メディカル・ヘルスケア☆いのべーしょん

医療と健康(ヘルスケア)融合領域におけるイノベーションを考察するブログ

医師過剰

2010-10-28 00:05:28 | 医療

 奇をてらったようなタイトルは、昨今叫ばれている医師不足とは逆説的であるが、、、

 近い将来、小児科医療は救急医療や産婦人科等とともに危機的状況となることが予想される。政策上では医学部定員を10年かけて4000人増やそうとしている。しかしながら、医学部定員増の効果が実際の現場に現れるのは、前述の通り学生が医師になるまでの期間を考えれば2018年以降となる。  
 一方、小児人口(14歳未満)は毎年減少していく。2005年の厚生労働省の人口動態統計によれば2005年において1759万人いる14歳以下の年少人口は、50年後の2055年には752万人に減少すると推計している。少子化対策などが取られているものの、この推計が行われた4年前の2001年の予測よりも下振れしていることを考えればおよそ減少することは免れない。 

 

人口推移グラフ出典 
総務省統計局 「国勢調査」 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」 

 小児科医師数も同様に医学部の定員増が寄与すると仮定した場合、医学部定員増を織り込んだ今後の医師数の増加に対する、上記小児人口の増減を、それぞれ2010年を100%とした場合にグラフ化したものを以下に示す。



 医師数が2045年までは増加していくのに対して、小児人口は年々減少していくために、医師数/小児人口は2040年ころに2010年現在の2倍以上となる。しかしながら、その後も医師数は増加し、小児人口は減少するため、医師過剰の状態となり、2050年には現在の3倍となる。およそ50年後となると、全くもって予測しにくいものの、医師数を増加させていった場合、現在の医師不足同様簡単には解決できない‘医師過剰’という問題が将来発生する可能性があると考える。
 医師を養成するには時間がかかる上に、海外の医師を動出入しにくい国内事情から、医師不足問題に対して医師増員を図る対応では、近々の医師不足に即効性がなく、さらに上述のように一度増えてしまうと簡単に減らせないという新たな問題が生じる。
 
 モノづくりであれば需要が増えれば工場を増設し、工員を雇用して増産することが可能であり、需要が減少すれば生産調整することも可能である。医療サービスはそうはいかない。サービスの担い手である医師の数はおよそ決まっており、生産調整のように増減もできない。患者がまったく来ないのでは困るが、患者が続々と押し寄せてもモノづくりのように増産する術がないのである。
 
 小児科医療は待ったなしであり、家族の命に直結する問題である。子供は少子化傾向にある日本においては国家的な財産である。医師になるのを悠長に待つのではなく、方策は即効性かつ実効性がともなうものであるべきである。
 医師不足問題に対して、医師の数を増やすのではなく、最新設備の積極的導入による医師の負荷軽減という策も考えられる。しかしながら、医療機器の技術進歩や画像判別のアシスト化などあくまで補助的なものに留まる。患者の症状は様々であり、場合によっては生死に関わる領域であるため、一律に処するようなオートメーション化にそぐわない分野である。
 医師増やオートメーション化よりも看護師や薬剤師を対象とした医療従事者、あるいは元医療従事者を登用する方策の方が、短期でより柔軟に医師不足に対応できるものと考える。