今日の一貫

戦後農業になくなったのはイノベーション機能

農業・農村は将に創造の宝庫だったという。
ただしそれも明治まで、という条件がつくのだという。

戦後の農業との違いはなにか?
地主がいない。
地域の素封家がいない。

まーいろいろあるけど、もっとも無くなったのが企業家精神、
あるいはイノベーション機能、これがなくなったことだろう。

70年前後、農村へ行くときまって尋ねられるのが、

「何を作ったらいいのでしょうかねー」といったもの。「作る作物が無くてネー」、、とつづく。
もっともな質問と思いつつ、いろいろアイディアを出したものだが、結局は、「何やってももうかんないもんね、、兼業が一番じゃないの、、」となってちょん。
考えるだけ無駄といった徒労感があったものだ。
そのくせ、当時としては、兼業に出るのは、恥ずかしいことで、農業で食えないから嫌々出るのだと言った、兼業=農家犠牲論がまかり通っていた。、
確かに立松和平は、村が壊れ、家が壊れ、そして人間が壊れる、農村の都市化三部作を出している。
戦後農業には、こうした閉塞状況が続いていたのだ。
農業は元々閉塞的なものという人もいる。
だが本当か?
たかだか、戦後半世紀の出来事ではないのか?と私は思っている。


①若干の歴史的な話
農家はもともと多様な業の事業者とされていたというのが網野善彦の考え。
古島敏雄も同様のスタンス。
農村自営業者としての百姓。百の業主。独立自営農民。二宮尊徳に師事した人々はそうした種類の人達か。
ただ、村の中には階層構造はあった:本百姓と水飲み百姓、庄屋と小作農。肝いり等

②明治にもその構造は引き継がれ、篤農家や地主と多くの小作農民が存在
多くの老農・篤農家の存在がイノベーターとして機能
地主・庄屋・肥料商・酒屋・回船問屋・造り酒屋、
素封家の存在
彼らがイノベーターとして農業に限らない地域経済や地域文化の担い手だった。
戦前は、農業も今日のような規制が無く、比較的自由にできた  
御料畑を扱っていた豊室の藤野実さん(大正期の篤農家)は、「財貨を得るまでを農業という」と主張。販売も加工も自由だった。自営農民だった。


③戦時体制下で農業変質し、戦後の農地法で完成
自由に農業ができた反面、他方で戦前の農業問題としての地主・小作関係と食糧不足問題があった。
食糧不足対応としての国家主導・戦時体制の構築下で、食管法の制定まで統制が拡大していく。
40年体制、政官業のトライアングル構造など、中央集権制と相まって国家統制的農政の仕組みが強化されていく。

国家体制との関わりで農民をとらえる萌芽が、東畑精一『日本農業の展開過程』岩波書店、1936年。
この学説によれば、農家は「単なる業主」とされ、「わが国の農業の企業者たるは政府なり」。つまり「企業者=政府」、「農家=単なる業主」とする構造。
農家を一律にとらえる傾向が生じる。
その完成形としての食糧管理法(1942年)と農地法(1952年)。

「農地法:参入・退出規制と農業の事業領域規制、食管法:収穫物の国家管理」
こうして、イノベーションの担い手が民から官へシフト
(戦後の農業は、農家を耕作者・生産者と規定、加工や販売は農業の事業範囲外とし、農業の事業領域を狭め、市場との途絶、生産への特化・押し込みによって事業展開を困難なものにした。イノベーションや、経営展開が困難に。)

④官の補助者(東畑)としての農協の登場。
戦後20年ぐらいは、産業組合、老農・篤農家の系譜をひく人々が農協に入り組合長を兼ねるなどして農業のビジネスモデルを作る。

産地形成の牽引車としての農協。
特に60年代:志和農協、下郷農協、玉川農協など多数の農協あり。
その後、農協の関与後退
それでも、住田農協、奥中山農協、角田農協(大量生産大量流通モデル)、
大山農協、上勝農協、甘楽富岡農協(顧客志向の成熟社会型モデル)が存在。

⑤政官業のトライアングル構造の中で、農協の変質 個の時代へ
80-90年代になると、農協は財務に難点を抱え地域農業振興計画策定運動を展開するも実際には、地域農業振興への関与から後退しはじめる。
他方、この時代、未曾有の農村から都市への人口移動が進展する。
事態への対応として、「農工間格差是正」の名の下に、農村・農業に様々な財政的支援が行われる。
それでも、兼業化、高齢化によって農協離れが進行、農協は、生産協同組合から地域協同組合、金融協同組合としての性格へと変質して組合員離れを防ぐ。
農業生産やイノベーションは個々の農家に、しかし力が弱い。

⑥92年農業経営者育成策に農政転換
しかし、農政は未だに農村でのイノベーターの創出にポジティブでない。
農商工連携や企業参入がどこまでその役割を担えるか?
戸別所得補償は、ターゲットをイノベーター創出に絞る必要がある。
可能性のある農家は20万戸は存在しているのではないか?
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