私のことを、泥棒だと言い触らしている奴がいる。
盗んだのは、「音楽」だそうだ。
そして、言い触らしているのは、このブログでも何度か紹介した村出身のギター弾きである。
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いきさつは、こうだ。
阿片吸引で服役していた彼が、体を壊して村に戻ってきた。
気の毒なので家に招いて、クラプトンのDVDなどを見せて慰めた。
それがきっかけで仲良くなり、そのうちに自分で書いた英語の歌詞を日本語に訳してほしいと言ってきた。
時間をやりくりして日本語に直し、発音や歌い方を指導したが、なかなか厄介な作業だった。
相手は一応プロなのだが、むろん無料奉仕である。
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ところが1週間くらいすると、彼が「日本語の歌詞を失くしたので、また書いてくれ」と言ってきた。
そのとき、ちょうど客人があって宴会真っ最中だったのだが、「今すぐ欲しい」と妙にうるさく、しつこい。
今思えば薬でもやっていたのだろうが、あまりの礼儀知らずぶりに、きつく叱って追い返した。
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それから、しばらくの間姿を見かけなかったのだが、数ヶ月後にばったり顔を合わせると、幽鬼のような顔をしている。
頬がこけて、窪んだ目の光が尋常ではない。
「日本語の歌詞を、今すぐ寄越せ!」
いきなり、指を突きつけてきた。
呆気にとられるとは、このことだ。
やっぱり、薬中に逆戻りか。
「前回といい、今回といい無礼きわまる奴だ。そんなに欲しいのなら、“どうか、お願いします”と頭を下げるのが礼儀だろう」
それだけ言って相手にせずにいると、とんでもない罵詈雑言を浴びせ始めた。
柔道技はもったいないから、ウエスタン・ラリアットでもかませてやろうかと思ったが、あいにく店の前でまわりの目もある。
黙って睨みつけていると、そのうちに語彙も尽きたらしくブツブツ言いながら去っていった。
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それからまた姿が見えなくなり、彼のことはすっかり忘れてしまっていた。
ところが、今回1週間ぶりに村に戻ってくると「クンターを泥棒呼ばわりしている」というラーからの報告である。
よく訊けば、メーヨムの雑貨店に山奥から集まってきている人たちに「あの麺屋には行くな、日本人の亭主が俺の歌を盗んだ」としきりに吹聴しているらしいのだが、聴かされる方は訳が分からずキョトンとするだけだという。
「で、あいつ、店にもやってきたのか?」
「ううん、店の前を通りかかりながら、いつものように土下座のような大げさなワイ(合掌礼)をしたから、日本語で“バカ!”と怒鳴りつけてやったよ」
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それにしても、どうすればこんなに頭の中の回路を勝手にもつれさせることができるのだろう。
常人なら順序立てた説教の仕様もあろうが、相手がヤク中では話にならない。
幸い、まだ顔を合わせていないが、道で行き合ったらいきなりラリアット、というのが正解のような気もするなあ。
あ、駄目だ!
まだ、肋骨が万全ではなかったのだった。
背後に回っての裸締めくらいにしておこう。
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例の親子3人で服役していた人ですよね?
当時のクンターのブログを読んで私は勝手に「カラバオ」風の人なんだなって、解釈していたんですけど…
もしクスリが原因なら、本当に怖い物なんですね~