In the Nest

ちいさな巣の中から、見上げる空。

2005-06-29 22:07:20 | Weblog

子供のころ、
夕焼けが始まると、住んでいたマンションの最上階に上って
ひとりで空を眺めていた。

そこから見る空はとても広くて、
美しく、見飽きることがなかった。
すっかり暗くなってしまうまで、
いつまでもそこにいた。


何年かが経って、
家族は別のマンションに引っ越した。
この場所から空を見ることなんて、
二度とないだろうと思っていた。

私は新しいマンションにはほとんど住むことがなく、
家を離れてひとり暮らしになった。
仕事を必死で覚えながら、夢中で過ごした。
好きな人が出来て、彼の部屋で一緒に暮らすようになり、
結婚して、子供がふたり生まれた。
その頃にはもう、
ふたたび故郷に住むことなど考えもしなかった。
故郷はもう、遠い思い出の中にしか存在しなかった。


だけど、
ある日、夫は家を出て行った。
四歳と一歳の子供をかかえて、
それでも私は自分でなんとかしようと頑張ってはみたけれど、
結局どうにもならなくなって、
一年後、新幹線に乗って故郷へ戻って来た。

昔なじみの近所のおばさんが、
「今、ちょうどうちの部屋空いてるから、
 そこに住んだらええ。」
と、声をかけてくれた。
そして、
私は十数年ぶりに、
子供のころ住んだ、あのマンションでふたたび暮らすことになった。


「ちょっと郵便受け見てくるから。」
テレビに夢中になっている子供たちに声をかけて、
私は、ひとりでマンションの最上階に上る。
夕焼けの時はもちろん、
月や星を眺める時も、
ただ、ひとりになりたくなった時も。

そこから見る空は、
子供のころと何も変わらない。
じっと見つめていると、
自分がまだ小さい子供のままであるかのような、
錯覚すら起こしそうになる。


でも、私はもう子供ではない。
私はいつのまにか、
空や木や花の美しさを頼りに生きている大人になって、
その一瞬の輝きを写真の中にとどめようと、
いつも、カメラを持ち歩く。

いつかまた、
ここから出てゆく日もあるのだろうか。
今の私はもう、
明日の自分さえ、確かに思い描くことはできない。
それでも、
不確かな明日をすこしでも輝かせるために、
前を向いて、歩き続けることを止めはしない。



この町のどこかに

2005-06-24 22:15:13 | Weblog


  ここが知らない町ならいいのに。
  私はいつもそう思った。
  ここが知らない町で、この町のどこかに、
  私たちの帰る家があるのならいいのに、と。

           江國香織『神様のボート』より



夏の声

2005-06-23 18:30:51 | Weblog

休日の昼間、
ベランダの植物たちをいじっていたら、
どこからともなく聞こえてくる声。


ジィーーーーーーーー・・・・・


えっ?!
あれは、まぎれもなくセミの声。
ずいぶん早いなぁ。

でも、
考えてみれば、六月ももうあと一週間で終わり。
今年も、ろくに雨の降らないまま
真夏になってしまうのかな。


写真は、ししとうの花。
辛ーいししとう、できるかな。



大きいつづら、小さいつづら

2005-06-21 21:54:37 | Weblog


夜、実家へ子供を迎えに行くと、
玄関から入ったところに、こんな紙が貼ってある。


  かみトトのえや
  あきじかん
  あさ7:00からよる9:30


「?」と思いながら部屋に入ると、
娘がかしこまって立っている。

「いらっしゃいませ。
 ここは髪をきれいにととのえるところです。
 びよういん、でもあります。
 どうぞおすわりください。」

あっ、そうか。
美容院ごっこしてるんだ。


「今日はどうなさいますか?」
「んっ、えーとね、シャンプーして、カットしてください。」
「かしこまりました」

娘は、
神妙な顔つきで、シャンプーのまねっこをしてくれる。
あぁ、
お腹空いてるんだけどな。
美容院ごっこよりも、レストランごっこがよかったな。
そう思いながらも、
しかたなく、しばし美容院のお客になりきる。


「・・はい、終わりました。
 今日はおみやげがあります。
 大きいつづらと、小さいつづらがありますが、
 どっちがいいですか?」

えっ?
つづら?
こりゃまたえらい古風な・・

「えーっと、こういう時は、大きいのをもらうと
 なんか悪いことが起こりそうだから、
 小さいつづらでいいです。」
「いいえ、そんなことないですよ。
 大きいつづらでも大丈夫です。
 そのかわり、
 家に着くまで、決してあけてはいけませんよ。」

・・・。
なんかだんだん、
昔話の世界になってきた。


「あのー、やっぱり、小さい方でいいです。
 どうもありがとう。」
「ありがとうございました。」

小さな箱を受け取り、
部屋を出たところで、
ノリのいい私は、ちょっとお芝居をした。

「うーん、家に着くまであけるなって言われたけど、
 ちょっとだけ、あけてみよっかなー。
 そぉっと・・・・・うわーーっ、
 おばあさんになっちゃったーーーっ。」


すると、
娘がしらけた顔で言った。

「そんなの入ってないよ。
 くまちゃんの人形だよ。
 おかあさん、喜ぶと思ったのに。」

娘は、プンとして行ってしまった。


・・・・・。
むずかしい年頃だ・・



さ、
夕飯にしよ。



木槿

2005-06-20 23:18:15 | Weblog

もう、
ムクゲが咲き始めている。

昨日載せたタチアオイも、
このムクゲも、
そしてハイビスカスも、
みんなアオイ科の仲間。
たしかにどれも、
大きくてひらひらっとした感じの花びらに
似た雰囲気を持つ。


ムクゲは一日花らしい。
こんなに派手に咲いているのに、
一日で終わりだなんて、なんだかもったいない気がする。

それでも、
この輝く一日のために、
ムクゲは美しく咲く。
たとえ明日という日が来なくても、
こんなにしあわせそうに咲いている。



strawberry dream

2005-06-19 12:38:05 | Weblog

春、
食べ残したイチゴのつぶつぶを、
つまようじでほじくり出して土にまいたら、
無事に芽が出て双葉が出て、
もう、こんなに本葉が大きくなった。


咲いてる花を買って来るよりも、
種をまいたり、さし芽をしたりして
ちっちゃいところから育てるのが好き。
といっても、日中ほとんど家にいられない身なので、
やっぱり、だめにしたものも数知れず・・だけどね。

日に日に、変化していくもの。
成長していくもの。
そういうものがそばにあることが、
なんとなく、嬉しいのかもしれない。
エネルギーをもらえるような、
そんな気がするのかもしれない。


ミニトマトは青い実がついて、
ししとうは、白い花が咲いた。
あぁそうだ、早くシソの種をまかないと。

今年のうちのベランダは、
なんだか、食べ物ばっかりだなぁ。



青空

2005-06-18 21:22:57 | Weblog

 青い空は
 どこまでも続く
 この心も
 空のように
 限りなく広がってゆけばいいのに
 すべてを包みこむように
 どんなことも
 受け容れて微笑んでいられるように



もう、ちゅーもしない

2005-06-14 22:44:51 | Weblog

娘をちょっと叱ったら、
プンプン怒って、
こんな手紙をよこした。


そっか。もう「ちゅー」もしてくれないんだ。
さみしいなぁ。


心の中で笑いをこらえながら、
かなしそうな顔を作って、
私はつぶやいた。
娘は黙って、
遠くから、こちらをにらんでいる。


一時間ほど経った頃、
娘はそろそろと近づいて来て、
「・・やっぱり、おかあさん大好き。」
と耳元で囁いた。
「ほんと?じゃ、ちゅーしてくれる?」
私が言うと、
ほっぺにチュッて、音を立てて盛大にkissしてくれる。
あー、よかった。


私も、好きなひとにイジメられたら、
言ってみようかな。
「そんなこと言うなら、
 もう、ちゅーもしないゾ」
・・ってね。