はちみつブンブンのブログ(伝統・東洋医学の部屋・鍼灸・漢方・養生・江戸時代の医学・貝原益軒・本居宣長・徒然草・兼好法師)

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No.36 二重盲検法と鍼灸有効性の評価(その2)

2008-05-26 19:31:44 | 医学のはなし

鍼灸有効性の評価に薬物などを評価する二重盲検法を利用することは可能なのでしょうか。


そもそも二重盲検法とは心の働きを極力排除しようとする試験方法です。その思想は唯物論哲学に基づいています。これは心を持たないようにみえる薬のような物質を評価するには適しています。しかし鍼灸の有効性を評価する場合は、金属で出来た鍼と、蓬からできた艾という物質を評価するわけではありません。


何を評価するかというと、心をもった人が心をもった人に鍼と灸を介して関係をもつ、その行為を評価するわけです。


プラセボ効果は心理的に発生することがありますし、そうでない場合も考えられます。プラセボ効果を起こしたものが何であるか見つけようとするときには、そこに意識の指向性が働きます。各人の注目するものによってプラセボはプラセボではなくなります。


伝統医学というものは「五臓と心」の関係ように物質と心というものを切っても切り離せないものとして捉えています。身体を鍼灸で治療しようとすることは同時に心にも働きかけているのです。


そしてここに矛盾が生じます。心が関係するものから心を排除する評価法は適当ではありません。


それはカウンセラーとクライアントが関係する心理カウンセリングを二重盲検法で評価することが不可能なようなものです。また外科手術の評価が治療成績というもので表されるように、鍼灸有効性の評価は二重盲検法とは別の手段が必要なようです。


(ムガク)


No.35 都市構造と経絡

2008-05-22 17:12:17 | 経絡のはなし

鍼灸などの伝統医学は古代中国で生まれました。その「中国」には中国文明が始まり、現在は中華人民共和国となっている、黄河や長江を含む地域の意味があります。しかし春秋時代には中国には首都という意味があり、前漢の時代には同じ文化・生活習慣を持つ国という意味がありました。


さて中国は伝統的に古代から清朝のラストエンペラーの時代まで城郭都市国家でした。国とはその城壁に囲まれた巨大な都市を意味していました。大陸の上にポツリポツリと無数の国があり、国と国を蜘蛛の巣を張り巡らすように結ぶ道が存在していました。国の城壁から一歩足を踏み出すとそこは国外であり、異民族が生活するような無法地帯もありました。


大陸に点状に都市が存在し、それを結ぶように線状に道がまた存在する。この構造を見ると人体の経絡の概念と非常に似ていると感じます。都市と道その関係は世界中に存在します。中国の場合はその各都市のほとんど全てが城壁ではっきり区切られていた点がユニークです。


都市構造は防衛上の必要性から生み出されたものでしょう。その都市構造の中で生活しているうちに、人々は経絡現象を発見したのでしょうか。経穴(ツボ)も少しずれたらツボではない。そういう厳密性も硬くて丈夫な城壁から生まれたと考えると面白いですね。


(ムガク)

目次


No.34 二重盲検法と鍼灸有効性の評価(その1)

2008-05-13 20:35:40 | 医学のはなし

新しい医薬品を世に送り出す場合、その開発において非臨床試験と臨床試験の二段階を通過する必要があります。。前者は試験管等の非生体におけるものや人以外の動物を使ったものであり、後者は健康な人そして目的の病気をもった人を対象とした試験です。この試験を通過して有効性が有害性より優ると評価されると、医薬品として世に出回ることが出来るようになります。ただ一度医薬品と認められても、安全性や有効性はその後も評価されます。この評価が悪いとその医薬品は姿を消していきます。


二重盲検法という手法は、ある目的の病気にその薬が有効であるか比較試験をするときに用いられます(臨床第3相試験)。これにはその評価する薬とプラセボ(偽薬)の2種類を用意します。そして薬を投与し評価する側も患者もそれがどちらであるか隠されて、第三者のみが分かるようにしておきます。これにより「これは薬だから効くはず」とか「これはプラセボだから効かない」という思い込み(バイアス)による評価が排除されます。


なおプラセボ効果は心理的に起きるとは限りません。信じる信じないに関わらずその効果が現れるからです。またその人が信じているということは科学的に測定できません。


この二重盲検法は薬という物質を評価するにはとても有効な手法です。しかしそれでも臨床試験にバイアスというものは入り込んできます。例えば製薬企業が資金提供した臨床試験ではその結果が製薬企業に有利に解釈されると報告されています。(註1)


現在、鍼灸の有効性を科学的に実証しようとする動きがあります。そしてその時避けて通れないのが臨床試験です。ただし実証とは須らく純粋経験に負うべきものであり、それは個人的なものです。それを科学的にしたいと望むと統計学が関わってきます。


はたして鍼灸の有効性の評価に二重盲検法は利用できるのでしょうか。


(註1)スペインLa Fe小児病院のAntonio Nieto氏、Arch Intern Med誌2007年10月22日号


(ムガク)