060:引退（ほたる）

引退をしていく人の背中には踊り疲れた天使がとまる

059:済（ほたる）

「済」スタンプ機能のついたコピー機に終わったことと諭されている

058:魔法（ほたる）

やわらかいオヤスミヒツジに誘（いざな）われ毎夜眠りの魔法にかかる

057:縁（ほたる）

縁日の灯り途切れた暗がりでふたり秘密の共有をする

056:アドレス（ほたる）

ホルマリン液に浸け込むアドレスをいくつも永久保存している

055:式（ほたる）

ねじ巻き式オルゴールが鳴り終わるまで静かな静かなくちづけをして

054:首（ほたる）

さみしさを埋めたくて巻く足首のアンクレットに撥ねる泥水

053:妊娠（ほたる）

「妊娠」と書かれた箱が笹舟で運ばれている夢を見た朝

052:縄（ほたる）

聞こえないふりをしたくて縄編みのニットキャップは耳まで覆う

051:言い訳（ほたる）

もう二度とあやまらないで言い訳は右の耳に流し込まないで

050:災（ほたる）

災いと認識していた錆色の過去が磨かれ真鍮になる

049:ソムリエ（ほたる）

封印をされた秘密の銀紙をソムリエナイフで丁寧に剥ぐ

048:逢（ほたる）

「逢いたい」と文字にしてみるそれだけで後ろめたさが募るたそがれ

047:警（ほたる）

それはまるで夜中に羽化を見たようなとても静かな警告を聞く

046:常識（ほたる）

常識の粘膜そっと剥がしては我慢できずに痛くなるまで