BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

狼の花嫁 第1話

2024年07月03日 | FLESH&BLOOD 昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説「狼の花嫁」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様は一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。


遠くでフクロウの鳴き声が聞こえる中、一人の少女は只管暗い森の中を走っていた。

(早く、ここから逃げないと・・)

着ているドレスが泥だらけになっても、少女はその足を止める事はしなかった。
何故なら―

(何、今の・・何か、向こうの茂みで・・)

少女が茂みの方へと持っていたランタンを向けた時、その奥から“何か”が飛び出して来た。
鋭く光る“何か”の眼を見たのが、少女が見た最期の光景だった。
「また、やられちまったんだとよ・・」
「可哀想に・・」
「これで、何人目だろうねぇ・・」
森の中から少女の遺体が見つかったのは、彼女が失踪して五日後の事だった。
そのニュースを聞いた村人達は、決まって皆口を揃えてこう言った。
“狼が、娘を攫って殺した”と。
森の奥から、狼の鳴き声が聞こえて来た。
(狼か・・)
東郷海斗は包丁で野菜の皮を器用に剥きながら、狼が居るであろう森の方へと目を向けた。
「カイト、朝飯の下拵えは済んだのかい!?」
「はい、もう終わりました!」
「そう。じゃぁ、公演の時間までゆっくり休んでおきな。」
「はい。」
海斗は厨房―といっても、天幕を張っただけの簡素な所から出て、真紅の天幕の中へと入っていった。
そこは、海斗だけの空間だった。
彼がこのサーカス団で暮らし始めたのは、一年程前の事だった。
「え、クビ!?」
「済まないねぇ、工場の経営が苦しくて・・」
孤児院から出て、二年位勤めていた紡績工場が不況の煽りを受け、人員削減の所為で海斗は解雇された。
海斗が僅かな所持金と私物が詰まったトランクを持って向かった先は、サーカスだった。
そこで夢のような体験をした海斗は、“団員募集”のチラシを見つけ、面接を受けた。
「下働きでも何でもします!ここで働かせて下さい!」
こうして、海斗はサーカス団「ペガサス座」の団員となった。
最初は下働きだったが、海斗は踊りの才能を見込まれ、一軍メンバーとして活躍する事になった。
「寒っ・・」
海斗はトランクの中から、ギンガムチェックのショールを取り出すと、それを肩に掛けた。
春先とはいえ、この地方は朝晩の冷え込みが厳しい。
海斗はソファに横になると、そのまま眠った。
「ねぇ、何だいあの立派な馬車は?」
「さぁねぇ・・」
公演まで一時間を切った頃、「ペガサス座」の天幕の前に、一台の四頭立ての馬車が停まり、中から軍服姿の青年が出て来た。
「皇太子様、よろしいのですか?このような場に・・」
「市井の人々の暮らしを垣間見るのも、王族としての務めだろう?」

そう言った英国皇太子・ジェフリー=ロックフォードは、口端を上げて笑った。
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蒼い鳥 第1話

2024年07月03日 | FLESH&BLOOD ハーレクインロマンスパラレル二次創作小説「蒼い鳥」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

1873年、ロンドン。

「産まれたぞ!」
「男か、女か?」
「その子は化物よ、早く捨てて来て!」
ヒステリックな女の声が、彼女の寝室から聞こえて来たので、廊下に居た使用人達は驚き、互いの顔を見合わせた。
やがて寝室から、赤子の乳母が赤子を抱いて出て来た。
「リリー、その子をどうするんだい?」
「わたしが、育てるわ。」
10月の寒空の下、リリーは長年勤めていた屋敷を解雇された。
だが、彼女は己の腕に抱いている赤子を育てる事だけを考えた。
ロンドンを離れ、彼女が向かったのは、プリマスだった。
そこには、リリーの育ての親であるイーディスが、食堂兼宿屋を営んでいた。
「お帰りなさい、リリー。」
「ただいま、イーディス。」
「その子は?」
「今日から、わたしの子になったの。」
「そう。」
イーディスは深く詮索せずに、リリーと赤子を受け入れた。
今まで育児の経験がなかったリリーは赤子の世話に悪戦苦闘していたが、イーディスの助けて貰いながら赤子を育てた。
それから17年後、プリマスにある食堂兼宿屋『白鹿亭』は、今日も繁盛していた。
店の名物は、海斗とリリーが作る香草パンだった。
「カイト、小麦粉を買って来て!」
「わかった!」
「気を付けてね!」
『白鹿亭』から出た海斗が買い物籠を持って『グレイス食料品店』に入ると、そこには英国海軍の軍服を着た青年が店員と揉めていた。
「卵はこれだけなのか!?」
「申し訳ありません。」
「もういい!」
海斗は今にも泣きそうになっている店員の元へと向かった。
「大丈夫?」
「ええ。」
「あんなクソ野郎なんて、地獄に落ちればいいんだ。」
「カイト、小麦粉どうぞ。」
「ありがとう。」
『グレイス料理店』から出た海斗は、店の入口で一人の青年とぶつかった。
「済まない、怪我は無いか?」
「はい・・」
ぶつかった拍子にバランスを崩した海斗を助けてくれたのは、英国海軍の軍服を着た、金髪碧眼の美青年だった。
(同じ軍人でも、あんなに違うのかねぇ・・)
海斗が食堂で忙しく働きながらそんな事を思っていると、先程『グレイス食料品店』で店員と揉めていた男が、急に海斗の腕を掴んだ。
「おいお前、酌をしろ!」
「お客さん、そういうサービスを受けたいのなら、よこへ行きな!」
「何だと!」
海斗と男が揉めていると、そこへあの青年がやって来た。
「このお嬢さんの言う通りだ、ジョー。」
「畜生、覚えてろよ!」
男はそう叫ぶと、『白鹿亭』から出て行った。
「カイト、大丈夫!?」
「うん・・ごめんね、リリー。」
「あなたが謝る事は無いわ。あんなクソ野郎は出禁にしてやるわ。」
リリーはそう言うと、海斗の肩を励ますかのように叩いた。
「助けてくれて、ありがとう。」
「いや、俺はこんな可愛い子ちゃんと一度、話がしたかったのさ。」
「え・・」
「女将、暫くこの子をかりてもいいか?」
「構いませんわ。」
リリーはそう言うと、海斗とジェフリーを夜の街へと送り出した。
「あの・・さっきは、どういう意味であんな事を?」
「言ったのかって?あれは本心からだよ。自己紹介が遅れたな、俺はジェフリー=ロックフォード。」
「俺はカイト。」
「なぁカイト、その髪は地毛なのか?」
「うん。やっぱりこの髪、変かな?」
「いや、とても綺麗だ。」
ジェフリーと海斗は、“ホーの丘”まで歩いた。
「また、会える?」
「会えるさ、お前が望めば。」
「うん。」
ジェフリーと『白鹿亭』の前で別れた海斗は店の二階にある自室に入ると、結っていた髪を解き、ウェストを締め付けているコルセットの紐を緩めた。
「ふぅ・・」
「カイト、今入っても大丈夫?」
「うん。」
リリーが海斗の部屋に入ると、彼女は寝間着姿でベッドに横になっていた。
(あの人に、また会いたいな。)
翌日の昼、ランチタイムで賑わう『白鹿亭』の前に、立派な四頭立ての馬車が停まった。
「立派な馬車だねぇ。」
「本当に。」
「一体どなたの馬車なんだろうね?」
客達がそんな事を言っていると、馬車から一人の青年が降りて来た。
長身を仕立ての良いフロックコートに包んだ男は、厨房から出て来た海斗の前に突然跪いた。
「お迎えに上がりました、お嬢様。」
「え?」
「大奥様が、あなたをお呼びです。わたくしと共に、ロンドンへ・・」
男がそう言って海斗を見ると、彼女は気絶し床に倒れていた。
「あなた、誰?カイトに何をしたの?」
「失礼、わたしはビセンテ=デ=サンティリャーナと申します。エルフィリン子爵家より、カイト様をお迎えに上がりました。」
「エルフィリン子爵家ですって?」

そこは、リリーが17年前に海斗と共に追い出された、元職場だった。
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