海への熱い想い・・・こう書くと、なんだか演歌とか、「若大将」と称される歌手及びその歌謡曲とか、そういうイメージがしてしまうが(僕だけ?)、海をあれこれ謳いあげた詩人による、これまたとてもとても有名な詩。声に出して読んでみると気がつくが、リズムがなかなか心地よい。
* * * * *
Sea-Fever
I must go down to the seas again, to the lonely sea and the sky,
And all I ask is a tall ship and a star to steer her by,
And the wheel's kick and the wind's song and the white sail's shaking,
And a gray mist on the sea's face, and a gray dawn breaking.
I must go down to the seas again, for the call of the running tide
Is a wild call and a clear call that may not be denied;
And all I ask is a windy day with the white clouds flying,
And the flung spray and the blown spume, and the sea-gulls crying.
I must go down to the seas again, to the vagrant gypsy life,
To the gull's way and the whale's way, where the wind's like a whetted knife;
And all I ask is a merry yarn from a laughing fellow-rover,
And quiet sleep and a sweet dream when the long trick's over.
John Masefield (1878-1967)
「海への熱き想い」
もういちど海へ行かなくては、あの孤独な海と空のもとへ
一隻の帆船とその舵を操るための星、それだけあればいい
舵輪は跳ね上がり、風は歌いだし、白いセイルがはためく
そして海面には灰色の霧がかかり、灰色の夜明けが始まる
もういちど海へ行かなくては、潮の流れに誘われて
その誘惑は激しくも清澄で、断ち切りようがない
白い雲が空を流れていく風の日、それだけあればいい
はねかかる水しぶきと褐色の泡沫、そしてかもめの鳴き声
もういちど海へ行かなくては、さすらいのジプシーの暮らしへ
かもめの行く道と鯨の進む道へ、そこでは鋭いナイフのような風がふく
愉快な放浪仲間が語るたのしい冒険談、それだけあればいい
長い交代勤務が終われば、あとは静かな眠りと安らかな夢
ジョン・メイスフィールド
* * * * *
ところで、最後の連に「the whale's way」というフレーズが出てくる。ここを読んだとき、なんだかこういう表現とどこかで出会ったなあと思ったのだが、それはかつて勉強させられた古英語のkenning(代称)だった。つまりあのwhale-road(鯨の道)や、 swan-road(白鳥の道)が「海」を表すとかなんとか、ああいうややこしい表現。メイスフィールドがこの辺りを意識しているのかどうかわからない。誰か調べてください。それにしても、Old Englishなんてやむを得ず勉強させられたけど、ちんぷんかんぷんだったなあと思い出す。
あと、最後の行に「the long trick's over」とあるが、この場合の「trick's」は、僕の手元のアンソロジーだと「a seaman's spell of duty」と注が書いてあるので、まあ、そういうことなんだろう。(Macmillan Anthologies of English Literature Vol5 The Twentieth Century, ed. Neil McEwan, Macmillan, 1989・・・学生のときに半ば強制的に買わされた五巻組のアンソロジー。重くて邪魔で、こんなの持って授業に行くの嫌だなと思っていたが、今になって、やっとこうやって役に立つなんてこともある。)
そういえば、僕も高校までは海沿いの街で暮らしていた。家から毎日太平洋を見て育った。(ただし、日焼けした色黒で精悍なイメージとは程遠い。ご承知のとおり文化部系だ。)夏には近くの海水浴場へよく泳ぎに行ったし、父親と一緒に何度も魚釣りに行った。砂浜を歩いて靴に砂が入ってしまう、あの感触。ちょっと懐かしい。
* * * * *
Sea-Fever
I must go down to the seas again, to the lonely sea and the sky,
And all I ask is a tall ship and a star to steer her by,
And the wheel's kick and the wind's song and the white sail's shaking,
And a gray mist on the sea's face, and a gray dawn breaking.
I must go down to the seas again, for the call of the running tide
Is a wild call and a clear call that may not be denied;
And all I ask is a windy day with the white clouds flying,
And the flung spray and the blown spume, and the sea-gulls crying.
I must go down to the seas again, to the vagrant gypsy life,
To the gull's way and the whale's way, where the wind's like a whetted knife;
And all I ask is a merry yarn from a laughing fellow-rover,
And quiet sleep and a sweet dream when the long trick's over.
John Masefield (1878-1967)
「海への熱き想い」
もういちど海へ行かなくては、あの孤独な海と空のもとへ
一隻の帆船とその舵を操るための星、それだけあればいい
舵輪は跳ね上がり、風は歌いだし、白いセイルがはためく
そして海面には灰色の霧がかかり、灰色の夜明けが始まる
もういちど海へ行かなくては、潮の流れに誘われて
その誘惑は激しくも清澄で、断ち切りようがない
白い雲が空を流れていく風の日、それだけあればいい
はねかかる水しぶきと褐色の泡沫、そしてかもめの鳴き声
もういちど海へ行かなくては、さすらいのジプシーの暮らしへ
かもめの行く道と鯨の進む道へ、そこでは鋭いナイフのような風がふく
愉快な放浪仲間が語るたのしい冒険談、それだけあればいい
長い交代勤務が終われば、あとは静かな眠りと安らかな夢
ジョン・メイスフィールド
* * * * *
ところで、最後の連に「the whale's way」というフレーズが出てくる。ここを読んだとき、なんだかこういう表現とどこかで出会ったなあと思ったのだが、それはかつて勉強させられた古英語のkenning(代称)だった。つまりあのwhale-road(鯨の道)や、 swan-road(白鳥の道)が「海」を表すとかなんとか、ああいうややこしい表現。メイスフィールドがこの辺りを意識しているのかどうかわからない。誰か調べてください。それにしても、Old Englishなんてやむを得ず勉強させられたけど、ちんぷんかんぷんだったなあと思い出す。
あと、最後の行に「the long trick's over」とあるが、この場合の「trick's」は、僕の手元のアンソロジーだと「a seaman's spell of duty」と注が書いてあるので、まあ、そういうことなんだろう。(Macmillan Anthologies of English Literature Vol5 The Twentieth Century, ed. Neil McEwan, Macmillan, 1989・・・学生のときに半ば強制的に買わされた五巻組のアンソロジー。重くて邪魔で、こんなの持って授業に行くの嫌だなと思っていたが、今になって、やっとこうやって役に立つなんてこともある。)
そういえば、僕も高校までは海沿いの街で暮らしていた。家から毎日太平洋を見て育った。(ただし、日焼けした色黒で精悍なイメージとは程遠い。ご承知のとおり文化部系だ。)夏には近くの海水浴場へよく泳ぎに行ったし、父親と一緒に何度も魚釣りに行った。砂浜を歩いて靴に砂が入ってしまう、あの感触。ちょっと懐かしい。