詩はここにある(櫻井洋司の観劇日記)

日々、観た舞台の感想。ときにはエッセイなども。

再現・その1 NHKラジオ深夜便「輝いて生きる」 畑中良輔・更予米寿&卒寿記念コンサート 

2018-04-14 21:17:53 | 日記
収録(インタビュアー:水野節彦)
2010年3月2日(火)自宅にて

放送(アンカー:石澤典夫)
2010年3月10日(水) 午前1時12分より

(敬称略)

水野 この前の2月12日、88歳の誕生日のコンサート、あの時の先生の声をですねえ、私、今でも忘れないんですけれど。すっごい色気があった。こんな言い方よくないですか?

良輔 色気っていっても、普通女性に言うもんだけれどねえ。老人に色気があるの?

水野 まろやかな声でね。どうしてこんな声がでるんだろう?

良輔 そりゃあ、やっぱり、初めから発声ちゃんとやっていたから身体が覚えていますから。

水野 あのコンサートのために、相当練習もされたんですか?

良輔 まったく、家で練習するってことは、この何十年ありません。そのまんまステージへ行って、そのまんま歌 ってますから。

更予 それ本当なんです。あのねえ、もう何にも稽古する暇もないでしょう。それでねえ、ステージでね、どんなになるか、とにかく心配ばっかりしている。平気で普通のまんまです。だから特別なことしていないんです。ああゆう人なんです。

良輔 あのねえ、80を過ぎてくるとねえ、失敗しても何しても「ごめんなさい」って言えるんですよ。これはねえ、まだ、60、70の頃は生徒教えたり、こんな発声したりダメだとかそういう事を教えるでしょう。それ悪いことをこっちがすることもあるわけ、Easy gooingを、そうしたら居直ていうと言葉悪いんですけれど、もう無碍自在、このある自分を聴いてください。やっぱ80すぎるとね、なんでも自然になっちゃう。ですね、まあ、僕の場合は構えるってこと全くない。構えないでどんな人にも会えるし、だいたい僕、その人と仲良くなれる性質で、本当自分ながらね、いい性質に産んでくれたな。親には今頃感謝しています。どんな人とも、そのまんまスッと入っちゃえるから。

水野 奥様、そうですか?

更予 私、わからないけれど、だけど、もうとにかく、普通の人と違うことだけは確かです。なんていうのか…。

良輔 違わないって、普通だって。

更予 私、わからない。へへっ、そういうこと?

水野 今さっき、私、色気があるって申し上げたんですけれど、奥様はどうですか?

更予 色気ってなんだかわかんない人なの。

良輔 彼女は可愛いですよ。ステージでね、90なんて思えないじゃないですか。で、この声が第一もう90の声じゃないでしょう。

更予 そんなこと言ったって。

良輔 若いっていうこと。だから声の色気はこっちの方があるんですよ。

更予 何言っているのよ。もう、声なんてねえ、あの今、あのピアノと同じ音が一音もでないんです。もう歌は「ハトポッポ」も歌えないんです。本当に。

良輔 ちょっと喘息やったもんでね。

更予 喘息でね、三回も死ぬ目にあって、声帯破いて、今、こうやって、しゃべることしかできないんですね。しゃべる声が歌の場所でしゃべっているから、お元気ですねって言われるから、ちょうど弱っている声出したいけれど、そこ出ないの声が。だから、お元気ですねって、こっちが弱っているのに言われちゃうんです。

水野 先日の2月12日の舞台でもね。

更予 もう3時間半前に、あのミサをしていただいて、そのとき神父様がねえ、凄い大きな声を出していただいて、私もミサ台で凄い大きな声が出たから、じゃあ大丈夫だなあと思って。それまで全然もう、あのこの人と反対に、どうなるかわかんないままで人前にでるっていうのは、怖いんですよ。

水野 本当はあそこは、朗読をしてくれって言われていた所なんですか?

更予 いあやだから、朗読なんかしませんでした、だって、変な声で朗読するよりか、生徒たちに歌ってもらったほうがいいから、問題は私の初めてのリサイタルに、この人が書いてくれた詩と、それから中田喜直君が、それに作ってくれた曲ですね。それが「四季の歌」で、それを「青の会」の主催だから、「青の会」の人たちに歌ってもらうって、それを良輔に秘密にして、それで当日に秘密にしてやったんです。そのために、すごい疲れたんです、もうねえ。

良輔 なんかサプライズって言って、何やるのって聞いても「ヒ、ミ、ツ」なんて絶対教えてくんないから、私もプログラム書きようがない。

更予 そうして、自分たちが出ないのに、切符を売ってくれて、その人たちお気の毒だったんですけれど皆さんが協力して、良輔に秘密が面白い面白いって言って、それで当日は、あの紀尾井ホールのスタッフ方も皆さんが協力して、「今、先生いらっしゃいましたよ」なんて言って

良輔 なんでも秘密にしていた。

更予 それで、お化粧したりしているのを、良輔に見つかると、出演者じゃないのに、なんでイブニング着ていると、大変って、みんなでパアッ逃げていって、「あっ、良輔先生大丈夫です」急いでエレベーターのところにいって、上の方に逃げていったりして。

良輔 子供みたい、子供っぽいんですよ。

水野 でも、知らぬは亭主ばかりなり、

良輔 ううう~ん。

更予 私のできることって、そういうことしかできないんです。

水野 でも、羨ましいですね。

良輔 まあねえ、お互い子供っぽいところがあるから。

水野 それは大切なんじゃないですか。

良輔 まあ、無邪気さがありますから。

水野 そうですね。ところで、その色気のある声って、私申し上げてしまったんですが、やっぱり良い声ってありますでしょう。いくつになっても、これはやっぱり持続するっていうのは、先生は何もやってないとおっしゃいましたけれど。

良輔 でも、自然に話しているときに、ええ、こっち響かせるように、普通の会話でも、やっぱり声楽やっていれば、響きがついてくるんじゃないですか、地声で「アッ~」って言う声は使えないじゃないですか。

水野 おしゃべりの時と司会している時と何やっているときも。

良輔 全部同じです。同じポジションでやっているから、そのまんま司会しながら、すぐ歌っちゃうし。

更予 そうです。だから私も、ひとつの音からひとつの音に移るでしょ、音楽ってね。それがひとつの所におしゃべりするようにポンポンポンていうのはできる。でも、のど声っていうでしょう。いい喉っていいますね、それ日本語にだけにあるのね。だからノドで歌うじゃなくて身体で声を出す。それが声楽。だから、政治家やなんかのもう汚い声聴くとね、もう死にそうになっちゃう。

良輔 ひどすぎますよね。

更予 だけど外国人の外国語聞いていると、とっても良くわかるのね。喉開いて、歌うところとおんなじところでしゃべってる人の方が多くて、たまに汚い声の人がいる、それが日本人のノド声とおんなじところでしゃべる人、たまにいますけれど、少ないです。

良輔 よく議員さんなんかね、僕、随筆に書くんだけれど、ちゃんと水曜日の午前中は発声の時間というのを議員さんに課して、ちゃんと声をトレーニングして欲しいなあと思うんです。聴くに耐えない声出すと、やっぱり、いくら良いこと言っても、切っちゃいます。

水野 なんかインタビューしにくくなりましたねえ。

良輔 でもねえ、全然発声やらっていうのは、音楽始めた頃は、やっぱり基本的な発声はしっかり、私はヴーハーペーニヒ先生っていうドイツ人の先生、本当にもううるさいうほど、発声、やかましく言って、そこから無碍自在の歳とともに、肩に力抜けてくるっていう、まるきし、基礎がないわけじゃないと思う。

更予 でも、私は教えていただいたことがないで、赤ん坊の時に、 オギャーって泣いたままのそのままです。だから、ノド声なんてノドが通り道でねえ、ノド開くなっていうのは、わかんないの。このまんまなんです。だから本当にねえ、あの先生に教わったっていう経験がないの。

水野 でも、奥様がソプラノでいらっいますよね。

更予 そう、教わらない先生に、教えない先生についたんです。それが幸せだったんです。だから本当にねえ、わがままの自分勝手のだから音楽の教養もないから、辞めたいなんて思っているんです。

水野 何をおっしゃいますか。

更予 ナチュラルでねえ。自然に思うまんまに生きているし、ずっと私ってわがままでね、勝手なんです。本当に。

水野 ただ、この前のリサイタルの時に、練習風景をちょっと拝見したんですけれど、あの合唱団を教える時の先生の態度ね、椅子席で見ていましてねえ、へえ、そこまで言うのかってねえ、凄い怒っていらっしゃるんですね。

更予 だから、この人、教育者なのね。だから芸術家っていうよりか、やっぱり教育者としては凄く優れていると思うのね。私は、教育者なんて全然関係ないんです。全然出来ないの。あの、わがまま勝手に生きてきましたから。

良輔 教えることが好きなんですね、僕はきっと。うちの母が…、

水野 あそこまで言うかって、

良輔 あそこまでって、本当に言ったら、あれほんの100分の1ぐらいですよ。稽古のとき、僕は狂いまわっているのは。

更予 それがこの人の元気の源だと思う。

水野 そうですねえ。

更予 そうです。

良輔 で、僕の母が琴、三弦の師匠もやって、もうちっちゃい頃から、母が稽古つけているの横で見てました。やっぱり教えるってことが、身にしみてたのかもしれないですね。子供の頃から。

水野 でも、今の若い人はですね、あんまり教えてギャーギャー言うとですね、皆やめてっちゃう。

良輔 そうなんですね、忍耐心がないし。

水野 そこは先生はあえて、ドンといかれる。

更予 でも、良輔が言うとね、他の先生が言ったんじゃダメなのね。良輔が言うと、やっぱり聞くということがあるんですね。だから、そのうるさく言う言い方にもあるんですよね。この人、やっぱり結婚したばかりの時もね、教えることが好きだって言って、今日はレッスン日だっていうとね、この人嬉しいの。私、ああ今日は生徒が来るやだなあって、教えるっていうのが大嫌いなんです。

水野 奥様は教わったってことがないですか?

更予 だから先生は、教えない先生についたの。

水野 良輔先生から。

更予 良輔より、私の方が上級生でいばってたんですのよ。

水野 米寿と卒寿で

良輔 そうですよ、姉さん女房、頭いいからねえ。僕は低能児だから。

更予 頭いいなんてとんでもない。頭悪いから、今こんなになっているんじゃない。

水野 俺がほれたんだって。おっしゃってましたね。

良輔 彼女の歌聞いたらね、本当に世界最高の歌うたってた。女房にそんなことは言わない。今言うけれども。


(つづく)

柿葺落四月大歌舞伎 夜の部 御園座 2018年4月13日

2018-04-14 10:33:04 | 日記
4月は歌舞伎公演が集中している歌舞伎座、御園座、スーパー歌舞伎IIの大阪松竹座、金比羅歌舞伎。平成の歌舞伎を支えてきた立役が、それぞれの得意演目で勝負している。歌舞伎座では、菊五郎と仁左衛門。御園座では、白鸚と吉右衛門。白鸚は今年76歳になるのに弁慶を演じた。80歳で演じた富十郎もいるけれど、飛び六方はできずに花道を入った。白鸚は飛び六方で今日も引っ込んだ。吉右衛門の『石切梶原』も素晴らしかった。幸四郎の『吉田屋』も新境地だ。それなのに何故客席が埋まらない?昼は空席がほぼ無かったのに、夜の部の入りは厳しかった。S席24000円、A席22000円、B席12000円、C席8000円と歌舞伎座を抜いて今月最高今月金額だけど、これを観ないなんて残念過ぎる。新国立劇場の『アイーダ』S席29160円に比べれば、まだ安い。

柿葺落四月大歌舞伎 昼の部 御園座 2018年4月13日

2018-04-14 00:07:56 | 日記
5年ぶりに御園座が名古屋に帰ってきた。名鉄ホールも中日劇場もなくなり、商業演劇の劇場は御園座だけになってしまった。立ち位置としては、福岡市の博多座と似ているかもしれない。歌舞伎もミュージカルも上演できる設備を備えているからだ。松竹とも東宝とも提携することになるようだ。名古屋も福岡も都会なんだけれど、どこか田舎臭い部分がある。大相撲の場所が年1回あり、劇団四季が同じ『リトル・マーメイド』をロングラン公演していたりする。

地下鉄東山線で名古屋駅から一つ目の伏見駅から徒歩3分?でも、そこいら中に階段があって劇場へ到着するまでに疲れてしまう。お年寄りは大変だ。歌舞伎座や博多座のように地下鉄に直結だったらよかったのに。劇場は2階から入場する形式。1階にはイオンが運営する売店やフードコートがあり、発想は歌舞伎座と似ていなくもない。

客席数は1656席から1299せき(花道設置時は1219席に。花道は幅1.8m、長さ21m。舞台間口は22.1m。奥行は20m。回り舞台の直径は14.5m。大セリは幅9.7mのものが2基。宙乗り装置は上手と下手に設置可能で宙乗り用の鳥屋も常設されているようだった。花道はスッポンがあるが仮設で、鳥屋の部分は奥行がないので、客席とロビーに突き出た感じで囲いが仮設されていて、両花道の設置はできないのかもしれない。一方、宙乗りは、下手と上手に設置でき、宙乗り用の鳥屋は両方に常設。斜め方向の宙乗りにも対応するようで、ワンピース歌舞伎や滝沢歌舞伎で早速使用されルネだろう。

劇場の構造は国立劇場の大劇場と同じで、1階席と2階席で構成されている。桟敷席はなく、その部分にはかさ上げされた客席があって桟敷席の代わりという感じだろうか。国立劇場と違うのは、2階席が湾曲していて舞台全体を包みこむように考えられたデザインだった。照明はミュージカルも上演前提なので上手と下手スポットライトがズラリと並んで壮観。花道上部には、天井に穴が開けられて上からも照明が当たる斬新さ。

団体客が見込めないからか、単にめんどくさいだけなのか食堂はなし。場内、劇場外でお弁当を買えという事らしい。ロビーには胡蝶蘭がいっぱいあって、心が晴れやかになる。場内は御園座レッドとかいう赤色一色。逆に客席内の天井や壁は白っぽい。いかにも人気?設計者が考えそうな意匠なのだけれど、歌舞伎だけの劇場ではない多目的商業演劇劇場なので物足りない。提灯とか、今なら若葉の造花とか飾る猥雑さがあっても良い。あの国立劇場でさえ提灯があると言うのに。

信じられない事に、クロークはおろかロッカーの類が一切ない。コートや荷物を客席に持ちこめとでもいうのだらうか。以前の御園座は客席内での飲食は禁止。新しい御園座は、ロビースペースが極端に狭いのでソファなど座れる場所がほとんど無くて、売店なども少ない。マンションとの共用なので限られた敷地だからかもしれないが、お土産売り場もほとんど無くて、場外で買えということなのだろう。

ロビー内には館内表示が少なくて迷う。建築家はなるべく表示を減らしたいのだろうけれど、トイレやエレベーター、エスカレーターなので場所がわからず迷った。劇場全体が、以前と比べて舞台の位置が変わったようで楽屋口も大通りから裏通りに変更になっていた。

劇場文化が根付いていないからか、上演中の私語や携帯使用、移動が絶えない。歌舞伎座のように監視員もいないので無法地帯。大向こうはローカルな方と東京からの遠征の混成チームでともに高麗屋の法被と身分証明書を首からぶら下げていた。

まずは『寿曽我対面』から。新装開場に相応しい演目。工藤の左團次は一世代上だけれど、中堅だとばかり思っていた五郎の又五郎、十郎の鴈治郎、舞鶴の高麗蔵は60才前後の世代で、実力はあっても人気の面でやや埋もれた感がある。勘三郎や三津五郎がいてくれたら別の展開だっただろう。なかなか東京では観ることのできない顔合わせながら、さすがに芸歴50年以上だかあって過不足ない演技。スター性に乏しい面々なので盛り上がりに欠けるように思うえるのは仕方ない。壱太郎、米吉ら若手女形の今後の活躍に期待したい。

『襲名披露口上』。藤十郎を筆頭に東京に比べると人数は少ない。今日が中日なので中日ドラゴンズネタの鴈治郎、相変わらずのキャバレーネタで笑わせる左團次。珍しく名前を間違えてた秀太郎が今日のMVP かと思った。白鸚の名古屋の思い出と感謝の言葉が一番感動的だった。演技でもお世辞でもなく本心なのだろう。居並ぶ役者の中で幸四郎が一番若いのに驚く。彼の同世代は誰も参加していなかったのだ。

『籠釣瓶花街酔醒』幸四郎も雀右衛門もいつかは演じなければならない家の芸である次郎左衛門と八ツ橋を初役で。幸四郎は万事に控えめで抑えた演技だったが、幕切れには凄まじい狂気を感じさせて震え上がらせた。見染めもある意味狂気だったかと納得。雀右衛門の花道での笑いは控え目派手な見せ場にしようとしていなくて好感。身勝手な女ではなく儚さと情の深さを見せた。歌右衛門の八ツ橋の笑いが記憶にある観客も少なくなっているだろうけれど、あの大プリマドンナぶりで、これでもかと時間をかけて笑い観客を別次元へ連れていく凄まじい集中力は誰も真似できないのだから、先代同様に別の方法で演じた雀右衛門は賢明だったと思う。歌六の栄之丞は驚きの配役だったけれど、老け役、敵役が専門になりつつあるが、二枚目も案外といける人だった。