柩 92.11「芸術と自由」161
0334 この世に咲く花など両手に摘んで天国の歌会に臨もうか
0335 春日の青い畳みに寝転びながら見定めている柩置く位置
0336 愛される理由など見つからず目の前の死に急ぎたい理由の数々
0337 すこしばかりの青空がほしくて立ちのぼる煙り 私の柩を焼く煙り
0338 口とざしたまま柩の暗闇になれるまで一刻の間があった
0339 目覚めては僕の柩を前にして愛がたらないと悔やんでいる
0340 茫漠の地にあり 初老のからくり人形死に急ぐ発条を巻く
頬にかかる涙は 92.12
0341 詩歌に魅せられた魂を持て余しぼくはほんものの詩人になれない
0342 身を汚す水脈 忘却のチェルノブイリ 永遠の粒子 死をまつ海と
0343 流れる霧 顔面を剥がす樹林 死を予感する すべてが白
0344 透明の雨 みどりの命を責めて 悲鳴の雷 海は犯される
0345 チクチクと喉を刺す雨 神経の森は浸食され 地下水脈は血を流す
347 不発弾 空に忘れられて 炸裂 セルビアの 今頃の錯乱
348 飢えたソマリア鳥が飛びかう道端に棒になった人間が転がる
郷 愁
0349 あなたのとなりの人が異星人であっても気にすることはありません
0350 地から眺めるあの高層ビルの灯りは未来への希望でしょうか
0351 高層ビルの日陰にて死ぬものと心定めた柴犬は耳たてて座る
0352 高層ビルは夕日に照らされて向こうの道を霊柩車が走ってゆく
0353 僕は廃墟にはならないと強い意志の上にまた高層ビルが立つ
0354 青空を背に景観と思想を変える天辺の起重機に見下されている
0355 セイダカ泡立ち草の茂る一角はビルの谷間に陽のあたる場所
0356 狂い死にしたと友の訃報つたえる梅雨はずっとあけぬままである
0357 真昼の歩道、塔婆一枚かかえて老婆ゆらゆら歩いていった
0358 紋白蝶はひらひら瓦礫となったTOKIOの上をとんでゆく
0359 郷愁とはつまりあの風にふかれる青柳の通りの広さとのどかさと
悲しいね
0360 その一語に身を削り 愛あればこその葛藤終わることがない
0361 あちこちの借金を踏み倒して駆けまわる秋晴れの運動会
0362 我を通す詭弁奇論を駆使しなければ野たれ死にする鴉である
0363 不甲斐ない輩と嘲ればその中に居座っているのは私の影でした
0364 瞬間に損得をはじきだす手の上の計算機はまっこと厚顔であります
0365 寒く身勝手な振る舞いを美徳とする教えが氾濫する
0366 重々しくかつ悲しげに君が唄う「君が代」はやはり戦犯でありましょう
0367 人生おしなべて空回りすることを常態として言葉の数々は吃音になる
0368 無条件降伏した暑い海の匂いはうすれ また兵は海を渡っていった
0369 幸せについて考えるてんとう虫は悩み抜いたあげく飛び去った
0370 黙して野に咲く花の清しさを私の生き様とせめて思いたい下り道です