BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

About:注意事項(必読)

2056年06月07日 | About:注意事項
当ブログでは、主に管理人が書くつたない自作BL小説、二次創作小説を載せているブログサイトです。

ここには本サイトで必ず守って欲しいことを書いております。初めて来られた方はまずこのページを必ずお読みください

このサイトに載せている小説の著作権は管理人・千菊丸(せんぎくまる)にあります。小説の加工・無断転載・盗用は厳禁です。また日記の一部には少し妄想系の文章が含まれております。そういった文章が苦手な方は閲覧をご遠慮くださいますよう、お願いいたします。

誹謗中傷、出会い系スパム、商業的CM等のコメントは一切受け付けません。それに該当するコメントは、管理人の独断で見つけ次第即刻削除いたしますので、ご了承ください。また、荒らし・晒し・管理人への誹謗中傷目的の入室はこのブログにいらっしゃらないでください。

ここは性描写ありの一部R18指定の二次創作小説サイトです。一部残酷描写等含みますので、実年齢・精神年齢ともに18歳未満の方や、BL、二次創作が嫌いな方は入室をご遠慮ください。

このサイトに掲載してる小説は、一部同性愛的表現(軽め)・グロテスクな表現が多少含まれます。そのような表現が苦手な方、義務教育を終了されていない方は閲覧をご遠慮してください。なお、この注意書きを無視して小説を読んだ後の不快感・苦情などは受け付けませんのでご了承ください。

このブログサイトは管理人・千菊丸の個人的趣味で運営しているもので、二次創作小説につきましては、出版社様・作者様とは一切関係ありません。また、パラレルなど、必ずしも原作に沿った設定のものではない小説がほとんどですので、そういった類の小説がお嫌いな方は閲覧をご遠慮ください。また、作品の中には一部残酷描写などが含んでおりますので、そういった描写が苦手な方も閲覧をご遠慮ください。



※追記(2009.5.30)

このブログには映画やドラマのネタバレ感想を載せております。ネタバレが嫌いな方、抵抗感がある方はこのブログをご覧にならないことをお勧めいたします。閲覧は自己責任でお願いいたします。


小説目次について

2010.5.5 追記

小説目次は、「Map:小説のご案内」から閲覧することができます。

しつこく言いますが、このサイトに掲載してる小説は、一部同性愛的表現(軽め)・グロテスクな表現が多少含まれます。そのような表現が苦手な方、義務教育を終了されていない方は閲覧をご遠慮してください。なお、この注意書きを無視して小説を読んだ後の不快感・苦情などは受け付けませんのでご了承ください。


また、時折愚痴などを日記で書いたりしていますので、そういうものを見たくないという方は、閲覧なさらないでください。
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Map:小説のご案内

2056年06月06日 | Map:小説のご案内
ここでは、小説のご案内と注意事項を書いておりますので、「About:注意事項」と併せて初めて来られる方はお読みいただきますよう、お願い申し上げます。

◇小説を閲覧するにあたっての注意事項◇

「About」にも書きましたが、当サイトに掲載してある小説には一部同性愛的な表現や描写、または残酷描写等が含まれます。そういった表現などが苦手な方はすぐさまプラウザをお閉じになってください。


上記にあてはまらない方のみ、カテゴリー内にある各小説のタイトルをクリックしてください。

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満天 第1話

2024年07月08日 | 黒執事 腐向け転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説「満天」
「黒執事」の二次小説です。

作者・出版社様とは一切関係ありません。


シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。

「坊ちゃん、準備は出来ていますか?」
「あぁ。」
「眼帯はつけたままにしておくのですか?」
「外してくれ。」
「わかりました。」
そう言ってシエル=ファントムハイヴの前に跪くのは、彼のコーチ兼振付師の、セバスチャン=ミカエリスだった。
「さぁ、参りましょう。」
「あぁ。」
選手控室を出たシエルとセバスチャンが会場へと向かうと、そこは熱気と歓声に包まれていた。
「坊ちゃん、今までやって来た事を思い出して。」
「わかっている、そんな事・・」
シエルはそう言って強がったものの、緊張して身体の震えが止まらなかった。
「坊ちゃん、こちらを向いて。」
「え・・」
シエルがセバスチャンの方を振り向くと、セバスチャンはシエルの唇を塞いだ。
二人のキスがモニターの画面に映し出され、会場に居た観客達は歓声を上げた。
「なっ、なっ・・」
「わたしを全力で誘惑なさい。」
シエルはセバスチャンを睨むと、彼のネクタイを掴んで彼の唇を塞いだ。
「言われなくても、やってやる!」
やがて、シエルはスケートリンクの中央へと滑っていった。
『さぁ始まりました、世界選手権ジュニア大会。最後に登場したのは、イングランド、シエル=ファントムハイヴ選手。兄のジェイド=ファントムハイヴ選手とはメダル争奪戦を繰り広げていますが、今回の大会はどうなるのでしょうか?』
『そうですね。シエル選手の今季のテーマは、“家族を殺され、復讐の為に悪魔と契約した少年”だそうです。』
シエルは深呼吸した後、静かに舞い始めた。
『最初のコンビネーションジャンプは、トリプルアクセルとダブルアクセル、どうか・・成功しました!』
『ステップが美しいですね。フラメンコの激しいリズムに乗っていますね。』
『この一年、シエル選手はスランプに陥っていましたが、セバスチャン=ミカエリスコーチの指導の下、成長しましたね。』
『さて、後半のシークエンスステップに入りましたが、美しく完成度が高いですね。』
演技を終え、リンクサイドへと戻ったシエルは、笑顔のセバスチャンに出迎えられた。
「完璧でしたよ、坊ちゃん。」
キス&クライへとシエルをエスコートするセバスチャンの姿をモニターの画面越しに見たシエルの双子の兄・ジェイドは、思わず持っていたスチール缶を握り潰してしまった。
(渡さない・・僕はお前を諦めないし、離さない。)
表彰式を終え、ジェイドはシエルを抱き締めた。
「おめでとうシエル、お前ならやれると思っていたよ!」
「兄さん・・」
ジェイドは、シエルの肩越しにセバスチャンを睨んだ後、シエルに微笑んだ。
(おやおや、独占欲丸出しだな・・)
同じ顔をしていても、その性格は違う。
セバスチャンはそう思いながら、シエルと出会った頃の事を思い出していた。
一年前、カリスマコーチ兼振付師として多忙な日々を送っていたセバスチャンの元に、一組の親子が訪ねて来た。
彼はヴィンセント=ファントムハイヴと名乗り、双子の息子達のコーチになって欲しいという。
「二人共、ご挨拶なさい。」
「初めまして、ジェイド=ファントムファイヴです。」
そう言ってセバスチャンに先に挨拶したのは、蒼い瞳で彼を値踏みするかのように見つめて来た兄のジェイドだった。
「シエル、お前も挨拶なさい。」
「はい・・」
父親の背中に隠れていた弟のシエルは、恐る恐る紫と蒼の瞳でセバスチャンを見つめた。
その双つの瞳に見つめられ、セバスチャンは雷に全身を撃たれたかのような衝撃を受けた。
「初めまして、シエル=ファントムハイヴと申します。」
「初めまして、今日からあなた達のコーチをさせて頂く事になりました、セバスチャン=ミカエリスと申します。」
こうして、セバスチャンはジェイドとシエルのコーチとなった。
同じ顔をしていても、兄の方は頑健で陽気な性格であるのに対し、弟の方は病弱で内気な性格だった。
しかしその事で二人の両親は彼らに優劣をつけたりしなかったし、兄弟仲も良かった。
スランプに陥ったシエルは、セバスチャンがコーチになった事で眠っていた才能が目覚め始め、ジェイドと共に注目されるようになった。
「君のお陰で、シエルは随分変わったよ。何かあの子に魔法でも掛けたのかい?」
「魔法?いいえ、とんでもない。坊ちゃんの負けず嫌いの性格を、わたしが引き出しただけです。」
「そうか。これからも、二人の事を宜しく頼むよ。」
「はい。」
シエルの身体に異変が起きたのは、世界選手権ジュニア大会で優勝した日の夜の事だった。
急に下腹の鈍痛に襲われたシエルがトイレに行こうとするとした時、何かがドロリと落ちて来る感覚に襲われた。
ふと足元へ目をやると、白い足が血で濡れていた。
「坊ちゃん?」
突然の出来事にシエルがパニックに陥っていると、そこへセバスチャンがやって来た。
彼はチラリとシエルのズボンに赤黒い染みが広がっている事に気づくと、シエルの下半身を自分のジャケットで覆い隠した後、シエルを横抱きにしてパーティー会場から出て行った。
「何をする、離せ!」
「暴れないで下さい、坊ちゃん。それとも、“お嬢様”とお呼びした方がよろしいのでしょうか?」
「お前、いつから僕の身体の事を・・」
「旦那様から、あなた様の“複雑な”身体の事を聞きました。さぁ、お部屋に着きましたよ。」
セバスチャンはそう言いながら、シエルを抱いたままカードキーを解除し、ホテルのスイートルームの中に入った。
「さぁ、服を脱いで下さい。」
「なっ・・」
「汚れた服のままで一晩過ごすのは嫌でしょう?ご自分でお脱ぎにならないのなら、わたしが脱がしましょうか?」
「いい、自分でやる!」
シエルは汚れた服を脱ぐと、温かい湯が入った猫足のバスタブの中に入った。
「失礼致します、着替えを持って参りました。」
「そこへ置いておいてくれ。それと、僕がいいと言うまで浴室に入って来るな!」
「はいはい、わかりましたよ。」
セバスチャンは苦笑しながら浴室のドアを閉めると、汚れたシエルの服を洗い始めた。
シエルがベッドの上で目を覚ますと、隣で自分の手を握っていた筈のセバスチャンの姿がなかった。

「・・いい加減にしてください!」
スイートルームの扉の向こうで、セバスチャンの苛立ったような声が聞こえて来た。
彼は、いつも冷静に声を荒げたり、怒鳴ったりした事は無かった。
シエルが扉の前で耳をそば立てていると、セバスチャンが部屋の中に入って来た。
「もう、大丈夫なのですか?」
「あぁ。風呂に入ったら少しは良くなった。それよりもセバスチャン、さっきは誰と話していた?」
「妻ですよ。いつ帰って来るのかとしつこく催促されて・・」
「お前、結婚していたのか?」
「えぇ。政略結婚ですけどね。」
「そうか。」
セバスチャンの妻は、ミカエリス家と彼女の実家の利害関係が一致した為セバスチャンと結婚したのだった。
貴族階級に属する者同士の結婚は、親族同士の繋がりがあったり、互いの家の利害関係が一致したりするという理由で成立する事が少なくはない。
現に、シエルの兄・ジェイドと、彼の婚約者であるエリザベス・ミッドフォード侯爵令嬢も、シエルとジェイドの父・ヴィンセントと、エリザベスの母・フランシスとは実の兄妹同士という繋がりがある。
「お前のような男と結婚した女の顔を一度見てみたいものだ。」
「まぁ、それは嬉しいお言葉ですね。坊ちゃんの体調が回復したあかつきには、改めてファントムハイヴ伯爵邸で祝賀パーティーでも開きましょう。その時に、妻を連れて行きますよ。」
「好きにしろ。」
シエルはそう言ってセバスチャンを睨んだ後、シーツを頭から被って眠った。
―坊ちゃん、起きて下さい。
シエルが目を覚ますと、そこには黒い燕尾服姿のセバスチャンが立っていた。
(これは、夢だ。)
前世でセバスチャンと過ごした頃の夢を見たシエルは、枕元に置いていたスマートフォンのアラームで目を覚ました。
「おはようございます、坊ちゃん。今朝は随分と早起きでいらっしゃいますね。」
「あぁ。誰かが設定したスマホのアラームの所為で、夢から覚めた。」
「そうでしたか。」
翌朝、ホテル内のレストランで朝食を取りながら、シエルとセバスチャンがそんな事を話していると、そこへジェイドとエリザベスがやって来た。
「シエル、もう体調は大丈夫なの?」
「うん、痛み止めの薬を飲んだから。」
「そう。それにしても、昨夜ホテルの前で女の人がウロウロしていたわ。誰かを捜していたみたい。」
「エリザベス様、その女性はどんな容姿なのですか?」
「金髪碧眼で、怖い顔をしてずっとフロントの方を睨んでいたわ。」
「そうですか。」
「セバスチャン、どうした?」
「いえ、何でもありません。」
まさか、妻・アメリアがわざわざ自分の顔を見に来る為に、英国から遠く離れたブルガリアまで来るとは思えない。
ホテルを出て、空港へと向かったセバスチャン達は、空港の入口付近で待ち伏せしていたマスコミに取り囲まれた。
「ミカエリスコーチ、アメリアさんとは離婚秒読みというのは事実なのでしょうか!?」
「アメリアさんに暴力を振るったというのは、事実ですか!?」
「行きますよ、坊ちゃん。」
そう言ってシエルをエスコートするセバスチャンの表情は硬かった。
帰りの飛行機の中で、シエルは一言もセバスチャンと話さなかった。
一体、どうなっているのだろう。
エリザベスが言っていた“金髪碧眼の女の人”と、セバスチャンとはどんな関係にあるのだろうか。
「シエル、何を考えているの?」
「兄さま・・」
「あいつの事は、放っておけばいい。それよりもシエル、昨夜あいつと何があった?」
「何もなかったよ。」
「そう・・」
シエルはジェイドの執拗な視線から逃れようと、俯いた。
だがジェイドは、そんなシエルの心情を見透かしているのか、下からシエルを覗き込んだ。
「シエル、お前には僕しか居ない。だって僕達は、生まれてからずっと一緒だったんだもの。これからも、僕達はずっと一緒だよ。」
(ねぇシエル、お前をあの“悪魔”に渡したくない。“あの時”、僕はお前の手を離してしまったけれど、今度はお前の手を決して離さない。)
シエル達が乗った飛行機は、無事ロンドン・ヒースロー空港に到着した。
「ジェイド、シエル、またね!」
「リジー、また会おう!」
空港でエリザベス達と別れたシエル達は、ロンドン市内にあるファントムハイヴ伯爵家のタウンハウスへと向かった。
「お帰りなさいませ、ジェイド坊ちゃま、シエル坊ちゃま。長旅、お疲れ様でございました。」
「タナカ、お迎えご苦労。」
ジェイドとシエルは両親と食事をした後、ジェイドは図書室へと向かった。
一方シエルは、母・レイチェルに初潮を迎えた事を告げた。
「そう。もう体調は大丈夫なの?」
「はい。セバスチャン・・コーチが、色々と気遣ってくれたので・・」
「ヴィンセントとも話したけれど、セバスチャンをあなた達のコーチにして良かったわ。ジェイドは、セバスチャンを警戒しているけれど、あなたとは相性が良いわね。」
「そうですか?」
「まぁ、セバスチャンはあなたの事を一目見て気に入っていたわ。」
確かに、セバスチャンは三年前に初めて会った時から、シエルを気に入っていた。
セバスチャンのスパルタ指導は賛否両論あるものの、その実力で有名となっていった。
そのスパルタ教育に鍛えられたシエルの成績が上がったのは、紛れもない事実だった。
それよりも、シエルは何故かセバスチャンの事が気になっていた。
何故か、セバスチャンとは初めてあった気がしないのだ。
時折、セバスチャンが、“昔から、変わっていませんね。”と言った時の表情が、他の“誰か”と重ねてしまうのだ。
「シエル?」
「何でもありません、お母様。」
「ねぇ、もしかしてあなた、セバスチャンの事が好きなの?」
「えっ!」
「嫌だ、そんなに驚かなくていいじゃない。だってあなた、セバスチャンと一緒に居る時、楽しそうな顔をしているじゃない。」
「そ、そうかなぁ・・」
「話は変わるけれど。今日はニナのお店に行って、あなたの新しい服や下着を選ばないとね。」
「そんな事をしなくても・・」
「何を言うの、スポーツブラだけなんて駄目よ!そうだわ、リジーも呼びましょう!」
「お母様・・」
レイチェルにシエルは半ば強引にロンドン市内にあるファントム家配属の仕立て屋、ニナ・ホプキンズが経営する“ホプキンズ・テーラー”へと連れて行かれた。
そこには、エリザベスと彼女の侍女であるポーラ、そしてシエル達の伯母であるアンジェリーナ・ダレス、“マダム・レッド”の姿があった。
「シエル、可愛い~!今度はこのワンピースを試着してみて!」
「やっぱりシエルにはピンクが似合うわねぇ。ブルネットの髪に映えるわ。」
店に入った時シエルは嫌な予感がしたが、案の定それは的中し、エリザベス達の着せ替え人形となってしまった。
「はぁ、疲れた。」
「そんなに不貞腐れた顔をしないで。それにしても、久し振りの女子会、楽しかったわねぇ。」
両手に沢山の紙袋を抱えたシエルが疲労困憊しているのに対して、レイチェルは満面の笑みを浮かべていた。
「お帰りなさいませ、シエル坊ちゃま、奥様。」
「ただいま、タナカ。ジェイドは?」
「ジェイド坊ちゃまなら、図書室で何やら調べ物をなさっておいでのようです。」
「そう。」
「お帰りなさい、お母様、シエル。」
そう言って図書室から出て来て二人の元へとやって来たジェイドは、何処か浮かない顔をしていた。
「ジェイド、どうしたの?何かあったの?」
「さっき、SNSでこんなタグを見つけたんだ。」
ジェイドは持っていたスマートフォンの画面を二人に見せると、そこに表示されていたのは、“#シエル、真実を話して”というSNSのタグだった。
「何で、僕の名前が・・」
「恐らく、この動画の所為だと思うよ。」
ジェイドがスマートフォンの画面をタップすると、一本の動画が再生された。
そこに映っているのは、エリザベスが見た金髪碧眼の女性―セバスチャンの妻・アメリアだった。
彼女は泣きながら、セバスチャンからDVを受けていた事を話した後、シエルがセバスチャンから体罰を受けていると話、動画の最後にこんな言葉を視聴者達に語りかけた。
『お願い皆さん、どうかこのタグを拡散して下さい。#シエル、真実を話して。』

その動画は、シエルにとってまさしく青天の霹靂そのものだった。

(これで、何もかも上手くいくわ・・)

例の動画と共に、“#シエル、真実を話して”というタグは瞬く間に世界中に拡散され、ロンドンのファントムハイヴ伯爵家のタウンハウスの前には連日マスコミが詰めかけ、シエル達は息を潜めて暮らしていた。
「シエル、あの動画で彼女が言っている事は本当なのか?」
「あの動画は事実無根で、僕は一度もセバスチャンから体罰を受けた事はありません。」
「そうか。ならば逃げも隠れもせず、堂々としていなさい。」
ヴィンセントに背中を押され、シエルは自身のSNSのアカウントで今回の騒動について説明した。
“例の動画ですが、僕はコーチから今まで一度も体罰を受けた事がありません。”
シエルはSNSアカウントの「投稿」ページをクリックした後、溜息を吐いた。
「シエル、入るよ?」
「どうぞ。」
シエルがスマートフォンを机の上に放り投げると、ジェイドが執務室に入って来た。
「ねぇシエル、僕だけに真実を話して。」
「兄さま、僕は本当に・・」
「シエル、お前はあいつの事をどう思っているの?」
「それは・・」
シエルが言葉に詰まった時、彼の部屋のドアを何者かがノックした。
「シエル坊ちゃま、お客様がいらっしゃっています。」
「どんな方だ?」
「アメリア様とおっしゃられる方です。どうしても、シエル坊ちゃまとお会いしたいと・・」
「わかった。」
シエルが客間に入ると、アメリアはスマートフォンで客間に飾ってある絵を撮影していた。
「お待たせしてしまって、申し訳ありません。」
「あら、あなたが・・」
ピンヒールを履いている所為なのか、アメリアはシエルと並んで立つと高身長に見えた。
「今日こちらに伺ったのは、あなたに正式な謝罪をしようと思って・・」
「僕とセバスチャンの名誉を傷つけておいて、今更謝罪とはお話になりませんね。お帰り下さい。」
「お願い、わたしの話を聞いて・・」
「タナカ、お客様がお帰りだ。」
「お見送りは結構よ!」
アメリアはシエルに背を向けると、客間のドアを乱暴に閉めて出て行った。
「ミス・アメリア、今度こちらにいらっしゃる時は事前にご連絡下さい、それがマナーというものですよ。」
ジェイドがそう言ってアメリアを睨むと、彼女は無言でファントムハイヴ邸から去っていった。
「シエル、大丈夫?あの女から何か言われた?」
「ううん。」
「ねぇシエル、あいつとは暫く会わない方がいい。」
「どうして?」
「あいつと居ると、お前が不幸になるだけだ。」
「ごめんなさい、兄さまの頼みでも、それは聞けない。」
シエルはそう言うと、自室に戻り、溜息を吐いた。
「シエル坊ちゃま、お気をつけていってらっしゃいませ。」
「タナカ、帰りは地下鉄かバスで帰るから、迎えに来なくていい。」
「かしこまりました。」
タナカにスケートリンクまで送って貰い、シエルがスケートリンク内にある更衣室に入ると、そこには上半身裸のセバスチャンが居た。
「おや、ノックせずに部屋に入るとは、マナー違反ですよ。」
「うるさい、早く着替えろ!」
シエルはそう叫んだ後、セバスチャンに背を向けた。
「もう、着替えは終わりましたよ。」
「そうか。」
シエルがそう言って私服から練習着へと着替えようとした時、セバスチャンはじっとシエルの下着を見ていた。
「何だ?」
「いえ・・随分、可愛らしい下着を身に着けていらっしゃるのですね。」
「見るな!」
「それでは、わたしはこれで失礼致します。その下着、とてもお似合いですよ。」
「早く出て行け!」
シエルは素早く練習着に着替えると、スケートリンクへと向かった。
「ジャンプの精度が上がりましたね。トリプルアクセルは完璧です。今日から、トリプルトゥーループの練習を致しましょう。」
「トリプルトゥーループはもう出来ている・・」
「いいえ、出来ていませんよ。4回転サルコウを跳ぶのは、トリプルトゥーループを完璧に出来てからです。」
「わかった。」
シエルはその日、夕方までセバスチャンにみっちり扱かれた。
「坊ちゃん、今日はわたしが送りましょう。」
「いや、いい。今お前と一緒に居たら色々変な噂が立つからな。」
「そうですか。ではお気をつけてお帰り下さいませ。」
「ふん!」
スケートリンクから出たシエルが地下鉄に乗ると、何処からか強い視線を感じて振り向いたが、そこには誰も居なかった。
(気の所為か・・)
シエルがそう思いながら地下鉄に揺られていると、何処からか話し声が聞こえて来た。
「あの子、確か・・」
「でも、あのブルネットの髪・・」
シエルが、話し声が聞こえている方を見ると、友人と思しき女性二人組がスマートフォンを片手に自分の方をチラチラと見ながら話をしていた。
シエルは地下鉄が目的地の駅に着くと、そのまま地下鉄から降りてタウンハウスへと向かっていったが、何者かが自分の後を尾行している事に気づいた。
(一体、誰が・・)
シエルは後少しでファントムハイヴ伯爵家のタウンハウスへと着こうとした時、突然何者かに突き飛ばされ、車道へと飛び出してしまった。
「危ないだろう、馬鹿野郎!」
トラックに轢かれそうになったシエルだったが、寸での所で歩道に戻って無事だった。
「シエル、大丈夫!?」
「うん・・」
シエルは背後を振り返ったが、そこには誰も居なかった。
その日から、シエルは何者かに尾行されている気配を感じた。
「誰かに尾行されている?」
「気の所為だと思うんですけれど・・」
「スケートリンクへの送迎は、暫くタナカに任せよう。タナカ、済まないが頼めるか?」
「かしこまりました。」
「タナカ、今日から宜しく頼む。」
スケートリンクの送迎をタナカにして貰うようになってから、シエルはあの殺気に満ちた気配を全く感じなくなった。
「どうしたのですか?今日は、ずっと上の空ですね。」
「実は・・」
シエルはセバスチャンに、何者かに帰宅途中、背中を押され、トラックに轢かれそうになった事を話した。
「そうですか。」
「ここへの送迎はタナカに頼んである。」
「最近、物騒な事件が頻発していますからね。用心に越した事はないでしょう。」
セバスチャンはそう言いながらも、タブレットの画面をスクロールしていた。
「何を見ている?」
「トリプルトゥーループの精度が上がっていますが、後少しですね。それよりも、坊っちゃん・・」
「何だ?」
「ブラジャー、少し見えていますよ。」
「お前、そう言う事は早く言え!」
「申し訳ありません。あの坊ちゃまが、スポーツブラ以外のものをつけるなんて、驚いてしまって・・」
そんな話をしている二人の姿を、リンクサイドからアメリアが恨めしそうな顔で見ていた。
「パーティー?」
「はい。如何なさいますか、坊っちゃん?」
「是非、出席させて頂くと、先方に返事を。」
「かしこまりました。」
その日の夜、シエルは両親とジェイドと共にピカデリーサーカスにある芸術ホールで開かれている慈善パーティーに出席した。
そこでシエルは、仲睦まじい様子のセバスチャンとアメリアを見てしまった。
(どうして・・)
「シエル、どうしたの?」
「何でもないよ、兄さま。」
「そう。」
シエルはモヤモヤした思いを抱えたまま、パーティーを楽しんだ。
「そろそろ帰りましょう。」
「はい、お母様。」
ジェイドとシエルがホールから外へと出ようとした時、外は土砂降りの雨が降っていた。
「さぁ、ジェイド坊ちゃん、シエル坊っちゃん、どうぞ。」
タナカが傘をさしてリムジンから降りて来た時、シエルはセバスチャンと目が合った。
何か言おうとシエルが口を開いた時、ジェイドにシエルは車の中へと引き摺り込まれた。
「残念だったわね、あの子と話せなくて。」
「アメリア、あなたは一体何をしたいのですか?」
「離婚はしないわよ。あの子とあなたを、幸せになんかさせないわ。」
そう言ったアメリアの目は、狂気で血走っていた。
「アメリア、わたしは・・」
「わたし、知っているのよ、あの子の秘密を。それを世間にバラされたくなかったら、わたしに従いなさい。」
ずっと、人気者になりたかった。
良い意味でも、悪い意味でも。
アメリアは、成績優秀な姉と、スポーツ万能な兄の“おまけ”として生きて来た。
両親は二人だけを可愛がり、アメリアはいつも愛に飢えていた。
だから、セバスチャンと結婚した時、今まで憧れていた人気者になった時は嬉しかった。
今まで自分に見向きもしなかった人達が、有名人の“妻”というだけでもてはやしてくれる。
人間は欲深い。
ひとつの望みを叶えても、もっと有名になりたいと願う。
セバスチャンと結婚したが、彼は偶に家に帰って来る回数は月一回が良い位で、“愛のある結婚生活”とは程遠かった。
だがそれでも、セバスチャンと別れたくなかったのは、彼を愛しているからではなく、“有名人の妻”という地位を捨てたくなかったからだった。
しかし、アメリアの人気に陰りが出て来た。
その原因は一年前、セバスチャンが名門伯爵家の双子達のコーチ兼振付師となったからだった。
美貌、知性、家柄―それらを生まれながらにして手にしているブルネットの髪をした双子達に、アメリアは嫉妬した。
あの子達には負けたくない―そんな思いで彼女は、あの動画をSNSに上げたのだ。
これでみんな、わたしを見てくれる―アメリアの貧しい承認欲求は、シエルと会って、シエルに対する怒りへと変わった。
そして気づいてしまった、セバスチャンとシエルが、只のコーチと教え子ではないという事に。
そして、その関係を探るのは、シエルの身体の秘密が鍵となる。
アメリアは私立探偵を雇い、シエルの秘密を探った。
シエルの身体の秘密を握ったアメリアは、それを盾にセバスチャンを脅した。
セバスチャンは、シエルを守る為離婚したくないというアメリアの要求を呑んだ。
その所為なのか、セバスチャンが最近やつれているようにシエルには見えた。
「セバスチャン・・」
「すいません、考え事をしていました。」
「そうか。」
練習を終えたシエルが更衣室で着替えていると、ロッカーの中に置いてあったスマートフォンが鳴った。
「どうしたの、兄さん?」
『シエル、タナカさんが入院する事になったよ。』
「え?」
ジェイドによれば、タナカは持病の腰痛が悪化し、暫く入院する事になったという。
「わかった。」
シエルがスマートフォンをリュックのサイドポケットにしまっていると、更衣室にセバスチャンが入って来た。
「シエル・・」
「セバスチャン、どうした?」
セバスチャンはシエルを抱き締め、その唇を奪った。
「ん・・」
「シエル、愛しています。」
セバスチャンはそう言ってシエルの服を脱がそうとしたが、その前にシエルがセバスチャンの向う脛を蹴った。
「目を覚ませ!」
「申し訳ございません。」
「一体どういう事なんだ?」
「一時の気の迷いでした。」
シエルをファントムハイヴ家へと送り届ける車の中で、セバスチャンはそう言ってシエルに謝った。
「数日前、お前の妻が我が家に来た。あの動画について謝罪したいとの事だったが、あれは嘘だな。」
「彼女は、坊っちゃんの身体の秘密を知っています。もし離婚するつもりなら、坊っちゃんの身体の秘密を世間にバラすと・・」
「一体何故、彼女はお前と別れようとしないんだ?」
「彼女にとって、わたしは、“トロフィー・ハズバンド”―即ち、彼女が有名人であり続ける為のアイコン的存在なのですよ。」
「馬鹿らしい、お前は誰かの所有物ではない。僕はあんな女には屈しない。」
「・・それでこそ、わたしの坊っちゃんです。」
車を人気のない所に停めたセバスチャンは、そう言うとシエルの唇を塞いだ。
「おい、何をする?」
「更衣室での続きをするつもりです。嫌ですか?」
「嫌じゃ・・ない。」
シエルは、そう言った後頬を染めて俯いた。
「辛くないですか?」
「あぁ・・」
その日、シエルは初めてセバスチャンに抱かれた。
初めての時は痛いと噂には聞いていたが、そんなに痛くはなかった。
「さてと、今度こそ家まで送りますよ。それまで寝ていてください。」
「あぁ、わかった。」
セバスチャンに抱かれたが、彼との関係は終わらなかった。
むしろ、セバスチャンはシエルに対して厳しく接した。
「4回転サルコウ、完璧に跳ぶのはまだまだですね。」
「そうか?」
「それにしても坊っちゃん、昨夜はよく眠れましたか?目の下の隈が酷いですよ。」
「昨夜、ちょっと考え事があって一睡も出来なかったんだ。」
「そうですか。では少し、休憩しましょう。」
「わかった・・」
シエルはセバスチャンの膝の上に頭を預けると、そのまま眠った。
「お前、何をしているの?今すぐ僕のシエルから離れて。」
「そんなに大きな声を出さないで下さい、坊っちゃんが起きてしまいます。」
セバスチャンはそう言うと、自分を睨みつけているジェイドを見た。
「お前にシエルは渡さない。お前の所為で、シエルがあんな“最期”を迎えたのを、忘れたのか?」
「あぁ、そうでしたね・・」
セバスチャンはそう言うと、シエルの髪を梳いた。
「お前は、弟の魂を喰ったんだろう?それなのに何故、生まれ変わっても弟に執着する?」
「愛しているから、ですよ。」
「そう・・」
セバスチャンとジェイドとの間に、険悪な空気が流れたが、ジェイドは何も言わずにスケートリンクから出て行った。
「セバスチャン・・」
「お目覚めですか、坊っちゃん?」
帰りましょうか、とセバスチャンがシエルに尋ねると、シエルは静かに頷いた。
「では坊っちゃん、また明日。」
「あぁ。」
タウンハウスの前で軽くハグする二人の姿を、ジェイドは自室の窓から恨めしそうに見ていた。
「ただいま。」
「お帰り、シエル。」
シエルがタウンハウスの玄関ホールに入ると、ジェイドが仁王立ちしてシエルの帰りを待っていた。
「最近、あいつと仲が良いんだね?」
「うん、まぁ・・」
「ねぇシエル、あいつの事が好きなの?」
「兄さん?」
「僕よりもあいつの事が好きなの?」
「どうして、そんな事を聞くの?」
「お前を、誰にも渡したくないからだよ。」
ジェイドは、シエルを自室へと連れて行くと、シエルをベッドの上に押し倒した。
「嫌だっ、やめて!」
ジェイドは無理矢理シエルを抱いた。
「これで、お前は僕のものだ。」
セバスチャンに抱かれてから三ヶ月が経ち、シエルは謎の眠気と倦怠感に悩まされていた。
そして、臭いに敏感になり、今まで平気だった薔薇の匂いやガトーショコラなどのスイーツの匂いが苦手になり、その匂いを嗅いだ途端、激しい吐き気に襲われ、酷い時には立っていられない程の酷い眩暈に襲われてしまう事があった。
大会が近いから、ストレスの所為で自律神経が乱れているのだろうと思ったシエルは大学病院を受診したのだが、何故か消化器内科ではなく産婦人科を受診するように受付の事務員から言われ、シエルが産婦人科に向かうと、そこはピンクの花柄の壁紙に囲まれた、ファンシーな雰囲気が漂う空間だった。
「ヒッ、ヒッ、ヒッ、漸く会えたねぇ、伯爵。」
「お前は、アンダーテイカー!」
「さてと、診察するからそこの診察台に乗ってくれるかなぁ?」
「わ、わかった・・」
シエルが恐る恐る内診台に乗ると、アンダーテイカーはシエルの問診票を見ながら器用にシエルを診察した。
「伯爵、妊娠しているね。酷い眠気と倦怠感、吐き気や眩暈、貧血・・どれも妊娠初期の症状だね。悪阻が酷くなるようなら、入院して貰うよ。あと、スケートは当分禁止ね。あぁそうだ、君の執事君にここに来て貰っているからね。」
「そんな・・」
「隠せる事じゃないし、今後の事は良く話した方がいい。」
シエルが診察室から出ると、待合室には不安そうにこちらを見つめるセバスチャンの姿があった。
「坊ちゃん・・」
「今は、何も言うな。」
セバスチャンとシエルがファントムハイヴ伯爵家のタウンハウスへと向かうと、そこには怒り狂ったジェイドと、驚愕と怒りを綯い交ぜになった表情を浮かべるヴィンセントとレイチェルの姿があった。
「シエル、セバスチャン、わたしの部屋に来なさい。」
「はい・・」

ジェイドの殺意に満ちた視線を感じながら、セバスチャンはシエルと共にヴィンセントの書斎に入った。

「お父様・・」
「シエル、お前はどうしたい?」
「僕は、産みたいです。」
「そうか。ならアンジェリーナと、“彼”に頼りなさい。」
「あの、怒らないのですか?」
「怒るも何も、命を授かった事はめでたい事じゃないか。ただ、問題なのは、“あの”奥さんが君との離婚に応じてくれるのかどうかだね。」
ヴィンセントはそう言うと、シエルにハーブティーを勧めた。
紅茶の茶葉の匂いも苦手となったシエルだが、何故かそのハーブティーだけは飲めた。
「レイチェルがお前達を妊娠中に、良く飲んでいたんだ。ハーブティー専門店でわざわざ取り寄せただけあるな、ペパーミントの良い匂いがするなぁ。」
「あの、ヴィンセント様・・」
「そんなに堅苦しい呼び方は止めてくれないか?“お義父さん”と呼んでくれ。」
「は、はぁ・・」
「それにしても、若気の至りって凄いね。まさか、こんなに早く孫の顔が見られるなんて、思いもしなかったよ。」
ヴィンセントは笑いながらも、遠回しにセバスチャンに嫌味を言っていた。
「坊ちゃん、わたしはどうやら、お義父様に嫌われてしまったかもしれません。」
「お父様は、僕の事が大好きだから・・でも、問題はお父様よりもお兄様の方だ。」
シエルがそう言った時、ジェイドが自室から出て来た。
「シエル、驚いたよ。まさか僕が伯父さんになるなんて。」
「兄さん、怒っていないの?」
「怒っていないよ。でも、お前の事を認めた訳じゃないからね、セバスチャン。」
「末永く宜しくお願い致しますね、“お兄様”。」
「僕の弟はシエルだけだ。」
ジェイドとセバスチャンとの間に、静かな火花が散った。
「坊ちゃん、アフタヌーンティーの時間ですよ。」
「要らない。」
シエルは妊娠してから、一日中トイレに籠って吐いてばかりいた。
「少しはお食べになりませんと、お身体が・・」
「うるさい、僕に構うな!」
シエルは苛立ちの余り、セバスチャンに向かって枕を投げつけた。
「ではわたしは、これで失礼致します。」
「早く出て行け!」
セバスチャンがファントムハイヴ邸を出て自宅に戻ると、アメリアが自室から出て来た。
「あなた、お帰りなさい。」
彼女が珍しく上機嫌な様子なので、セバスチャンは嫌な予感がした。
それは、的中した。
「久し振りね、セバスチャン。」
「母上、お久し振りです。」
「今日は大事な話があって来たのよ。」
「大事な話?」
「えぇ。」
セバスチャンの母・エリーは、一枚の書類をセバスチャンに見せた。
「あなた、アメリアと離婚するそうね?その理由は、ファントムハイヴ家の子と関係があるの?」
「母上、わたしはアメリアと離婚します。」
「どうして?わたしはあなたを・・」
「愛している、とでも言いたいのですか?」
セバスチャンが冷やかな瞳でアメリアを睨むと、アメリアは俯いた。
「母上、わたしとシエルは・・」
「あなたがそう言うのなら、仕方無いわね。」
「お義母様!?」
「ありがとうございます。」
「わたしは認めないわ!」
アメリアはそう叫ぶと、セバスチャンを睨みつけた。
「あの子がどうなってもいいの!?」
「坊ちゃんから、あなたへの伝言です。“身の程を弁えろ”とね。」
アメリアは無言で自室に入って荷物を纏めると、ミカエリス邸から出て行った。
数日後、セバスチャンとアメリアの離婚が成立した。
「伯爵、かなり痩せたね。酷い顔をしているよ。」
「うるさい、黙れ。」
アンダーテイカーはシエルを診察した後、お腹の赤ん坊が双子である事をシエルに告げた。
「暫く入院して貰うよ。」
「わかった。」
「産むのも育てるのも、大変だからね。」
「スケートは、出来るのか?」
「周りの協力が不可欠だね。まぁ、今度は赤ちゃん達の事だけを考えて。」
「わかった・・」
半年後、シエルは帝王切開で双子を出産した。
「可愛い~!」
「寝ている時だけは可愛いぞ。」
見舞いに来たエリザベスにそう言いながら、シエルはベビーベッドの中で眠っている双子を見た。
男女の双子―セバスチャンに似た女児と、自分に似た男児は、産声を上げた瞬間から、良く泣いた。
手術後の痛みに耐えながら、シエルは双子に授乳したり、おむつ替えをしていたりしたが、一日が終わる頃にはクタクタになっていた。
こんな調子でスケートに復帰出来るのだろうか―そんな事を思いながら、シエルは双子の育児に奮闘していた。
そんな中、シエルはある悩みを抱えていた。
それは、ブラジャーがすぐにきつくなってしまう事だった。
初潮を迎えた頃は平らだった胸が、出産後急に大きくなった。
(どうしようか・・)
「坊ちゃん、入りますよ?」
「入れ。」
「失礼致します。」
セバスチャンがシエルの病室に入ると、シエルは何やらスケッチブックの上にデザイン画らしきものを描いていた。
「それは、何ですか?見たところ、下着のようですが・・」
「これは、授乳ブラだ。胸が急に大きくなって、今までつけていた物が合わなくなった。ニナに頼んで作って貰うのもいいが・・」
「やはり、そういった物は自分で拘って作りたいと・・」
セバスチャンがそんな事を言いながらシエルに微笑んでいると、双子が急に泣き出した。
「育児にスケートに仕事・・色々やる事が沢山あるな。」
「ええ。」
セバスチャンはそう言ってシエルに男児―アトラスをあやしながら、妻と子供達は自分の命を代えても守ろうと思った。
「ノエル、アトラス、三歳の誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
シエルとセバスチャンの間に生まれた双子、ノエルとアトラスの誕生パーティーはファントムハイヴ家で盛大に行われた。
「ヒッ、ヒッ、可愛い子ちゃん達、小生にとびっきりのハグをおくれよ~」
アンダーテイカーがそう言って両手を広げると、ノエルとアトラスは躊躇いなく彼の胸の中に飛び込んだ。
「今日は来てくれてありがとう、アンダーテイカー。」
「元気そうで良かったよ、伯爵。」
アンダーテイカーは、ミッドナイトブルーのドレスを着たシエルを見てそう言うと笑った。
「それにしても凄いねぇ。この三年の間にファントムハイヴ社の新事業を立ち上げて大きく展開させるだけではなく、スケートに復帰するなんてさぁ。やっぱり、執事君のお陰かなぁ。」
アンダーテイカーはそう言うと、客達と談笑しているセバスチャンを見た。
「今も昔も、彼の君への献身ぶりは変わらないねぇ。そういや、双子の片割れはどうしたんだい?」
「兄さんなら、リジーと・・」
「テイカー、久し振りだな。」
「そんな怖い顔をしないでおくれよ。」
「少しお前と話したい事がある、いいか?」
「小生は構わないさ。」
「兄さ・・」
「シエル、そのドレス良く似合っているわ。」
「そうか?」
「昔のシエルも可愛かったけれど、今のシエルの方がもっと可愛い~!」
エリザベスはそう叫ぶと、シエルに抱き着いた。
「おやおや、相変わらず仲のいい事で。」
二人の元に、いつの間にかセバスチャンが来ていた。
「セバスチャン、シエルのドレスはあなたが選んだの?」
「えぇ。」
「双子ちゃん達の服も?」
「あの子達の服は、シエルが選んでいるんですよ。」
「二人共幸せそうで良かったわ。」
三人で談笑している姿を、遠くからある男が見ていた。
「ケルヴィン男爵、こちらにいらしていたのですか?」
「ファントムハイヴ伯爵、本日はお招き頂きありがとうございます。」
(あぁ、何て美しい人達なんだ。)
ヴィンセント達が纏う、“美”に、いつしかケルヴィン男爵は魅せられてしまった。
(決して掴む事が出来ない美しい蒼い月・・お願いだよ、僕もその仲間に入れておくれ。)
双子達を乳母に預け、スケートリンクへと向かったシエルは、背後に強烈な視線を感じて振り向いたが、そこには誰も居なかった。
(気の所為か・・)
シエルが再び歩き出すのを、茂みの中からケルヴィン男爵が見ていた。
「何を見ていらっしゃるのですか?」
「ひぃっ!」
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蒼い蝶 第1話

2024年07月08日 | 黒執事 腐向け和風転生ファンタジーパラレル二次創作小説「蒼い蝶」
「黒執事」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。


シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

蝉の鳴 き声が、暑さを加速させる。

不破シエルは、酷暑の中自転車で学校へと向かっていた。
明日から夏休みだが、この酷暑の中を自転車で自宅から学校へと往復するのは辛い。
「あ~、疲れた。」
シエルはそう呟きながら、自転車を自転車置き場に停めると、一羽のカラスが彼に近寄って来た。
「何だ、お前は?あっちへ行け!」
シエルが手でカラスを追い払うと、カラスは悲しそうな声で鳴いた。
(全く、今日はついていない!)
夏休みに大量の宿題が出されるわ、自転車のタイヤが坂道でパンクするわで、シエルにとっては災難な一日だった。
シエルは苛立ち紛れに祠を軽く蹴飛ばし、その場から立ち去ろうとした。
だがその時、一人の男が、シエルの進路を塞いだ。
彼は漆黒の羽根を広げ、じっと暗赤色の瞳でシエルを見つめた。
「あなたが、わたしを呼んだのですか?」
「お前、誰だ?」
「わたしは、この祠に祀ってあった神ですよ。あなた、微力ながら霊力がありますね。」
「まぁな・・」
シエルは、日本人の母と英国人の父との間に産まれた。
父は早くに亡くなってしまったと母から聞かされていたが、その母も交通事故で亡くなってしまった。
母の死後、シエルは母方の親戚に引き取られ、宮司を務めている伯父の神社の手伝いをしている。
その時、伯父からシエルは母の血筋―巫女の霊力をひいていると言われた事があった。
その所為か、シエルは幽霊や妖怪など、“人ならざるもの”が視えてしまうのだ。
まぁ、それで一度も困った事はないし、幽霊よりも生きている人間の方が怖いので、シエルはその力がある事を気にしていなかった。
だが、今自分の前に居る男の存在は邪魔で仕方ないので、シエルは男に声を掛けた。
「おい、邪魔だからそこを退け。」
「おやおや、生意気なガキですねぇ。目上の人間に対して口の利き方がなっていませんね。」
「いいから、退け!」
イライラしたシエルは男を押し退けようとしたが、彼はビクともしなかった。
「“お願いします”は?」
「お願いします・・」
男はそう言って笑うと、シエルに道を譲った。
(変な奴に絡まれたな。)
シエルがそう思いながら帰宅すると、伯父達の姿は家の中になかった。
『ハワイに行って来ます、留守番よろしく!』
リビングのダイニングテーブルの上に置かれたメモを見たシエルは、溜息を吐いた。
伯父一家が五泊六日のハワイ旅行に行った事を、シエルはすっかり忘れてしまっていた。
冷蔵庫の中には簡単に調理できる食材があるので食べる物には困らないのだが、問題は一週間後に開かれる夏祭りの準備をどうするかだった。
都会と比べて、娯楽が少ない田舎にとって夏祭りは、一大イベントなので、準備にも気合が入る。
シエルはこれまで夏祭りの準備に余り関わらなかったが、これからは町民の一員として無視出来ないので、今から夏祭りの準備を考えると憂鬱で仕方なかった。
エアコンが効いた室内で夏休みの宿題を片づけていたシエルは、誰かがこの家に近づいて来る気配を感じた。
「誰だ、そこに居るのは?」
「漸く見つけたぞ。」
シエルは、家に侵入して来た鬼に押し倒されていた。
「“鬼姫”、積年の恨み、ここで晴らしてくれようぞ!」
「汚い手で、わたしの姫様に触らないで下さい。」
頭上からバリトンの美しい声が響いた後、シエルに覆い被さっていた鬼の首が鮮血を噴き出しながら中庭へと転がっていった。
「お前は、あの時の・・」
「漸く見つけましたよ、姫様。」
そう言ってシエルを抱き締めたのは、漆黒の羽根を広げた男だった。
「さぁ、わたしの名を呼んで。」
―セバスチャン
「セバスチャン・・」
「良く出来ました。姫様には、ご褒美をあげましょうね。」
男―セバスチャンは、そう言うとシエルの唇を塞いだ。
「んっ・・」
ファーストキスを奪われたシエルだったが、セバスチャンのキスは甘くて美味しかった。
「もう、止めておきましょうか?」
「・・続けろ。」
セバスチャンとキスをしている内に、シエルは身体の奥が甘く疼くのを感じた。
「もっと欲しいのですか?」
セバスチャンの問いに、シエルは静かに頷いた。
「欲張りな方ですね。」
シエルの脳裏に、何処か懐かしい光景が浮かんだ。
―セバスチャン、ごめんね。
シエルは、何処か悲しそうな顔を浮かべているセバスチャンの頬を撫でた。
―また、会える事があったら・・
「ん・・」
シエルが目を覚ますと、隣には裸のセバスチャンが眠っていた。
朝の静寂は、シエルの悲鳴で破られた。
「な、何で・・どうして、僕が・・」
「あなたが望まれたからですよ。」
セバスチャンはそう言いながら、シエルの髪を撫でた。
「お身体は、辛くないですか?」
「あぁ、それよりもお前、どうして僕の家に居る?」
「それは、わたしがあなたの背の君だからですよ。」
「蝉?」
「蝉ではありません、わたしはあなたの夫です。」
「ふざけるな~!」
シエルの怒声は、隣町の集落まで響いた。
「ヒッ、ヒッ、ヒッ、良い目覚まし時計代わりになったねぇ。」
長い銀髪と九本の尻尾をなびかせながら、一匹の妖狐がそう言ってシエルが居る集落の方を見た。
「可愛い仔猫ちゃんと会うのが楽しみだねぇ。まぁ、恋敵が居るようだけど、小生は負ける気はしないけれど。」
(一体何なんだ、あいつは!いきなり現れて、勝手な事を言って・・)
シエルはシャワーを浴びながら、自分の首筋から胸元にかけて散らばったキスマークに気づいて頬を赤らめた。
「おはようございます。本日の紅茶はアールグレイ、ティーカップはウェッジウッド、朝食はハムエッグのコブサラダ添えでございます。」
リビングに入ったシエルを、セバスチャンは笑顔で迎えた。
「お前、僕はまだこの家にお前を置くと決めた訳じゃないぞ。」
「つれない事を言うのですね。昨夜はあんなに愛し合ったというのに。」
「やめろ!」
シエルはセバスチャンが作った朝食を食べ終えると、駅前にあるスーパーへと向かった。
「姫様、こちらを。」
「その呼び方を止めろ、気色悪い!」
「それは申し訳ございません。」

そう言いながらシエルの頭上に日傘をさすセバスチャンの姿を、シエルのクラスメイト達が見ていた。

「姫様・・」
「だから、その気色悪い呼び方は止めろ!僕には、シエルという名がある!」
「では、シエル様とお呼びした方が良いのですか?」
「好きにしろ!」
そう言って耳まで赤く染めるシエルの姿は、“昔”から変わっていなかった。
(ここが、すぅぱぁですか。わたしが知らぬ間に世の中は便利になったものですね。)
「早く来い!」
「はいはい、わかりましたよ。」
シエルがスーパーで買い物を終え、店の外へと出た時、突然雷鳴が轟き、雨が降り始めた。
「ついてないな。」
「雨は、止みますよ。」
そう言ったセバスチャンの横顔は、何処か悲しそうだった。
「セバスチャン・・」
「あ、シエルじゃん!」
「買い物?てか隣の人、誰?」
セバスチャンと雨が止むのを待っていたシエルは、クラスメイト達から話し掛けられ、顔を強張らせた。
「初めまして。わたしはシエル様の遠縁の従兄で、セバスチャン=ミカエリスと申します。」
そう言ってシエルのクラスメイト達に笑みを浮かべたセバスチャンだったが、目は全く笑っていなかった。
「あ、どうも・・」
「シエル、またな!」
クラスメイト達が去った後、セバスチャンはそっとシエルの手を握った。
「大丈夫ですか?」
「あぁ・・」
シエルの手を握った時、セバスチャンの脳裏に、学校で孤立しているシエルの姿が浮かんだ。
―気味が悪い子ね。
―本当。
母親の葬儀で、一人親族席に座り、親族達の陰口に耐えるシエル。
―どうするのよ、あの子?
―仕方無いだろ、他に引き取り手がないんだから。成人するまでの辛抱だ。
引き取られた伯父一家に煙たがられるシエル。
(あなたは、今まで辛い思いをしてきたのですね。)
震えるシエルの小さな肩を抱き締めたい衝動に駆られたが、セバスチャンはそれをぐっと堪えた。
「どうした?」
「いいえ、何でもありません。」
雨は、夜になっても止まなかった。
「セバスチャン、どうした?お前、さっきからおかしいぞ?」
「いいえ。ただ、昔の事を思い出してしまって・・」
「昔の事?」
「えぇ。シエル様は、戊辰戦争をご存知ですか?」
「まぁ、少しだけなら・・」
この町は、戊辰戦争時に旧幕府側として参戦し、家臣達やその家族は、藩主と共に運命を共にしたという。
白虎隊や娘子隊の悲劇などは、百五十年以上もの歳月が経った今でも語り継がれている。
「わたしは昔、ある藩の藩士だったのです。昔の貴女・・呼び方が紛らわしいので、ここでは、妻としますね。妻は、わたしとは幼馴染でした。あの戦の時、妻は家族と共に自害しましたが、急所を外して苦しんでいました。その時、わたしが妻の介錯をしました。」
介錯、という言葉を聞いたシエルは、生まれつき首に残っている火傷のような痣を無意識に触っていた。
「わたしもその場で自害しようと思いましたが、官軍の捕虜になってしまって・・その後の事は、憶えていません。」
「そうか。漸くこの痣の謎がわかった。セバスチャン、お前は僕の事を、“昔”の僕と重ねて見ているのか?」
「未練がましいでしょう?でも、あなたと再び会えて嬉しいと思っているんですよ。」
「そうか・・」
シエルがセバスチャンの言葉を聞いて照れ臭そうに笑った時、突然締め切っていた縁側の雨戸が勢いよく開かれた。
「漸く会えたね、仔猫ちゃん。」
そう言った銀髪の妖狐は、黄緑色の瞳でシエルを見つめた。
「何だ、貴様は!?」
「誰かと思ったら、あの時の侍かい。今世でもこの子を娶るつもりなのかい?」
「シエル様、お下がりください!」
「ヒッ、ヒッ、そんなに警戒する事ないだろう?小生はただ、仔猫ちゃんの顔を見に来ただけさぁ。」
妖狐は黒く細長い爪を伸ばすと、その先でシエルの頬を撫でた。
「あぁ、やっぱり君の霊気は冷たくて気持ち良いねぇ~」
「いい加減、わたしの姫様から離れて下さいませんか?」
「嫉妬する男は見苦しいよぉ~」
二人の男達に挟まれ、シエルは堪らず二人に向かって怒鳴った。
「うるさ~い!」
伯父一家がハワイ旅行から帰って来たのは、夏祭りまであと一週間を切った頃だった。
「お邪魔しま~す!」
「あら、いらっしゃい。シエル、お友達が来たわよ~!」
「はい・・」
シエルが玄関先へとそこにはスーパーで自分に声を掛けて来たクラスメイト達の姿があった。
「僕に何の用だ?」
「これからみんなで肝試しに行くから、一緒にどうかなって思って。」
「肝試し?」
「ほら、近くの林の奥に、廃神社があるだろ?あそこ、出るんだってさ。」
シエルはクラスメイト達からの誘いを断ろうとしたが、無理矢理彼らに廃神社まで連れて行かれた。
「うわぁ、不気味な所だなぁ。」
「本当に出たりして。」
クラスメイト達がそんな事を言いながらはしゃいでいると、社の奥から不気味な笑い声が聞こえて来た。
「今のは・・」
「やっぱり出た~!」
「おい、待て!」
笑い声を聞いたクラスメイト達は、蜘蛛の子を散らすかのように廃神社から逃げていった。
「笑い声ひとつで怯えるなんて、今時の子供は軟弱ですね。」
「セバスチャン、どうして・・」
「ここに居るのかって?あなたの事が心配で、こっそりと後をつけて来たのですよ。」
セバスチャンはそう言うと、シエルを横抱きにして廃神社の奥へと向かった。
「ここでいいでしょう。」
「何をする気だ?」
セバスチャンがシエルを連れて行ったのは、廃業したと思しきモーテルだった。
そこは、モーテルといっても建物はなく、代わりにトレーラーハウスが点在している所だった。
セバスチャンはトレーラーハウスの中に入ると、ベッドの上にシエルを寝かせた。
「何をって、ナニをですよ。」
セバスチャンは慣れた手つきでシエルの服を脱がせると、その小ぶりな乳房と乳首にしゃぶりついた。
「あっ、いやぁっ・・」
「そんな事を言っている割に、ここは濡れているようですが?」
セバスチャンがそう言いながらシエルの膣を弄っていると、そこから甘い雫が滴り落ちた。
「セバスチャン・・」
「力を抜いて下さい。」
「あぁ~!」
セバスチャンのモノが、シエルの子宮を深く穿った。
「そんなにわたしを締め付けて、感じているのですか?」
「言うなぁっ!」
「動きますよ。」
「ひぃっ!」
セバスチャンはシエルの両足を己の両肩に掛けると、腰の動きを速めた。
「いじめてしまいましたね。」
セバスチャンに激しく責められ、気絶してしまったシエルの身体を清めながら、セバスチャンは溜息を吐いた。
「ハァ~イ、ちょっとお邪魔するよぉ。」
「またあなたですか。」
セバスチャンが少し苛立ったような顔を妖狐に向けると、彼はセバスチャンの羽織の下に隠されているシエルの下半身を見ようとしたが、セバスチャンに阻まれた。
「独占欲丸出しなのは、昔から変わってないねぇ。」
「一体、何の用なのですか?」
「いえね、最近仔猫ちゃんを狙っている輩がこの辺をうろついているみたいだから、君に伝えておこうと思ってねぇ。」
「それはわざわざどうも。」
「まぁ、あいつは人だねぇ。でも、危険な臭いと気配がするんだよねぇ。」
夏祭りの前夜祭当日の朝、シエルの元に町の呉服屋がやって来た。
「ご注文の品を持って参りました。」
「おい、こんなに注文しなくてもいいだろう?」
「何をおっしゃるのです、シエル様は祭りの間だけでも着飾って頂かなければ、この町の沽券に関わります。」
「そうよシエル、あなたも年頃の娘なんだから、お洒落しないと。」
「あぁ、わかった・・」
今まで、シエルは己の“呪われた”身体の所為で着飾る事をしなかった。
「さぁ、わたしが化粧をしますから、目を閉じて。」
「わかった・・」
セバスチャンに化粧をされ、かつらをつけた自分の顔を鏡で見たシエルは、驚きの余り絶句した。

(これが、僕・・?)

「あ、出て来たぞ!」
「可愛らしい巫女さんだねぇ。」
「本当に。」

神社の境内に現れた巫女装束姿のシエルを、一人の男が鼻息を荒くしながら望遠レンズをつけたカメラで連写していた。

(嗚呼、何て可愛いんだ!)
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狼の花嫁 第1話

2024年07月03日 | FLESH&BLOOD 昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説「狼の花嫁」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様は一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。


遠くでフクロウの鳴き声が聞こえる中、一人の少女は只管暗い森の中を走っていた。

(早く、ここから逃げないと・・)

着ているドレスが泥だらけになっても、少女はその足を止める事はしなかった。
何故なら―

(何、今の・・何か、向こうの茂みで・・)

少女が茂みの方へと持っていたランタンを向けた時、その奥から“何か”が飛び出して来た。
鋭く光る“何か”の眼を見たのが、少女が見た最期の光景だった。
「また、やられちまったんだとよ・・」
「可哀想に・・」
「これで、何人目だろうねぇ・・」
森の中から少女の遺体が見つかったのは、彼女が失踪して五日後の事だった。
そのニュースを聞いた村人達は、決まって皆口を揃えてこう言った。
“狼が、娘を攫って殺した”と。
森の奥から、狼の鳴き声が聞こえて来た。
(狼か・・)
東郷海斗は包丁で野菜の皮を器用に剥きながら、狼が居るであろう森の方へと目を向けた。
「カイト、朝飯の下拵えは済んだのかい!?」
「はい、もう終わりました!」
「そう。じゃぁ、公演の時間までゆっくり休んでおきな。」
「はい。」
海斗は厨房―といっても、天幕を張っただけの簡素な所から出て、真紅の天幕の中へと入っていった。
そこは、海斗だけの空間だった。
彼がこのサーカス団で暮らし始めたのは、一年程前の事だった。
「え、クビ!?」
「済まないねぇ、工場の経営が苦しくて・・」
孤児院から出て、二年位勤めていた紡績工場が不況の煽りを受け、人員削減の所為で海斗は解雇された。
海斗が僅かな所持金と私物が詰まったトランクを持って向かった先は、サーカスだった。
そこで夢のような体験をした海斗は、“団員募集”のチラシを見つけ、面接を受けた。
「下働きでも何でもします!ここで働かせて下さい!」
こうして、海斗はサーカス団「ペガサス座」の団員となった。
最初は下働きだったが、海斗は踊りの才能を見込まれ、一軍メンバーとして活躍する事になった。
「寒っ・・」
海斗はトランクの中から、ギンガムチェックのショールを取り出すと、それを肩に掛けた。
春先とはいえ、この地方は朝晩の冷え込みが厳しい。
海斗はソファに横になると、そのまま眠った。
「ねぇ、何だいあの立派な馬車は?」
「さぁねぇ・・」
公演まで一時間を切った頃、「ペガサス座」の天幕の前に、一台の四頭立ての馬車が停まり、中から軍服姿の青年が出て来た。
「皇太子様、よろしいのですか?このような場に・・」
「市井の人々の暮らしを垣間見るのも、王族としての務めだろう?」

そう言った英国皇太子・ジェフリー=ロックフォードは、口端を上げて笑った。
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金糸雀と獅子 1

2024年07月03日 | FLESH&BLOOD 昼ドラハーレクインパラレル二次創作小説「金糸雀と獅子」
「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

その日は、大雪が降っていた。

「まさかこんなに降るなんてねぇ。」
「こんなに毎日降るんじゃ、商売上がったりだよ。」
凍てつく寒さの中、裸足でテムズ川の泥を漁っている泥ひばり達がそんな事を話していると、一人の少年が甲高い悲鳴を上げた。
「姉ちゃん、大変だよ~!」
「どうしたんだい、アーチ―?」
「あ、あれ・・」
そう言って少年が指した先には、男性の腐乱死体があった。
「見るんじゃないよ、アーチ―!」
腐乱死体の身元は、所持品ですぐに判明した。
彼は、アーリントン子爵家の執事長・アーサーだった。
彼の死因は、後頭部を何者かに殴られた事による撲殺だった。
アーサーの所持品は、金の懐中時計だけだった。
彼に一体何があったのか―それは誰も知る由がなかった。
「あぁ寒い、こんなに寒いと客が来るのかねぇ。」
「そうだねぇ。」
旅芸人の一座の女達がそんな事を言いながら薪を暖炉へと投げ入れていると、一人の少女が彼女達の前を通り過ぎていった。
「あらあの子、見ない顔だね。」
「あぁ、あんたは初めてあの子を見るんだっけ?あの子は、数週間前にここへ来た新入りよ。」
「へぇ・・
「カイト、これから洗濯しに行くの?」
「はい。」
「風邪をひかないようにね!」
「わかりました。」
海斗は先輩の女達に向かって頭を下げると、洗濯場へと向かった。
そこは、川に面した人気がない所だった。
さっさと終わらせてしまおうと、海斗は洗濯物が入った籠に水を浸した後、黙々と洗い始めた。
暫く経つと、近くの叢の方から、怪しい物音が聞こえた。
(何だろう?)
海斗が嫌な予感を感じ、洗濯を終えてそのまま自分のテントへと戻ろうとした時、叢から一人の男が出て来た。
その男は、全身血塗れだった。
「助けてくれ・・」
「しっかりして下さい!」
海斗は気絶した男を抱えながら、女達の元へと戻った。
「カイト、どうしたの・・って、誰なのその男!?」
「知りません、急に洗濯場に現れて・・」
「とにかく、“先生”を呼びましょう!」
女達は気絶した男を二人がかりで近くのテントへと運ぶと、“先生”を呼びに行った。
「どうした?」
「この人、血塗れで倒れていて・・」
「安心しな、これは全部返り血だ。」
“先生”ことクリストファー=マーロウはそう言うと、気絶した男をベッドに寝かせた。
「診察するから、お嬢さん方は出て行ってくれ。」
「わかったよ。」
「先生、後でね。」
マーロウが男の服を脱がした時、彼は低く呻いて灰青色の瞳を開けた。
「お、気が付いたか?」
「ここは、何処だ?」
「ここは、シリウス座の医務室だ。お前さん、名前は?」
「俺は・・」
男が自分の名を思い出そうとした時、激しい頭痛に襲われた。
「無理に思い出さなくてもいい。今お前さんに必要なのは、休養だ。」
「わかった・・」
男はそう言うと、目を閉じた。
「“先生”、どうだったの?」
「大丈夫だ。だが、記憶喪失らしい。」
「記憶喪失?」
「あぁ。彼を診察しようとしたら、後頭部を何者かに殴られたような傷跡があった。その所為で海馬に強いダメージが・・」
「海馬?」
「頭の中で、人の記憶を司る部分だ。その部分が、誰かに殴られた事によって、自分の名前を思い出せない程の強いダメージを受けたんだ。」
「治るのかい?」
「今すぐに、という訳にはいかないが、時間が経ったら治るだろう。」
「そう。」
そんな事をマーロウ達が話している時、医務室の中で何かが倒れる音がした。
慌ててマーロウが中に戻ると、ベッドに寝かせられていた男が床に倒れて呻いていた。
「おい、大丈夫か!?」
「俺に・・構うな。」
「そんな怪我をして何処へ行くんだ?」
「母さんを、助けないと・・」
男はそう言って気絶した。
彼がどのような事情を抱えているのかは知らないが、彼の治療を第一に考えなければならない―マーロウは溜息を吐きながら、男を再びベッドへと寝かせた。
夜になり、海斗達は公演の準備を慌しく始めた。
「カイト、もうすぐ出番だよ!」
「わかりました!」
慌しく化粧を終え、衣装に着替えた海斗が舞台に現れると、客席は歓声に包まれた。
「皆様、お待たせ致しました!麗しの舞姫・カイトの舞をご覧あれ!」
軽快な音楽と共に海斗が踊り出すと、観客達は歓声を上げた。
「今日もお疲れ様。みんな、集まってくれ!」
公演の後、団長・ユリウスは団員達を集めた。
「実は、次の公演先がロンドンに決まった!」
団員達から、オーッという歓声が上がった。
「明日は朝が早いから、しっかり休めよ!」
「はい!」
海斗が自分のテントで荷造りをしていると、衣装箱の中から見慣れないペンダントを見つけた。
それは、美しい輝きを放っているブルー・ダイヤモンドのペンダントだった。
(誰のだろう?)
海斗はペンダントを首に提げると、荷造りを終えてそのままベッドで眠った。
その頃、ロンドン・イーストエンドにある酒場では、一人の男が安酒を飲みながら誰かを待っていた。
暫くすると、一人の娼婦が入って来た。
「待たせたね。
「あの男は始末したぜ。」
「そう、ご苦労様。」
娼婦はそう言うと、金貨が詰まった袋を男に手渡した。

「“彼”をすぐに見つけ出して。」
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蒼い鳥 第1話

2024年07月03日 | FLESH&BLOOD ハーレクインロマンスパラレル二次創作小説「蒼い鳥」
「FLESH&BLOOD」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

1873年、ロンドン。

「産まれたぞ!」
「男か、女か?」
「その子は化物よ、早く捨てて来て!」
ヒステリックな女の声が、彼女の寝室から聞こえて来たので、廊下に居た使用人達は驚き、互いの顔を見合わせた。
やがて寝室から、赤子の乳母が赤子を抱いて出て来た。
「リリー、その子をどうするんだい?」
「わたしが、育てるわ。」
10月の寒空の下、リリーは長年勤めていた屋敷を解雇された。
だが、彼女は己の腕に抱いている赤子を育てる事だけを考えた。
ロンドンを離れ、彼女が向かったのは、プリマスだった。
そこには、リリーの育ての親であるイーディスが、食堂兼宿屋を営んでいた。
「お帰りなさい、リリー。」
「ただいま、イーディス。」
「その子は?」
「今日から、わたしの子になったの。」
「そう。」
イーディスは深く詮索せずに、リリーと赤子を受け入れた。
今まで育児の経験がなかったリリーは赤子の世話に悪戦苦闘していたが、イーディスの助けて貰いながら赤子を育てた。
それから17年後、プリマスにある食堂兼宿屋『白鹿亭』は、今日も繁盛していた。
店の名物は、海斗とリリーが作る香草パンだった。
「カイト、小麦粉を買って来て!」
「わかった!」
「気を付けてね!」
『白鹿亭』から出た海斗が買い物籠を持って『グレイス食料品店』に入ると、そこには英国海軍の軍服を着た青年が店員と揉めていた。
「卵はこれだけなのか!?」
「申し訳ありません。」
「もういい!」
海斗は今にも泣きそうになっている店員の元へと向かった。
「大丈夫?」
「ええ。」
「あんなクソ野郎なんて、地獄に落ちればいいんだ。」
「カイト、小麦粉どうぞ。」
「ありがとう。」
『グレイス料理店』から出た海斗は、店の入口で一人の青年とぶつかった。
「済まない、怪我は無いか?」
「はい・・」
ぶつかった拍子にバランスを崩した海斗を助けてくれたのは、英国海軍の軍服を着た、金髪碧眼の美青年だった。
(同じ軍人でも、あんなに違うのかねぇ・・)
海斗が食堂で忙しく働きながらそんな事を思っていると、先程『グレイス食料品店』で店員と揉めていた男が、急に海斗の腕を掴んだ。
「おいお前、酌をしろ!」
「お客さん、そういうサービスを受けたいのなら、よこへ行きな!」
「何だと!」
海斗と男が揉めていると、そこへあの青年がやって来た。
「このお嬢さんの言う通りだ、ジョー。」
「畜生、覚えてろよ!」
男はそう叫ぶと、『白鹿亭』から出て行った。
「カイト、大丈夫!?」
「うん・・ごめんね、リリー。」
「あなたが謝る事は無いわ。あんなクソ野郎は出禁にしてやるわ。」
リリーはそう言うと、海斗の肩を励ますかのように叩いた。
「助けてくれて、ありがとう。」
「いや、俺はこんな可愛い子ちゃんと一度、話がしたかったのさ。」
「え・・」
「女将、暫くこの子をかりてもいいか?」
「構いませんわ。」
リリーはそう言うと、海斗とジェフリーを夜の街へと送り出した。
「あの・・さっきは、どういう意味であんな事を?」
「言ったのかって?あれは本心からだよ。自己紹介が遅れたな、俺はジェフリー=ロックフォード。」
「俺はカイト。」
「なぁカイト、その髪は地毛なのか?」
「うん。やっぱりこの髪、変かな?」
「いや、とても綺麗だ。」
ジェフリーと海斗は、“ホーの丘”まで歩いた。
「また、会える?」
「会えるさ、お前が望めば。」
「うん。」
ジェフリーと『白鹿亭』の前で別れた海斗は店の二階にある自室に入ると、結っていた髪を解き、ウェストを締め付けているコルセットの紐を緩めた。
「ふぅ・・」
「カイト、今入っても大丈夫?」
「うん。」
リリーが海斗の部屋に入ると、彼女は寝間着姿でベッドに横になっていた。
(あの人に、また会いたいな。)
翌日の昼、ランチタイムで賑わう『白鹿亭』の前に、立派な四頭立ての馬車が停まった。
「立派な馬車だねぇ。」
「本当に。」
「一体どなたの馬車なんだろうね?」
客達がそんな事を言っていると、馬車から一人の青年が降りて来た。
長身を仕立ての良いフロックコートに包んだ男は、厨房から出て来た海斗の前に突然跪いた。
「お迎えに上がりました、お嬢様。」
「え?」
「大奥様が、あなたをお呼びです。わたくしと共に、ロンドンへ・・」
男がそう言って海斗を見ると、彼女は気絶し床に倒れていた。
「あなた、誰?カイトに何をしたの?」
「失礼、わたしはビセンテ=デ=サンティリャーナと申します。エルフィリン子爵家より、カイト様をお迎えに上がりました。」
「エルフィリン子爵家ですって?」

そこは、リリーが17年前に海斗と共に追い出された、元職場だった。
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毒と蜜~運命の罠~壱

2024年06月26日 | 薄桜鬼 土千遊郭転生昼ドラパラレル二次創作小説「毒と蜜~運命の罠~」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

ずっと、近くで見ているだけで良かった。
この想いを告げられなくても、傍に居られるだけで良かった。
だから―

「千鶴、何処だ?」
「はい、こちらに。」
井戸の水くみを終えた後、千鶴は慌てて母屋の中へと戻った。
「歳三様、何か・・」
「お前ぇに、渡してぇものがあるんだ。」
「渡したいもの、ですか?」
「あぁ。」
歳三がそう言って懐から取り出したものは、桜を象った簪だった。
「やっぱり、この簪はお前の黒髪に合うな。」
「いいのですか?このような高価な物、わたしが頂いても・・」
「惚れた女を着飾らせたいのが、男の性というものだろうが。遠慮せずに受け取ってくれ。」
「ありがとうございます・・」
千鶴は何処か嬉しそうな顔をしながら、その簪を懐紙に包んで懐にしまった。
 それを見ていた歳三は、満足そうな笑みを口元に浮かべた。
「歳三、そなたに縁談があります。」
「申し訳ありませんが母上、その縁談はお断りさせて頂きます。」
「・・あの娘と、本気で夫婦になりたいと思っているのですか?」
そう言った歳三の母・恵津は、彼をじろりと睨んだ。
「大逆人の娘をこの家に嫁として迎え入れる事は、この母が許しません。」
「母上!」
千鶴の父・綱道は、腕の良い蘭方医だったが、“安政の大獄”で謀反人として奉行所に連れて行かれ、そこで非業の死を遂げた。
後に、彼は無実だと判ったが、“大逆人の娘”の烙印を捺された千鶴は、土方家で女中として引き取られた。
使用人達は良くしてくれたが、恵津は千鶴に冷たかった。
「歳三、あの娘と別れなさい。」
「いいえ、別れません。」
「まぁ・・」
「では、これで失礼致します。」
「お待ちなさい、まだ話は・・」
歳三は恵津の部屋から出て自室へと戻ると、溜息を吐いた。
「トシさ~ん!」
「誰かと思ったら、八郎か。何の用だ?」
「トシさんに会いに来たんだ。」
八郎はそう言うと、歳三の髪に梅の簪を挿した。
「黒髪によく似合うね。」
「そうか?」
「ねぇトシさん、何を書いているの?」
「馬鹿、見るんじゃねぇ!」
「もしかして、あの最近通っている道場主への恋文なの?」
そう言った八郎の目は据わっていた。
「てめぇには関係ねぇだろうが。」
「あるよ!トシさんは、僕のお嫁さんになるんだから!」
「男に嫁なんて言葉使うな、気色悪い!」
「あ、若様またこちらにいらっしゃったのですか!さ、奥様がお戻りにならない内に帰りましょう!」
「嫌だ~、トシさん!」
「いけません!」
「嫌~!」
 歳三にしがみついたまま離れようとしない八郎に手こずっていた本山は、八郎に手刀を喰らわせた。
「では、わたくし達はこれにて。」
「お、おう・・」
失神した八郎を肩に担いだ本山が土方家から出ると、彼は八郎の姉・八重と正門ですれ違った。
「土方様・・」
「八重様、どうしてこちらに?」
「そんなにわたくしを嫁にしたくありませんか?」
「それは・・」
「良いのです。土方様には千鶴がいらっしゃるのですから。」
八重はそう言うと、目を伏せた。
「わたしは、あなたにはわたし以外の殿方と幸せになって下さい。」
「わかりました・・」
八重はそう言うと、歳三に向かって頭を下げた。
「八重様、こんにちは。」
「なれなれしくわたくしに話しかけないで・・罪人の娘の癖に。」
八重はそう言うと、千鶴を睨んだ。
「わたくしは、お前の事を土方様の恋人だと認めないわ。」
「八重様・・」
「お嬢様、これからどうなさいますか?」
「土方様から、千鶴を引き離さなくてはね。」
 そう言った八重の瞳は、狂気が宿っていた。
「千鶴、少しお使いを頼まれてくれないかい?」
「はい。」
土方家の女中頭・みねからお使いを頼まれ、千鶴は土方家の裏口から外へと出た。
「毎度あり~」
(少し、遅くなってしまったわ・・)
千鶴がそんな事を思いながら家路を急いでいると、彼女の背後に渡世人風の男が数人、迫って来ている事に当の本人は全く気づいていなかった。
「あれか?」
「あぁ、中々の上玉じゃねぇか。」
男達は電光石火の動きで千鶴の鳩尾を殴り気絶させると、彼女を“ある場所”へと連れて行った。
「千鶴が、戻って来ない?」
「はい。」
「彼女が、わたくし達に黙って勝手に居なくなるなんて・・」
(千鶴・・)
「ん・・」
「目が覚めたか?」
千鶴が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋の中だった。
(ここは・・)
「上玉だねぇ。数年仕込めば売れっ子になれそうだ。」
「あの・・」
「江戸から遠く離れた島原で拾い物をするとはね・・運が良い。」
「ここは、何処なのですか?」
「ここは京の島原で一番格が高い“宗津屋”さ。」
「わたしを、ここから出してください!」
「それは出来ないねぇ。」
“宗津屋”の女将・えんは、意地の悪い笑みを浮かべた。
「あんたは、ここで一生暮らすんだよ。」
「嫌ぁ~!」
「へぇ、あの娘を島原に・・随分と遠い所へやったわね?」
「お嬢様、あの・・」
「暫くは身を隠していなさい。」
八重はそう言うと、金子を男に投げて寄越した。
「姉上、誰かと話していたのですか?」
「いいえ、独り言よ。」
「そうですか。」
八郎の弟・想太郎は、八重の態度に不審を抱き、すぐさま八郎の部屋へと向かった。
「兄上、よろしいですか?」
「どうした、想太郎?」
「先程、姉上が誰かとお部屋で話しているのを聞いたのです。」
「・・その話、詳しく聞かせてくれないか?」
(まさか姉上が、千鶴ちゃんを・・)
「まぁ伊庭様、歳三様なら日野の試衛館に行かれましたよ。」
「いつ頃戻りますか?」
「さぁ、それはわかりかねます。」
「そうですか・・」

(トシさん、どうして肝心な時に居ないんだよ!)
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スランプ。

2024年06月17日 | 日記
ここ最近、異常な暑さが続いていて、軽い夏バテなのか梅雨バテなのかわかりませんが、その所為でスランプに少し陥ってしまったので、暫く二次小説の更新をお休みします。
コメント

6月ですね。

2024年06月05日 | 日記
まあ、わたしももういいとしになりましたし、これといって特別に変わったことがないのですが。
健康には気を付けないと。
あ、↓の記事は誕生日を迎えた時のものです。
https://plaza.rakuten.co.jp/jewel20070416/diary/202406020005/
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蒼穹ノ旗 一

2024年05月22日 | 薄桜鬼×ハリー・ポッター転生クロスオーバーパラレル二次創作小説「蒼穹ノ旗」
「薄桜鬼」と「ハリー・ポッター」の腐向け二次小説です。

作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。

1869(明治二)年5月、箱館。

鳥羽・伏見の戦いから始まった戊辰戦争―旧幕府軍と新政府軍との戦いは、終わりを迎えようとしていた。
「土方さん、大変だ!弁天台場が、敵に包囲された!」
元新選組副長・土方歳三は、部下達を連れて五稜郭から弁天台場へと向かった。
しかし、一発の銃弾が彼の身体を貫いた。
「土方さん!」
土方と共に馬に乗っていた千鶴は、落馬した直後でありながらも、彼を人気のない場所へと連れて行った。
同じ頃、一人の少年が倒れた男を必死に引き摺っていった。
「先生・・しっかりして下さい!」
「ポッター、お前だけでも逃げろ・・」
「嫌だ!」
「我輩は、どうせ長くない。だが、貴様はここで死ぬべきではない。」
セブルス=スネイプは、そっと最愛の人と同じエメラルドの瞳をした少年―ハリーの頬を撫でた。
その間にも、マグルに撃たれた胸からドクドクと血が流れている。
「僕が、絶対にあなたを死なせはしない。」
ハリーはそう呟くと、持っていた脇差で己の手首を傷つけると、その血をスネイプに飲ませた。
ハリーがスネイプの呼吸を確めると、刀と共に腰に差していた杖を取り出し、その場から“姿くらまし”した。
「ハリー!」
「ハーマイオニー、早くこの人の手当てを・・」
そう言ったハリーは、気を失った。
「ハリー、しっかりして!」
自分に呼び掛ける友の声が、徐々に遠くなった。
「寒い・・」
「ねぇロン、本当にこの道で合っているの?」
「確かに、この辺りなんだけどな・・」
ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は、ホグワーツ魔法魔術学校の修学旅行で京都に来ていた。
魔法界の京都には、烏天狗や妖狐などの日本固有の妖怪で溢れていた。
三人は魔法界の京都を満喫した後、マグル界の京都で人気の和菓子屋へと向かっていた。
しかし、いくら歩いても、三人は目的地に辿り着く事が出来なかった。
「どうなっているんだ?」
「お前達、そこで何をしている?」
三人が同じ道を何度も歩いていると、そこへセブルス=スネイプが現れた。
「先生も道に迷ったんですか?」
「漢方薬を扱う店を探していたら、お前達に会っただけだ。」
スネイプはそう言った後、気まずそうに咳払いした。
「お前達、マグルの前では・・」
「“決して魔法を使ってはいけない”でしょう?でも、非常事態が発生した時は例外ですよね、先生。」
「さよう。」
スネイプは、杖を取り出すとハーマイオニーの背後に迫って来ている白髪の化物に向けて失神呪文を放った。
「ねぇ、あれ何なの!?」
「僕達にもわからないよ!取り敢えず今は安全な場所へ逃げよう!」
白髪の化物に向かってハリーは守護霊の呪文を放ったが、それは化物には効かなかった。
「ポッター、危ない!」
スネイプは白髪の化物に襲われそうになっているハリーを助けようとしたが、間に合わなかった。
白髪の化物がハリーに牙を剥こうとした時、刃がその身体を貫いた。
「あ~あ、はじめ君、そいつ僕が殺そうと思ったのに、仕事早いよね。」
「俺は己の務めを果たしているだけだ。」
突然自分達の前に現れた二人の青年からハリーを守ろうと、スネイプは彼に覆い被さった。
「ねぇ、もしかしたらこの人達、羅刹を見ちゃったんじゃないの?」
青年の一人は、そう言うとロンとハーマイオニーに刃を向けた。
「ねぇ、殺しちゃいましょうよ。」
「止せ、総司。この者達の事は、副長に任せろ。」
スネイプがハリーと共にその場から逃げようとしたが、背中に刃を突きつけられ、諦めた。
「逃げるなよ、背を向ければ斬る。」
スネイプとハリーがゆっくり背後を振り向くと、そこには艶やかな黒髪をなびかせた男が、アメジストのような美しい紫の瞳で二人を睨んでいた。
「先生ぇ・・俺達、どうなっちゃうのぉ?」
スネイプが我に返ると、ロンが半泣きになりながら自分を見つめていた。
「あんたが、こいつらの保護者か?」
「さよう。」
「悪いが、あんた達をこれから屯所へ連れて行く。ここじゃ、あんた達のような異人達は悪目立ちして、攘夷派の奴らに見つかるのは時間の問題だからな。」
「わかった。」
「ロン、しっかりして、泣いても何も解決しないでしょう!」
泣きじゃくるロンを立たせたハーマイオニーの姿を見た後スネイプはそっとハリーの手を取った。
「案ずるな、ポッター、我輩は必ずお前を守る。」
「先生・・」

ゆらりと、黒い人影がハリー達の背後を通り過ぎた。

「道に迷っていたら、羅刹に襲われたと?」
「そうです。」
「あの、僕達はどうなるんですか?」
「それは明日に決める。」
謎の化物に襲われた後、ハリー達はその場に居合わせた数人の男達に連れられ、彼らが“トンショ”と呼ぶ建物へと入った。
ハリー達の前には、黒髪の男と、眼鏡を掛けている男と、柔和な顔立ちをした男が座っていた。
「おいトシ、そんなに睨むな。子供達が怖がっているだろう?」
「そんな事言われてもなぁ・・」
「自己紹介が遅れたな。俺は新選組局長・近藤勇、それで俺の隣に座っているのは新選組副長・土方歳三。それと・・」
「わたしは新選組総長・山南敬助と申します。」
眼鏡を掛けた男は、そう言ってハリー達に微笑んだ。
「さてと、今夜は色々あって疲れたようですし、皆さんどうぞお部屋で休んで下さい。」
「わかりました。」
その日の夜、ハリー達は土方に用意された部屋で休む事にした。
「うわぁ、床に直接寝るなんて、一度もやった事がないや!」
「ロン、早く寝ましょう!」
「うん・・」
「二人共、お休み。」
「お休み、ハリー。」
ロンとハーマイオニーが部屋の襖を閉めた後、ハリーは布団の中に入って泥のように眠った。
―あいつを殺せ!あいつは化物だ!
紅蓮の炎に包まれた森の中を、ハリーは必死に走っていた。
その小さな胸には、一振りの脇差があった。
“ハリー、これを持って逃げなさい!”
“母さん達はどうするの?”
“何も心配するな、ハリー。大丈夫だ。”

それが、両親を見た最後の姿だった。

ハリー達が住んでいた集落は、突然やって来た人間達によって滅ぼされた。
父と母の消息は、未だにわかっていない。

―殺せ、こいつは化物だ!

はじめて自分が普通の人間とは違うと感じたのは、ハリーが七つの時だった。
両親が失踪し、彼は母方の親族に引き取られたが、そこでは毎日虐待を受けていた。
だが、その傷はすぐに塞がった。
彼らはそんなハリーを気味悪がり、蔑ろにした。
十一の時、ハリーに転機が訪れた。
ホグワーツ魔法魔術学校に入学し、自分が魔法使いであるという事を知ったのだ。
ホグワーツでの生活は、親族宅で過ごすそれとは違い、快適だった。
ハリーにとって、ホグワーツは“家”そのものだった。
(ヘドウィグ、元気かなぁ?)
何度も寝返りを打ちながら、ハリーはホグワーツのふくろう小屋に居るヘドウィグの事を想った。
「眠れないのか?」
「すいません、起こしちゃって・・」
「いや、我輩も丁度眠れなかった所だ。これから、我々がどうなるのか・・」
「これから、どうなるのでしょう?あの人達は僕達を、悪いようにはしない筈です。」
「そうだな。それよりもポッター、お前何か我輩に何か隠している事はないか?」
「いや、少し昔の事を思い出してな・・」
スネイプはそう言った後、ハリーに学生時代にあった“ある出来事”を話し始めた。
それは、魔法薬学の授業の時に起きた。
「今日は、“真実薬”を作ろう。」
スネイプはその日、いつものようにリリーと薬を作っていた。
問題が起きたのは、そろそろ授業が終わろうとしている頃だった。
「危ない、セブ!」
リリーは、大釜の中にあった液体を右腕に被って火傷してしまった。
「早く、エバンスを医務室へ!」
「リリー、大丈夫か?」
「ええ。」
リリーを医務室へ連れて行ったスネイプは、彼女が火傷した右腕の傷が塞がっている事に気づいた。
「リリー・・」
「セブ、わたしね・・」
リリーからスネイプが聞いた話は、俄かに信じ難いものだった。
彼女の一族は、中世の頃から続く吸血鬼の末裔だというのだ。
「でもリリー、君はマグル生まれじゃないか?」
「“先祖返り”っていうのかしら?わたしだけにその能力と血が受け継がれて・・」
「そうか。」
「ねぇセブ、これからもわたしと友達で居てくれる?」
「あぁ、勿論さ。」
「そんな事が・・」
スネイプからそんな話を聞いたハリーは、驚きの余り絶句した。
「どうして、先生は僕にそんな話をするんですか?」
「あの時、リリーはこうも言っていた。“もしかしたら、自分の能力と血が自分の子に受け継がれるかもしれない”と。」
「そういえば、僕も普通の人間より傷の治りが早いんです。その所為で叔母さん達から気味悪がられちゃって・・」
「そうか。」
「ロンとハーマイオニーは、この事を知っています。あと、ダンブルドア先生も。」
「あの白髪の化物は、リリーが以前言っていたものと同じものだったな。確か、ああいった化物は、“人工的”に作られるとか・・」
「“人工的”に化物を作るなんて、そんな事があるんですか?」
「一度、ニコラス=フラメルが持っていた“賢者の石”―それと似たようなものを作り・・」
スネイプがそう言った時、外から大きな物音がした。
「先生、今のは一体・・」
スネイプが襖を少し開けて外の様子を伺ったが、そこには誰も居なかった。
(気の所為か・・)
「先生?」
「気の所為だ、早く寝ろ。」
「はい・・」
スネイプが襖を閉めた後、山南は隠れていた中庭を後にして、ある場所へと向かった。
そこは、脱走した隊士達を監禁し、“実験”を行う場所だった。
蝋燭の仄かな灯りに照らされ、両手足を鉄枷で拘束された化物が、赤く光る目で山南を見た。
「食事の時間ですよ。」
「血を・・血をくれぇ!」
「喉が渇いて死にそうだぁっ!」
「そんなに慌てなくても、皆さんの分はありますよ。」
山南はそう言って笑いながら、懐からある物を取り出した。
それは、硝子壜の中に入った真紅の液体だった。
「また、失敗ですか・・色々と改良しなくてはいけませんね。」

山南は溜息を吐くと、そのままその場所から去った。
その中は、不気味な静寂に包まれていた。

ひょんな事から幕末にタイムスリップし、化物に襲われ、新選組に保護されてから一夜明け、ハリーは眠い目を擦り、強張った筋肉を軽く伸ばした。
「おはよう、ハリー。」
「おはよう。」
朝食の為、大広間に入ったハリーは、そこで眠そうな顔をしているロンとハーマイオニーに会った。
「二人共、良く眠れた?」
「全身が痛くて眠れなかったよ。」
そう言ったロンの顔には、畳の跡がついていた。
「あれ、スネイプ先生は?」
「おはよう、諸君。」
大広間にやって来たのは、黒の着流しに白い襷を掛けたスネイプだった。
「せ、先生、その格好!?」
「どうしたんですか?」
「何もする事が無いから、炊事を手伝ったのだ。」
「そうですか・・」
「てめぇら全員、揃ったな?」
歳三はそう言うと、じっとハリーを見た。
「あの、僕に何か用ですか?」
「いや・・」
「土方君、大変です!」
「どうした?」
「蔵に監禁していた羅刹が逃げ出しました!」
「何だと!?」
山南と歳三は、大広間から出て行った。
「どうしたんだ?」
「さぁね。」
二人はそのまま、大広間に戻って来なかった。
「ねぇ、さっき二人が言っていた“ラセツ”という奴って、何なの?」
「それは、わからないな。」
「余り深入りしない方がいいかもしれないわ。」
「そうだね。」
ハリー達がそんな事を言いながら厨で洗い物をしていると、そこへ歳三がやって来た。
「ハリー、来てくれ。」
「は、はい・・」
(何だろう・・)
ハリーが歳三と共に向かったのは、山南の部屋だった。
「君が、ハリー=ポッター君ですね?」
「あの、僕に何か用ですか?」
「土方君、彼と二人きりにさせて頂けないでしょうか?」
「わかった。」
山南と二人きりになったハリーは、不安そうな表情を浮かべながら彼を見た。
「君は、これが何だかわかりますか?」
山南は、懐から硝子壜を取り出し、それをハリーに見せた。
「これは、“生命の水”・・」
かつて、ロンとハーマイオニー達と共に“賢者の石”探しに奔走した事をハリーは思い出した。
「あなた方の“世界”では、そう呼ばれているのですね。」
山南はそう言うと、笑った。
「あの・・」
「これは、“変若水”・・わたしが、ある実験の為に使っています。」
「実験、ですか?」
「はい。さぁ、こちらへどうぞ。」
山南に連れられてハリーが向かったのは、屯所から少し離れた蔵だった。
そこは暗く、不気味だった。
「ここは・・」
「ここは、蔵です。」
奥から、獣が吼えているかのような声が聞こえて来た。
「あの、どうして僕をここへ連れて来たのですか?」
「昨夜、あなたとスネイプさんの話を聞いてしまいましてね・・」
山南は、そう言って暗く淀んだ目でハリーを見た。
「あなたの血を、わたしの実験の為に使わせて頂けないでしょうか?」
「え?」
ハリーは、脇差を手に自分に向かって来る山南に怯え、彼から少し後ずさった。
「スネイプ先生・・」
「どうした、ミス・グレンジャー?何かわたしに言いたい事があるのか?」
「実は・・」
ハーマイオニーが、山南にハリーが連れて行かれた事をスネイプに話すと、彼は厨から飛び出した。
「一体、何を言っているのですか、山南さん?」
「ほんの少しだけでいいのです・・」
山南が脇差を手に、ハリーへと少しずつ迫って来てこようとした時、スネイプが蔵に入って来た。
「エクスペリアームズ!」
スネイプはそう叫んで山南に杖を向けると、彼の手から脇差が飛んでいった。
「ポッター、大丈夫か?」
「は、はい・・」
「どうした、一体何があったんだ!?」
歳三が蔵に入ると、そこにはスネイプの武装解除呪文を受けて失神している山南の姿があった。
「この人、僕を襲おうとした!」
「それは、確かなのか?」
「はい。」
「そうか。ハリー、スネイプ殿はここから出て行ってくれ。後は俺に任せろ。」
「わかりました。」
「怪我は無いか、ポッター?」
「はい・・」
「一体、何があった?」
ハリーは、スネイプに山南と話した事を伝えた。
「そうか。心配するな、ポッター。あの男からは我輩が守ってやる。」
「はい・・」
それから数日経った。
大広間に山南の姿はなかった。
「暑いなぁ。」
「ジャパンの夏がこんなに暑いなんて思わなかったよ。」
ハリー達が新選組に保護されてから、数ヶ月が経った。
今日の茹だるような暑さに、ハリー達はへとへとになっていた。
団扇で顔を扇ぎながら汗を掻いているハリー達の隣で、スネイプは涼しい顔をしていた。
「どうして先生は、そんなに涼しそうな顔をしているんですか?」
「脇の下を紐で締めているだけだ。」
「え、そんなので、汗を掻かなくなるんですか?」
「試してみるといい。」
「はい・・」
ハリーは、道場での稽古の後、蔵へと入ってゆく山南の姿を見かけた。
彼は、少しやつれていた。
「おいハリー、そんな所で何をしているんだ、行くぞ!」
「わかった、すぐ行く!」
(何だか、嫌な予感がするな・・)
その日の夜、一人の芸妓が殺された。
彼女は、全身の血を何者かに吸われ、その肌は老婆のようにしわがれていた。
「厄介な事になっちまったな・・」
「ああ・・」
「これからどうなるんだ?」
「さぁな。」
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大事なものは目蓋の裏 1

2024年05月19日 | ツイステ×薄桜鬼クロスオーバー腐向けパラレル二次創作小説「大事なものは目蓋の裏」
「薄桜鬼」「ツイステッドワンダーランド」二次小説です。

制作会社様とは一切関係ありません。

BL・二次創作が苦手な方はご注意ください。

リドルとアズールが純血の鬼設定です、捏造設定ありですので、苦手な方はご注意ください。

「ねぇアズール、ひとつ聞きたい事があるんだけれど・・」
「何ですか、フロイド?」
「俺達、何処に居んの?」
「それはこっちが聞きたいですよ~!」
アズール=アーシェングロットとその幼馴染であるジェイドとフロイド=リーチ兄弟は、見知らぬ場所を先程から全速力で駆けていた。
事の始まりは、ナイト=レイヴン=カレッジ内にある鏡舎で三人が取引先へと向かおうとした所、何かのトラブルが発生し、気づけば見知らぬ場所に居たのだった。
「ここ、金魚ちゃんの実家でもねぇし、学校でもねぇじゃん!」
「確かに、妙な建物がありますね。それに、先程から僕達を追い掛けている方達は、一体どなたなのでしょう?」
「そんなの知るか!」
「待て小僧~!」
「逃がすか~!」
三人を執拗に追い掛けていたのは、偶々彼らと目が合っただけの、変な身なりをした男達だった。
「これでは埒が明きませんよ、お前達、何とかなさい!」
「え~、無理言うなよ!」
「全く、しょうがないですね。」
アズールの言葉を聞いた双子は寮服の胸ポケットからマジカルペンを取り出し、男達に向かって攻撃魔法を繰り出したが、何も出なかった。
「え?」
「は?」
「こうなったら、仕方ありませんね・・」
ジェイドはマジカルペンを握り締めたまま、男達の内一人に回し蹴りを喰らわせ、もう一人の側頭部をマジカルペンで殴りつけた。
「暴力・・やはり暴力で全ては解決出来ます。」
「ジェイド、すげ~」
フロイドがそう言って笑っていると、突然三人の前に白髪の化物が現れた。
「ジェイド、フロイド、やっておしまいなさい!」
「了解~!」
フロイドは口端を上げて笑うと、化物の頭を潰した。
「何こいつ、チョ~弱ぇじゃん。」
「フロイド、余所見してはいけませんよ!」
「わかっているってぇ~」
ジェイドとフロイドが化物を倒していると、向こうから揃いの服を着た男達がやって来た。
「あれぇ、君達、何をしているの~?」
「ゲッ、何かやばそうな奴が来た。」
「少し厄介な事になりそうですね。」
「どうしました、二人共?」
ジェイド、フロイド、アズールが一斉に背後を振り向くと、そこには癖のある茶色の髪を揺らしながら、翡翠の瞳で自分達を睨みつけている男の姿があった。
「へぇ、君達が“あれ”を倒したんだぁ。」
「あの、申し訳ありませんが退いて頂けないでしょうか?僕達は先を急いでいるので・・」
「はいそうですかと、僕が逃がすと思う?」
男はそう言うと、白刃を煌めかせた。
「ふぅん、アズール、こいつ絞めていい?」
「お待ちなさいフロイド!何か考えないと・・」
拳を鳴らすフロイドを制したアズールは、あの化物が自分に向かって来ている事に気づいた。
「アズール、危ない!」
慌てたフロイドがアズールに駆け寄ろうとしたが、化物はアズールの眼前に迫っていた。
だがその化物の爪がアズールに届く前に、一人の青年が化物を一撃で斬り伏せた。
「あ~あ、僕が倒そうと思ったのに。はじめ君、仕事早いね。」
「俺はやるべき事をやっただけだ。それよりも総司、こいつらは・・」
「さぁ・・でも、“あれ”を見ちゃったから、見逃す訳にはいかないなぁ。」
「彼らの処遇を決めるのは俺達ではない。」
アズールがフロイドの元へと向かおうとしていると、冷たいものが首筋に押し当てられる感触がした。
「逃げるな、背を向ければ斬る。」
アズールが振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
月光に照らされた、美しい黒髪に紫の瞳、雪のような白い肌を持った彼は、まるで―
「アズール、何をしているんです?」
「ジェイド、フロイド、この方達に従いましょう。このままここで揉めても埒が明きません。」
「えぇ~、こいつら絞めたかったのに。」
「フロイド、アズールの言う通りにしましょう。」
「つまんねぇの。」
フロイドはそう言って舌打ちして不貞腐れたが、赤髪の恋人の姿を見るとすぐに笑顔になった。
「あ~、金魚ちゃんだぁ!」
「フロイド、どうして君がここに?」
「僕達も居るんですがね、リドルさん。」
「ジェイド、それにアズールまで・・一体、何で・・」
「それはこちらの台詞です。さぁリドルさん、行きましょうか。」
妙な所でアズール達と会ったリドル=ローズハートは、アズール達と共に浅葱色の服を着た男達とその場を後にした。
「トシ、その子達は?」
「今から話す。」
アズール達が黒髪の男に連れられた所には、数人の男達が座っていた。
「土方君、話をする前に、まず自己紹介をしないといけませんね。」
「そうだな。俺は新選組副長・土方歳三。俺の右隣に居るのが局長の近藤勇、近藤さんの隣に居るのが総長の山南敬助だ。みんなは、山南さんと呼んでいる。」
「皆さん、宜しくお願いしますね。」

こうして、アズール達は新選組で暮らす事になった。

―リドル、“あの事”はお友達には知られていないのね?
―はい、お母様。
―そう、なら良かった。リドル、あなたはもっと自分の魔力を管理しないといけないわ。
―はい、お母様・・

また、あの夢を見ていた。

リドルがオーバーブロットし、ウィンターホリデーに実家に帰省した際、母と交わした会話。

―あなたは、・・なのよ。”それ“を自覚して頂戴。

母が決めたルールは守らなければ。
そうしなければ。

「うっ」
リドルは急に胸の上が鉛のように重くなり、思わず呻いた。
ふと目線を上に向けて見ると、そこには自分に覆い被さっているフロイドの姿があった。
身長191センチの彼に覆い被さられ、リドルは必死に藻掻いてフロイドから逃れようとしたが、彼の身体はビクともしなかった。
「ウギィ~!」
「うるせぇな・・あ、金魚ちゃん?」
「首をはねてやる!」
リドルの怒声で、新選組屯所が揺れた。
「皆さん昨夜は良く眠れましたか・・フロイドさん、どうなったのですか、その顔は?」
「おやおやフロイド、その様子だとまたリドルさんにちょっかいを出しましたね?」
ジェイドはそう言うと、フロイドの顔に残る赤い手形を見た。
「リドルさんはどちらへ?」
「彼なら土方君の所です。」
「へぇ~・・」
「フロイド、顔が怖いですよ。」
大広間でアズール達が朝食を食べている頃、リドルは副長室に呼ばれていた。
「そうか。つまりお前達は、ここではない世界に居て、ここへ来てしまったと・・」
「はい。僕達が居た世界は、魔法が使えたのですが、この世界は魔法が使えないのです。」
「そうか・・まぁ、これからお前達の処遇を考えなきゃなんねぇが・・」
土方はそう言うと、眉間に皺を寄せた。
「あのデカい図体の奴らをどうするのかが問題だな。」
「ジェイドとフロイドの事は、アズールに任せておけば大丈夫だと思います。」
「アズールっていうのは、あの眼鏡の奴か?あの二人とどんな関係なんだ?」
「アズールとジェイド達は、幼馴染なんです。」
「朝飯の前に呼び出して悪かったな、もう行ってもいいぞ。」
「はい、では失礼します。」
リドルが副長室から出て大広間に入ると、フロイドが彼に抱きついて来た。
「金魚ちゃん、サメ方と何話していたの?」
「サメ方?」
「土方君の事ですよ。何でも、フロイドさん土方君の事が怖いみたいで・・」
「だってあの人、苦手なんだもん。海の中に居た頃、天敵と出くわした事を思い出しちゃってさぁ・・」
「海の中、とは?」
山南がフロイドの言葉を聞いて戸惑った顔をしていると、そこへ帳簿を持ったアズールが入って来た。
「フロイド、またリドルさんにちょっかいをかけているのですか?」
「アズール、それ何?」
「新選組の帳簿です。先程朝食の準備をしていたら、少し気になる事がありまして・・」
「気になる事?」
「食材が余っているというのに、その半分が腐っています。それで、食材をどう仕入れているのか気になりましてね。」
「アズール、相変わらずだね~」
フロイドはそう言って笑いながら、道場へと向かった。
「あ、やっと来た。」
そう言ってフロイドを迎えたのは、新選組一番隊組長・沖田総司だった。
出会った時から、フロイドと沖田はウマが合わないらしく、互いの目が合えば、「何、斬られたいの?」と沖田が言えば、「あ、絞められてぇの?」と、フロイドが返す始末だ。
「絞めてやるから、覚悟しろよ!」
「へぇ・・」
木刀で激しく打ち合う音が道場から聞こえ、ジェイドは洗濯物を干す手を止めた。
「どうしたんだ、ジェイド?」
「いえ・・まだフロイドと沖田さんがやり合っているなと思いまして・・」
「同じ顔をしていても、性格は全く違うんだなぁ~」
「ええ。」
ジェイドが藤堂平助とそんな事を話していると、道場の方からリドルの怒鳴り声が聞こえて来た。
「おやおや、何かあったのでしょうか?」
「行ってみようぜ!」
ジェイドと平助が道場へと向かうと、そこには顔を真っ赤にしてフロイドに怒鳴るリドルの姿があった。
「何で、僕だけが女物の着物なんだ!?」
「だって、仕方無いじゃん、金魚ちゃんは小さいんだから。」
「ウギィ~!」
「そんなに怒らなくていいじゃん~」
フロイドはそう言って唇を尖らせると、ジェイドはそれを見て溜息を吐いた。
「一体、何の騒ぎです?」
「ジェイドさん、いい所に。実は、リドルさんの着物を副長が選んで下さったのですが、どれも女物でして・・」
新選組三番隊組長・斎藤一が状況をジェイドに説明すると、ジェイドは噴き出した。
「何だ、そんな事でしたか。」
「ウギィィ、みんなまとめて首をはねてやる!」
「金魚ちゃん、落ち着いて・・」
「おい、一体何の騒ぎだ?」
「副長・・」
「おや土方さん、いい所に。」
沖田がフロイドに殴りかかろうとしているリドルを押さえていると、そこへ土方がやって来た。
「土方さん、リドルさんはあなたが選んだ着物が気に入っていないみたいなのです。」
「そうか・・リドルには色々見繕っていたんだが、男物には似合う物がなくてな・・済まなかった。」
「いいえ、事情を知らずに怒ってしまって、申し訳ありませんでした。」
リドルはそう言って土方に頭を下げると、道場から去っていった。
それから数日後、アズールは渋面を浮かべながら副長室へと入った。
「失礼致します、副長。実は、外出許可を頂きたいのです。」
「外出許可?理由は?」
「実は、ジェイドが一週間分の食糧を食い尽くしてしまって・・このままでは、僕達飢え死にしてしまいます。」
アズールは溜息を吐いて紫の着物の袖口で口元を覆った。
「わかった、許可しよう。」
「ありがとうございます。」
アズールはジェイドとフロイドを連れ、ジェイドが食べ尽くした一週間分の食糧を買いに、初めて京の町へと出た。
「何もかも僕達が住んでいる世界と違いますね。」
「えぇ。」
「ね~、これ重てぇんだけど~」
「フロイド、文句言わないで運びなさい。」
京の町は、アズール達にとって別世界そのものだった。
「な~、もう帰らねぇ?」
「そうですね。ですがその前に、昼食を済ませましょうか?そこに丁度いい店がありますし。」
「賛成~!」
「そうしましょう。」
アズール達は、買い物帰りに小料理屋で昼食を取る事にした。
「ジェイド、それ何杯目なの?」
「十杯目です。このおうどん、きのこが沢山入っていて美味しいです。」
そう言いながらうどんを啜るジェイドを、アズールとフロイドは呆れ顔で見ていた。
「アズール、見て下さい!きのこ雑炊にきのこの炊き込みご飯・・これは、頼むしかありませんね!」
「いい加減になさい、これ以上食べてどうするつもりですか!?」
「ねぇジェイド、俺帰りてぇんだけど・・」
「アズール、お店のご主人にきのこ雑炊のレシピを聞いて来ます!」
「もう帰るぞ!」
店に居座ろうとするジェイドをアズールとフロイドが二人がかりで店から引き摺り出した。
「あぁ、もっと食べたかったのに・・」
ジェイドは嘘泣きしながらアズールとフロイドを見て、彼らと共に屯所へと戻った。
「お帰り、遅かったね。」
「ええ、ジェイドが色々と寄り道をしていたので、帰りが遅くなりました。」
「そう。で、そのジェイド君は?」
「アズール、フロイド、お待たせしました!」
「ジェイド、お帰りなさい・・」
「うわ、土臭ぇ!」
「ただいま戻りました。」
そう言いながら満面の笑みを浮かべたジェイドは、背負子に大量のきのこが載った籠を積んでいた。
「お前、それは何ですか?」
「きのこです。小料理屋の店主から余ったきのこを頂きました。」
「それだけ貰ったんだ、こんな量を食べきれると思っているのか!?」
「僕が全部食べるからいいでしょう?」
「いい訳ないだろうが!」
アズールの怒声が、屯所に響いた。
「うわぁ、すげぇ量のきのこだな!」
厨に入って来た平助は、大量のきのこを見てそう叫んだ。
「今日はきのこの炊き込みご飯にしようと思います。」
「え~、俺いらない!」
「フロイドがそんな事を言うなんて、悲しいです、しくしく・・」
ジェイドは嘘泣きをしながらきのこの炊き込みご飯を作った。
「お、今日は美味そうなきのこの炊き込みご飯だなぁ・・」
「僕が作ったのですが、お口に合うかどうか・・」
「いやぁ、美味い!」
近藤の言葉を聞いたジェイドは、頬を赤らめた後俯いた。
「アズール君、リドルちゃん、土方さんが呼んでいるよ。」
「わかりました、すぐ行きます。」
夕食の後、アズールとリドルが副長室に入ると、土方は渋面を浮かべていた。
「失礼します。」
「お前達か・・」
土方の口から、アズールとリドルは信じられない言葉を聞いた。
「僕達が、島原に潜入ですか!?」
「あぁ。」
「お言葉ですが、何故僕達が島原に潜入―しかも女装して潜入しなければならないのでしょう?」
「うちは男所帯で、しかもガタイが良い奴ばかりだ。」
「・・それで、僕達に白羽の矢が立ったと・・」
「まぁ、そういう事だ。」
「わかりました、引き受けましょう。但し、後で“対価”を頂きますよ・・と言っても、もう頂いていますけれど。」
「は?」
アズールは口端を上げて笑うと、土方にある物を見せた。
それは、“豊玉発句集”だった。
「沖田さんに見せて頂きましたが、とても素敵な趣味をお持ちですね。」
「返せ・・」
「潜入捜査が終わり次第、お返ししますよ。」
そう言ったアズールは、何処か嬉しそうな顔をしていた。
こうして、リドルとアズールは島原に芸妓として潜入する事になった。
芸妓として完璧に“化ける”為、リドルとアズールは短期間で舞や琴・三味線などをマスターした。
「わたしの酒が飲めんのか?」
「こんな安酒如きで僕の心を買おうなんて片腹痛いですよ、僕に袖にされたくなければ高い酒を頼みなさい!」
「この程度で僕を満足させようだなんて、良い度胸がおありだね?」
島原に土方が来ると、置屋の女将が彼を出迎えた。
「二人の様子はどうだ?」
「それが、贔屓のお客様が増えてしもうて、二人共忙しそうに働いていますえ。」
「そうか。」
土方が女将とそんな事を話していると、奥の座敷の方から誰かが言い争うような声がした。
「離して下さい!」
「良いではないか。」
座敷へと土方が向かうと、そこには金髪紅眼の男と争っているアズールの姿があった。
「お前ぇ、何者だ!?」
「この者を、我妻として貰い受ける。邪魔をするなら斬り伏せる。」
「悪いが、そいつをてめぇに渡す訳にはいかねぇなぁ。」
「ほぉ・・」
土方と金髪の男が火花を散らしていると、そこへ一人の大男がやって来た。
「風間、こんな所に居たのですか、帰りますよ。」
「やめろ、離せ!」
「ご迷惑をかけて申し訳ありません。」
大男はそう言って土方とアズールに一礼した後、金髪の男を座敷から引き摺り出していった。
「怪我はねぇか?」
「はい。」
潜入捜査を終えたリドルとアズールは、副長室に呼ばれた。
「句集は返しますよ。」
「ありがとう。それとアズール、お前に絡んで来た金髪の男とは全く面識がないのか?」
「はい、あの方とは初対面です。」
「そうか。島原では、倒幕派の浪士達の動きに目立ったものはなかったな。」
「そうですね。ですが、おかしな噂を聞いたことがあります。」
「おかしな噂?」
「ええ。何でも、不老不死の“妙薬”を売り捌いている者が居るとか・・」
「不老不死の“妙薬”ねぇ・・」
土方はアズールの言葉を受け、渋面を浮かべた。
「心当たりがあるのですか?」
「あぁ。ちょっとついて来い。」
土方に二人が連れられたのは、山南の部屋だった。
「山南さん、ちょっといいか?」
「ええ。どうぞお入りください。」
「失礼致します。」

アズールとリドルが山南の部屋に入ると、そこには謎の液体が入っているフラスコが置かれていた。
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天使の唄 1

2024年05月19日 | ハリー・ポッター腐向け転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説「天使の唄」
ハリー・ポッターシリーズの腐向け二次創作小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

―ハリー、あなただけは生きて・・
母と瓜二つの顔をした女性は、そう言うと赤ん坊のハリーを抱き締めた。
“退け、女!”
“お願い、ハリーだけは、ハリーだけは!”
“アバダ・ケダブラ!”
緑の閃光が走った。
「ハリー、起きなさい!」
「おはよう、母さん。」
「ご飯、出来ているわよ。」
ハリーが眼鏡を掛けて自分の部屋から出てダイニングへと向かうと、そこには何処か険しい表情を浮かべたジェームズの姿があった。
「どうしたの、父さん?」
「また、ドーピング疑惑で15歳の選手が・・」
「またなの。」
「この選手を僕は良く知っているよ。ドーピングなんかする子じゃないのに・・」
「ジェームズ、落ち着いて。」
「済まない、リリー。」
「ハリー、今日は大切な日だから、精をつけてね。」
リリーがそう言ってハリーの前に置いたのは、彼の大好物の糖蜜パイだった。
「緊張するな、ハリー。いつも練習でしていた事をすればいい。」
「わかったよ。」
「それにしても、あのスニベルスがよりにもよって・・」
「セブルスよ、ジェームズ。」
「わかった・・」
ハリーは、両親に話していない事があった。
それは、自分に前世の記憶がある事。
リリーとジェームズを赤ん坊の時に亡くし、リリーの姉・ペチュニアの元で虐げられて育ってきた。
しかし、11歳の誕生日を迎えたハリーは、その時自分が魔法使いである事を知ったのだった。
「忘れ物はないか、ハリー?」
「うん。」
ジェームズが運転する車で、ハリーはスケートリンクへと向かった。
「ハリー、久しぶりだな!」
「シリウス!」
「少し会わない内に、大きくなったな、え?」
ジェームズの親友・シリウスは、そう言うとハリーを抱き締めた。
「そんなに変わっていないよ~!」
「はは、そうか。」
「ブラック、ここへは遊びに来たのかね?」
「スニベルス・・」
シリウスは、そう言うと苦虫を噛み潰したかのような顔をした。
「セブ、久し振りね!」
「リリー。」
ハリーのコーチ、セブルス=スネイプは、そう言うと幼馴染のリリーに微笑んだ。
「スニベルス、リリーは僕の妻なんだからな!」
「ジェームズ、黙って。」
リリーはそう言うと、ジェームズを睨んだ。
「ハリー、こちらへ。」
「はい、先生。」
ハリーはセブルスと共に、選手が集まる更衣室へと向かった。
「昨夜はよく眠れたか?」
「はい。」
「余り神経質になるな。」
「わかりました。」
この日、ハリー=ポッターにとって初めて臨むジュニアフィギュアスケート大会初日だった。
「行って来ます!」
元フィギュアスケート男子シングル世界王者、ジェームズ=ポッターの一人息子・ハリーが世界中に注目されるようになったのは、彼が11歳の時に撮影された動画だった。
その動画を撮影した親バカ全開のジェームズが、その動画を動画配信サイトにアップした所、あの難易度が高いジャンプを11歳のハリーが跳んでいる姿を観た者達からは、“流石キングの息子”、“将来が楽しみ”と称賛の声が上がった。
動画はすぐにリリーによって削除されたが、それは数々のサイトに転載され、大いにバズった。
「あなた、何て事をしてくれたのよ!」
「いやぁ~、流石僕の息子だなぁ~、ジャンプの着氷がいい!」
「ジェームズ!」
まだノービスクラスに居たハリーは、その動画で瞬く間に有名人となった。
有名人の子供として生まれてしまったが故に、ハリーは同級生から嫉妬などを受け、少しスケートが嫌いになりかけていた。
そんな時、ポッター家に一人の男が訪ねて来た。
その名は、セブルス=スネイプ。
ジェームズと共に世界で活躍していた元フィギュアスケーターで、現在は銀盤の世界で、“鬼コーチ”としてその名を轟かせていた。
「スニベルス、何の用だい?」
「セブ、久し振りね。」
「リリー、元気そうで良かった。実は、ここへ来たのは君の息子の、ハリーの事で話があるんだ。」
「ハリーの事で?」
「スニベルス、一体何を・・」
「ハリーを、我輩に預からせて頂きたい。」
「はぁ!?何言ってんだ・・」
「セブ、わたし達にもわかるように話してくれない?」
「ハリーの、あの動画を観た。」
スネイプは、そう言うとジェームズの方に向き直った。
「ハリーは、誰かの弟子なのか?」
「あぁ、コーチの事?実は僕がやろうと・・」
「ハリーのコーチは、我輩がやる。」
「な、なんだってぇ~!」
「お前のようなテキトーな人間に、ハリーにフィギュアスケートの何たるかを教えられる訳がなかろう。」
「ただいま~!」
「ハリー、お帰りなさい。」
「母さん、この人が僕のコーチになる人?」
「そうよ。ハリー、ご挨拶なさい。こちらが、今日からあなたのコーチになる、セブルス=スネイプさんよ。」
「初めまして、ハリー=ポッターと申します。」
(憎い父親に似ているが、目はリリーの美しい緑色の瞳だ。)
「よろしく頼む。」
これが、セブルス=スネイプとハリー=ポッターの、運命の出会いだった。
「リリー、本気なのか?」
「ええ。わたしは、ハリーを信じているわ。あの子には、才能がある。わたしとあなたとは違う才能が。」
「君がそう言うのなら、僕は何も言わないよ。」
「ジェームズ、セブの事を苛めないでね?」
「わ、わかっているよ!」
「そう・・」
スネイプの元で、ハリーはスケートの才能を開花させていった。
そして、彼は“この日”を迎えた。
最終滑走のハリーは、緊張しながらその時を待っていた。
「ハリー、わたしと今までしてきた事を思い出せ。」
「はい、先生・・」

その大会で、ハリーは優勝した。
しかし、その前に彼は転倒し、額に稲妻型の傷が残った。

それは、大会前の六分間練習の時に起こった。
ハリーは、リンクで演技の最終確認をしていたが、その時一人の選手とぶつかった。
「ハリー!」
転倒した衝撃で、ハリーは気を失った。
「脳に異常はありません。」
「そうか。」
「棄権させた方がいいかもしれない。」
「それは、我輩達が決める事ではない。」
「セブルス、何を・・」
病院の処置室前でスネイプはそう言うと、ハリーがそこから出て来るのを待った。
「ハリー、もう大丈夫なの!?」
「うん。」
頭に包帯を巻いたその姿は痛々しかったが、ハリーの緑の瞳は闘志に燃えていた。
「ハリー、棄権するか?」
「嫌です。」
「そうか、わかった。」
「セブ、ハリーの事をお願いね。」
「わかった。」
その後、病院から試合会場へと戻ったハリーは、圧倒的な演技で世界中をわかせ、優勝した。
「良くやった、ハリー!流石パパの子だ!」
「やめてよ、父さん。恥ずかしいよ。」
「帰ったら、祝勝パーティーをしよう!」
「ハリーは疲れているから、休ませてあげないと。」
「うん、そうだね。」
「スネイプ先生、さようなら。」
「さようなら、ハリー。」
会場から遠ざかってゆくポッター家の車が見えなくなるまで、スネイプはその場に佇んでいた。
「あ~、僕の可愛いハリーに、傷が!」
「名誉の負傷よ。それよりもジェームズ、あなたはいつまで経ってもセブの事を目の敵にしているわね?」
「そ、そんな事はないよ!」
「目が泳いでいるわよ。」
「そ、そうかな?」
「言っておくけれど、セブに何かしたら・・あなたを一生許さないわ。」
「リリー!」
大会から一週間が経った後、ハリーがいつものようにスケートリンクに併設されているバレエスタジオでクラシックバレエのレッスンを受けていると、そこへジェームズ、シリウスの親友、リーマス=ルーピンがやって来た。
彼は白髪交じりの明るい茶色の髪を揺らしながら、ハリーの隣に立って柔軟体操を始めた。
「やぁハリー、元気そうだね?」
「ルーピン先生、お久しぶりです。」
「“先生”はよしてくれ。」
「すいません、つい“昔の癖”で・・」
「そうか。」
“昔”狼人間に噛まれた傷痕は、彼の顔にはない。
「さっき、セブルスと会ったよ。彼は、君の事を捜しているようだったよ。」
「そうですか。じゃぁ、僕はこれで失礼します!」
ハリーは慌てて荷物を纏めると、バレエスタジオを後にした。
「全く、君は“昔”のままだね、ハリー。」
遠ざかってゆくハリーの背中を見つめながら、ルーピンはそう呟くと笑った。
「すいません、遅れました!」
「遅いぞ、ポッター。」
息を切らしながらハリーがスケートリンク内の会議室に駆け込むと、そこには渋面を浮かべ、腕を組み仁王立ちをしているスネイプの姿があった。
「座れ。」
「は、はい・・」
「ポッター、これが何だかわかるかね?」
「はい・・」
今自分の前に置かれているのは、ハリーの成績表だった。
「何故我輩が君をここへ呼んだのか、わかるか?」
「わかりません・・」
「数学の成績が下がっているな。」
「それは、練習が忙しくて・・」
「言い訳をするな。」
スネイプはそう言うと、ハリーを睨んだ。
「いいか、これから君は練習や大会が忙しいからといって勉強を疎かにしてはならない。なので、これから君の勉強は、我輩が見る。」
「え・・」
「何か、不満でも?」
「いいえ・・」
こうして、ハリーはスネイプに勉強を教えて貰うようになった。
スネイプの教え方は正確で、ハリーは苦手だった数学が徐々に理解できるようになっていった。
「ただいま。」
「ハリー、お帰り。スニベルスから、何か言われたのか?」
「ジェームズ!」
帰宅したハリーが浮かない顔をしていたので、ジェームズが心配して彼にそう尋ねると、リリーに睨まれてしまった。
「今日、数学のテストがあったんだ。僕、クラスで一番だった。」
「すごいじゃないか、ハリー!」
「でも、マルフォイが・・」
「マルフォイ?あぁ、お前にあいつが何を言ったのかは、簡単に想像できる。そんな奴は、無視が一番だ。」
「うん・・」
「さぁハリー、そんな顔をしないでパパにハグしてくれ!」
「二人共、ハグが終わったら手を洗って。」
リリーは少し呆れたような顔をしながら、ハグを迫るジェームズと、彼から逃げようとするハリーを見た。
「ハリー、おはよう。」
「おはよう、ハーマイオニー。」
「昨日の数学のテスト、全問正解だったわね!」
「優秀な先生が勉強を教えてくれたから、前より良くなったかな。」
「へぇ、どんな先生なの?」
「僕の父さんの同窓生で、セブルス=スネイプって人。」
「スネイプって、あのスネイプ!?」
「ハーマイオニー、君まさか・・」
「わたしも、あなたと同じなの。ロンも、彼の家族もよ。」
「そうなんだ。」
初めてロンとハーマイオニーと会った時、ハリーは漸く彼らと再会出来て嬉しかった。
だが、人生とは楽しいものではない。
「また、“穢れた血”とつるんでいるのか、ポッター?」
「黙れ、マルフォイ。」
「行きましょう、ハリー。こんな人と話すだけ時間の無駄よ。」
“昔”―前世では色々と因縁があったドラコ=マルフォイとも再会を果たしたハリーだったが、彼の性格は今でも変わらないらしい。
「ハリー、今日新しい先生が来るんだって!」
「へぇ、そうなんだ。」
そんな事をハリー達が教室で話していると、スネイプが教室に入って来た。
「おはよう、我輩がこのクラスの担任を務める事になった、セブルス=スネイプだ。」

(え、えぇ~!)
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天使の唄 設定

2024年05月19日 | ハリー・ポッター腐向け転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説「天使の唄」
ハリー・ポッターシリーズの腐向け二次創作小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

ハリー=ポッター 記憶有り

前世は、“魔法界の英雄”だった。
父親がフギュアスケーターだったという事もあり、11歳でスケートの才能を開花させる。
コーチのスネイプとは、良好な関係を築いている。

セブルス=スネイプ 記憶無し

ハリーのコーチ。
かつてはハリーの父・ジェームズと共に世界で活躍していたフィギュアスケーターだったが、引退。
何かと自分に絡んで来るポッター父子に手を焼いている。

シリウス=ブラック 記憶有り

ジェームズの親友。
ハリーの名付け親で後見人でもある。
スネイプとは犬猿の仲。

リーマス=ルーピン 記憶有り

ジェームズ、シリウスの親友。
ハリー達の良き相談相手。

ジェームズ=ポッター 記憶有り

元フィギュアスケーター。
スネイプとは反りが合わない。

リリー=ポッター 記憶有り

ハリーの母。
スネイプとは幼馴染。

アルバス=ダンブルドア 記憶有り

ホグワーツ校長。
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鈴蘭が咲く丘で 第1話

2024年05月15日 | 薄桜鬼 ヒストリカルファンタジーパラレル二次創作小説「鈴蘭が咲く丘で」
「薄桜鬼」の二次創作小説です。

制作会社様とは関係ありません。

二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。

「ねぇ、こんな所に本当に居るの?」
「だから、確かめに行くんじゃない!」
スマートフォンと小型カメラをそれぞれ片手に持ちながら、グレースとアリシアはロンドン郊外にある廃墟へと向かった。
そこはかつて貴族のお屋敷だったとも、精神病院だったとも言われている、“いわくつき”の廃墟だ。
廃墟探索ユーチューバーとしてそこそこ人気がある二人は、その廃墟へ向かった。
そこには蔦が絡んで、いかにも廃墟といった寂れた雰囲気を醸し出していた。
「うわぁ、“何だか出そう”ね。」
「もう、やめてよ。」
そんな事を言いながら二人が廃墟の中へと入っていくと、奥の方から物音がした。
「ねぇ、何か音がしなかった?」
「気の所為じゃない?」
二人が物音のする奥の方へと向かうと、そこは子供部屋だったようで、朽ちた乳母車が転がっていた。
「さっきの音は、この音だったのね。」
「なぁんだ、びっくりしたぁ。」
二人がそう言って笑いながら他の部屋を探索していると、再び何処からか物音がした。
「さっきより寒くなって来たわね。」
「そうね、もう帰ろう。」
二人が子供部屋全体をカメラとスマートフォンで撮影した後、彼女達は“何か”が自分達に近づいて来ている事に気づいた。
「早く帰ろう・・」
「うん・・」
二人がドアを開けて外から出て行こうとした時、彼女達の前に謎の黒い影が現れた。
「きゃぁぁ~!」
「いや~!」
彼女達の消息は、そこで途絶えた。
この動画がユーチューブにアップされた数日後、グレースとアリシアの遺体が子供部屋で発見された。
彼女達の死因は、失血死だった。
何故、彼女達が殺害されたのかは、事件発生から6年経っても解明されていない。
廃墟は維持費の問題で取り壊す事が決まったのだが、工事の度に怪我人や死人が続出し、工事を請け負っていた建設会社が倒産し、更に工事を推し進めていた自治体が経営破綻し、住民達は寂れた町を捨て、かつて“鉄の町”として栄えた町は、廃墟と化した。
「もう、すっかり変わっちまったな。」
朽ち果てた町を車窓から眺めながら、男は溜息を吐いた。
高台の上に建っている廃墟と化した屋敷は、かつては色とりどりの美しい薔薇が咲き誇った中庭があり、いつも笑顔と笑い声が絶えない屋敷だった。
そっと中庭へと入った男は、そこで美しい鈴蘭が一輪、咲いている事に気づいて、思わず笑みを浮かべた。
「まだ、残っていたのか・・」
男はそっと鈴蘭の花を一輪摘むと、屋敷の中へと入った。
150年以上経っているから、屋敷の中はかなり荒れ果てていた。
軋む階段を恐る恐る上がった男は、廊下の奥にある寝室の中へと入った。
そこには、かつて家族が共にこの屋敷で過ごした写真が壁に飾られていた。
男は、そっと寝台の近くにある引き出しを開け、一冊のノートを取り出した。
それは、屋敷の主人が遺した日記だった。
 ノートを開くと、そこには一組の夫婦の写真があった。
「会いに来たよ・・父さん、母さん。」
ノートに書かれた字を男がなぞると、朽ち果てた部屋がまるで魔法にかけられたかのようにかつての美しい姿へと戻った。
(ここは・・?)
「まぁ、そんな所に居たのね。もうすぐ夕飯の時間だから、下りてきなさい。」
寝室のドアが開き、レースのエプロンと黒いモスリンのワンピース姿のハウスメイドが中に入って来た。
男は、ハウスメイドの後について一階へ降り、ダイニングルームに入ろうとすると、彼女が慌てて止めた。
「あんたが入るのは、こっち!」
ハウスメイドに連れられて男が入ったのは、使用人専用のダイニングルームだった。
「今日は大した物がないね。」
「それは嫌味かい?こっちは朝からパーティーの準備で忙しいっていうのに。」
料理番・エイミーは、そう言って顔を顰めた。
「そんな顔をしないでおくれ。」
「あの、ここは何処なんですか?」
「あんた、若いのにもうボケちゃったのかい?ここはハノーヴァー伯爵様のお屋敷だよ!」
自分をこの場所へ連れて来たハウスメイド―レイチェルはそう言って大声で笑った。
「トシ、奥様がお呼びだよ!」
「はい・・」
レイチェルによると、自分はこのお屋敷で従僕見習いとして働いているという。
「遅かったわね。」
「申し訳ありません。」
二階の子供部屋へと男―トシが向かうと、そこには顰め面をしている女性が立っていた。
「まぁいいわ。これから、坊やのおむつを縫って頂戴。」
「はい、わかりました。」
「わたくしが居ない間、坊やをちゃんと見ておいてね。」
「はい・・」
(一体何がどうなっていやがる?)
そんな事を考えながら、トシはハノーヴァー伯爵家の嫡子・アーサーのおむつを縫っていた。
するとそこへ、一人の少年が子供部屋に入って来た。
「トシさぁ~ん!」
焦げ茶の、少し癖のある髪を揺らし、美しい翠の瞳を煌めかせたその少年は、トシに抱き着いた。
「誰だ、てめぇは?」
「トシさん、もしかして僕の事忘れたの?」
少年は、涙で翠の瞳を潤ませた。
(こいつ・・)
「まぁ八郎様、こちらにいらっしゃったのですね!さぁ、旦那様がお呼びですよ!」
「嫌だぁ~、トシさぁん!」
謎の少年は、レイチェルに首根っこを掴まれ、子供部屋から連れ出された。
「ごめんなさいねぇ、あの子が何か迷惑な事をしなかったかしら?」
少年とレイチェルと入れ違いに入って来た貴婦人は、そう言った後花が綻ぶかのような笑みを浮かべた。
「はい、これ。」
「あの、これは・・」
「お菓子よ。後でこっそりお食べなさい。」
「ありがとう、ございます・・」
「また、会いましょうね。」
彼女は、そっとトシの頭を撫でると、子供部屋から出て行った。
(素敵な人だったな・・)
その日の夜、トシは貴婦人から貰った焼き菓子の袋を開き、それを一つ食べた。
トシが菓子を頬張っていると、裏庭の方から大きな物音がした。
(何だ?)
トシが裏庭へと向かうと、そこにはこの屋敷でキッチンメイド見習いとして働いていたエリーの姿があった。
彼女の首には、刺し傷があった。
「どうした、坊主?」
「人が、死んでいるんです。」
「何だって!?」
庭師のジョーが警察を呼ぶと、ハノーヴァー伯爵邸は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
「エリー、どうしてこんな姿に!」
「トシ、犯人の姿を見たの?」
「いいえ。俺が駆け付けた時には・・」
「そう。疲れたでしょう、部屋へ行って休んでいなさい。」
「はい。」
トシが使用人専用の寝室へと向かおうとした時、彼は誰かが言い争っている声を聞いた。
「エリーを殺したのは、あなたなの!?」
「俺じゃない、信じてくれ!」
「あなたの事は、信じられないわ!」
声は、若い男女のものだった。
顔は見えなかったが、女の方は髪に青い蝶の髪留めをしていた。
(あいつら、誰だったんだ?)
そんな事を思いながら、トシは深い眠りの底へと落ちていった。
翌朝、トシが眠い目を擦り寝室から出ようとした時、窓に鮮やかな青い蝶の髪留めをした女が映ったので慌てて彼は彼女の後を追った。
(何処だ?)
トシが女の後を追っていると、急に彼は険しい崖が目の前に現れたので、慌てて立ち止まった。
屋敷へと戻ろうとする彼の背を追い掛けるかのように、不気味な女の笑い声が響いていた。
「トシ、あんたこんな朝早くに何処に行っていたんだい?」
「エイミーさん、実は・・」
トシは、エイミーに青い蝶の髪留めをした女の話をした。
「あぁ、その女は、“死神”さ!」
「“死神”?」
「あんたは、まだここに来て日が浅いから知らないんだね。」
エイミーによると、その昔この屋敷に住んでいた貴婦人が居て、彼女はいつも恋人からの贈り物であった青い蝶の髪留めをよくしていたという。
「彼女は、只管愛する男の帰りを待った・・裏切られている事にも気づかずにね。」
「それは、一体・・」
「彼女の恋人は、戦地で病に罹って、向こうに住む女と夫婦になったのさ。」
「それで?」
「あの女は、崖から飛び降りて死んじまった。でも夜な夜な崖まで男を誘き出して殺すようになったのさ。」
だから、青い蝶の髪留めをした女を見かけても、決して追い掛けてはいけないよーエイミーはそうトシに釘を刺すと厨房へと消えていった。
「トシ、奥様がお呼びだよ!」
「は、はい!」
トシは今日もアーサー坊ちゃまのおむつを縫い、奥様の愚痴を聞いた。
「トシ、はいこれ。」
奥様はそう言うと、トシに小遣いをくれた。
「これで好きな物でも買いなさい。」
「はい。」
トシはエイミーの夕飯の買い出しに付き合うついでに、初めてお屋敷の外から出た。
町は、活気に溢れていた。
「あたしはパン屋に行くから、あんたは本屋にでも行っておいで。」
「はい。」
トシはエイミーとパン屋の前で別れ、本屋へと向かった。
本屋は、少し町の外れにあった。
「いらっしゃい。」
店主は、眼鏡を掛けた優しそうな老人だった。
「あの、今日は・・」
「今日は、君が読みたい本が入って来たよ。」
「ありがとうございます。」
トシは、奥様から頂いた小遣いで本代を払った。
「気を付けて帰るんだよ。」
「はい。」
本屋から出たトシは、パン屋の前でエイミーと待ち合わせして、お屋敷へと戻った。
「今夜はゆっくり出来そうですね。」
「そうだね。夏の社交期はまだ先だし、暫くゆっくり出来そうだよ。」
エイミーがそう言いながらジャガイモの皮を包丁で剥いていると、レイチェルが何処か慌てた様子で厨房に入って来た。
「どうしたんだい、レイチェル?そんな顔をして?」
「うちの人が・・」
レイチェルの夫で町の教師だったトムが、海辺で遺体となって発見された。
「どうして、こんな・・」
「可哀想に・・」
トムの遺体の首には、エリート同じ刺し傷があった。
「魔物の仕業よ。」
「エイミーさん、あれは?」
トムの葬儀に参列していたトシが、突然葬儀の最中に意味不明な言葉を喚き散らしている老婆を見た。
「あぁ、あの人は海辺の家に住んでいるマリー婆さんさ。頭がちょっとね・・」
エイミーは、そう言うと己のこめかみを人差し指でさした。
「そうですか・・」
「エリーに続いてトムまで・・何で、良い人ばかり・・」
トシがレイチェルの自宅へと向かうと、そこには彼女の親族達が集まり食事の支度をしていた。
「レイチェル、何か食べないと。」
「何も食べたくないの。寝室で休んでいるわ。」
レイチェルはそう言うと、そのままダイニングルームから出て行った。
「トムさんは、どんな人だったんですか?」
「優しい人だったよ。子供達からも慕われていたよ。」
エイミーは、そう言いながら汚れた食器を洗った。
「トシは働き者だね。それに、手先が器用だし。」
「そうですか?」
「奥様が、何であんたに坊ちゃまの世話を任せたと思う?」
「俺が、子供だからですか?」
「あんたを信頼しているからだよ。」
「そうですか・・」
「まぁ、あんたはまだここへ来て日が浅いから、色々と教え甲斐がありそうだよ。」
「はぁ・・」
「そうだ、このお茶をダイニングに持って行っておくれ。」
「はい。」
トシが茶と茶菓子を載せたワゴンをダイニングルームへとひいていくと、中から女達の声が聞こえて来た。
「レイチェルも可哀想に。あの年で未亡人なんて・・」
「子供が居ないから、気楽で良いんじゃない?」
「まぁ、ね・・」
「それにしても、ねぇ・・ハノーヴァー伯爵家は呪われているのかしら?」
「きっと、あの髪留め女の呪いよ!」
「ねぇ、レイチェル戻って来るのが遅くない?」
「そうねぇ。」
「失礼致します、お茶とお茶菓子をお持ち致しました。」
「あら、可愛い子ね。」
「見ない顔ねぇ。坊や、お名前は?」
女性達はトシの顔を物珍しそうに見た後、彼を質問責めにした。
「ねぇ坊や、お茶とお茶菓子はわたし達が頂くから、レイチェルの様子を見て来てくれないかしら?」
「はい、わかりました。」
トシがレイチェルの寝室へと向かい、ドアをノックしようとすると、中からレイチェルの悲鳴が聞こえた。
「やめて、お願い・・」
「レイチェルさん!?」
トシが寝室の中に入ると、レイチェルはベッドの上に仰向けになって倒れていた。
「レイチェルさん・・」
彼女も、首を刺されて失血死していた。
「誰か、誰か来て下さい!」
「レイチェル!」
「誰か、お医者様を!」
奇妙な連続殺人事件は、結局犯人が見つからないまま事件の捜査は打ち切られた。
季節は夏を迎え、ロンドンは社交期を迎えた。
トシ達は奥様達と共に、ロンドンへと向かった。
初めて見るキング=クロス駅は、この前行った町よりも活気に溢れ、混沌としていた。
「さ、早くしな!」
「はい・・」
「モタモタするんじゃないよ、遅れちゃうよ!」
エイミーはトシの手をしっかり握ると、キング=クロス駅から出た。
「これ位で騒いでいたら、ロンドン暮らしは勤まらないよ!」
「わかりました。」
「まぁ、ロンドンでまた変な事件に遭わなきゃいいけど。」
辻馬車に揺られながら、エイミー達はハノーヴァー伯爵家のタウンハウスへと辿り着いたのは、昼前の事だった。
「みんな、奥様が今日はゆっくり休むようにってさ!」
「良かった!」
「移動距離が長かったからねぇ。」
「そうだねぇ。」
「俺、部屋に荷物置いてきますね。」

トシはそう言うと、使用人用の寝室に入って荷物を置いた後、そのままベッドの上で眠ってしまった。

気が付いたら、もう夜になっていた。
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