忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)。
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頑張る子供「カナリア」

2005年04月02日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


■DVD:「カナリア」


劇中では団体名を「ニルヴァーナ」と変えているが、
今回紹介する「カナリア」は、
地下鉄サリン事件で日本中を震撼させたオウム真理教と、
自分の意志と関係なく入信させられた子供達の
「その後」を監督のフィクションで補完した作品である。

今回は導入部分だけを少し説明しておこう。

主人公の光一は、事件の主犯格とされる教団員の息子であり、
強制捜査により保護され、関西の児童相談所へと収容される。
係員との生活の中で多くの子供達が日常を取り戻していく中、
12歳に成長していた光一は頑として心を開かず、説得にも反抗を続けた。
光一の態度に母親の面影を見た祖父は、
共に保護された妹だけを引き取り、光一の引き取りを拒否、
光一は一人施設に残される。
妹を取り返す為、光一は施設を脱走、
道中に出会った少女、由希と共に東京を目指す。

「誰も知らない」の是枝監督も
カルト信者の遺族をドキュメンタリータッチで描いた
「ディスタンス」という映画を撮っているのだが、
「ディスタンス」の登場人物達は年齢で言えば青年であり、
自分達は加害者の遺族であるという自覚をちゃんと持っているのに対し、
「カナリア」の光一は、
真っ白なハンカチをニルヴァーナ色に染め上げられた
若干12歳の少年であるというのが大きな違いだ。

頭に触られると霊的エネルギーが減ると本気で怒り、
食事の前には必ずマントラを唱え、
仕込まれた教義を迷いなく実行する光一と共に旅をする由希は
それまで光一の周りにいた人間と全く違う言葉を投げかける。

光一「人を騙すと地獄に堕ちるぞ」
由希「あんたらの団体はぎょうさん人を殺したやないか!
   人を騙したら地獄で、人を殺したら天国か!わけわからんわ!」

由希の投げる豪速球は、
自分で考えることを封じ込まれた光一の胸に深く突き刺さり、
ニルヴァーナへの疑念を喚起していく。
そして由希も、光一と旅をする中で人の優しさに触れ、
大人への絶望感を少しずつ薄めていく。
これは光一と由希のロードムービーでもあるのだ。

母親が子供二人を連れて出家する際、
教団員の前で誓約書を書くシーンがあるのだが、
母親は光一と妹の名前も代わりに記入し、
子供達はただじっとそれを見つめている。
この年では、まだ「子供は親の所有物」であり、
一個の人間としての権利を与えられていないということだ。
親から離れては生活出来ない間は、
自分の意志がどうであれ、「Yes、No」を自分では決められない。
監督が保護された子供達にスポットを当てたのも、
こうした非力さへ手を差し伸べたかったのかも知れない。

東京まで辿り着いた光一が、施設内で子供達の教育係をしていた
伊沢と再会するシーンは印象的だった。
厳しかった伊沢に反抗心を抱いていたはずの光一が
伊沢の顔を見て安堵の表情を見せるのは、
事件後のニュースや由希との旅の中で
徐々に揺らいでいた光一のアイデンティティーを
支えてくれたような気持ちになったのだろうか。
それとも、憎んでいたはずの伊沢にも
共に暮らすうちに肉親に近い情を抱いていたのだろうか。
私はどちらもあるように思えたが・・・

光一を演じた石田法嗣も由希を演じた谷村美月も
ほぼ文句なし、パーフェクトな演技だったと思う。
石田法嗣は、柳楽優弥が「誰も知らない」で主演した時と同じ
14歳で光一を演じているが、眼光の鋭さは柳楽に一歩譲るものの
寡黙な性格の奥にいくつもの表情を浮かべる光一を見事に演じている。

文句があるとすれば、
りょうとつぐみが演じた二人組に今ひとつ存在意義が薄いことと、
最後の台詞を聞いてすぐに席を立った方がマシというほど、
エンディング曲が全てをぶち壊しにしてしまっていることだ。

決して万人向けの題材ではないが、
年間何本も観られる映画ではないのも確かだ。
お近くの地域で上映しているなら是非劇場でご覧いただきたい。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:カナリア
    配給:シネカノン
   公開日:2005年3月12日
    監督:塩田明彦(「害虫」「黄泉がえり」)
    出演:石田法嗣(「バーバー吉野)」谷村美月
 公式サイト:http://www.shirous.com/canary/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
コメント (5)
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