ヘチマカス

「泣いてみようとしたが泣けなかった…」「笑ってみようとしたが笑えなかった…」そんな心の不感症カモンが送る無意欲文章群。

ようちゅう

2006-07-28 | Weblog

6歳のとき、ちょっとだけお父さんと離れて暮らさなきゃいけないことがあった。いわゆる転勤ってやつ。

お父さんは単身赴任するっていうことで、おれが淋しがらないように前から欲しがっていたカブトの幼虫をおれに買ってくれた。


こう、
    最初から、青い蓋の付いたプラスチックケースに、入ってあるやつ。


けどね、おれ、それすぐ割っちゃったんだよね。

虫取り網持って走り回っていたら、ひっかけて、落っことして、割っちゃって、

それで、すっごく、節子に怒られたんです。

あ、節子って、お母さんのことなんですけど、

「何やってんの!」って、もうね、般若の顔して、怒られたんですよ、

自分が、悪いし、しかも、幼虫たいへんなことになってるし、おれもすっごく泣いて、

ただね、幼虫は無事だったからね、

で、結局、節子が怒りながらも空いてる金魚鉢に移し替えてくれて、

土はまだ活きてるから、散乱した土を寄せて、集めて、山にして、

それを、手でね、こう挟んで包むように抱えて、

土を入れ直したら、幼虫をまたそこに戻して、

ただ金魚鉢だから、

蓋がないから、節子が、ラップをそこに掛けてくれて、空気穴まで開けてくれたんですけど、

まあ、その間、節子はずーーっと怒ってるんですけど、


プスプスって、串でやってるうちに、勢い余って、幼虫刺したんですよ。


おれの目の前で、誤って幼虫、串刺しですよ。






それで、おれはまた泣いちゃって、

「何してんだよー」って、ワンワン泣いて、

だってね、いつもあまり動かない幼虫が、体くねらせて、もがくように動いてるし、

刺さったところから、緑の液体、ドロっと出てきてるし、

「うわー、お母さんのばかーっ」って泣き喚くおれに、それ見ながら、

「大丈夫、まだ生きてる」って言ったからね。


なにが大丈夫だよって話なんだけどね。

生きてるから大丈夫、うまくいけば、このまま大人になるかもしれない


って、ことでしょ?

ありえないですよ、そんなもん、もう、誰がどう見たって、虫の息ですよ、


竹串貫通してる幼虫が、さなぎになってそのまま成虫になるなんて、どんだけ虫のいい話だっちゅー話ですよね。

それを、「大丈夫」って言って、元に戻そうとしたからね、元のサヤに納めようとしたからね、







まあ、結局すぐ死んじゃって






しかもですよ、


埋めるとき、

串に直接書いたんですよ、


節子が、








って。


今思えば、

絶対書いてるとき、一石二鳥って思ってたはずですよ。


それが、腹立つなって、


にくたらしいなって、


思いますけど、


今では、からだもすこしづつ曲がって、動きもそんな早くなくなって、

なんか、だんだん幼虫みたいになってる節子がいますけど、

やっぱり、

節子には、長生きして欲しいですね。