先日、新聞社主催のフォーラムで「年金収入300万円の手取額は、10年前は290万円だったのが、今年は264万円(65歳・東京23区在住)。10年間で26万円も減っている」という試算を出したところ、参加者の顔がこわばるほどの反応があった。年金手取額減少は、増税と社会保険料アップによるもの。300万円に対する26万円の減少は、現役世代よりも大きな打撃を受けているといえる。
サラリーマンの公的年金の平均的な受給額は、200万~260万円程程度であるが、300万円の試算は企業年金などの上乗せがあるケースである。10年前に年金300万円の手取額を試算したメモによると、国民健康保険料が10万円程度で、所得税・住民税はかかっていなかった。税負担が発生するようになったのは、2005年に老年者控除や公的年金控除額の縮小などの65歳以上の増税策が実施されてから。また、’00年に介護保険が導入され保険料負担が発生し、国民健康保険は収支の悪化から毎年のように保険料が上がっている。
退職直前に勤務先から教えてもらえる年金額は額面金額なので、それで老後の生活設計を立てても絵に描いた餅となる。手取額を知り、それで予算を組むことが肝心だ。
勤務先によっては、退職金の全額または一部の年金受取を選択できる。その場合、残額を1~2%で運用してくれるから自分で資産運用を考えなくてもよい、給料のように定期的に収入があると使いやすいといったメリットがあるが、前述のように税金、社会保険料の負担が増えるというデメリットは意外に知られていないのだ。
国民健康保険料と介護保険料の計算方法は市区町村によって異なるため、退職金を一括受取するか年金受取するか、どちらが「トク」なのかは、ケースバイケース。運用利率によっても異なる。
しかし、年金受取を選択して運用利率が確定した後、国民健康保険料と介護保険料が年々上がっていく可能性は少なくない。支給額は将来にわたって固定、でも手取額は年々減少という事態になりかねないので、選択は慎重にする必要がある。
民間の個人年金なども同様に税金と社会保険料の負担増の要因となる。公的年金だけではゆとりある老後は迎えられないと、若いうちからお金を貯め自助努力した結果、老後に多くの負担を強いられる。
一方、’09年度の与党税制改正大綱によると、証券優遇税制は延長される模様。将来の税制改正がまったく予想もつかない若いうちからコツコツと老後資金を貯めてきた人に負担増を強いて、退職金を元手に資産運用をした人を優遇する国の政策はとてもバランスが悪いのではないだろうか。
筆者プロフィール
生活設計塾クルー 深田晶恵
「日経マネーDIGITAL」FP快刀乱麻より (c)日経ホーム出版社 日経マネー編集部
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