今日の一貫

農業への企業参入を考える 農商連携 イトーヨーカ堂 農業生産法人

7&I(セブンアンドアイ)が農業生産法人を立ち上げると以前日経新聞が書いていた。

その後の推移は若干異なっているようだ。
記事が間違っていたのか、試行錯誤の過程で修正していったのか?
6月の記事では、「社長は亀井淳ヨーカ堂社長、作業もヨーカ堂の社員が行う」となっていたが、農業生産法人の構成員要件から見て、大丈夫か、と思っていたところ。

概要は以下の通り。
場所、千葉県富里。
資本金300万円。
出資は、IY10%、JA富里10%、残り8割が農家で、要件通り。
構成員は3名(2人は農家で家族。もう一人がイトーヨーカ堂)。
これも構成員要件を充足。
ただし、社長はIY社長の亀井さんではなく、戸井さん。
富里に住所があることが条件だからだ。
農地2ha。
もと専業農家の農地。
販売額は1500ないし600万円を見込む。


Ⅰ、農家以外の人が社長になるケース
ちなみに、農業生産法人の事業要件、構成員要件、役員要件を復習しておくと次のようになる。
①農業への従事日数が、年間150日以上、
②農家以外の議決権は1人あたり10分の1以下、出資は2分の1以下まで
③役員の過半数は、常時従事者(60日以上)
④代表者はその地域に住むことが義務づけられている。
⑤しかも農業委員会が監視つき。委員会は法人の状態を毎年把握記録し、かつ立ち入り調査の権限まで持っている。

だから、亀井ヨーカ堂社長は富里に住まなければならないことになる。
そこで戸井さんに社長を交代させたのか?
富里に住所を移さざるをえないが、、?
さて、7&IファームというよりIYファーム。
ヨーカ堂が出資しても、議決権は10分の1以下?。
社長の議決権が10分の1以下という事か?
日常的には、社長が決定権を有するのだろうが、、。
執行権と取締役会という構図なら理解可能、むしろ先進的経営スタイルだ。

IYファーム、同様の生産法人を10箇所作りたいとしていた。
が、これでは戸井さん一人ではやれなくなる。
IYのマーチャンダイザーがそれぞれ1社づつ持つ感じか?
しかも、許認可は地元の農業委員会。
IYという全国展開する会社が一つ一つの町村の農業委員会へ対応しなければならない。
大丈夫か?


Ⅱ、農地
IYは良い農地を選んで集積している。
専業農家が丁寧に管理し土づくりした農地。
良い農産物をつくるため。
これJA富里の斡旋。
やはり、JAとのコラボレーションが大切。

農業生産法人制度に乗り出したのは、良い農地が必要だからか?
これ、もし農水省の農地リース制度(特別法人貸付制度)だったら不可能。

リース制度は、市町村が制度を作り、しかもその町村の耕作放棄が見込まれるような農地に限られる。
これでは、たとえ経営感覚を持った企業が入ったとしても、成功する確率は低い。
事実、ワタミは撤退した

農水省の05年経営基盤強化法改正による企業参入のシステムは、わざわざ失敗する条件を作ってやってるようなものだ。
どこを見て行政をやってるか、明らか。
法人の自然人主義をかろうじて担保するため、、?
法制的な意味しかない。


Ⅲ、農家の出資について
農家の出資80%、もしIYが認定されれば、49%まで出資可能。
その場合の農民の出資は51%で、法人の自然人主義はかろうじて担保されるという、法制的な意味。
しかしそれがどんな意味を持つのだろうか?
おそらく、IYはもっと資本金を大きくしたかったのではないか?
これ、逆に農家にとっては厳しい出資額。
厳しいため全体の資本金水準を下げたのかもしれない。
IYなら、1000万円出資も可能、それが30万円では、、、?

この仕組みを続けざるを得ないと言うことは、農業に外部資本が入らない仕組みをそのままにしておくということ。
我が国の経済にも外資が投資を回避するような状態になってきた。
カネが回らない仕組みが経済を縮小させる。

農業は、従来からカネが回らない仕組みを必至に作って守ってきた。
一体誰のため?
その結果が今日の農業の弱体化。

事実私が関与している、角田市のアグリット
自分たちで、資金を集め、補助金一切なしで300万円で直売所を立ち上げた。
たいしたものと思う。
それでも、外部からもっと金が入る仕組みがあれば、1000万円で立ち上げられたろう。
とすれば、集会所も、広場も、同時に立ち上げられたはず。

ここは、農業生産法人の出資要件の見直しが必要。
あるいは、、リース制度でもない様な、一般企業の参入の条件を幅広に取るか?どちらかの改革が必要。


Ⅳ、農産物の販売について
IYおよそ175店舗ある。
70%強が関東立地。
近年地場野菜にシフト。
7千戸の農家と契約し、仕入れ量の約6割を占める。
のこりは市場(いちば)から。
富里のIYファームは1600万円ほどの販売額を確保。
農協を通じてヨーカ堂に出荷。
集出荷インフラは農協のものを全て利用する
農協へは手数料が入る。

スーパーは価格破壊の元凶だと悪者論を展開する人々がいる。
たしかに、「価格破壊」はスーパー・GMSのビジネスコンセプト。
背景には、「消費者利益」の大義名分があった。
がそれは、高度経済成長まで。
今や成熟消費社会。
「消費者利益」は、安全安心に変わって来ている。
契約農家数7千戸というのも、そうしたニーズ対応。

具体的に言うと、これまでの委託販売では、農家は販売の術を持ってないから、価格が低迷すると全て廃棄だった。
それが、GMSとの契約や自家農場になるとそうならなくなる。
マーチャンダイザーが目利きをして、作付けを指導する。

さらに言えば、価格が低迷した場合、店頭ではAランクだけに集中するようになる。すると、農家へは市場を通じてB,Cランクを止めて、という要望になり、農家は、売れないと言うこととAランクの価格維持のために廃棄せざるをえなくなる。
契約だと、GMSがB,Cランクの売り方を工夫せざるをえなくなる。農家は廃棄の必要性がない。さらに自家農場だと、規格外までも販売可能になる。
これすべて、GMSの努力。
農家の中には何をどう作ればお客が喜び、値が付くか、よくわかってる農家がいるという。そうした農家の品はどんなに過剰でもプレミアム付き販売になるという。
GMSが川上に近づけば近づくほど、農業のあり方が良い方向に変わってくる。


Ⅴ、論点
①IYファームのような形態が増えると、農産物供給は増加し、新規需要も増加する。
②農地転用はくい止められる。農地が保全される。
③農業に資金が回るようになる。
④地域経済、雇用が拡大する。農協の手数料も増える。

すべて良いことばかりだが、落とし穴はないのか?
またこうした良いことを農水省は何故促進しないのか?



以下引用(農地リース制度(特定定法人貸付制度)について)
知恵蔵の解説
農地リース制度とは
  全国の遊休農地及びその恐れのある農地を対象に、農業参入を制約されてきた株式会社及びNPO法人に対してリース方式で営農を認める制度。2005年9月施行の改正農業経営基盤強化促進法において特定法人貸付事業として規定された。株式が自由に移動する株式会社については、農地の所有と利用を一致させることを原則とする農地法の理念と相いれないために、長らく農業生産法人の形態要件を満たすことができなかった。00年11月の農地法改正(01年3月施行)以降次第に規制緩和が進み、02年の農地リースによる構造改革特区を経て05年にそのリース特区が全国展開したことになるが、総合規制改革会議では、まだ不十分だとして株式会社による農地購入の解禁を求める声が根強い。農地リース制度を利用する株式会社は04年10月に37法人だったが、07年3月に110法人まで増加した。業種としては、建設業と食品産業が多い。農地の貸し出しは市町村または農地保有合理化法人を通じて行われる。認定の条件は、業務執行役員の中に農業の常時従事者が1人以上いること、市町村と農地管理などに関する協定を結ぶこと。
( 池上甲一 近畿大学農学部教授 )
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