ぎょうてんの仰天日記

日々起きる仰天するような、ほっとするような出来事のあれこれ。

政治と動物にまつわるエトセトラ

2019-06-17 01:22:55 | コラム


香港の「逃亡犯条例」反対運動が気になっている。反対する香港住民が学生だけでなく企業にも広がっていることで、住民の「これを守らなければ最後だ」との強い危機感が伝わる。自由とは、政治とはと考えているうちに、政治風刺の小説を思い出した。ジョージ・オーウェルの『動物農場』。農場の過酷な労働に動物達が遂に反乱を起こし人間を追い出す。その後、動物たちのリーダーとなった豚により農場では以前よりも更に過酷な労働が強制されるようになる、というスターリン体制を風刺した作品だ。

ところでこの小説を読む前に動物が登場するもう一つの小説を私は読んだ。それは偶然による。ジョージ・オーウェルの『動物農場』と『1984』は友人から強く勧められたものだが大学の図書館でパソコン検索をする時にうっかり正確なタイトルを忘れていた。検索で溢れんばかりに表示される「ドウブツ**」のタイトルを探すうちに「ヨーロッパの作家」で「動物**」に該当するそれらしき作品が見つかった。「おお、これに違いない」作者は世界的に知られていて正に相応しいと思われた。さっそく本を入手するとどうもおかしい。大学にある本にしてはほのぼのし過ぎているのだ。違和感を覚えながらも読み始めた。

その本では第二次大戦後に開かれた人間達の無駄な国際会議に愛想を尽かした動物達が初めて会議をする。反乱を起こして要求を通すために人間の子供達を誘拐してしまうのだ。確かに内容は友人の話した通り、「人間の横暴に怒った動物たちが反乱を起こ」している。しかし友人の話していたような恐怖感やおどろおどろしさは微塵も感じられない。最後には暖かい思いにすら包まれた。その本の題名は『動物会議』、作者は『エーミールと探偵たち』『ふたりのロッテ』で有名なエーリッヒ・ケストナー。子供向けの本だったのだ。

なぜあの本が大学図書館にあったのかは今もって謎だ。(教育学部があったからかもしれない。) しかし偶然とはいえあの本に出会ったことは素晴らしいことであったことは間違いない。私にとっては最後の一文がとりわけ印象的で、あの一文こそがケストナーの言いたいことのすべてだったのではないかと思えるほどだ。バッタだったか蟻だかの小動物が第2回目の動物会議に参加するために1年も前に地球の反対側から出発する所で「うん、でも民主主義ってずいぶん大変だなあ」というようなことをつぶやく。

ケストナーは第2次大戦終了直後にこの本を書いたそうだ。書かずにはいられなかったのだろう。ワイマール共和国からナチス・ドイツへの変遷を見てきた人間として。ナチス時代に目の前で自書が焼かれたのを見た者として。未来を担う子供たちへ真に英雄的なこととは派手なことではなく地味なことの積み重ねだということを、あの一文に託して伝えずにはいられなかったのだろう。

対象が大人の違いはあるにせよ、オーウェルも同様であったと思う。考えないこと、傍観するのみの危険性をオーウェルは彼の小説で描いたのだろう。

香港のデモは選挙が原因ではないが世界中で選挙が行われる今年、2人の作家の時代から私達が少しでも成長しているといいのだけれど。

ところでこのコラムを書くにあたり、ケストナーの『動物会議』を2つの書店で探したけれど見つける事ができなかった。どちらも大型書店チェーン店舗なのにだ。1店目ではケストナー自体が見つからず、2店目では見つかったけれど文庫のみでしかも『ふたりのロッテ』『とぶ教室』の2冊しかなかった。以前は書店に行けばハードカバーのものは必ずといっていいほど置いてあったのに。なんだか日本の将来がとても心配になってしまった。


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