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関口尚『はとの神様』

2021年01月05日 | 書評

関口尚『はとの神様』集英社文庫。

         

 1986年ごろ。
 みなと、悟、ユリカ、三人の小学5年生。それぞれ問題を抱えている。問題のない家庭や悩みのない小学生などいないというほど、当たり前のことのように描かれる。継母に虐待されているみなとを父は黙って見ている。悟の母は、女癖が悪い上に鳩レースに熱中する夫を捨てて家を出た。ハーフのユリカは目立つ容姿が嫌だった。

 ユリカが家を出たいと言う。それなら鳩を飛ばしに稚内へ行こうと、トラックの荷台に潜んで出発した。青森で見つかり捕まってしまうが、駆け付けた悟の父が稚内行きに同意し、車を飛ばした。
 稚内で、鳩レースの鳩と一緒にユリカの鳩を放した。帰還を鳩の神様に三人で祈る。しかし、ユリカの鳩は帰らなかった。神様などいないと思い知った。

 時は進み、2010年の今が描かれる。
 成長した三人。問題を抱えていたものの、それぞれ深刻な事態にはならずに大人になり、それなりな人生を歩んでいる。

 というような、優しい小説だ。

 しかし、これを子供には読ませたくない。家庭で虐待を受けてもじっと我慢をして、誰にも助けを求めず、少しでもいいから自分の力で乗り切って生きていく。それは誰にでもできる事だから、深刻に考えずに時を過ごしていればみんな大人になれる。今虐待を受けている子供にそんなことが言えるのだろうか。虐待を受けたら、いじめを受けたら、助けを求める、逃げる、闘う、騒ぎ立てる、泣く、暴れる。とにかく何かの行動を起こすことを教えなければならない。じっと我慢をしろなんて言ってはならない。

 いい大人が子供の頃を思い出して、あんなこともあったけど何となく大人になってしまったな~と、穏やかにボーっとして癒されたいなら読むべき本である。しかし、過酷な現実を生きる子供たちには、泣き寝入りをせずに戦う方法を教えるべきである。