初仔・空胎明けおよび高産次・高齢出産についての知られざる事実。
出産時年齢と産駒の成績の関係は、優秀な競走馬を生産するための種雌馬の要因(JRA競走馬総合研究所)、若いお母さんは、好きですか?(傍観罪で終身刑)など、過去にも調査されている。
だが、出産時年齢にもとづく考察には、いくつも難がある。
この結果、前提を踏まえない調査、調査にもとづかない迷信が横行。
おかげで一般には「母は若ければ若いほどよい」「初仔は狙わず2番仔3番仔を狙うべき」「初仔でも大きければOK」「母7~10歳時出産馬が狙い頃」など、さまざまな説があふれ、あげくのはてに「初仔は早熟で高齢出産馬は晩成」「繁殖牝馬には一発屋タイプと連発タイプがいる」などといった珍説までがまかり通っている。
しかし、そうじゃない、そうじゃないんである。
初仔が不利なのは、血統に合わせたノウハウの不足や、のちほどのべる特定の条件によるものであって、すべての初仔が狙えないわけじゃない。
正しい理解があれば、初仔は積極的に狙える。高齢出産馬についても同様。
母の出産時年齢より重要なのは、初仔から2番仔、3番仔にかけて、あるいは空胎後1年目、2年目、3年目といったタイミングでの産駒の動向である。
そこで俺は昨年自分で調査し直した。
対象は過去10年間の中央G1連対馬、延べ454頭、実264頭。
調査は、期間中のG1連対馬それぞれが何番仔か(産次)、初仔からあるいは空胎後何年連続での出産にあたるか(連産状況)をみた。
母馬の戦績や引退後初仔が産まれるまでの日数も併せて調べたが、ここではその結果は脇においておく。
さまざまな切り口で分析したが、もっとも明瞭な差が見られたのは性別だった。
これだけでは雑然としているけれども、牡馬はグラフの左では一般の上に、右では一般の下に。ぎゃくに牝馬は左では一般の下に、右では一般の上になっているのがわかる。
この関係がよくわかるように描きなおすと。
つぎに産次から、より重要な連産状況へと目を移す。
さきほど初仔について現れていた「牡G1連対馬>一般>牝G1連対馬」の関係は、空胎明けについても同様であることがわかる。
同じように描きなおすと。
牡駒では3歳までのG1連対馬の16%が初仔、21%が空胎明け。2~3連産が37%、4連産以上が26%という割合になっている(図4)。
初仔と空胎明けはいずれも全体における割合をやや上回る。すなわち、牡駒ではフレッシュな状態の母から生まれた方がやや成績がよく、一般に言われるような初仔の不利は認められない。
古馬G1ではさらにその傾向が強まり、初仔の占める割合が20%を越える。こうなると初仔ははっきり有利といえる。
初仔ほどではないが、続いて生まれた2番仔や3番仔も悪くない。
メイショウボーラー、フサイチリシャール、キャプテントゥーレ、ロジユニヴァース、ローズキングダムなどのように、性別や種牡馬が変わって2・3番仔が走るケースが多い。
初仔牝駒でソコソコ、翌年2番仔牡駒で爆発のパターンは他にも数多くあり、定番の狙い目。後述するように初仔牝駒にはハンデがあるので、それを乗り越えて走った場合母には高いポテンシャルがあると推定できる。2番仔で牡駒に変わればそのポテンシャルが最大限発揮できる、というわけだ。
空胎明けも重要。
若い繁殖牝馬に、不受胎などで贅沢な空胎がもうけられると、しばしば翌年すばらしい牡駒が出る。空胎明け3番仔はアドマイヤドン、二冠馬エアシャカール、シックスセンスにトライアンフマーチ、アドマイヤオーラ、マイル路線ではイーグルカフェにクロフネ、ブラックシェル。空胎明け4番仔はキンシャサノキセキに変則二冠馬ディープスカイ。
しかも、牡駒では空胎明けやその後数年の少連産以内であれば、高産次・高齢の母からでも大物が出る傾向があり、6番仔以降がG1連対馬の34%を占める(図2)。テイエムオペラオーやダイワメジャーは空胎明け7番仔、ネオユニヴァースは不受胎空胎明け3連産目の10番仔、タケミカヅチは流産と不受胎による2年空胎明け2連産目の12番仔だった。
なお、これら空胎明けの効果で走った名馬は、翌年以降に弟がPOGで大人気となることも多い(ラパルースベイ、エアサバス、アドマイヤテンカなど。再び空胎を挟んだのがキャプテンベガ)。空胎明けの効果はほとんどの場合一度きりなので、これらは案の定スベった。空胎明け効果の射程距離をこえた期待は禁物だ。
とにかく、優秀な牡駒を産むためには、母の年齢うんぬんよりも、胎内がフレッシュで活発な状態であることが重要といえる。
いっぽう牝駒では、3歳までのG1連対馬の13%が初仔。割合的には全体をやや下回る程度とみえるが、じつは該当する12頭のほとんどが2着馬で、G1勝馬は10年間でアドマイヤグルーヴ1頭だけ。
デビュー時426キロと小柄だったローズバドはともかく、トゥザヴィクトリーやアドマイヤグルーヴは十分な馬格をかねそなえていた。しかしそれでも3歳春の時点ではG1を勝てなかった。初仔の牝駒で3歳春までのG1を勝ったものとなると、12年前のファレノプシスまで遡る。ちなみに過去10年古馬G1で連対した初仔牝駒は、この4頭だけ。毎年500頭が産まれる初仔牝馬、あまりに寂しい結果といわざるをえない。
シスターソノ、ダイイチシガー、ロイヤルパートナー、メジロヒラリー、アドマイヤテンバなど、女傑の初仔は牝馬であっても大きな期待を背負うが、ほとんどの場合まもなく期待におしつぶされる。スイープトウショウの09もまた、この道をゆくのか。
ようするに、初仔の成績が悪いという数字あるいは印象は、牝駒における初仔不振によるもの、それがほぼ同数の牡駒で薄められながらも数字として現われたものだといえる。
裏返せば、初仔が走らないという一般の印象の、さらに半分しか、初仔の牝駒は走らないということでもある。
そして、空胎明け出産の牝駒にも同様の現象が起きている。
牝駒の空胎明けは初仔よりさらに成績が悪く、11%にすぎない。こちらも連対馬9頭中勝馬はヤマカツスズランとファインモーションの2頭だけ、G1勝牝馬中のたった4%で、牝駒全体では20%ちかくが空胎明けで生まれていること、牡駒ではさきほど述べたようにこのケースが大活躍していることと比べると、無残な成績というほかない。
牝駒では、牡馬とはぎゃくに直近の空胎明けをペナルティとみなしてよかろう。
その分、牝駒では連産での活躍馬が多く、3歳までのG1連対馬では2~3連産目が44%、4連産以上が34%を占める(図4)。
高産次・高齢出産であろうと、牝駒が若いうちは平気で走り、6連産目の6番仔であるアストンマーチャン、6連産目の7番仔であるシーザリオ、8連産目の8番仔であるアサヒライジング、8連産目の12番仔であるピンクカメオ、4連産目の10番仔であるダイワスカーレット、そして10連産目の10番仔であるスティルインラブなどが活躍した。
つまり、牝馬では連産を気にするどころか、ぎゃくに連産を狙うべきだといえる。
ただし多連産馬はいずれも5歳春までにターフを去っており、古馬になって活躍する牝馬はその多くがウォッカ、スリープレスナイトのような空胎明け2~3年目の連産馬である。ブエナビスタもきっとこのまま6歳春まで走り抜けるだろう。
さきほど空胎明け効果で走った牡駒の弟は過信しすぎるなと書いたが、これが妹であれば話は別で、普通に走る。ダイワスカーレット、ブエナビスタのように兄を越えるケースさえある。
以上を端的に象徴するのが次の図5だ。
すなわち、ここまで述べてきた傾向は、競走能力にすぐれた個体ほど強くあらわれる。
名馬を探し求めるにあたって、この事実を知っているか知らないかの差は大きい。
こうして数字としてあらわれると、俺もかつて初仔の牝馬を狙いことごとくハズレに終わったことや、空胎明け名馬から連産の妹をスルーして二匹目のドジョウを逃したことなど、あらためてイタイ過去を反省せずにはいられなかった。
今年の私撰馬リストは、市長さんの指摘された初仔の数だけでなく、過去の反省を生かし↓の狙い方を踏まえたものとなっている。
結論。
・牡馬は、初仔でもためらう必要はない。連産は多少気にせよ。
・初仔が牝馬でそこそこ走り、2番仔で牡馬に変わったら注目。
・不受胎や流産で空胎を挟んだ後に産まれた牡馬を、見逃すな。
・牝馬は逆で、連産時がむしろ狙い頃。初仔や空胎明けは極力避けろ。
・3年以内に空胎を挟んでいれば母高齢でも問題ない。
・空胎明け効果で走った牡馬の下が、牡馬なら一歩引いて見よ、牝馬なら狙える。
・以上をもって「連産リズム理論」と名づける。
出産時年齢と産駒の成績の関係は、優秀な競走馬を生産するための種雌馬の要因(JRA競走馬総合研究所)、若いお母さんは、好きですか?(傍観罪で終身刑)など、過去にも調査されている。
だが、出産時年齢にもとづく考察には、いくつも難がある。
- そもそも牝馬によって繁殖入りのタイミングが違う。
不出走のまま4歳時に初仔を産む母もいれば、長い競走生活を経て10歳時に初仔を産むものもいる。 - 全体における割合では7~10歳時出産馬がもっとも多く、毎年世代全体の40%以上を占める。
活躍馬も多くなるのは当然。 - メジロ牧場のように数年おきに空胎をはさむ生産者もいれば、空胎をはさまず毎年受胎するまで種付けしようとする生産者もいる。
- 高齢の母は受胎率が低下することから、生産者の経済的事情により高額な種牡馬が付けられることが少なくなり、世代全体で見れば母の加齢にしたがい必然的に成績を落とす。
- 社台Gなど大手の牧場に限ると、繁殖で実績をあげた牝馬だけが高齢まで出産を続ける傾向にあるが、世代全体ではそうじゃない。
この結果、前提を踏まえない調査、調査にもとづかない迷信が横行。
おかげで一般には「母は若ければ若いほどよい」「初仔は狙わず2番仔3番仔を狙うべき」「初仔でも大きければOK」「母7~10歳時出産馬が狙い頃」など、さまざまな説があふれ、あげくのはてに「初仔は早熟で高齢出産馬は晩成」「繁殖牝馬には一発屋タイプと連発タイプがいる」などといった珍説までがまかり通っている。
しかし、そうじゃない、そうじゃないんである。
初仔が不利なのは、血統に合わせたノウハウの不足や、のちほどのべる特定の条件によるものであって、すべての初仔が狙えないわけじゃない。
正しい理解があれば、初仔は積極的に狙える。高齢出産馬についても同様。
母の出産時年齢より重要なのは、初仔から2番仔、3番仔にかけて、あるいは空胎後1年目、2年目、3年目といったタイミングでの産駒の動向である。
そこで俺は昨年自分で調査し直した。
対象は過去10年間の中央G1連対馬、延べ454頭、実264頭。
調査は、期間中のG1連対馬それぞれが何番仔か(産次)、初仔からあるいは空胎後何年連続での出産にあたるか(連産状況)をみた。
母馬の戦績や引退後初仔が産まれるまでの日数も併せて調べたが、ここではその結果は脇においておく。
さまざまな切り口で分析したが、もっとも明瞭な差が見られたのは性別だった。
これだけでは雑然としているけれども、牡馬はグラフの左では一般の上に、右では一般の下に。ぎゃくに牝馬は左では一般の下に、右では一般の上になっているのがわかる。
この関係がよくわかるように描きなおすと。
つぎに産次から、より重要な連産状況へと目を移す。
さきほど初仔について現れていた「牡G1連対馬>一般>牝G1連対馬」の関係は、空胎明けについても同様であることがわかる。
同じように描きなおすと。
牡駒では3歳までのG1連対馬の16%が初仔、21%が空胎明け。2~3連産が37%、4連産以上が26%という割合になっている(図4)。
初仔と空胎明けはいずれも全体における割合をやや上回る。すなわち、牡駒ではフレッシュな状態の母から生まれた方がやや成績がよく、一般に言われるような初仔の不利は認められない。
古馬G1ではさらにその傾向が強まり、初仔の占める割合が20%を越える。こうなると初仔ははっきり有利といえる。
初仔ほどではないが、続いて生まれた2番仔や3番仔も悪くない。
メイショウボーラー、フサイチリシャール、キャプテントゥーレ、ロジユニヴァース、ローズキングダムなどのように、性別や種牡馬が変わって2・3番仔が走るケースが多い。
初仔牝駒でソコソコ、翌年2番仔牡駒で爆発のパターンは他にも数多くあり、定番の狙い目。後述するように初仔牝駒にはハンデがあるので、それを乗り越えて走った場合母には高いポテンシャルがあると推定できる。2番仔で牡駒に変わればそのポテンシャルが最大限発揮できる、というわけだ。
空胎明けも重要。
若い繁殖牝馬に、不受胎などで贅沢な空胎がもうけられると、しばしば翌年すばらしい牡駒が出る。空胎明け3番仔はアドマイヤドン、二冠馬エアシャカール、シックスセンスにトライアンフマーチ、アドマイヤオーラ、マイル路線ではイーグルカフェにクロフネ、ブラックシェル。空胎明け4番仔はキンシャサノキセキに変則二冠馬ディープスカイ。
しかも、牡駒では空胎明けやその後数年の少連産以内であれば、高産次・高齢の母からでも大物が出る傾向があり、6番仔以降がG1連対馬の34%を占める(図2)。テイエムオペラオーやダイワメジャーは空胎明け7番仔、ネオユニヴァースは不受胎空胎明け3連産目の10番仔、タケミカヅチは流産と不受胎による2年空胎明け2連産目の12番仔だった。
なお、これら空胎明けの効果で走った名馬は、翌年以降に弟がPOGで大人気となることも多い(ラパルースベイ、エアサバス、アドマイヤテンカなど。再び空胎を挟んだのがキャプテンベガ)。空胎明けの効果はほとんどの場合一度きりなので、これらは案の定スベった。空胎明け効果の射程距離をこえた期待は禁物だ。
とにかく、優秀な牡駒を産むためには、母の年齢うんぬんよりも、胎内がフレッシュで活発な状態であることが重要といえる。
いっぽう牝駒では、3歳までのG1連対馬の13%が初仔。割合的には全体をやや下回る程度とみえるが、じつは該当する12頭のほとんどが2着馬で、G1勝馬は10年間でアドマイヤグルーヴ1頭だけ。
デビュー時426キロと小柄だったローズバドはともかく、トゥザヴィクトリーやアドマイヤグルーヴは十分な馬格をかねそなえていた。しかしそれでも3歳春の時点ではG1を勝てなかった。初仔の牝駒で3歳春までのG1を勝ったものとなると、12年前のファレノプシスまで遡る。ちなみに過去10年古馬G1で連対した初仔牝駒は、この4頭だけ。毎年500頭が産まれる初仔牝馬、あまりに寂しい結果といわざるをえない。
シスターソノ、ダイイチシガー、ロイヤルパートナー、メジロヒラリー、アドマイヤテンバなど、女傑の初仔は牝馬であっても大きな期待を背負うが、ほとんどの場合まもなく期待におしつぶされる。スイープトウショウの09もまた、この道をゆくのか。
ようするに、初仔の成績が悪いという数字あるいは印象は、牝駒における初仔不振によるもの、それがほぼ同数の牡駒で薄められながらも数字として現われたものだといえる。
裏返せば、初仔が走らないという一般の印象の、さらに半分しか、初仔の牝駒は走らないということでもある。
そして、空胎明け出産の牝駒にも同様の現象が起きている。
牝駒の空胎明けは初仔よりさらに成績が悪く、11%にすぎない。こちらも連対馬9頭中勝馬はヤマカツスズランとファインモーションの2頭だけ、G1勝牝馬中のたった4%で、牝駒全体では20%ちかくが空胎明けで生まれていること、牡駒ではさきほど述べたようにこのケースが大活躍していることと比べると、無残な成績というほかない。
牝駒では、牡馬とはぎゃくに直近の空胎明けをペナルティとみなしてよかろう。
その分、牝駒では連産での活躍馬が多く、3歳までのG1連対馬では2~3連産目が44%、4連産以上が34%を占める(図4)。
高産次・高齢出産であろうと、牝駒が若いうちは平気で走り、6連産目の6番仔であるアストンマーチャン、6連産目の7番仔であるシーザリオ、8連産目の8番仔であるアサヒライジング、8連産目の12番仔であるピンクカメオ、4連産目の10番仔であるダイワスカーレット、そして10連産目の10番仔であるスティルインラブなどが活躍した。
つまり、牝馬では連産を気にするどころか、ぎゃくに連産を狙うべきだといえる。
ただし多連産馬はいずれも5歳春までにターフを去っており、古馬になって活躍する牝馬はその多くがウォッカ、スリープレスナイトのような空胎明け2~3年目の連産馬である。ブエナビスタもきっとこのまま6歳春まで走り抜けるだろう。
さきほど空胎明け効果で走った牡駒の弟は過信しすぎるなと書いたが、これが妹であれば話は別で、普通に走る。ダイワスカーレット、ブエナビスタのように兄を越えるケースさえある。
以上を端的に象徴するのが次の図5だ。
すなわち、ここまで述べてきた傾向は、競走能力にすぐれた個体ほど強くあらわれる。
名馬を探し求めるにあたって、この事実を知っているか知らないかの差は大きい。
こうして数字としてあらわれると、俺もかつて初仔の牝馬を狙いことごとくハズレに終わったことや、空胎明け名馬から連産の妹をスルーして二匹目のドジョウを逃したことなど、あらためてイタイ過去を反省せずにはいられなかった。
今年の私撰馬リストは、市長さんの指摘された初仔の数だけでなく、過去の反省を生かし↓の狙い方を踏まえたものとなっている。
結論。
・牡馬は、初仔でもためらう必要はない。連産は多少気にせよ。
・初仔が牝馬でそこそこ走り、2番仔で牡馬に変わったら注目。
・不受胎や流産で空胎を挟んだ後に産まれた牡馬を、見逃すな。
・牝馬は逆で、連産時がむしろ狙い頃。初仔や空胎明けは極力避けろ。
・3年以内に空胎を挟んでいれば母高齢でも問題ない。
・空胎明け効果で走った牡馬の下が、牡馬なら一歩引いて見よ、牝馬なら狙える。
・以上をもって「連産リズム理論」と名づける。