メディカル・ヘルスケア☆いのべーしょん

医療と健康(ヘルスケア)融合領域におけるイノベーションを考察するブログ

チャイナインパクト

2011-06-20 00:13:46 | 日記
 大前研一氏の「チャイナインパクト」を読んだ。10年近く前に発刊(2002年)されたものにもかかわらず、今読んでも示唆に富む内容である。

 ’メガリージョン’という一億人単位の地域経済ユニットを定義し、東北三省,北京・天津回廊、山東半島、長江デルタ、福建省、珠江デルタの6つの巨大な経済圏をメガリージョンとして提唱した。すなわち、中国を経済的に独立した地域の集合体としてとらえた。
 当時、まだ中国は世界において現在のような存在感があったわけではなく、日本においても、一党独裁で社会主義の中央集権国家といったステレオタイプな見方が残っていて、実体よりもその存在感を低く見ていた節もあったはずであるが、氏は現場に足を運びいち早くその胎動を感じ、その後の経済的な隆盛に確信を得ていた。

 氏は著書の中で様々な予測をしている。10年近く経過した今、その予測に対する検証が可能である。まずは、的中した予測から。
 日本と中国の関係が相当深刻な事態になり、日中経済の逆転で中国へ嫌悪感が爆発し輸入急増で中国脅威論が台頭するというもの。
 国内空洞化によってモノづくり立国の屋台骨が揺らぎ、愛国心教育世代を中心とした反日デモ、さらに昨年に生じた中国船の衝突事故などによる嫌中感情の高まりを、10年近く前に既に予測していたことは或る種驚きを禁じ得ない。中国における日本に対して矮小化する見方や根強く残る反日感情と、日本に依然として存在する中国に対する見下した感情との間にある溝は深まるばかりである。

 的中しなかった予測もある。
 現実的には沿岸部と内陸部とで経済格差が顕著で、内陸部でのフラストレーションは今にも暴発しそうな状況であるが、絶対格差が重要ではなく昨年に比し生活レベルが向上したかという意識により内陸部でも高い満足度が示されると見ていた予測は残念ながら的中していない。また、台湾を台湾省として吸収し中華連邦を形成する、江沢民が共産主義の終焉を宣言する、アジアの共通通貨が作られる等々、ハズれたとはいえ、ユニークかつ大胆な予測は面白い。

 半分的中、半分ハズレの予測として、2012年ころ(執筆から10年後)に日本経済を抜き、一人っ子政策爆弾が破裂し、豊かになりハングリーさの喪失による国力は急速に衰え繁栄は終焉を迎える、というくだりがある。
 2010年に数字の上では日本経済を抜き世界第2位の経済大国になったが、土地バブルに対するリスクはあるとはいえ、当局に強力に管理された元に明確な陰りはまだ見えない。しかしながら、高騰する人件費により’世界の工場’は世界の市場へと変容を迫られ、一人っ子政策による歪んだ人口構成によって超高齢化社会が早晩訪れ、繁栄にいずれブレーキがかかることは確実である。

 その他、非常に興味深い点として以下3つほど特筆したい。

①米国との対比
 冷戦時代を経て今や世界の2大大国となった米中の共通点として、経済的に自由な統治機構の連邦制を取っているということ。米国は州ごとに法律も異なり、政府の縛りは比較的小さい。一方中国は中央の権力は大きいものの、経済開放区を設け地域経済は自立し実質的には地方分権化された自由市場経済である。平時はルーズで、有事には極端なナショナリズムに走る点も共通している。

②台頭国に対する感情
 上昇志向が強く怖いものなしの中国に日本が抱いている感情は、20~30年前に強い円でロックフェラー研究所などを始めとする不動産を買いあさった日本に米国が抱いていた感情に似ているだろうし、さらに今や斜陽となりつつある英国が、1950~60年代に西洋諸国の雄となりつつあった米国に抱いた感情にも似ていると。なるほど。

③地方移譲
 台頭する中国に対して日本はどう処していけばよいかの処方箋として、道州制を始めとする地域国家の構築を提言している。日本の地方色は薄く、誘致合戦のショートリストには残らない。地域ごとの特色をより明確にし、中国のリージョンとの’相互依存体制’を築き、多面的に付き合い懐に入ることによって、日本なしでは立ち行かない状況を作ってしまえということである。最近流行りの小さな政府、地方分権ということか。さらには中国の台頭を変革への原動力とし、モノづくりからサービス産業やプロフェッショナル産業への産業構造転換にまで言及している。

 中国は日本のフォロアーとして特に技術的な面でキャッチアップしようと必死にやってきて、北京オリンピック、上海万博を成功させ、経済的に数字の上では日本に追いついた。しかしながら、あれだけ精巧に模倣品を量産している一方で、中国にはオリジナルなブランドというものが乏しい。ブランドは信頼やエピソードなどが不可欠な故であろうか。
 2030年ころには米国を抜く予測も一部にある。フォロアーからリーダーになった時に果たして何ができるのだろうか。何をなすのだろうか。そのことこそが大国中国の試金石となるにちがいない。

 引用図書)『チャイナ・インパクト』(初版 2002年3月29日 講談社)