はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

北アルプス大縦走の旅 4

2021年04月29日 | 山靴の歌

8月11日 高天原山荘へ(三日目)

8月11日5:30薬師小屋5:55薬師平6:40-7:00太郎平小屋7:40-50沢出会い9:18-10:00薬師沢小屋10:50-11:00A沢出会い11:15-18B沢出会い11:40-45B沢トラバース12:10-15C沢出会い12:45-50D沢13:00E沢14:00峠14:30-40沢に出会う15:00高天原小屋


朝一番の食事をして午前5時30分に小屋を飛び出した。
天気は相変わらずぱっとしない。小屋の周囲も雲にまかれた中を下り、間もなく薬師平のテント場に着く。14,5張のテントがあった。ここには水が流れていて気持ちのいい場所だ。小屋はテント場からそれほど遠くはないところにあったように思えたが、このテント場は太郎平小屋の管理するテント場なのだ。

テント場で男子と思った女子大生山話して峠に登る

1991年に妻とここでテントを張って、黒部五郎岳に登ったことがある。その時以来であるが夏の早朝のすがすがしい気分になれて楽しい。ここで背の高い男の子だと思ったのだが女性だったYさんと出会う。キャップをかぶって刈り上げたヘアースタイルで大きな荷物を担いでいる。てっきり男の子だと思ったら、信州大学の女学生だと後でわかった。ここで25分ほど休んでいる。何をしていたのかは覚えていない。テント場を6時20分に出て太郎平小屋へ6時40分に着く。

雲あつく雲の平は見えないな太郎平もかなしい朝か

今日は雲の平へ行くのが目的であった。雲の平は、その昔伊藤新道という道が高瀬川の湯俣から三俣蓮華へ至る道を通って、雲の平に行くのが20代のころ描いていた夢であった。しかし1990年代には伊藤新道は廃道になっていていた。
以前太郎平から黒部五郎岳をへて三俣蓮華まで歩いたので、今回は雲の平を経由して烏帽子に行くルートを考えていた。太郎平からは雲の平が展望できるはずであったが、全くのガスで何の展望もえられなかった。Yさんと一緒に歩いてきた。
7時に太郎平小屋を出て、薬師沢に向かう。彼女は有峰から太郎平へ上がり、高天原へ行き、そこから槍ヶ岳まで縦走するのだという。天気が回復してきて昨日とは違う夏の空になってきた。
薬師沢への道は稜線の道を分ける道標に従い、左に降りていく。40分ほど樹林帯を下ると沢に出た。薬師沢の源流の左股をわたる。ここで10分ほど休む。沢の出会いからしばらく下ると、道は穏やかになりところどころに湿原のある木道の明るい熊笹のカベッケガ原というところに出る。ここは気に入った。ここは素晴らしい。黒部の森が美しいと実感させられる。原始の時代の森を思わせてくれる。それに越中沢岳が見えて大きいし、美しい。

薬師沢流れる黒部の森を見る縄文人も見たかもしれぬ

幾万年変わらぬ森があるならばカベッケガ原の森に尋ねよ

やがてしばらして黒部川の水流の音とともに薬師沢の小屋が現れる。9時18分に到着。小屋の前のテーブルで大休憩。コーヒーなど沸かしてゆっくりする。
「雲ノ平の小屋はどうですか、混んでいますか?」と小屋の人に聞く。
「かなり混んでいますね。」との答え、
脇からよその登山者が
「夏は混んで混んで、おまけにトイレ臭くて最悪だった」
などというので、雲ノ平に行く気負いを削ぐ。
一緒に来たYさんは、
「私、高天原に行くので先に出ますから」と言って大きな荷物を担ぐと別れていった。
しばらくどうしようか考えあぐねたが、混んでいる雲ノ平の小屋は嫌だし、高天原は行くチャンスもないかもしれないと思った。また以前から高天原の温泉にも入ってみたいとも思っていたからここで方針を変えた。Yさんと一緒に歩くのも面白いだろう。

のどかなる雲の平に思いよせテント担いでくるがよかろう

最奥の高天原の温泉に浸かるも楽し青空のした

午前10時長い休憩を切り上げて、Yさんの後を追うことにする。立派な2階建ての小屋を背に黒部川にかかるしっかりとした吊り橋を渡る。沢筋に沿って道があるが、雲の平へは尾根筋の道を行く。この登りもかなりきついらしい。
黒部川を下流に向かって歩く。黒部川とはいえ、まだ源流に近いエリアであるから大きな沢のような流れである。所謂上の廊下と言われる部分が、平の小屋から上部が上の廊下になるのかな。

この水が黒部のダムに流れ入る上の廊下の河原を歩く

石につけられた赤ペンキをたよりにYさんの後を追う。A沢の手前でYさんの後姿を見る。
「おーい」と大きな声で叫ぶ。一瞬驚いたような顔を見せて彼女は立ち止まってくれた。彼女のところまで行く。
「雲の平ではないのですか?」
「やめたよ、相当混んでいるようなので、方針変更。かなり急いで後を追ったんだ。追いついてよかったよ。」
「声がしたので驚きました」と彼女。
10時50分A沢の出会いで休憩する。黒部川にそって河原の岩の上を歩き、時には巻き道を巻いたりしながらA沢に至る。右手から大きな沢が黒部川本流に流れ込んでくる。
ここからB沢までは河原伝いで15分ほど。大きくB沢と大きな石に赤ペンキで書かれ、右に沢を登る矢印がつけられている。
「この沢を登るようだね」
「そうですね」
と二人で確認し合って沢の中を登る。水は中央を流れ左右の石の上を拾いながら登る。ほぼ100m位登り返すと、再び赤ペンキで左の樹林の中へ入るように指示される。この日の一番つらい登りがこのB沢からの登りであろう。取りつこうとするときに上から5,6人の中高年のグループが下ってきた。
「こんにちは、どちらからです?」
「雲の平からですよ」
「小屋はどうですか?」
「一畳に3人かな、ともかく混んだね」
「これから高天原へ行きます。雲の平に行かなくてよかったかな、気を付けて」
と言葉を交わして見送る。
樹林帯の道はまっすぐに直登するのだ。時々木などにつかまりながら登る。「大丈夫?」と振り返る。
「はいっ」と若い声が返ってくる。
この子が男の子で自分の息子だったら、楽しいのになぁ、などと思ったりもしながら、久しぶりに若い人と歩く。
30分以上登り続けてやっと直登が終わり、等高線にそったトラーバス道に出る。
「きつかったね、この登り、一息入れよう」
「そうですね。」と言いながら涼しい顔をしている。
水を飲んで、5分ほどして歩き出す。ここから高天原峠までC,D,E沢と小さな沢を越えていく。しかしまだ登り道が続く。C沢でお昼になったが、そのまま歩く。E沢に午後1時に着く。ここから高天原峠への登りが再び始まる。樹林帯であるから展望もないひたすらの登り道だ。それでも200mほど登ると道が緩やかになった。
「ここで休むか」と言ってザックを下ろして水を飲む。しかし、峠はそこからすぐだった。右から雲の平の道が下りてきて、樹林の中で出会う。峠というような雰囲気ではなく、雲ノ平への支尾根の末端という感じ。道標があるので横目で見ながら休まず通過する。ここで単独の人に出会う。この人は薬師沢小屋に向かう。実はこの道もガイドブックで何度も読んで、いくつもの沢を横切っていく大変な道だと知っていたが、これを一人で歩いているとかなり滅入る道に思えるが、彼女がいてくれて楽しく歩けた。やはり女性とはいえ山女子は強い。

いくつもの沢をまたいでつけられたこの道開いた人の強さよ

山道はひらきし人の道にして人の一生かくあるべきか

喘ぐ道人のつくりし道なればわれの一生かくあるべきか

奥山に人の通える道ひらく思いの一念われ導かれたり

森深し大地のなかに抱かれて時空を越える道を歩くか

峠からは高天原へひたすら樹林の中を下る。30分ほど下ると沢に出る。岩苔小谷の沢だ。ここから高天原山荘に至る道は黒部の美しい森を眺められる道として推奨したい。薬師岳の姿が木々の上にある。
「森の中を抜けると」という表現が当てはまるような池塘のある原に忽然と出る。楽しい道だ。池塘にお花畑が、文句なく美しい庭園だ。

忽然と開ける原に池塘あり花咲き乱れわれを迎える

神開く庭園なるか奥山にわれ招かれて夢心地なり

澄んだ水の流れとお花畑を見ながら歩くと高天原山荘が現れる。午後3時10分。いい時間に着いた。
小屋の前は開けているが大きくはない。
「はい、ご苦労さん」と言ってYさんと顔を見合す。瞳が大きく色白でかわいいが、外見は男の子だ。にっこり笑うとかわいい。

小屋に入り、受付をする。
「宿泊お願いします。今日は混んでいますか?」
「いいえ、それほどではありません」と小屋の人。
混雑せずにゆっくりできるといい。宿泊は2階になる。50人ほどの定員ということで小屋は大きくない。荷物を置いてしばらく休んで4時ごろに露天風呂に行く。温泉は温泉沢の出会いにあるようで、小屋から15分ほど歩かないといけない。平らな道を行くと、葭簀で囲われた脱衣所と女性用の風呂は別に作られている。男性用の風呂は露天で半径4mほどの丸い湯船だ。温泉は乳白色で肌にやさしい。二人ほど先客がいた。

奥山の白濁の湯に息つけば山ありがたし山愉快なり

黒部なる奥山にきて時とまり私のこころがお休みしてる

「気持ちいい!」と歓声を上げて肩まで湯に浸かる。山で浸かる湯は最高だ。
温泉に来た他の人に湯船につかる自分の写真を撮ってもらう。温泉に浸かって遊んでいた。30分くらいはいただろうか。5時ごろ小屋に戻る途中で夕立に会う。再び体が濡れてしまった。

温泉で体をほぐした帰り道夕立のきてまた濡れていく

彼女に濡れてしまったよと言うとケラケラと笑う。
小屋の夕食はてんぷらだった。食事はまあまあだったが、味噌汁の具が麩であって、なんとなく「なぁんだ」というがっかり気分になった。
食事を終えて一休みして、再び温泉に行く。ライトをつけて暗い道をゆく。温泉場にも明かりはないが、白い湯気が立ち込めており、月明かりの下で再び露天の風呂に入る。昨日の薬師岳に精力を使い果たしたかのような思いは嘘のようになって、この静寂の中で、白い湯気を透かして黒い空を見上げる。明日は天気に違いない。こぼれんばかりの星々を見上げてみる。幾人かの人も夜の温泉にやってきてにぎやかになる。

白い湯気透かして見える黒い空こぼれんばかりの星にあふれて

満天の星みて思うこの宇宙どこまででかいかひろいのか

星々の光が地球に届く間に人類滅亡あるやもしれず

頃合いを見て湯から出て、満天の星を眺めながら小屋に戻る。いい気分だ。
信州大学のYさんと明日のことを話す。朝は一緒に出ることにした。彼女はワリモ乗越から槍ヶ岳へ向かう。私は水晶小屋へ向かうことになる。
小屋はこじんまりしていて昔と変わらないようだ。2階の寝床にあがり、9時の消灯前に布団の中に潜り込んで、窓から差し込む月明かりをぼんやり見ているうちに眠りに落ちた。

私がここに泊まっていて、失敗したことは温泉沢の道を確かめなかったことだ。赤牛岳から降りてくる道としてりようされているというのだ。温泉に入ることで喜んでいたからだ。

明日の日は良い日になるよ窓により大地をつつむ月あかりみる

 


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