はちみつブンブンのブログ(伝統・東洋医学の部屋・鍼灸・漢方・養生・江戸時代の医学・貝原益軒・本居宣長・徒然草・兼好法師)

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特別展「医は仁術」・国立科学博物館

2014-03-20 19:04:38 | 医学のはなし

P1000882気候は急に春めき、明るい日差しに、朗らかな陽気、さわやかな風に人々はコートを脱ぎ、上野公園の桜のつぼみは大きく、一斉に咲きはじめるのを待っているようです。

そんな中、国立科学博物館で特別展、「医は仁術」が開催されました。結構、幅広い年齢層の人々が集まり、意外にも小学生などの若い世代も、おそらく親に連れられてでしょうが、来ていました。

展示は五つのブロックに分かれています。

第一章・病はいつの時代も身分の貴賎なく人々を襲う

第二章・東から西から医術の伝来

第三章・医は仁術~和魂漢才・和魂洋才の医~

第四章・近代医学と仁

第五章・現代の医

メインは、「第三章・医は仁術~和魂漢才・和魂洋才の医~」ですね。初公開の杉田玄白と桂川甫周の書幅や山脇東洋解剖図剥胸腹図はここに展示されています。様々な医学書、書画、浮世絵、薬箱、経絡人形、鍼や手術、診察用の道具などなど、主に江戸期の医療の文化的遺産を生で見ることができます。それらの中には芸術的なもの、原羊遊斎作薬箱や奥田木骨のようなものもありました。

ひときわ目立ったのが解剖図の多さと生々しさでしょうか。「刑死者解体図」では、当時の解剖している風景を順を追って見ることができます。坊主頭の人が刑死者の首を切り落とし、腹を裂き、内臓を出し、食道から筒を差し入れ、口でくわえて息を吹き、腸を膨らませて扱いやすく観察しやすくしている絵は、解剖学の図や写真など見るよりもはるかに感性にうったえてきます。

また、ちょっと日本的でおもしろいことに、あらゆる門弟の誓約書、免状のようなものに、流派に関わりなく、学んだことを人に漏らしてはならないというルールが入っているんですね。例えば、「延寿院十七箇条」には、「口伝、心術などみだりに漏らして口外すべらかず」と書いてあります。

中国の医学書、『黄帝内経』*1には、「その人にあらざれば教えることなかれ、その真にあらざれば授けることなかれ。これを得道という」とあり、医学の伝授には人を選ばねばならないと言っているのですが、日本のそれはこれとちょっと違うんですね。

日本の医の秘密性は鎌倉仏教から多くみられる師資相承に基づいているのです。仏教だけでなく神道、武術やあらゆる芸能、なになに流と称するものがそうです。それぞれの流派はその内容で区別されているのではなく、師弟の人間関係によって存在しているのです。ここを逆に考えてしまうと混乱してしまうかもしれません。日本の医学流派の家伝や印可というものは、それら自体が大切であるというよりも、それらが流派の独立性、閉鎖性を高める一つの手段であるのかもしれません。

江戸期の大阪の思想家、富永仲基はこう言っていました。

「神道のくせは、神秘秘伝伝授にて、ただ物をかくすがそのくせなり。およそかくすという事は、偽り盗みのその本にて、幻術や文辞は、見ても面白く、聞いても聞ごとにて、ゆるさるるところもあれど、ひとり是くせのみ、甚だ劣れりといふべし。それも昔の世は、人の心すなほにして、これを教え導くに、其の便りありたるならめど、今の世は末の世にて、偽り盗みするものも多きに、神道を教えるものの、かへりて其の悪を調護することは、甚だ戻れりといふべし。彼あさましき猿楽・茶の湯様の事にいたるまで、みな是を見習ひ、伝授印可を拵へ、あまつさえ価を定めて、利養のためにする様になりぬ。誠に悲しむべし。然るにその是を拵へたる故を問ふに、根機の熟せざるものには、たやすく伝へがたきがためなりとこたふ。是も聞こゆるやうなれども、其のかくしてたやすく伝えがたく、また価を定めて伝授するやうなる道は、皆、誠の道にはあらぬ事と心得るべし」*2

医はもちろん仁術です。しかし流派を立てるとそれの産業化がはじまります。本居宣長も医師になるとき、武川幸順に入門しましたが、その入門費・学費はそうとうなものでした。*3 後藤艮山は銭一貫文をもって名古屋玄医に入門しようとしましたが、お金が少なすぎて断られました。*4

また、薬箱に入っている薬の分類の方法もおもしろいでしょう。薬、漢方薬の原料、生薬は古来、君・臣・佐・使の四つに分類されていました。それが吉益東洞流の薬箱では万・
病・一・毒の四つに、華岡流の薬箱では仁・義・礼・智の四つに分類されています。それぞれ吉益東洞の唱えた医学理論と、孟子の説いた四端ですが、なんとなくその人々の価値観が見えてきますね。

「医は仁術」展では、純粋な医学の発展の歴史とともに、そのような裏側ものぞくことができるかもしれません。

2014年3月15日から6月15日まで

公式ホームページ

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*1『黄帝内経素問』金匱真言論

*2富永仲基、『翁の文』第十六節

*3本居宣長記念館:http://www.norinagakinenkan.com/norinaga/kaisetsu/jyugyoryo.html

*4富士川游、『日本医学史綱要』1

 



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