「赤い公園」というガールズバンドがありました。
2012年にメジャーデビューし、その後徐々に人気を得ていったようですが、その頃の僕は大連で暮らしていたのでその音に触れる機会がなく、2016年暮れに帰国してからラジオで初めて存在を知ることになりました。
キャッチーでありながら、骨太でガレージっぽくザラザラとした生音の質感があって、楽器一つ一つの音がしっかり聞き取れて、ところどころ意図的に歪んだ音を出してみたり生音感があって、バンドサウンド好きな僕の好みに合いました。
その一方で、今のEDMや打ち込み全盛の時代にこういうサウンドが若い人に広く支持されるものだろうか、と思ったりもしました。
2017年の春には音楽イベントでライブを観る機会がありました。新木場STUDIO COASTでした。
メンバー4人全員が白装束のような衣装をまとい、初々しい感じがありつつも息の合った迫力のあるステージを見せてくれました。いい音出すだなぁ、いいバンドだなぁ、と思いました。
それから、赤い公園をお気に入りバンドとしてよく聴くようになりました。
この年齢になって新たにバンドのファンになることはなかなかないことです。
自分がガールズバンドに注目するのは、80年代のバングルスやプリプリ以来でしょうか。もう30年以上久しいことです。
彼女たちの新しい作品の発表も楽しみにするようになりました。
ところが、です。
僕が北京に赴任した直後の2020年10月、バンドの中心メンバーだった津野米咲が突然この世を去ってしまうという耳を疑うようなニュースが飛び込んできました。
29歳でした。驚きました。原因は今でもわからないようです。
赤い公園の曲は基本的にすべて彼女の作品でしたので、もう津野作品の新曲を聞くことはできなくなりました。
津野は音楽業界でもその才能を高く評価され、テレビ朝日の「関ジャム完全燃SHOW」にも何度かゲスト出演していました。
世の中はすごい才能を失ってしまいました。
まだまだこれからいろんな作品を楽しませてくれるだろうと思っていただけに、とても残念で、信じられない思いでこれまでの作品を繰り返し聞きました。
先日一時帰国をしたとき、ジョギングがてら、バンドの代表曲のひとつである「Canvas」のMV(
リンクはこちら)を撮影したと思われる「辰巳の森緑道公園」に立ち寄ってみました。
辰巳の森緑道公園は様々なドラマの撮影に利用される桜並木が美しい公園です。
僕が彼女たちのライブを観た新木場STUDIO COASTもこの近くです。
ここはもともと僕のお気に入りのジョギングコースの一つでしたので、MVを観たらすぐに気が付きました。
エピソードによると、この曲のMVは津野が自ら構想して監督もしたそうです。きっと思い入れのあるMVだったのでしょう。
曲を発表したのが2016年2月ですから、撮影したのは15年の暮れから16年の初め頃でしょうか。
2年ぶりに訪れましたが、やはり気持ちのいい公園です。ドラマやCMの撮影でもよく使われるので、見覚えのある方も多いと思います。
ここにドラムセットを設えて、カメラの前で4人がのびのびと演奏をしたと。その頃、誰がこんな悲劇を想像できたでしょうか。
MVの冒頭で津野がベンチに座ってギターを弾いていたのはこの辺りでしょうか。
僕が赤い公園の存在を知り、ライブを観て、曲に親しむようになったのはつい5、6年前のことです。最近です。
しかし、今やバンドも津野米咲も新木場STUDIO COAST(今年1月で閉館)もこの世には存在しません。
晩夏の日を浴びて青い葉を滔々とたたえる桜並木を見つめながら、時間というのは永遠ではないのだ、という厳粛な事実と向かい合います。
「Canvas」の歌詞の一節を引用します。
淡い淡い気持ちが 近頃急いでいる
ひとひらの祈り 時よ止まれ なんて
でも、彼女たちの珠玉の名曲たちはずっと残り続けます。
静かに手を合わせて、この先も作品を楽しませてもらうよ、と心でつぶやき、公園を後にしました。