金を持ってる。しかし、金のほかは何もない」
長文コメント失礼しました。ゲームの記事も含め、今後の更新を楽しみにしています。