最近BBCのRadio4をインターネットで聴いていると(たいてい聴きつつ他のことをしているのだが)、ジョン・ベッチマン(John Betjeman・・・ベッチェマンと書くべき?)の名前が頻出する。注意して聞いていたら、ちょうど生誕100年を迎えるということで、この詩人の特集番組が組まれていたのだった。
BBCのこの特集のウェブサイトで、彼の詩をいくつか聴けるのだが、僕が個人的におもしろいとおもったのがこれ。題して「A30での瞑想」・・・A30とは、道路の番号のこと。イギリスではA1とかA303とか、そういうふうに番号付けされている。ちなみに、B275 とかM25 とか、Bで始まるものと、Mで始まるものもある。BはAよりも交通量の少ない道路のこと。Mは高速道路(motorway)。日本だと国道何号線とか、そういう感じ。だから「国道30号線での瞑想」という具合に意訳したほうが、イメージは伝わりやすいかもしれない。
日本でも国道1号線とか、有名な道路はどこからどっち方面に向かうとか知られている。とくに車を運転する人ならそうだろう。イギリスでも同じで、たとえばM25と言えば、ロンドンの周りを大きくぐるっと一回りしている環状道路のこと。そして、このA30は、ロンドンの南西からずっとソールズベリーとか、エクセターとか、西のほうに向かう道路。一部は高速道路(M)に昇格しているとのこと。
* * * * *
Meditation on the A30
A man on his own in a car
Is revenging himself on his wife;
He open the throttle and bubbles with dottle
and puffs at his pitiful life
She's losing her looks very fast,
she loses her temper all day;
that lorry won't let me get past,
this Mini is blocking my way.
"Why can't you step on it and shift her!
I can't go on crawling like this!
At breakfast she said that she wished I was dead-
Thank heavens we don't have to kiss.
"I'd like a nice blonde on my knee
And one who won't argue or nag.
Who dares to come hooting at me?
I only give way to a Jag.
"You're barmy or plastered, I'll pass you, you bastard-
I will overtake you. I will!"
As he clenches his pipe, his moment is ripe
And the corner's accepting its kill.
John Betjeman(1906-1984)
「道路A30での瞑想」
一人の男が車に乗って
妻に仕返しをしようとしている。
男はスロットルを開き、わずかな吸いさしの残るパイプに
みじめな生活の思いをくゆらせる。
あいつは急にふけこんできたな。
あいつは一日ずっと怒っていやがった。
あのトラックはおれを追い抜かせようとさせないし、
このミニは道をふさぎやがる。
なんでもっと急がないんだ、あいつを出し抜けよ。
こんなチンタラ走っていられないんだよ。
朝メシのとき、あいつ、おれなんか死ねって言ってたな。
おかげでキスをしなくて済んで助かったよ。
金髪のかわいいやつをひざに乗せるんだ、
文句を言ったり、うるさく言うような女はうんざり。
おれさまにクラクションを鳴らすのは誰だ。
おれはジャガーにしか道を譲らないことにしているんだ。
本気か、頭おかしいんじゃないか。抜かしてやる、ばかものめが。
絶対おまえを抜いてみせる、絶対だぞ!
男はパイプをぐっと噛み、彼の機は熟した。
そして、カーブがその死を受け止めることになる。
ジョン・ベッチマン(1906-1984)
* * * * *
日本語訳は、こんな内容の詩なんだね、という参考程度にしていただくこととして、原文の韻のおもしろさを楽しんでもらえればといいと思う。
彼は1972年から亡くなる1984年まで桂冠詩人(Poet Laureate)だった。でも、人気の秘密はどうやらこういう肩書きだけではないらしい。今回のこの詩もそうだけど、まず、こういうユーモアのあるユニークな作風が好まれた。さらに、1960年代からテレビ番組に頻繁に登場していたことから、名前も顔も覚えられて、多くの人に親しまれたことにあるようだ。日本ではあんまり知られていないのと対照的。
※BBC Radio 4のベッチマン特集:
http://www.bbc.co.uk/radio4/arts/betjeman_season.shtml
BBCのこの特集のウェブサイトで、彼の詩をいくつか聴けるのだが、僕が個人的におもしろいとおもったのがこれ。題して「A30での瞑想」・・・A30とは、道路の番号のこと。イギリスではA1とかA303とか、そういうふうに番号付けされている。ちなみに、B275 とかM25 とか、Bで始まるものと、Mで始まるものもある。BはAよりも交通量の少ない道路のこと。Mは高速道路(motorway)。日本だと国道何号線とか、そういう感じ。だから「国道30号線での瞑想」という具合に意訳したほうが、イメージは伝わりやすいかもしれない。
日本でも国道1号線とか、有名な道路はどこからどっち方面に向かうとか知られている。とくに車を運転する人ならそうだろう。イギリスでも同じで、たとえばM25と言えば、ロンドンの周りを大きくぐるっと一回りしている環状道路のこと。そして、このA30は、ロンドンの南西からずっとソールズベリーとか、エクセターとか、西のほうに向かう道路。一部は高速道路(M)に昇格しているとのこと。
* * * * *
Meditation on the A30
A man on his own in a car
Is revenging himself on his wife;
He open the throttle and bubbles with dottle
and puffs at his pitiful life
She's losing her looks very fast,
she loses her temper all day;
that lorry won't let me get past,
this Mini is blocking my way.
"Why can't you step on it and shift her!
I can't go on crawling like this!
At breakfast she said that she wished I was dead-
Thank heavens we don't have to kiss.
"I'd like a nice blonde on my knee
And one who won't argue or nag.
Who dares to come hooting at me?
I only give way to a Jag.
"You're barmy or plastered, I'll pass you, you bastard-
I will overtake you. I will!"
As he clenches his pipe, his moment is ripe
And the corner's accepting its kill.
John Betjeman(1906-1984)
「道路A30での瞑想」
一人の男が車に乗って
妻に仕返しをしようとしている。
男はスロットルを開き、わずかな吸いさしの残るパイプに
みじめな生活の思いをくゆらせる。
あいつは急にふけこんできたな。
あいつは一日ずっと怒っていやがった。
あのトラックはおれを追い抜かせようとさせないし、
このミニは道をふさぎやがる。
なんでもっと急がないんだ、あいつを出し抜けよ。
こんなチンタラ走っていられないんだよ。
朝メシのとき、あいつ、おれなんか死ねって言ってたな。
おかげでキスをしなくて済んで助かったよ。
金髪のかわいいやつをひざに乗せるんだ、
文句を言ったり、うるさく言うような女はうんざり。
おれさまにクラクションを鳴らすのは誰だ。
おれはジャガーにしか道を譲らないことにしているんだ。
本気か、頭おかしいんじゃないか。抜かしてやる、ばかものめが。
絶対おまえを抜いてみせる、絶対だぞ!
男はパイプをぐっと噛み、彼の機は熟した。
そして、カーブがその死を受け止めることになる。
ジョン・ベッチマン(1906-1984)
* * * * *
日本語訳は、こんな内容の詩なんだね、という参考程度にしていただくこととして、原文の韻のおもしろさを楽しんでもらえればといいと思う。
彼は1972年から亡くなる1984年まで桂冠詩人(Poet Laureate)だった。でも、人気の秘密はどうやらこういう肩書きだけではないらしい。今回のこの詩もそうだけど、まず、こういうユーモアのあるユニークな作風が好まれた。さらに、1960年代からテレビ番組に頻繁に登場していたことから、名前も顔も覚えられて、多くの人に親しまれたことにあるようだ。日本ではあんまり知られていないのと対照的。
※BBC Radio 4のベッチマン特集:
http://www.bbc.co.uk/radio4/arts/betjeman_season.shtml