東埼玉病院 総合診療科ブログ

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大腿骨頸部骨折を受傷した虚弱高齢者の手術の効果について

2015-11-03 22:19:21 | 勉強会

 施設や在宅では、虚弱な高齢者の方が多く、転倒による大腿骨頸部骨折を起こす方もしばしばいらっしゃいます。転倒予防に関しては日々意識はしていますが十分に介入できずに、そのような事態となる方もやはりいらっしゃいます。そのようななか、整形外科にコンサルトすることも多いですが、時に手術適応とならない方もいらっしゃいます。これは地域のリソースや各整形外科医の考え方や経験にもよるのかなとは思います。もとのADLや認知症の有無、手術のリスクなど総合的にみての判断になるのかなと感じています。時には、もとのADLが低い方で手術のリスクが高すぎる方は疼痛の程度によっては整形外科に紹介しないこともあります(手術のメリットが少ない場合には受診自体が負担となることもあるかと思います)。今回はそんななか、外山先生が勉強会で大腿骨頸部骨折を受傷した虚弱高齢者の手術の効果について調べてくれました。

 

<大腿骨頸部骨折を受傷した虚弱高齢者の手術の効果について>

•日本整形外科学会「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン(2011)」によると
–非転位型骨折の保存的治療は「偽関節発生率が高いので、全身状態が手術治療に耐えうる症例に保存的治療は行わないほうが良い」(Grade  Id)・・・保存的療法に関してはそれ以外の推奨なし
–手術後の歩行能力回復に影響する因子:「年齢、受傷前の歩行能力、認知機能」
•保存的治療か、手術治療か?
–Cochrane(Handoll 2008):両者のアウトカムの違いを示すエビデンスは乏しいと結論。
–手術群では偽関節形成なくなるが、合併症、死亡率、疼痛(長期)に有意差なし。(N=23 ,Hansen 1994)
–コスト:保存 53970点、CHS 103220点、THA 178198点(1M入院で試算、吉田2004)
•手術するとしたらいつか?
–日本整形外科学会ガイドライン→「できるだけ早く」(Grade B)・・・近年の傾向
–入院後24-48Hと96-120Hでは死亡率は変わらないが、後者は有意に褥瘡リスク高(OR2.2)。120H超えると死亡率も高くなる(レトロ、N=8383、Vidan 2011)
–入院後48H以降の手術→30日後と1年後の死亡率有意に上昇(OR1.41・1.32)(メタアナリシス、N=257367、Shiga 2008 )
•保存的治療の予後
–170人の嵌入骨折を前向きフォロー→86%で骨癒合(Raaymakers 1991)
–歩行能再獲得率:95.5%(平均23ヵ月、岡村2006)、37.5%(平均15ヵ月、寺井2003)、16.7%(24ヵ月、山形2004)、0%(平均17ヵ月、秋元2006)・・・報告者によって差が大。患者選択に加え、リハビリの経過も大きく影響か?
•手術治療の予後(歩行能再獲得率)→認知症の有無は大きく影響
–認知症なし71%、あり36%(有意差あり)(藤井2006)
–認知症なしで80歳未満76.4%・80歳以上54.7%(有意差あり)、認知症ありで80歳未満13.3%・80歳以上11.8%(有意差なし)(成田2003)
 
 
 基本的には、一般的にも言われているように、「できるだけ早い段階で手術を行う」というのが原則なのかとは思います。ただし、明確なエビデンスは必ずしも豊富ではなく、もともとADLが低い方や認知症が高度な方に関しては手術のリスクも考慮した個別化が必要となるのかもしれません。基本的には整形外科にコンサルトするのがよいとは思いますが、様々な理由で受診へのバリアーがある場合(患者や家族が希望しない・移動手段が容易ではない)には、どれくらい受診をすすめるかは一律的なものではないのかなと再認識しました。特に、もともとADLが低い方や認知症が高度な方に関しては、手術による疼痛の緩和という観点が1つのアウトカムとなると思いますが、これらに対しては明確なものはあまりないようです。
 また、これからくるさらなる高齢社会にあたっては、手術適応にはならなかった大腿骨頸部骨折の高齢患者を、在宅や施設でどのように疼痛管理を行い、合併症(肺炎や褥瘡)の予防を行うか、廃用を最低限にするかなどの課題はプライマリケア医が行う重要な課題の1つなのかなと感じていますし、それらを模索していきたいなと思っています。