A Diary

本と音楽についてのメモ

ロンドンで本を買う

2006-03-23 13:52:10 | 日々のこと
本好きは本屋に集う。本屋を見かけると中に入ってみたくなる。東京だろうとニューヨークだろうと、それはどこでも同じ。最近は書店も(というか、出版業界が)売上至上主義になっているので、小さな本屋さんではベストセラーばかりしかなく、満足できるような本を見つけたいと思ったら、ちょっと大きい本屋さんに出向く必要がある。たとえば、池袋のジュンク堂書店とか。ちなみに、ここで手に入らない本は(中古を除く)、基本的に日本ではもう手に入らないと考えていい、というくらい充実した在庫だったりする。

小さな書店だと「売れ筋」しか扱っていないのは、イギリスでも同じ。もうとっくに書籍の再販制度は廃止されている。また、日本で紀伊国屋書店とか、丸善とか、そういう有名な本屋さんが全国チェーンになっているように、イギリスでも同じく「WHスミス」とか、「ウォーターストーンズ」とか、そういう全国展開の書店チェーンが目立っている。だからロンドンに行って、ちょっと興味ある分野の本を探そうと思っても、街角のWHスミスの小さな本屋さんなんかに入ったところで、お目当てのものには出くわさない。では、僕ならどこに行くか。

もし勝手にお勧め順位をつけるなら、第一位は「ブラックウェルズ」(Blackwell's)だろう。場所はチャリングクロス・ロードにある。この通りはトラファルガー・スクエアからオクスフォード・ストリートを結んでいて、飲食店や映画館、ミュージカル劇場などが立ち並び、ロンドンで一番賑やかな一角のひとつ。でも、この通りは昔ながらの書店街でもある。東京でたとえるなら神田神保町のようなところだ(ただし、あんなふうに本屋がたくさんあるわけではない)。その中にブラックウェルズもあるのだが、この書店の中は、なかなか広くて大きい。もともとオクスフォード発祥の書店チェーンで、大学都市出身であるせいか、若干アカデミックな感じの方面の書籍がとても充実している。極端に専門書ばかり集めるのではなく普通の本もたくさんあるが、こういう知的な品揃えの方向性がとても好感を持てる本屋さん。いいお店だと思う。ただし、ちょっと地味な感じかな。

第二位は「ウォーターストーンズ」(Waterstone's)のピカデリー店。ウォーターストーンズは全国のあちこちに店を構えるチェーン店で、そういう意味ではなんとなく期待のできない感じがしてしまうのだが、このピカデリー店は絶対に訪れるべきだろう。(というか、ウォーターストーンズはここだけ行けばいい。)これまたロンドンの「へそ」とでも言うべき中心地ピカデリー・サーカスからすぐのところに、この店はある。そして何といっても特色は広いこと。日本の大書店を見慣れてしまうと大したことがないようにも思えなくもないが、全部で六フロアーもあって、イギリスにはこんな大きな本屋さん、他にはない。もともとはシンプソンズという名前のデパートだった由緒ある建物で、内装も大変上品。なんとも優雅な大理石の階段が中にあるのだが、永年の使用で美しくすり減っているという、そんな味わいのある場所でもある。地下には「レッド・ルーム」という名前のレストラン(その名のとおり、赤色のインテリアだった)まであって、僕も確か一度食べに行ったが、おいしかった。本の品揃えについては、たくさんあるフロアーを埋めるくらいだから、満足できるレベル。僕の職場がすぐ近くだったせいもあるが、買い物した回数で言えば、僕はこの書店が一番多かったと思う。

本屋に行くとき、必ずしも一人で行くわけではない。自分だけ本をずっと探してて、連れはほたっらかし、というわけにもいかない。そういうときには、「ボーダーズ」(Borders)がいいかもしれない。言わずと知れたアメリカ有名ブックチェーンだが、店内が明るくてきれいで、CDなんかも売っていたりして、本屋さんであれこれ見て楽しく過ごす、なんていうときにはいいと思う。僕はチャリングクロス・ロードのボーダーズにときどき立ち寄った(オクスフォード・ストリートにもある)。それなりに大きくて、チャリングクロス・ロードでも一際目立っているお店だけれども、品揃えは普通。あまり専門的なものは無さそう。

ロンドンの本屋さんを紹介するとき、きっと「フォイルズ」と「ハッチャーズ」は忘れてはいけないのだろう。でも実際に買い物をするかというと、ちょっと微妙なのだ。どちらかというと、観光気分でこの二店は見に行けばいいと思う。

まず、フォイルズ(Foyle's)だが、この店もまたチャリングクロス・ロードにある。支店を持たずに、頑固にここだけで商売をしている書店。ウォーターズトーンズのピカデリー店ができる前は、ここが一番面積の広い本屋さんだった。在庫のタイトル数もかなり多い。実際、ロンドンの名物書店で、昔ながらの感じがするお店。でも、なぜお勧めの一位になれないのか。まず、店内がなんだかちょっとごちゃごちゃしている。迷路みたいで、慣れないとあの店内で本を探すのは難しそうだ。また、なんとなく暗くてきれいじゃない感じも良くない。近くにある「ボーダーズ」と比較すればわかるが、やっぱりお店はきれいで明るいほうがいいと思う。本屋さんにこういう清潔感は別に求められないかもしれないが、古本屋さんじゃないのだから、多少はこういう方面での配慮も必要かと。でもまあ、一見の価値はある本屋さんであるのは確か。ちなみに、英語学習書関係の充実は有名らしく、この日記ブログの1月11日に紹介した参考書は、だいたいすべてフォイルズで買ったもの。

ハッチャーズ(Hatchards)は、1797年創業という、おそらく一番由緒正しい本屋さん。大通りのピカデリーに面していて、フォートナム・アンド・メイソンの隣にある。古風な店構えには、看板に王室御用達のマーク(Royal Warrantと呼ぶ)が掲げてられていて、その格式の高さを裏付けている。こんな店だが、勤務先の近くにあったにもかかわらず、一度も入ったことがない。理由は簡単。同じピカデリーにあるウォーターストーンズのほうに行ってしまうから。どちらが使いやすいかといえば、誰もがウォーターストーンズのほうを挙げるのではないだろうか。

最後にちょっと変わったお店として、地図専門の書店「スタンフォーズ」(Stanfords)を紹介しておきたい。チャリングクロス・ロードのレスター・スクエア駅とコヴェント・ガーデンとを結んでいる「ロング・エイカー」という、これまた賑やかな通りにある(「Long Acre」と綴る・・・最初はなんと発音するんだろうと思った)。個人的には地図を眺めるが好きなので、この店にも何度も足を運んだ。今、家にある大きく広げて見るタイプのイギリスの地図はここで買ったもの。地図だけではなく、地球儀とか旅行ガイドもたくさん売っていて、中を見て回るだけでも面白いお店。

思い出しながらこんなふうに書いていると、なんだかロンドンに行きたくなってきた。以下は各書店のサイト:

■ブラックウェルズ:www.bookshop.blackwell.co.uk

■フォイルズ:www.foyles.co.uk

■ハッチャーズ:www.hatchards.co.uk

■スタンフォーズ:www.stanfords.co.uk

以下の書店のサイトはアマゾンと共同になっている。恐るべきアマゾンの攻勢。というかちょっと目障り。

■ボーダーズ:www.borders.co.uk

■ウォーターストーンズ:www.waterstones.co.uk

今、こんなふうに各書店のサイトを見比べてわかったのだが、カズオ・イシグロの小説『Never Let Me Go』(ペイパーバック版)が売れ行きランキングの上位に入っている(本日現在)。ウォーターストーンズだと1位。ブラックウェルズだと4位。フォイルズだと6位。きっとおもしろいに違いない。あと、ブラックウェルズで1位になっているロジャー・ペンローズの本には興味を引かれる(ただし、英語で読むのは僕には難儀そうだが)。というか、この人の本が1位になるとは・・・。ブラックウェルズの顧客層がわかるというもの。

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ガイドブック (KAFKA)
2006-03-25 11:45:32
とても楽しく読ませていただきました。ロンドンに行ったことがないので、読んでいるだけで心躍ります。

タイセイさんなら、ロンドンの書店案内をするガイドブックが書けるかもしれませんよ!



最近はamazonのようなネット書店があるので、必要なものは大体手に入りますが、できれば実際に本を手にとって選ぶ醍醐味はなくならないでほしいものです。



それはさておき、‘Never Let Me Go’が売れてるんですね。カズオ・イシグロのような作家が売れるイギリスという国は、不思議な国だなあと思います。それだけ、小説の読者がいるということなのでしょうか?イギリスへの興味は尽きません。
オリエンタルなものへの憧れ (タイセイ)
2006-04-02 13:37:49
確かにカズオ・イシグロが売れてますね。『Never Let Me Go』は、ぜんぜん日本的なものとか、オリエンタルな内容ではないのに。



というのも、イギリスの人たちは、とくにちょっと洗練されたものが好きな人たちは、日本とかアジアとか、オリエンタルなものを「おしゃれ」と感じている傾向があります。日本食が好まれたりするものそのひとつです。また、イサム・ノグチの和紙の照明が人気があったりするのもそういう傾向の現れだと思います。今はどうか知りませんが、日本の無印良品も「MUJI」というブランドで、それなりに評価されていました。



で、文学でもちょっとそういう流れがあるように思えます。たとえば、村上春樹はロンドンでもまあまあ人気があるようですが、こういうオリエンタルな名前を見ると、それだけで「良いもの」とか「おしゃれなもの」と考える傾向が、ちょっとありそうです。カズオ・イシグロも、このような流行の恩恵を少々こうむっているような気がします。



とはいえ、カズオ・イシグロも村上春樹も実力は十分あるので、こういうミーハーな売れ方ばかりではないのは確かですが。