「黒執事」の二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
一部暴力・残酷描写有りです、苦手な方はご注意ください。
昔々、あるところに、美しい妖精達が住む国がありました。
その中で一番美しかったのは、その国を治める王族である、ミカエリス家の人々でした。
ミカエリス家に、珠のような美しい男児が産まれ、王国中は幸せに溢れました。
王子はセバスチャンと名付けられ、両親や一族の妖精達から海のように深い愛情を受けました。
しかし、幸せな時は長く続きませんでした。
妖精達にとって最大の敵―人間達が自分達の領土を広げようと、王国に攻めて来たのです。
この戦いで、国王夫妻と妖精族の多くが命を落としました。
生き残ったのは幼いセバスチャン王子と、彼の祖母だけでした。
「いいですか、セバスチャン。人に心を許してはなりません。」
「はい、お祖母様。」
セバスチャン王子は親代わりの祖母の言いつけを良く守り、美しく賢く成長してゆきました。
そして月日が流れ、セバスチャン王子は成人の日を迎えました。
「国王、万歳!」
セバスチャン王の戴冠式には、人間達も招待されました。
セバスチャン王は、そこで運命の出会いをします。
「初めまして、国王陛下。ヴィンセント=ファントムハイヴと申します。」
彼は、人間の王・ヴィンセントでした。
「陛下、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
その日、ファントムハイヴ家に二人の王子が誕生した。
「何て可愛らしいのでしょう。」
「将来が楽しみですわね。」
貴族達がベビーベッドで眠る双子の寝顔を覗き込んでいると、突然雷鳴が轟いた。
―何だ?
―さっきまで晴れていたのに・・
―不吉だな・・
貴族達がそんな事を囁いていると、漆黒の炎と共に一人の男が現れた。
「おやおや、これは賑やかなパーティーですね。」
そう言った男の暗赤色の瞳が双子の王子に向けられている事に気づいたヴィンセントが、男の前に立ちはだかった。
「セバスチャン・・」
「そんなに怯えないで下さい。わたしはこの子達に祝福を授けたいと思ってここへ来たのですよ。」
「祝福?」
「ええ。」
セバスチャンは、そっと自分を見つめるシエルの頭を撫でた。
「この子達は、16歳の誕生日を迎えた日に、永遠の眠りにつくでしょう。それまで、大事に育てなさい。」
「セバスチャン!」
ヴィンセントは、何とか王子達の呪いを解こうとしたが、呪いを解くことが出来なかった。
ヴィンセントは、呪いの糸を紡ぐという糸車を全て燃やし、シエルを城から少し離れた郊外の城へと移した。
「可哀想なシエル様・・」
「わたくし達が大切に育てないと・・」
シエルは、乳母達に育てられる事になったのだが、病弱な彼はよく熱を出して寝込んだ。
その時には何故か、シエルの枕元にはいつも解熱剤として使われるハーブを煎じた薬湯が置かれていた。
シエルは、物心が着く頃から、誰かに“見られている”ような視線を感じていた。
「シエル様、どうかされましたか?」
「いや、何でもない・・」
その日も、シエルは乳母達と共に森でハーブを摘んでいた。
その時、背後に視線を感じてシエルが振り向くと、そこには黒衣を纏った男が立っていた。
「お前は、誰だ?」
「それは、まだあなたが知らなくてもいい事です。」
男はそう言うと、漆黒の羽根を広げて去っていった。
「シエル様、こちらにいらっしゃったのですね!」
「暗くなる前に、お城に戻りませんと。」
「わかった・・」
シエルは城に戻る前、男が居た方を見ると、そこには誰も居なかった。
(あの男は、一体・・)
その日の夜、シエルが自室で眠っていると、そこへ魔物の手が伸びて来た。
その手がシエルの顔に少し届くという時に、その手は謎の炎に包まれ、魔物は悲鳴を上げながら森の中へと消えていった。
何処からか、優しい歌声が聞こえて来た。
“お休み、素敵な夢を。”
(この歌、何処かで聞いたことがあるような・・)
「シエル様、起きて下さい!」
「学校に遅れますよ!」
「行って来ます!」
乳母が焼いてくれたアップルパイを頬張りながらシエルが学校へと向かっていると、彼は一台の馬車に轢かれそうになった。
「気をつけろ、ガキ!」
「すいません・・」
馬車の御者から舌打ちされたシエルは、制服についた泥を払うと、校舎の中へと入っていった。
「ねぇ、あの子は誰?」
「若様?」
「僕と同じ顔をしていた・・」
生まれてすぐ、弟・シエルと引き離されたので、シエルは自分に双子の兄が居る事を知らずに育った。
そして、シエルの双子の兄・ジェイドも、己の魂の片割れを知らずに育った。
なのでジェイドは、己と瓜二つの顔をした少年の姿を見て、戸惑いを隠せなかった。
「若様が知らなくてもいい事です。」
「そうか・・」
ジェイドは、何処か言葉を濁したかのような従者の態度に少し苛立った。
「今日の授業はここまで。」
(ふぅ、終わった・・)
シエルは数学の教科書とノートを鞄の中にしまうと教室から出た。
廊下を歩いていると、向こうから自分と瓜二つの顔をした少年がやって来た。
「君は・・確か、隣町に住んでいる・・」
「僕の事を、知っているんですか?」
「うん。僕は、ジェイドっていうんだ、君は?」
「シエルといいます、ジェイドさん。」
「敬語はやめて、同い年なんだから。」
「わかった。じゃぁ、ジェイド、ひとつ質問してもいい?」
「うん、いいよ。」
「どうして、君と僕は同じ顔をしているの?」
「それは、わからないや!」
ジェイドはそう言うと、笑った。
それからシエルは、ジェイドと放課後に仲良く遊ぶようになった。
「ジェイド、あなた最近仲の良い友達が出来たと侍女達から聞いたわよ。」
「はい、お母様。学校で会ったんだ。その子、シエルって言うのだけれど、僕と同じ顔をしているんだ!初めて会った時、驚いたよ!」
ジェイドの言葉を聞いたジェイドの母・レイチェルは、思わず持っていたティーカップを落としてしまった。
「お母様、大丈夫ですか?」
「ええ。ジェイド、あなたにはもう話してもいいかもしれないわね。」
レイチェルは深呼吸した後、ジェイドに双子の弟が居る事を話した。
「本当なの、お母様?」
「シエルは、あなたの生き別れの双子の弟なのよ。」
「どうして、離れ離れになってしまったの?」
「それはね・・」
レイチェルからシエルが“呪い”を掛けられている事を知ったジェイドは衝撃を受けた。
「シエルに“呪い”を掛けたのは誰?」
「妖精族の王・セバスチャン様よ。彼はこの国の外れにある王国に住んでいるのよ。」
「そう・・」
シエルは、ジェイドが密かにセバスチャンに会おうとしている事を知らずにいた。
「陛下。おめでとうございます。」
「おやおや、誕生日ですか。長い間生きているので、すっかり忘れてしまいました。」
セバスチャンはそう言うと、窓の外を見た。
茨の森を抜け、こちらへ向かおうとしている一人の少年の姿にセバスチャンは気づき、彼の元へと向かった。
「おや珍しい、人の子がこんな所に来るなんて。何かわたしにご用ですか?」
「あなたが、セバスチャン=ミカエリス様ですか?僕は・・」
「おや、あなたは・・」
セバスチャンはそう言うと、暗赤色の瞳でジェイドを見た。
「あなたがわたしの元へ来たのは、弟君の“呪い”を解いて欲しいとお願いに来たのですね?」
「どうして・・」
「わたしは、あなたがいつかここへ来ると思っていましたよ。」
「じゃぁ・・」
「残念ですが、弟君の“呪い”を解く事は出来ません。」
「どうして・・」
「弟君の“呪い”は、真実の愛でしか解けないのですよ。」
「“真実の愛”?」
「ええ。」
セバスチャンはそう言うと、ジェイドを見つめた。
「さぁ、お帰り下さい。」
ジェイドは、セバスチャンに背を向けて、茨の森から去っていった。
「よろしいのですか、陛下?あの子供を帰してしまって。」
「いいのですよ。わたしが欲しいのは、あの子の片割れです。」
セバスチャンがそう呟いた時、黒雲が空を覆った。
「酷い雨ね・・」
「これで雨が降り続けて四日目よ・・」
シエル達が住んでいる国が豪雨に襲われて四日が経った。
「ヴィンセント陛下、大変です!」
「どうした?」
「茨の国の王が・・」
「お久し振りですね、ヴィンセント陛下。」
「セバスチャン・・」
「この豪雨を止めたいのなら、あなた方の大事なシエル王子をわたしに差し出しなさい。」
「シエルをどうするつもりだ!?」
「それは、あなたには関係の無い事です。」
セバスチャンはそう言うと、笑った。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
一部暴力・残酷描写有りです、苦手な方はご注意ください。
昔々、あるところに、美しい妖精達が住む国がありました。
その中で一番美しかったのは、その国を治める王族である、ミカエリス家の人々でした。
ミカエリス家に、珠のような美しい男児が産まれ、王国中は幸せに溢れました。
王子はセバスチャンと名付けられ、両親や一族の妖精達から海のように深い愛情を受けました。
しかし、幸せな時は長く続きませんでした。
妖精達にとって最大の敵―人間達が自分達の領土を広げようと、王国に攻めて来たのです。
この戦いで、国王夫妻と妖精族の多くが命を落としました。
生き残ったのは幼いセバスチャン王子と、彼の祖母だけでした。
「いいですか、セバスチャン。人に心を許してはなりません。」
「はい、お祖母様。」
セバスチャン王子は親代わりの祖母の言いつけを良く守り、美しく賢く成長してゆきました。
そして月日が流れ、セバスチャン王子は成人の日を迎えました。
「国王、万歳!」
セバスチャン王の戴冠式には、人間達も招待されました。
セバスチャン王は、そこで運命の出会いをします。
「初めまして、国王陛下。ヴィンセント=ファントムハイヴと申します。」
彼は、人間の王・ヴィンセントでした。
「陛下、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
その日、ファントムハイヴ家に二人の王子が誕生した。
「何て可愛らしいのでしょう。」
「将来が楽しみですわね。」
貴族達がベビーベッドで眠る双子の寝顔を覗き込んでいると、突然雷鳴が轟いた。
―何だ?
―さっきまで晴れていたのに・・
―不吉だな・・
貴族達がそんな事を囁いていると、漆黒の炎と共に一人の男が現れた。
「おやおや、これは賑やかなパーティーですね。」
そう言った男の暗赤色の瞳が双子の王子に向けられている事に気づいたヴィンセントが、男の前に立ちはだかった。
「セバスチャン・・」
「そんなに怯えないで下さい。わたしはこの子達に祝福を授けたいと思ってここへ来たのですよ。」
「祝福?」
「ええ。」
セバスチャンは、そっと自分を見つめるシエルの頭を撫でた。
「この子達は、16歳の誕生日を迎えた日に、永遠の眠りにつくでしょう。それまで、大事に育てなさい。」
「セバスチャン!」
ヴィンセントは、何とか王子達の呪いを解こうとしたが、呪いを解くことが出来なかった。
ヴィンセントは、呪いの糸を紡ぐという糸車を全て燃やし、シエルを城から少し離れた郊外の城へと移した。
「可哀想なシエル様・・」
「わたくし達が大切に育てないと・・」
シエルは、乳母達に育てられる事になったのだが、病弱な彼はよく熱を出して寝込んだ。
その時には何故か、シエルの枕元にはいつも解熱剤として使われるハーブを煎じた薬湯が置かれていた。
シエルは、物心が着く頃から、誰かに“見られている”ような視線を感じていた。
「シエル様、どうかされましたか?」
「いや、何でもない・・」
その日も、シエルは乳母達と共に森でハーブを摘んでいた。
その時、背後に視線を感じてシエルが振り向くと、そこには黒衣を纏った男が立っていた。
「お前は、誰だ?」
「それは、まだあなたが知らなくてもいい事です。」
男はそう言うと、漆黒の羽根を広げて去っていった。
「シエル様、こちらにいらっしゃったのですね!」
「暗くなる前に、お城に戻りませんと。」
「わかった・・」
シエルは城に戻る前、男が居た方を見ると、そこには誰も居なかった。
(あの男は、一体・・)
その日の夜、シエルが自室で眠っていると、そこへ魔物の手が伸びて来た。
その手がシエルの顔に少し届くという時に、その手は謎の炎に包まれ、魔物は悲鳴を上げながら森の中へと消えていった。
何処からか、優しい歌声が聞こえて来た。
“お休み、素敵な夢を。”
(この歌、何処かで聞いたことがあるような・・)
「シエル様、起きて下さい!」
「学校に遅れますよ!」
「行って来ます!」
乳母が焼いてくれたアップルパイを頬張りながらシエルが学校へと向かっていると、彼は一台の馬車に轢かれそうになった。
「気をつけろ、ガキ!」
「すいません・・」
馬車の御者から舌打ちされたシエルは、制服についた泥を払うと、校舎の中へと入っていった。
「ねぇ、あの子は誰?」
「若様?」
「僕と同じ顔をしていた・・」
生まれてすぐ、弟・シエルと引き離されたので、シエルは自分に双子の兄が居る事を知らずに育った。
そして、シエルの双子の兄・ジェイドも、己の魂の片割れを知らずに育った。
なのでジェイドは、己と瓜二つの顔をした少年の姿を見て、戸惑いを隠せなかった。
「若様が知らなくてもいい事です。」
「そうか・・」
ジェイドは、何処か言葉を濁したかのような従者の態度に少し苛立った。
「今日の授業はここまで。」
(ふぅ、終わった・・)
シエルは数学の教科書とノートを鞄の中にしまうと教室から出た。
廊下を歩いていると、向こうから自分と瓜二つの顔をした少年がやって来た。
「君は・・確か、隣町に住んでいる・・」
「僕の事を、知っているんですか?」
「うん。僕は、ジェイドっていうんだ、君は?」
「シエルといいます、ジェイドさん。」
「敬語はやめて、同い年なんだから。」
「わかった。じゃぁ、ジェイド、ひとつ質問してもいい?」
「うん、いいよ。」
「どうして、君と僕は同じ顔をしているの?」
「それは、わからないや!」
ジェイドはそう言うと、笑った。
それからシエルは、ジェイドと放課後に仲良く遊ぶようになった。
「ジェイド、あなた最近仲の良い友達が出来たと侍女達から聞いたわよ。」
「はい、お母様。学校で会ったんだ。その子、シエルって言うのだけれど、僕と同じ顔をしているんだ!初めて会った時、驚いたよ!」
ジェイドの言葉を聞いたジェイドの母・レイチェルは、思わず持っていたティーカップを落としてしまった。
「お母様、大丈夫ですか?」
「ええ。ジェイド、あなたにはもう話してもいいかもしれないわね。」
レイチェルは深呼吸した後、ジェイドに双子の弟が居る事を話した。
「本当なの、お母様?」
「シエルは、あなたの生き別れの双子の弟なのよ。」
「どうして、離れ離れになってしまったの?」
「それはね・・」
レイチェルからシエルが“呪い”を掛けられている事を知ったジェイドは衝撃を受けた。
「シエルに“呪い”を掛けたのは誰?」
「妖精族の王・セバスチャン様よ。彼はこの国の外れにある王国に住んでいるのよ。」
「そう・・」
シエルは、ジェイドが密かにセバスチャンに会おうとしている事を知らずにいた。
「陛下。おめでとうございます。」
「おやおや、誕生日ですか。長い間生きているので、すっかり忘れてしまいました。」
セバスチャンはそう言うと、窓の外を見た。
茨の森を抜け、こちらへ向かおうとしている一人の少年の姿にセバスチャンは気づき、彼の元へと向かった。
「おや珍しい、人の子がこんな所に来るなんて。何かわたしにご用ですか?」
「あなたが、セバスチャン=ミカエリス様ですか?僕は・・」
「おや、あなたは・・」
セバスチャンはそう言うと、暗赤色の瞳でジェイドを見た。
「あなたがわたしの元へ来たのは、弟君の“呪い”を解いて欲しいとお願いに来たのですね?」
「どうして・・」
「わたしは、あなたがいつかここへ来ると思っていましたよ。」
「じゃぁ・・」
「残念ですが、弟君の“呪い”を解く事は出来ません。」
「どうして・・」
「弟君の“呪い”は、真実の愛でしか解けないのですよ。」
「“真実の愛”?」
「ええ。」
セバスチャンはそう言うと、ジェイドを見つめた。
「さぁ、お帰り下さい。」
ジェイドは、セバスチャンに背を向けて、茨の森から去っていった。
「よろしいのですか、陛下?あの子供を帰してしまって。」
「いいのですよ。わたしが欲しいのは、あの子の片割れです。」
セバスチャンがそう呟いた時、黒雲が空を覆った。
「酷い雨ね・・」
「これで雨が降り続けて四日目よ・・」
シエル達が住んでいる国が豪雨に襲われて四日が経った。
「ヴィンセント陛下、大変です!」
「どうした?」
「茨の国の王が・・」
「お久し振りですね、ヴィンセント陛下。」
「セバスチャン・・」
「この豪雨を止めたいのなら、あなた方の大事なシエル王子をわたしに差し出しなさい。」
「シエルをどうするつもりだ!?」
「それは、あなたには関係の無い事です。」
セバスチャンはそう言うと、笑った。