ヤン・リシエツキ

2010-10-28 04:40:54 | 日記
紀尾井ホールにて行われた15歳のピアニスト、ヤン・リシエツキのオール・ショパン・リサイタル(10/26)に衝撃を受ける。

プロモーション写真の可愛らしい少年の姿からひとまわり背格好が大きくなり、長い手足がピアノの椅子に馴染んでいないような雰囲気。

しかし、この男の子の魂はすさまじかった。肉体と魂の不一致。強烈に悪魔的なピアニズムだ。

特に、前半の最後で弾いたエチュードop.25全曲が最高。

断章としてではなく、それぞれ独立した楽曲として全12曲を弾き

そのどれもこれもが、テンポも強弱もペダルも型破り。

異様にスローに弾き始め、途中から速度を上げていくパターンが多かったが

一曲ずつ集中して「自分流」のスタイルを吹き込んでいくため、弾き手のエネルギーの消費が尋常ではない。

その前に既に、op10の練習曲から3曲、マズルカ2曲、演奏会用ロンド「クラコヴィアク」を弾き終えていた。

前半だけでトータル60分以上で、おまけにラスト二曲が「木枯らし」と「大洋」である。

体力・精神力の限界まで「見せる」のが、彼の表現者としての落とし前だったのかも知れない。

(自分で自分に拷問を仕掛けて喜んでいる)

60分間ぶっ続けで弾き、颯爽とお辞儀をしてスタスタ幕へ引っ込んでいった。



このリシエツキという子、ポーランドの両親を持ち、カナダの音楽大学に飛び級で入ったというが

教授たちはどういうふうに指導を行っているのだろう?

リシエツキの奏法は理知的だが、型破り。解釈は深いが、ときどき行きすぎて破綻する。

マズルカの舞踊感覚の把握は素晴らしい。ワルツは複雑骨折しそう。

演奏がクレイジーになるのを、本人が望んでいる。

ときどきポリーニのような静寂や、ポゴレリチのような涅槃が見えてくる。

オーソドックスに流れることをとことん嫌う演奏は、

「アンダンテ・スピアナートの華麗なる大ポロネーズ」のポロネーズ部分では

見事に崩壊していた(あーあ・・・)。

あれが最後の曲だから、怒って帰った客もいるだろう。

でも、すべての曲が最高だった。


ラファウ・ブレハッチの透明で宗教的なショパンに、酔い心地になった10月だった。

来日中、二回コンサートへ行き「しばらくこれでいこう」と決めていたのに、現実は予測不可能である。

金髪の子鬼さんがひっかいていったスタインウェイの音が、胸のあたりで痛い。


米、カナダ、ヨーロッパではもう人気者らしい。
彼の音楽を「表層的」という人、もう一度聴きにいってみて!