はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

歌集 色褪せた自画像 第二章 悲しい在り方(1)

2016年05月14日 | 短歌
第二章
悲しい在り方






strong>言ってみれば  93.1「芸術と自由」169


0254 愛の歌を詠う人が羨ましくてはだか木のふるえが僕の鼓動となる

0255 津島喜一が湖に残した詩歌の波紋は穏やかな彩りに溢れている

0256 ほうの木の葉うらを這う蝸牛に深い愛着と尊敬の念を抱く雨でした

0257 春の種子をまく朝の光りに群がる小鳥たちと微笑みを交わす風である

0258 冬の風にムクゲは隠れようもなく吹きさらされて耐え忍ぶ先生でした

0259 吊革につかまる手は自らの思想をもっていわゆる一つの肉体を保とうとするか

0260 そんなことはないはずと土筆は思案しながら土の中から這い出てくる


          (浅間山荘事件被告の死刑執行)
0261 要するにつまり、あなたを総括するという、忌まわしいコトバの死刑がきまった







憂国詭  92.11-93.3「芸術と自由」170




0262 ゆるやかに右旋回する船に乗せられてかすかに船酔いの兆し

0263 春のひざしにのんびりと手枕のとなりで軍人勅諭の朗読会などあり

0264 その場しのぎの手練手管を磨く手はいま挙手の礼を習う

0265 栄養ドリンクに支えられる経済大国が求める軍服の輸出

0266 次なる標的と重なるカンボジア地図に記されている自衛隊の位置

0267 死に報いる大義なき国のわが祖国というに些かためらう五月四日

0268 この国の未来など見ておれないと国境を越えて白鳥は飛び立つ

0269 帝国陸軍軍曹はかつての父の階級、国際貢献にて支那大陸で戦死

0270 平和・戦争いずれにも遠くただ言葉にもたれで短歌は息をする






蓑 虫  93.2-3「芸術と自由」171




0271 一人暗愚にしか生きられないとき暗闇に狙撃兵が潜んでいる

0272 隣の女と隣の男とぶら下がる蓑虫の誰にも挨拶しない冬である

0273 火星運河に流れた水の辿った先のさき、いま狼狽えている地球です

0274 ポケットにしまい忘れた希望、愛、つらつら奇想天外を憧れるのです

0275 そういえばアルキメデスが計った象の重さ懐に残されたままです

0276 裸の欅のいっぽんいっぽんの小枝が揺れているそして諦めている

0277 脳天の破裂。電車も横転し、あの星すらも死ぬのであります

0278 桜散るころ惜しまれて消え行くものに新短歌一つ加えてもみる






精神異常が好き  92.12-93.3



0279 ふぞろいの形で青い空に浮かぶ雲は見るからにくったくがない

0280 向日葵の種をむしってボロボロと腐っていく土くれを慰めてやる

0281 地球の襞をめくれ大地の裂け目には悲しみが詰まっている

0282 黒い鳥の腹が一瞬目の横をよぎり明日が来ない不安に落ちこむ

0283 机の前にぶら下がる蝙蝠がキキキッと歯を剥いて君を見ている

0284 空中遊泳を楽しむタンポポ 夜を忘れかけた月が半欠けのまま

0285 渋滞の拘束道路にひびくロックサウンドが精神異常を日常にする

0286 群れからはぐれて若年性痴呆症になった鴉が狼狽えている