面影

日々の中で心に感じたことを綴ってゆきたい

心が麻痺しているのでは…

2010年05月09日 20時32分17秒 | Weblog

 先日、ある出版社の社長がこう言っていた。

 「最近は民主党の批判本が売れなくなった。鳩山由紀夫首相がいかにいい加減な男で、いかにどうしようもない政権なのか、世間にバレちゃったんで批判しても誰も驚かないんだな…」

 そう言われて気づいたが、自分自身もそうだった。米軍普天間飛行場移設問題をめぐり、首相が先の衆院選で「最低でも県外」と訴えてきたことを「党の公約ではない」と言い出しても別に驚かない。米海兵隊の抑止力について「学べば学ぶにつけ、沖縄に存在する米軍がすべて連携して抑止力が維持できるという思いに至った。それを浅かったといわれれば、その通りかもしれません」と言っても腹も立たない。この難局に直面する中、屋外イベントで鳩の物まねをしても呆れない。「確かに私は愚かな総理かもしれません」と認めても「そうですね」と思うだけだ。

 小沢一郎幹事長が絶対権力者として君臨し、批判を許さない民主党の体質もそれほど異様に映らなくなった。小沢氏の資金管理団体の政治資金規正法違反事件で、検察審査会が小沢氏を「起訴相当」と議決したことも瞬間的に大騒ぎになったが、もはや話題にもならない。首相が母親から毎月1500万円の「子ども手当」をもらい、献金に偽装した秘書に有罪判決が出たことも「そういえばそんなこともあったっけ…」と遠い目をしてしまう。逆に目くじらを立てている人を奇異の目で見てしまう。

 「立ち上がれ日本」「新党改革」「日本創新党」…。新党が次々に誕生したが、どれがどれだかわからない。そもそも野党第一党である自民党は存在そのものが忘れられつつある。えっと、今の総裁は誰だっけ…。

 外交・安全保障にも無頓着になりつつある。日米同盟の亀裂は広がりつつあり、首脳会談さえまともに行えない。駆逐艦2隻、潜水艦2隻、フリゲート艦3隻など計10隻の中国艦隊が沖縄近海を南下したが、緊迫感はない。韓国海軍哨戒艦の沈没は北朝鮮による魚雷攻撃の可能性が高まっているが、北朝鮮脅威論は起きない。拉致問題も風化しつつある。北朝鮮が3度目の核実験をしても弾道ミサイルを発射しても「またか」と感じるだけではないか。

 内政問題もそうだ。あれだけ国民の支持を集めた郵政民営化に完全に逆行する郵政改革案を政府が推し進めてもそれほど騒ぎにならない。国債発行残高がふくれあがっても税財政論議は起きない。宮崎県で口蹄疫が大発生し、4万頭以上の家畜が処分されているが、なおメディアの扱いは小さい。そういえば国家公安委員長が議員宿舎にホステスを連れ込み、路上でキスをしたところを写真に撮られた不祥事もあったな…。

 何かおかしい。かつては、どれが一つとってもかつてはもっともっと大騒ぎとなっていたのではないか。心が麻痺してしまっているのではないか。

 理由は何だろうか。メディアの問題もある。かつて自民党政権に厳しかった新聞・テレビほど現政権には甘い気がする。「歴史的な政権交代を果たしたんだから」となおかばい続けるコメンテーターもいる。連日のように首相の発言がブレ、あまりに想定外のことが続くのでちょっとやそっとでは驚かなくなったこともあるだろう。

 だが、メディアも初報ではそこそこ騒いではいる。そこから波紋が広がっていかないのだ。火がついてもすぐに鎮火してしまう。なぜだろう。

 かつては、事件であれ、不祥事であれ、失言であれ、一報が小さくても重大な問題ならば、次第に大きなニュースになっていった。まず、国会が騒ぎ出し、それぞれの政党の支持団体が騒ぎ、それが全国に広がっていくからだ。

 ところが今はそれが極端に少ない。まず最大与党の民主党は政権に都合の悪い話には口をつぐむ。デモや反対集会など世論喚起を得意とした労働組合や市民団体は今は政権最大の後ろ盾となっており、驚くほどにおとなしい。加えて現政権は危機管理がなっていないから対応は常に後手に回る。野党・自民党もまだ与党ボケが抜けず、まったくふがいない。

 このままでいいのだろうか。夏の参院選で与党が過半数をとれば、首相は誰であれ、民主党を中心とした政権は3年以上続くだろう。その間にますます人々の感受性は鈍り、日米関係は修復不能となり、中国はますます太平洋に勢力を広げ、国内では外国人地方参政権付与法も、民法改正も、人権侵害救済法も、皇室典範改正も、それほど騒ぎにならずに成立していくのではないか。そして気づいた時は、日本列島は日本人だけのものじゃなくなってしまうかも知れない。
(石橋文登)

(MSN産経ニュース、http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100509/stt1005091802002-n1.htm


「ルーピー」と書かれた首相

2010年05月09日 10時58分08秒 | Weblog

≪忠ならんと欲すれば…≫

 平安時代末期の武将で公卿(くぎょう)だった平重盛が語ったと伝えられる有名なセリフを思いだした。

 いわく、「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず」。父清盛への孝行と、武将として仕えた後白河法皇への忠誠を両立させる難しさを嘆いたものだ。清盛の右腕として平家全盛時代の立役者となった重盛だったが、晩年は清盛と後白河法皇の対立のはざまで進退きわまった。

 遠い昔、学校の授業で習ったこのエピソード。なぜ、今ごろになって思いだしたかというと、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題に関し、訪米した際の記者会見に臨む鳩山由紀夫首相の、宙を泳ぐうつろなまなざしが脳裏から離れないためだ。

 重盛ほどの政治家ですら解けなかったジレンマという難問。「地元の理解」と「米海兵隊の一体的な運用」の両方を同時に満たす方程式の解は、名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部に移す現行案以外になかったのである。沖縄県民への「思い」は問題解決の何の補助線にもならず、かえって県民感情を傷つけた。

 「最低でも県外」といっていた鳩山首相。それが「7千本以上」(与党幹部)ともいわれるくい打ち桟橋方式を「現行案ではない」と言い張ったところで、辺野古に回帰する以上、国民や地元住民、オバマ大統領ら米政府関係者にまでウソをついていたといわれてもやむを得ないだろう。

 ≪“首脳通信簿”で最低点≫

 それ以上に日本人として残念なのは、日本の文化も歴史もどこまで詳しく知っているのか分からない米国の新聞記者から嘲(あざけ)りの対象とされたことだ。

 そう、あの「loopy(ルーピー)」という言葉である。

 悲しいかな、鳩山首相を語る際の枕詞(まくらことば)として定着した観がある。米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、アル・ケイマン氏が4月の核安全保障サミット後、各国首脳の外交成果に“通信簿”をつける形で書かれた風刺画調のコラムの中での表現だ。17面に署名と顔写真入りで掲載された、このコラムは鳩山首相を「最大の敗者」「不運で愚かな首相」と皮肉った。

 後日、ケイマン氏にルーピーの真意について聞いてみた。同じ記者同士、米政府高官のだれが言ったかを聞けるとは思っていない。ただ、ホワイトハウスを中心に、ワシントン政界の“奥の院”を知り尽くしたベテラン記者から、米政府内の微妙な空気のほか、記事がポスト紙の公式見解なのかを知りたかったからだ。

 メモ帳をたぐると、連絡をとったのは、最初に転電した翌日の4月16日だった。ケイマン氏は何やら移動中で忙しいということだったが、留守電に伝言を残しておくと、後になって「あくまで個人の見立てで書いたもので、ポスト紙の見方を代表したものではない」との回答をメールでくれた。「ワシントン・ポスト社としての主張はオピニオン(論説)欄に掲載される。私は取材記者であり、ポスト社を代表する立場にはない」と個人の見解を強調していた。

 ≪「冷めたピザ」よりひどい≫

 だが、日米関係筋は、「どんな形であれ、ポスト社の見解を踏み外したものが掲載されるわけがない」と語る。かつて、米紙ニューヨーク・タイムズが小渕恵三首相を「冷めたピザ」と揶揄(やゆ)したことがあった。首相周辺は「電子レンジでチンすればおいしい」などと切り返す余裕があった。

 これに対し、今回のルーピーは救いようのない罵詈(ばり)雑言で、「日本の首相にこんな辛辣(しんらつ)な言葉を使った記事は見たことがない」と、日米関係筋は悔しがる。それを国会答弁で認めた首相も首相である。

 肝心の真意だが、複数の英和辞書によれば、ルーピーには「頭のいかれた」「愚かな」という意味がある。米俗語だけに、日本語訳は英語を生業とする専門家をも悩ませた。ケイマン氏は続報で、島根大学の教授が日本のメディアがルーピーの意味について、「愚かな」と「いかれた」の2通りに解釈していると指摘し、真意はどちらなのだと問い合わせがあったことを紹介した。

 ケイマン氏の答えは、「組織の意思決定について十分な情報を得ているという意味での『輪の中に入っている』状態とは正反対の意味」であり、「現実から変に遊離した人」だと釈明した。具体的には、浮気発覚後の会見で、離婚されそうな妻に「会見の出来はどうだった?」と聞いた州知事をルーピーの例に挙げた。だとすると、かつて日本ではやった重度の「KY(空気が読めない)」にニュアンスが近いのかもしれない。

 重盛は出家して第一線から身を引いた。ルーピーか否かはこの際脇に置く。鳩山首相の対応を注視したい。
(ささき るい)

(MSN産経ニュース、http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100509/stt1005090313000-n1.htm