メディカル・ヘルスケア☆いのべーしょん

医療と健康(ヘルスケア)融合領域におけるイノベーションを考察するブログ

次世代医療シンポジウム聴講

2012-03-23 00:12:48 | ヘルスケア
日経エレクトロニクス主催の「次世代医療シンポジウム」を聴講した。
会場はほぼ満席で、参加者数は約250人程度か。

演目は全部で6演目あったが、基調講演の康誠会東員病院院長 村瀬澄夫氏の講演内容は非常に興味深いものであったので、いくつかのフレーズを要約して紹介する。

医療サービスを人の修理に見立て、車のメンテナンスを引き合いにし、日本の総人口は1億2800万人で、総車台数7880万台のおよそ1.5倍であるにもかかわらず、病院およびクリニックの総数は99000施設あまりで、整備工場91000とほぼ同数である。したがって、医療サービスの供給は不足していると。なるほど。

また、介護分野は医療分野に比して既得権益も少なく、法規上の制約も少ないため自由度が高い。ニュービジネスをクリエイトするには好都合である。

センシングしてモニタリングしてクラウドにあげてビッグデータにする中で、ビッグデータをどう扱いどう活用するかが今後ポイントとなってくる。

GoogleやAppleは囲い込みをしようとした結果、スタンダードになっている。同様な考え方で、ヘルスケア分野において、アライアンスで皆ができるものをやってもつまらないものしかできない。競争の中で勝ち残ったものがスタンダードになるべきである。

以下の2つのフレーズは、2年前当方がMOTの論文の中で主張していた内容に近くて、非常に共感を覚えた。

「ドクターを頂点とする医療階層の中で、医師の権限の一部が看護士や介護士をはじめとするコメディカルに移り、権限が下位層にシフトする。」
当方も、症状の軽重混交の現況からの脱却を促すため、症状の重い人は医師に診てもらい、それとは別に看護師や薬剤師、保健師による軽症患者に対するスクリーニングの仕組みを組み込むことで、医療の階層をしっかり確立することを望んでいた。
米国では専門の教育を受けたコメディカルによる一部診断も行われており、法規の整備も先行しているようである。
http://blog.goo.ne.jp/ilove156/e/cbc9103ee208ab97e2022562368726c8

「コンビニライクな介護事業所の数が増加傾向にあり、今後どんどん増えていくべき。」
当方も、同様な思想のメディケートオフィスといった低コストの医療サービスが実現されるとよいと考えていた。
http://blog.goo.ne.jp/ilove156/e/bd54291a376435588103f7b7ab30689d


その他の講演も非常に興味深いものであった。
ハウスメーカはエコハウスを経てバイタル情報をモニタして活用するスマートハウスという概念を提唱している。まったく異分野とも思えるところから新しい事業が生まれてくるのだと感心した。
例によってスマートヘルスケア構想では一歩も二歩も進んでいる韓国において、Samsungの存在感はより一層増しており、Samsung病院も経営しだしたとのこと。

今後医療健康領域でのパラダイムの変革が静かに起きているのを感じた。


ふきのとう 人生彩る ほろ苦さ

医療・健康 融合領域のイノベーションにおける2つのアプローチ

2010-11-09 00:39:01 | ヘルスケア
 医療、健康領域にイノベーションを起こすには、2つのアプローチがあると考える。

 一つは、心拍、血圧、体動などのバイタル情報をPHRとして記録し変化をモニタすることで健康状態を管理する方法。これは疾患を予防するために、既存のヘルスケアを拡張する手法である。
 もう一つは、医学的指標をより簡便に頻繁に管理する方法。望ましくはセルフモニタが可能なパーソナル機器によって医学的に意味をもつ情報を直接的に見える化すること。これは疾患の状態が悪化しないように、医療の領域にあるモノをヘルスケア側に歩み寄らせる手法である。

 前者の課題は、取得したバイタル情報から意味ある情報を抽出する効率的なデータマイニングと、バイタル情報と医学的な情報との関連付けである。どの情報をどのくらいの頻度でとれば、あるいはデータがどのようになったら医学的な観点で有意な情報となりうるのか、バイタル情報を管理することは本当に疾患予防につながるのか、といったことがクリアにならないと、その先へと展開しにくいと考える。

 一方、後者の課題は、医療機器という範疇から民生機器というジャンルへ括り替える上での法規上の制約である。医学的に意味のある情報、例えば血液検査における血糖値やヘモグロビンA1cは糖尿病または糖尿病予備軍における有効な指標であるが、このような情報を簡便にセルフでモニタできることは非常に意義がある。しかしながら採血という行為やクリーニングやメンテナンスということを含めて一般の民生機器として実現できるかどうかは、薬事法に照らさなければならない。

 現状、医師の側に抱え込まれている技術や知識が解き放たれ、それをブレイクダウンして何らかのアルゴリズムに展開することができれば、診断はできなくとも変化が検知できたり、何らかの判断ができるなど、予防をアシストする上で充分有用なものとなるのではないか。

 二つのアプローチは互いの融合領域に互いが歩み寄るものであるが、どのようにイノベーションが生じていくかのシナリオは別途考えてみたい。

デジタルヘルスの未来聴講

2010-09-30 00:57:55 | ヘルスケア
日経エレクトロニクス主催の「デジタルヘルスの未来」を聴講した。
参加者数は約350人程、会場は満席で、関心の高さがうかがえた。

演目は全部で6演目あったが、何といってもハイライトは「韓国のスマートヘルスケアの現状と今後」と題した韓国におけるICT活用の事情の発表で、その内容の具体性とスピード感に圧倒され、センセーショナルで迫力があった。発表者はITジャーナリストとのことだが、博士課程の学生でもあり、その他の演者のビッグネームに比しノーマークに近かったものの(おそらく会場もそうではなかったか)、とても流暢な日本語でよどみなく説明される韓国の実情に引き込まれ、その後のセッションの市場創出のカギと題されたパネルディスカッションでも興味の対象は韓国の状況であり圧倒的な存在感を示していた。

その内容における特記事項を簡単に要約すると、、、

<スマートフォンの普及、情報化インフラの確立>
日本よりも遅れていたものの、パソコンからスマートフォンへの急速な切り替えに奏功した。98年の国家的危機を機に行政の情報化を積極的に進めていた背景がある。
スマートフォンは社会へインパクトを与え各方面に浸透している。年寄りや主婦もPCは敬遠してもスマートフォンは好適に捉えている。
住民登録票(総背番号制のようなもの?)に行政機関のどこからでもアクセスでき日本の保険証のようなものは不要。電子カルテ化などの情報化におけるメンテなども国がバックアップし普及を優先。

<強力な国家戦略>
ICTは目的ではなく手段であるものの国家戦略の中心的な役割に掲げられており、医療機器特区や盛んな美容整形に税制優遇するなど様々な施策が実施されている。
知識経済部という日本の経産省にあたる組織が様々なスマートヘルスの実証実験を行っており、そこで得られるデータを下地としてビジネスモデルにつなげていく体制をとっている。
大統領の命令といった強力なリーダーシップにより省庁の縦割り論争を排除し、トップダウンでアグレッシブに推進されている。
将来的にはEMRからEHRへとクラウド化して政府が管理することになる。


政府が強烈なイニシアティブをとり、情報化をドライブしている様子がうかがえ驚かされた。特にデジタルヘルスのような産業は、異業種の連携が必要だが、韓国の財閥系の大会社は傘下に様々な異業種を有しているため推進しやすいといった背景もあるのかもしれない。
しかしながら、ヘルスケア領域での本格的なビジネスが生まれない要因は次の言葉に集約されるように、国家的な施策が重要であり、韓国は国を挙げての取り組みとして邁進しているのだと改めて感じた。
「技術の壁よりも法規や制度、医師会の壁が大きい」
これは今回のセミナーにおいても何人かの発表者が異口同音に口にしていた言葉である。
「医療健康領域にて新規の事業や産業を、単独の機関や企業が生み出すには法規などの限界があり、行政や政府などの公的機関がトリガーをかけて、そのサポートの中で医療機関とベンダー、自治体とがアライアンスを形成するというのがよい」と演者の一人の言である。
正に韓国における国家による推進は注目すべきである。

経産省の方も2030年に向けたビジョンを発表されていたものの、総花的、概念的で漠としており、対して韓国のそれは具体的でスピード感があり、その差異に危機感さえ覚えた。

ヘルスケア産業への期待

2010-09-22 01:39:18 | ヘルスケア
 ヘルスケアと一口にいっても、広義には大衆薬から健康食やフィットネスに至るまで幅広く、その意味するところは非常に漠としているが、当方が興味を持って注目しているのは、最近話題となっているデジタルヘルスとかポケットドクターなどICT技術を活用した医療健康融合領域である。
 米国ではコンビニエンスストアに併設した15分くらいで健康診断が受けられるminutes clinicという、医者ではなくNPが対応する半セルフスタイルのサービスが普及している。日本でも、わずか500円で保険証なしで健康診断ができるワンコイン診療なるものがひそかに話題になっており、健康意識の高まりを感じずにはいられない。
 今後医療費高騰や社会保険の逼迫により、健康維持は今以上に’自己責任’の時代の到来が予想される。また、医師不足という状況下では、普段のヘルスケアやある程度の疾患に対する診断は、医者にかかるのではなくセルフに求められる流れになると考える。センサ技術やICT技術、インフラの発展により、近い将来、医者にかからなくてもそのようなことが個人レベルで可能となると予測する。
 「医師不足に対する処方箋」にて、遊休にあるコメディカルの活用というソフト面における対策案を提言したが、パーソナルな機器の活用というハード面からのアプローチは、より健康に近い領域において有効である。
 キーワードは’手軽さ’であったり’日常生活の中へ’なのだと思う。技術の向上に依るところが大きいが、エレクトロニクスメーカやIT企業が環境分野と並び注目される医療分野へ軸足をシフトしつつある昨今、意外と早くそのような機器の実現がなされるのではないかと思う。またヘルスケア産業の隆盛が予測されても中々大きな事業が成立しなかった原因の一つである通信インフラも整備され、今まさにタイムウィンドが吹きつつある状況と認識する。
 医療機器分野と家電を始めとするエレクトロニクス分野との間には、薬事法という大きな境界が存在し、それぞれの産業における文化や風土、特性の違いに寄与していると考える。パーソナルなより医療機器に近いヘルスケア機器の開発は、厳格な医療機器メーカよりもむしろ、エレクトロニクスメーカがそのスピード感によって医療の側へ歩み寄る形の方が進展するのではないだろうか。
 たとえば、今では各家庭に当たり前にある体重計や体脂肪計は、技術屋からみれば非常に精度の悪い、商品化を考えにくいシロモノだったと推察するが、体重や体脂肪という目に見えないものを数値として’見える化’することによって、各個人が日々の変化をモニタできるようになったことは非常に大きな意義を持つのだと思う。同様に医学的に意味のある生体指標をモニタ、見える化することによって治療に頼った医療から予防へとシフトすることができるのではと思う。今までない商品、ひいては新しい産業や文化を創造しようとする場合、とりあえず商品化してみるといったスタンスであったり、或る程度エイヤっといった思いきりも必要だとすれば、やはりエレクトロニクス業界の感覚が産業の興隆を支えるのだと考える。
 医療/健康領域は、中国、韓国、台湾勢の台頭でジリ貧となっているエレクトロニクス産業に変わる、新たな研究開発の、またビジネスのフロンティアとして注目しており、近い将来、本格的なイノベーションが訪れるかもしれないと期待している。どのような指標が健康維持において有効なのか、どのような技術がキーとなるのか、あるいはヘルスケアという期待されつつも大きなビジネスが未だ成立していない要因は何なのか、ウォッチ、考察していきたいと思う。