ねじめ正一『鳩を飛ばす日』文春文庫。
昭和30年代頃の、小学生の少年を主人公とした家族の物語。
同級生からレース鳩を貰い、家で飼う。当時は子供でも鳩を飼うことが流行った。手作りの小さな小屋で飼えたが、レースに出すとなると費用も掛かり、小学生だけでは難しかったと思う。
両親と一人息子の三人家族の家に、父の妹の娘が引き取られて暮らすことになる。両方の家はそれぞれに混乱し、子供たちは悩みつつ成長する。そんな家族の生活や思いが丁寧に描かれている。悲しくも、温かく美しい、感動の物語である。
ただ、レース鳩についての基本的な記述に誤りがあり、その点だけが気になって仕方がない。
例えば、「鳩は一度に3個たまごを産む」とあるが、2個の間違いである。
また、鳩のレースでは、帰還した鳩が小屋へ入った時が到着の時間になり、順位が付けられる、とあるのも間違いで、実際のレースでは専用のタイマーが使用される。
その少しのことを除けば、穏やかで温かな人情あふれる、良き時代の物語に、鳩のエピソードはぴったりだと納得できます。