A Diary

本と音楽についてのメモ

『現代イギリス社会史1950-2000』

2006-03-13 18:21:44 | その他の読書
■アンドリュー・ローゼン『現代イギリス社会史1950-2000』
(川北稔訳、岩波書店2005)

映画『リトル・ダンサー』(イギリスではタイトルが『ビリー・エリオット』だった)を観た感想の話をしていたとき、その場にいたイギリスの友人は、サッチャー政権下での労働組合いじめを思い出す、と語っていた。この映画には、当時の炭鉱労働者のストライキをめぐる場面があって、彼はそのことを言っていたのだ。これは実際にはどのようなできごとだったのか。

近年のブッカー賞受賞者には、非白人の作家も目立つようになった。有名どころでは、1971年『自由の国にて』で受賞したV.S.ナイポール、1981年『真夜中の子供たち』のサルマン・ラシュディー、そして1989年のカズオ・イシグロ(『日の名残り』)。こういうマルチ・レイシャルな社会は、戦後から徐々に顕著になってきたが、それにはどのような事情があったのだろうか。

デイヴィッド・ロッジのどの小説だったか忘れてしまったが、登場するその大学はもともと「ポリテクニク」で、それが大学に昇格したものだ・・・という記述が出てくる箇所があった。この「ポリテクニク」とはどのようなものだったのか。またそれが大学になった経緯は?

イギリスに旅行すると、日曜日も商店が営業しているのに気がつく。ただし営業時間は六時間のみだ(たとえば、午前10時から午後4時まで、とか)。本来、日曜日は安息日であるはずだが、近年、人々の宗教への態度はどう変化しているのか。

この本の訳者は、あとがきで次のように述べている:「昨今のわが国では、イギリスについては、王室や紅茶やパブにまつわるような『アングロ・マニアック』な記述が巷に氾濫している一方、冷静な現代社会の分析はひどく欠落している・・・」ほんとうにその通りだと思う。読んでみたが、この本は特別なことを書いているわけでもないし、細かい点を除けば目新しい発見があったわけでもない。でも、僕自身の滞英経験や、イギリス戦後作家の読書経験で、感じたり、気がついたりしたことがきちんと説明されている。

以前、ロンドンに住んでた頃の日記に、イギリスの中等教育の事情にちょっと触れたこともあるが、そういうコンプリヘンシブ・スクールとか、インディペンデント・スクールという学校への教育行政の変化も、読んでみて納得することができた。イートン校やウィンチェスター校といった有名パブリック・スクールと、オクスフォード・ケンブリッジの両大学についての本はたくさんある。でも、数では圧倒的な普通のイギリスの教育事情を知るには、こういう本に接するしかない。

個人的には、この本で言及されている他の細かいトピックについても、あれこれ思いついてしまう。ブルーウォーターやブレント・クロス(この二つが何のことだかわかりますか)、M1やM25といった道路のこと、テイト・モダンやロンドン・アイ・・・羅列していくときりがない。こうやって、いろいろ感想を言いたいことが出てくるというのは、内容がしっかりしている本である証拠だろうか。みんなこの日記のネタになりそうだけど、とくに、公営高層住宅のことと、ミレニアム・ドームについては、また別の機会に書きたい。


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2 コメント

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早速 (KAFKA)
2006-03-17 01:09:12
図書館から借りてきて読んでみました。ちょうど現代イギリス史の本が読みたいと思っていたので、朗報でした。



18,19世紀のイギリス小説も面白いですが、現代のイギリス小説も捨てたものではないと思います。ブッカー賞周辺の作家の作品をはじめ、現代のイギリスには、アメリカナイズされたエンターテイメントや、日本的な純文学の枠を軽く飛び越えるような作品が溢れていますね。



実はかつて専門をラシュディにしようとしたところ、指導教官から命の危険を指摘され、怖じ気づいて止めた記憶があります。こういう話が冗談にならない世界に生きていると思うと恐ろしい反面、文学も捨てたもんじゃないな、と思ったりもします。



個人的には、カズオ・イシグロも気になるところです。日本文化以上に日本的な語り口は小津映画に影響を受けているそうですが、一見リアリズムのようでいて、読み進めていくと、明らかにそれが「見せかけ」であることわかります。一作目の『遠い山並みの光』は、よく読むと主人公の記憶に「ズレ」があって、実はそれが主題に関わってくるという厄介な代物だったと記憶?しています。文章がシンプルなだけに恐ろしい小説だなと・・・また話がズレてしまいましたが、トリストラム・シャンディに免じてお許しを。
まともな参考書 (たいせい)
2006-03-18 12:30:35
どうでしたか。僕は「まともな内容だなあ」と感じたので日記に取り上げました。内容は、この手の本なので、それぞれのテーマに奥深く入り込むようなことはできませんが、よくまとまっているほうだと思います。ちなみに、この本の「はじめに」のページで言及されていますが、



Marwick, A.,

British Society Since 1945 (London: Penguin, 1996)



という本と、同じ人が書いた



Marwick, A.,

Culture in Britain Since 1945 (Oxford: Basil Blackwell, 1991)



という二冊が、僕がイギリス現代文化史のことをあれこれ書いたりするときに調べる参考書です。どちらも出版から時間が経過して、ちょっと古くなってきてしまいましたが。僕にはハードカバーの専門書は重荷なので、こういうペイパーバックを愛用しています。



ところで、このマーウィックさんの名前をアマゾンで検索したら、『The Arts in the West Since 1945』という本が挙がっていて、ちょっと欲しくなってしまいました・・・。同じ人の本ばかり読むと、内容が偏ってしまいそうですが。



ラシュディとイシグロについては、僕はまだ彼らの有名なものしか読んでいないので、あれこれ言う資格がないですね。あえて言えば、二人とも「うまく書くなあ」と思います。表面的に読んでしまうと、それはそれでおもしろいので、本質を見抜けずに終わってしまう、というような感じでしょうか。



ラシュディもイシグロも、これからもっと読んで開拓していきたい領域ですが、僕の興味の中心(50年代~70年代)よりは、二人とも活躍の時代がちょっと遅れているのが難点です。こんな感じなので、ブッカー賞のことをあれこれ書きましたが、最近の受賞作などは、もう追いつけません。