今日は、一日、寝て、食べて、寝て、食べて。
別に病気じゃないよ?気がついたら、そうなってただけ。
新聞とか、テレビとか、ずっと眺めてたけどね。うとうとしながら。
仕入れた情報は、なんですか? えーと、いま覚えてるのは―――
地平線まで平らなブラジルの草原には、林立するアリ塚があって、
回る星空を背景に、きみどりいろに瞬くこと。
ちゃっかり同居してるちいさな虫が、一斉に光るんだって。
知らなかったね?きっと近所の人たちにはあたり前なことなんだろうけど、
感動しちゃいましたよ。たぶん。ちょっぴりね。
いつか、見に行かなくちゃね。
いっぱあい思いつくのね?いろんなことを。
あ、書いておこうって、思うのね。待ち合わせ場所に向かう女の子みたいに。
でも、出てこないんだな。面と向かうと。
表現の問題なのかな?手際のよしあし?
歌が歌えれば、歌うんだけど。
絵が描ければ、描くんだけど。
すべがないから、はにかむのかもね。えへへ。
うるさいなあ。いいんだよ。うそだって。
わかってることぜんぶならべたって、距離が測れるだけでしょう?それだって、気のせいだし。
そんなにすう字がすき?なんの道具にもならないって、体験済みでしょう?
そう、カンキリみたいなもんだって、言いたいの?
手に収まるふしぎな金具で、魔法のようにふたが開く。あんなに固くて、厳重なのに。
リズミカルな音。できたぎざぎざの放つ光に、目をまるくして、
のぞきこむ錫の円筒の中、満たされたシロップの中に泳ぐのは、
tin opener。英語では。
それを手にしたあなたは、缶を切るのか、開けるのか。
目的が、微妙に違うのね。手段が、目的を連れてくるのか、目的が手段を生むのか。
ぼくがやってるのは、どっち?
ところでてぃん、ってなんだろう?
かなしくて仕方ないんだな。なんだか、なんでか。
これはくるしいのと違って、すぐ逃げなきゃならないほど差し迫った感情ではないんだけど、
それだけに、御しがたくて。
うつむいて、視線を泳がせる。うつろな。
漂う?ああ、メロディが聞こえる。静かで、木の、艶たたえた木の家具をすべる、呆けた明かり、みたいな、忘れられた、むかしの。
ぼくはそこに居た?
そういうと、やだなぁって思われたらヤなので書かないでいたけど、
やっぱり目の前にあるのです。例のグラスが。
琥珀色、とはよくいったもんで、透明なうすい、割れるうつわに注ぐ、価値がある。確かに。
光とどまる液体の妙。忘れ残した過去、とは、こういうカタチを採るものではなかろうか。
まあ、ワイン飲みなら深緑の壜に沈む澱を思い浮かべるものかもしれないし、
日本酒なら醸造槽の表面でつぶやく泡とか、焼酎なら地中に眠る土甕とか、
そんな感じなのかもしれないけど。
あるこーる、か。ヘンなものだよ。
わざわざそんな苦労してまで、造り出さねばならんもんかね?
その連綿たる業の歴史たるや、涙ぐましいものだよ。まったく。
知ってる?いかにしてこれを得るか。細菌の力を強引に借りて、糖を酒精に変える努力。その糖を、糊口をしのぐ糧を削ってひねり出す手練手管の精妙さ。
酔う、ということの、意味。
背負うということが、いかに過酷か。
容赦ない戸惑いの嵐に、無表情で歩みを進めるに、封じるものの、重さ。
水より軽いアルコール。熱するまでもなく揮発していくそれを、慌てて体内に収めようと躍起になる、あはれ。何に蓋するのか。そんな、液体、で。おっとと、と。
なんだかおなかがすいて、缶詰を開けました。さんまの、みそ煮?
今の缶って、カンキリ要らないのね。プルトップで、ぱかんと。
まあそれもいいでしょう。役立たずの道具ってのも、いいもんです。歴史になる瞬間?
とてもかなしい。あいかわらず。
でもまあ、それもよし。星は回ってます。ぼくの世界で。
それが実はなにも意味しなくても、ともかく回ってるんです。ぼくの、世界で。