吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

カウライ男の随想 十九

2005年10月31日 06時18分17秒 | Weblog
カウライ男の随想 十九   
 
 彼の教室からハーモニカの伴奏で生徒逹の斉唱する歌声が校庭から渓谷にむかって消えて行く。
 六十三年前の記憶の歌詞。
 この世の春の花園に
 愛の光がなかったら
 暗い闇夜とおなじこと
 ああ青春はただ一度
 ………
 まさに彼は自分の想いを四才年下の弟や妹逹にきかせるつもりで作詞したのであろう。
 海兵不採用のショック…同じ人間なのにひとつの差別を国家から受けた傷心を胸に西峰に赴任してきた心境を思うと涙がこみあげた。 反響があった。職員室で苦虫かみつぶした顔したのはM校長と師範出を鼻にかけ二十二才で四年担任のK女にしつこくつきまとい、拒絶されて荒気味のN先生の二人である。
 戦時中に…愛とはなにごとか!と頭が自己保身にきゅうきゅうとしているM校長は禿頭から湯気がたつほどかっかとしていた。
 O君はそんなことを無視して毎日、ソングを繰り返した。
 生徒逹が覚えると、月曜日をクラスソングの日にした。
…先生!僕らにも六年生の歌教えてくれんかのぅ…甘えん坊の蔭から来てる雄一郎が私を見上げて口ふくらませた。
…お前らが高等科へ進級するまで待つとれや!…。
…先生は唱歌が下手じやけん無理よ!…
 土居のきかん坊の広吉が大人みたいな口調で言った。
 毎朝の朝礼でM校長は皮肉を込めてO君の教育ぶりを意地悪にも指摘した。
…田舎の阿呆どもに俺の哲学が分かってたまるか!O君はつぶやいた。

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