ぎょうてんの仰天日記

日々起きる仰天するような、ほっとするような出来事のあれこれ。

人生相談 (脚本家 奥園ミカ)

2019-01-27 23:20:24 | 小説

(質問)
「50代の会社員男性です。先生の書かれたドラマの大ファンです。相談するのは20代の頃つきあっていた女性の事です。
これまで3回結婚と離婚を繰り返し、現在は独身です。この年になって振り返ると彼女以上に愛した女性はいないと思うようになりました。その思いを彼女に伝えたいと思いますが止めた方がいいでしょうか。彼女とはその後会っていません。私と別れた後に弁護士と結婚をして子供もでき、とても幸せに暮らしているそうです。」


(回答) 奥園ミカ(脚本家)
「私のドラマの大ファンでいらっしゃるとはとても嬉しいです。どうもありがとうございます。さて、私のドラマがお好きという事は答えをある程度わかっていらっしゃいますね。私が不倫を否定する事はありませんから。そしてこれは相談ですかねえ。むしろ決意表明と言った方が当たっているようにも思えますけど。あなたは私の答えを知るよりも先にもう彼女に伝える気でいます。迷っていたり、止めて欲しいなら「不倫ドラマの女王」といわれる私にそもそも相談するでしょうか。

そうはいってもここで回答を止めてはあなたも納得されないでしょうから、もう少し続けます。3回も結婚と離婚をなさっているという事であなたがマメで積極的に人生を歩まれる方だというのがわかります。さらには人生相談に手紙まで書かれる、エネルギッシュな活動家といってもいいでしょう。常に何かを求め、結果を得るため行動なさる。そのあなたが今、過去を振り返るのはなぜでしょう?3回目の離婚をいつされたのかはわかりませんが、どうもその後の精神的時間的かつ物理的な空白があなたを過去への想いに向かわせているような気がします。過去は美しく見えるものですからね。

私は不倫ドラマを書き、シングルマザーの道を選んだ以上、前述の通り不倫を否定しません。やるなら思い切りおやりなさい、という立場です。ですからあなたが彼女に伝えたいといわれるならどうぞ彼女にお伝えなさい。すべてを捨てる覚悟でおやりなさい。
問題はそこから先です。あなたはその先、何をどうしたいのですか? 彼女と不倫のおつきあいをしたいのですか?夫から奪って彼女と結婚したいのですか? その場合、彼女の子供を引き取るつもりですか? 彼女の御夫君が弁護士なら当然慰謝料も請求されるでしょうが覚悟はありますか? いやいやつきあうつもりまではない、というのならそれも結構です。ただ想いを伝えるのもとてもロマンチックなものです。でもリスクもあります。あなたは彼女の夫よりも外見的、経済的、精神的、知的に魅力がありますか? あなたの告白にきっと彼女は「嬉しいわ。ありがとう。」と御礼を言うでしょう。しかし内心では御夫君とあなたを比較して「今の夫を選んで良かった。」と密やかな満足感に浸るかもしれません。いやその程度ならまだマシです。つきあっていた20代の頃のあなたと比較して外見的な変容や、(当時の彼女が思い描いていた)「あなたの未来」と現在のあなたが違っていた事に失望するかもしれません。あなたは彼女の夫だけでなく、20代の頃のあなたとも戦わねばならないのです。

わかりますか?最悪の場合、現在のあなたが登場することで彼女の心に数十年間宿っていたであろう「美しく輝いていた二人の恋愛」の思い出が壊れる事になるかもしれないのです。
私が「すべてを捨てる覚悟で」と前述したのはそういう意味です。

あなたの言葉は?

2019-01-12 02:04:24 | コラム
新年あけましておめでとうございます。
昨年ある件について各方面へ聞き取り調査をした。そこで見たものはなかなかに感慨深い。聞き取りで得られた断片から全体を推測していくのだが、聞きに行った先にはかなりご年配の人もおり、話はあちこちに飛び、そこから話を元に戻してようやく得られた内容の取捨選択をするのは至難の業だった。専門家に話を聞きに行っても人により意見はまちまちで、そうした中ふと思いついて「直接の関係者ではないが参考程度に」と思って聞いた先が大ヒット、冷静に全容を把握しているだけでなく対応策から関係者の人物評まで、その辺の専門家など比べ物にならない程のまあ素晴らしい分析と対応策の用意だった。大正生まれのご婦人である。

この件は私に色々考えさせるものがあったが、断片から全体を見抜く力もその一つだ。断片を多く集めても、それをまとめる者の心が冷静でこだわりなく、且つそれなりに知識がないと先入観や思い込み、自分勝手な解釈しかできず、正しく全体を見ることができない。言葉ではわかっていても自分が他者として、その実例を次々に見るとこれがいかに重い事実であるかがわかる。取捨選択に迷った私もその中の一人に過ぎないのだろうけれど。

SNS上で見掛ける自称「専門家」による怪しげな記事の数々。少しでも調べればその「専門家」とやらがいい加減なものかわかるのに、根拠もない「分析」と宣う、ただの煽り記事でもかなりの数の「いいね!」やコメントがあるのを見ると空恐ろしい気持ちになる。言論を取り巻く環境は悪化している一方で、イメージとそれに影響されている。地に足がついていないフワフワとした雰囲気が最近は蔓延しているようだ。

暮れの買い出しで賑わうJRの駅を歩いていて、あるポスターが目に留まり仰天した。

「国土の強靭化 進めよう!」

一体何が始まるのか、はたまたどこの国のスローガンかとも思った。まじまじと見ると「レジリエンス・ジャパン」とある。「レジリエンス」の訳語で「強靭」を使ったのかとある程度合点がいったがどうにも違和感を拭えず、調べてみた。何でも内閣官房国土強靭化推進室が作成したポスターのようだった。さらに調べてみると防災・減災の対応推進のものらしいが、いかんせん「強靭化」である。通常、この単語の後には「強靭な体、強靭な精神力」というような言葉が続くことが多く、「快活、元気」あるいは「回復力、弾力性」を意味するレジリエンス(resilience)の訳語を「強靭」にして「国土」に繋げるのにはそぐわない気がする。平成26年には同様の「レジリエンス・ジャパン 国土強靭化キックオフ」というポスターも公開されている。

どんどん調べを進めていくと「ぼうさいこくたい-2018-」という、なぜか全部ひらがなの国体もあることがわかった。「防災国体」では物々しかったのかもしれない。(防災頭巾を被った戦時中の図が浮かぶ。) 以前からあった「防災推進協議会」に加えて安部総理大臣のリーダーシップによる「防災推進国民会議」が平成27年9月に設立されているそうで、災害が多い近年の状況からするに不思議はないけれど、中には異議を唱えたいものがある。平成26年6月版「国土強靭化基本計画」に「特に配慮すべき事項」として「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた対策等」が挙げられ、ついで平成30年12月に閣議決定された「『国土強靭化基本計画』の変更について」でこの平成26年6月3日版は「全部変更され」たことが発表された。その変更された平成30年12月14日版の「国土強靭化基本計画 -強くて、しなやかなニッポンへー」の中で、「(7)2020年東京オリンピック・パラリンピックの競技大会に『国土強靭化は我が国を訪れる外国人に対する一種のおもてなしである』とある。

え?おもてなし?いつから防災や回復力はそんなに低い扱いになったのか。防災や減災はもっと重大なものではないのか。「国土強靭化」「ぼうさいこくたい」「防災推進国民会議」と「国」を強調した言葉を多用している割には、大事な防災や減災を進める理由の一つにいくら何でも一競技会を挙げますかね・・・。何だか防災に対する冒涜にすら思えてしまう。まったくもう、担当は誰よ!としつこく調べを進めると「特命担当」の大臣だった。国務大臣、国家公安委員会委員長、国土強靭化担当大臣、内閣府特命担当大臣(防災)の山本順三氏だった。国土交通省の管轄かと思ったが違うようだ。(ここでも「国」が列挙されたことにお気づきですか?意図した訳ではないのですが。) 山本さん、しっかりして下さいよ。

強靭化だのおもてなしだの、妙な言葉で曖昧な雰囲気を醸し出して納得させるのでなく、言葉はしっかり使い分けたい。なぜなら言葉の使い分けによって人の認識というものは変わるから。人は言葉でものを考える。曖昧な言葉でもって考えれば考えは曖昧に、粗雑な言葉を使えば粗雑な考えに、感情的な言葉を使えば感情的な考えに、過激な言葉を多用すれば過激な考えになるような気がしてならない。少なくともその言葉の持つ力に飲み込まれかねない。あるいは言葉が雰囲気を作るだろう。例の大正生まれのご婦人のことが思い出される。心情を吐露し、皮肉を口にしても彼女は一度たりとも感情的な言葉を使わなかった。冷静な観察眼と思考で冷静な結論と対応策を持っている。彼女よりも10歳近く若い他の女性は終始感情的な言葉を吐き続け、枝葉末節や無関係の過去の事柄にとらわれていた。無論対応策などあろうはずもない。

日本人は論理的な議論を好まないと言われるし、まあできるだけ曖昧に進めたいことも時にはあるのだろうけれど、大事なことは議論しなければならない時がいずれ来る。その時はぜひとも粗雑、感情的、過激でない言葉を使って考えたいし、考えてから議論して欲しい。特に国際間のことは。粗雑で感情的で過激な結論を出す前に。