毎日新聞 2007年3月6日社説より
築地市場移転 土壌汚染問題
水産品の扱いでは世界最大の規模を誇る東京都中央卸売市場(築地市場)の豊洲地区への移転を巡って、土壌汚染など安全性を危惧する声が広がっている。
豊洲地区が東京ガスの石炭を原料としたガス製造工場跡地で、土壌や地下水が鉛やヒ素、シアン、水銀などに汚染されているらしい。
東ガスは現在、汚染土の除去や入れ替えなどの対策を講じており、年末には終了の予定だ。
都条例に基づいた環境影響評価も年末に最終評価書が提出されることになっている。
若林正俊環境相は最近の国会答弁で「万全の上にも万全という点から安全と言い切ることはできない」と述べた。
松岡利勝農相も「重大な関心を持っている」と答弁した。
築地市場の水産物仲卸業者は安全性が確認できないとして、移転反対の姿勢を明らかにしている。
都は汚染土の入れ替えや新たな土盛り、表面のアスファルト被覆などで安全性は確保できるとの見解だ。
食の安全という観点から問題点がいくつかある。
第一は、東ガスの調査は03年施行の土壌汚染対策法以前に行われており、都の条例による対策で十分なのかという点だ。
汚染状況は国の環境基準に対して、最大値で鉛9倍、ヒ素49倍となっている。検出されてはいけないシアンも出ている。
地表面から深さ2メートルを超えた分は基準の10倍を超えていなければ処理は行わない。地下水も汚染されていることからみて、これで安全なのかどうかという問題がある。
また、ベンゼンやシアン、水銀などは常温でもガス化しやすく、アスファルトやコンクリートで被覆しても割れ目から漏出する恐れがあるといわれている。
このような懸念がある以上、土壌汚染対策法に基づいた調査を行うことが必要と思われる。
同法によると汚染地域では10メートル四方ごとと現行よりも精緻な調査が必要だ。
都が豊洲市場の開場を急いでいるのは、移転後の築地市場跡地が16年に開催を目指している東京五輪のメディアセンター候補地となっていることもある。
築地市場を通る水産物は全国に流通するため、東京だけの問題ではないのだ。
第二は、移転についての合意形成も問題だ。都の移転決定は01年末だが、その時点から現在までの間、関係者のみならず、消費者などを納得させる手続きが取られたのか。計画段階で複数案による環境影響評価が行われたというが、水産物や青果を扱う市場として、安全性を保証できるのか。
ようやく、移転問題への関心が高まってきた。ところが、事業者を決める入札手続きが間もなく始まる。年末には都市計画決定も見込まれる。食の安全にかかわるだけに、このまま進めることは問題が大きい。
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日本環境学会会長で大阪市立大大学院教授の畑明郎氏。
「最も懸念されるのは有毒ガス。
ベンゼンや水銀、シアンは蒸発して空気中を漂います。
アスファルトで舗装しても割れ目から漏れてしまう。
それが魚に吸着する恐れがあるのです。
また、土ぼこりが舞って、汚染された土壌が直接付着する可能性もある。
さらに汚染地下水も危ない。
潮が満ちれば地下水位は上昇するし、地震が起きれば液状化現象で地表に噴き出してくる。
今でも2、3メートル掘れば地下水が出てくるため、2.5メートルの盛り土くらいではどうにもなりません」
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2月26日
<田中康夫 新党日本>
東京都政で一番心配なのは、築地の市場ですね。今度、築地市場は元ガスタンクのあった埋め立て地の方へ移ります。それがどのくらい恐ろしい場所かというと、土壌中にベンゼンが基準値の1500倍。生殖系に異常を起こす量がある。シアン(青酸カリ)も確か490倍。ヒ素が49倍。水俣(みなまた)病を起こす水銀も24倍くらいあるらしい。
これで社会は大丈夫なのかというようなことなのに、どうしてメディアは取り上げないのかと思うけれどね。新銀行東京がすでに500億円も赤字を出していて、破綻(はたん)しかけているとか、そういう問題も確かにある。でもこれは、なかなか目に見えにくい話なんですよ。