東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

施設でのデスカンファレンス

2015-10-20 22:18:16 | カンファレンスの話題

 今日は、嘱託医を行っている2つの特養のうち1つの施設(仮にB施設)でデスカンファレンスがありました。最近、施設お看取りとなった方がいたため行いました。実はB施設では、医師・施設スタッフ・家族が看取りに向けて意思統一して看取ったという意味では、はじめての施設お看取りでした。以前もブログに少しのせましたが、もう1つのA施設も含めて、施設看取りに関して実際に行えるようになって、まだ1年もたっていません。もともと両方とも看取りを行っていない施設ではありましたが、施設スタッフともいろいろ相談したりカンファレンスを行いながら、施設入所者さんや家族へ最期の場の選択肢を増やすという意味で看取りを行う体制作りを少しずつしてきて、ようやくいろいろと形になってきたところです。当然、施設スタッフのがんばりがほとんどです。A施設では、本日5件目の施設看取りがありました。だいぶ、施設側も慣れてきているのを感じます。施設のスタッフが大勢でみおくる様子は、その利用者さんにとって心地よい生活の場であったことを我々が実感する1つの機会です。

 本日のデスカンファレンスは、病棟からも看護師が参加しました。亡くなった方が病棟にも入院していたことがある方だったですし、ぜひ参加してもらいたいなと思い、声をかけさせていただきました。A施設でもデスカンファレンスは行っておりますが、いつも医療者にとって学びが多い内容です。どのような気持ちで施設スタッフの方々がケアにあたっているのか、その熱い思いを聞く機会でもあり、またその中でどのような葛藤や悩みを抱えているのかを知る貴重な機会です。本日、特に新たな学びがあったのが、施設でのお看取りの場合、他の利用者さんとの別れの場でもあるということです。これはお恥ずかしながら、今まであまり意識したことがありませんでした。在宅では、主には家族との別れの場となります。しかし、施設では家族・施設スタッフ・他の施設入所者さん(同居人であり、友人)との別れの場となります。

 まだまだ、看取り自体がはじまったばかりではあり、課題もたくさんあるとは思いますが、これからも施設スタッフとコミュニケーションをとりながら看取りの質を高めていきたいと考えています。


認知症のBPSDに対するコリンエステラーゼ(ChEI)阻害薬の効果について

2015-10-20 21:49:16 | 勉強会

 認知症のBPSDに対する非定型含めた抗精神病薬のデメリットについては、以前勉強会の内容紹介という形でこのブログで掲載させていただきました。基本的には、非薬物的な介入でどうにかならないか模索していくようにはしていますが、様々な状況のなかで薬剤を使うこともあります。抗精神病薬を少量から開始することもあるのですが、やはり気になるのは害の部分ではあります。今回は、比較的害が少ないコリンエステラーゼ(ChEI)阻害薬のBPSDに対する効果について調べてみました。

 

<認知症のBPSDに対するコリンエステラーゼ(ChEI)阻害薬の効果について>

◆認知症のBPSDに対するコリンエステラーゼ(ChEI)阻害薬の効果は?

★認知症疾患治療ガイドライン(2010,日本神経学会)

「推奨」の部分には記載ないものの本文に記載あり

システマティック・レビュー(以下Sys Rev)によると、「軽~中等度のBPSD患者はcognitive enhancerによって治療すべきであり、 ChEIは無関心・精神症状・情緒不安定・気分・脱抑制・異常行動に対して効果がある。メマンチンは情緒不安定で攻撃的な行動に対して有効かもしれない」との記載。

★上記のSys Rev(Herrmann Nら,Can J Psychiatry 2007)

BPSDに対して、 ChEIとメマンチンは非定型精神病薬ほどではないが、軽度から中等度の症状に対しては効果あり

★RoddaらのSys Rev(Int Psychogeriatr 2009)

アルツハイマー型認知症(以下AD)のBPSDに対して、 ChEI の効果を14のRCTについて分析。ほとんどの研究ではNPIを使用。全体的に2次アウトカムが多かったり、 ベースラインのNPIが低かったりの研究上の限界があるが、代替の安全で効果的なマネジメントがない中では、 ChEIの使用は適切であると結論。

 ⇒軽~中等度のBPSDに対してはChEIを使用するのもよいか。(ただし、重度でないBPSDに薬剤使用するかは・・・?)

◆では、 ChEIやメマンチンの中でどの薬剤がBPSDによい?

★ I.A.LockhartらのSys Rev

(Dement Geriatr Cogn Discord Extra 2011)

ADのBPSDに対してドネペジルとメマンチンの効果を比較したSys Rev⇒6つのRCT(ドネペジル4、メマンチン2)について分析。アウトカムはNPI。ドネペジルはプラセボと比較して有意に改善。メマンチンは有意差なし。ただし、ドネペジルとメマンチンを比較すると有意差なし。

★Cumboらの報告(J Alzheimers Dis 2014)

ADのBPSDに対して、ドネペジル・リバスチグミン・ガランタミン・メマンチンの効果を比較したRCT

177例を対象に、4群に分けて12カ月追跡。ガタンタミン以外は有意にNPI・BEHAVE-ADが改善。特に、リバスチグミンとメマンチンにおいてより改善を認めた。その2剤ではagitation/aggressionが最も高い改善を認めた。いずれも副作用は一時的であったり、軽度のものであった。

 ⇒現在のところ、BPSDに対して4つの薬剤を比較した研究は多くないのが現状のよう。

 

 実際には、認知症の進行抑制も含めた合わせ技で処方を行うことも多いと思います。実際にBPSDのみに対して処方行うという状況がどれくらいあるかはセッティングにもよるでしょうね。どちらかというと、“軽度~中等度のBPSDがあるアルツハイマー型認知症の患者さんに対して、進行抑制のためにくすりを使うときに、家族などにBPSDに対しても多少効果あると思いますよと情報提供し、抗精神病薬を使わずに経過をみる”とか、“軽度から中等度のBPSDがある方で家族や施設から薬剤投与のニーズが強いときに、なにも薬剤が入っていなければこれらの薬剤から使用してなんとなく納得してもらいつつ症状の経過をみる”とかの使い方かなと個人的には感じました。また、細かいところではありますが、ドネペジルはかえって興奮などが悪化する方もいるのでそのあたりの説明は必要ですよね。