かるい散歩

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はやしだみきのブログ

『メイキングムービー』 著書シドニー・ルメット <2>

2013年07月26日 00時43分53秒 | イーサン・ホーク
『12人の怒れる男』『オリエント急行殺人事件』『狼たちの午後』『ネットワーク』『評決』、、、などなど。

子役→テレビドラマ演出→映画監督 
モノクロ→カラー
フィルム→デジタル

子役時代は4歳から、テレビドラマ→地元の舞台→ブロードウェイ
第二次大戦へも陸軍として従軍し、、、、結婚4回、、あれこれ、、、。

20世紀の映画の変遷、時代の移り変わりの中で、とわずか30語ほどで言ってみるが、
それはそれは大きく変化してゆく中で、常に何かをつくり出してきた人である。
偉大な、、、と言うのも簡単だけど、もう想像の範疇ではないことは確かである。

だけど、本はたくさんの実例を淡々と分かりやすく、イヤミや皮肉、もちろんユーモアも忘れずに、
丁寧に書かれていて楽しく面白く深い。

序文の書き出しに黒澤明監督の名前が出てくる。
『以前、黒澤明監督に"乱"のショットを独特のフレームにおさめた理由をたずねた事がある。』
『Google Booksへ』

これで親近感も涌いたりして、ページを次々めくることになる。
ちなみに理由は「1ミリでもフレームをずらしたら、必要ないものが映ってしまうから」
これが冒頭に書かれているのだ。

映画が企画される段階から、脚本作り、監督特有の2~3週間のリハーサルのこと、
どういう映画を作るのか?、俳優は? 美術/衣装は? 実際の撮影、
編集、ラッシュ、音入れ、ミキシング、プリント作業、スタジオ、公開へ。


もう事細かく、順を追って書かれている。
今の映画に当てはめられない部分があるなら、VFXとかプリント作業のことかしら。

成功した映画のことが魅力的なのはもちろんのこと、
失敗したこともかなり正直に書かれている。
それは自分が失敗したこと、誰かが失敗したこと、キャスティングを間違えたこと、、、などなど。
だからこそ、生々しく撮影の風景や、映画が出来るまでの緊張感や情熱が感じられる。



何度か繰り返される言葉
「この映画は何について描いているのか?」

それがすべてを決めると。。
この脚本の中に描かれていることは何なのか?と。

「12人の怒れる男」よく聞け!
正義がどうの、人間はどうのじゃなく、これが描かれていることの本質だと。
いつだって核心はシンプルなのだ。

私は映画学とか、映画史とか勉強したことが無い。
ましてや俳優部が参加している部分は、ほんの一部でしかなく、
その前後にたくさんの作業があることを頭の中では分かっていたつもりだが、
こうして順序だてて読んでみると、あーーーホントに一部だわと思う。
多くの集合体が映画だと分かる。まさにメイキングムービー。

作品を引き受けたところから、監督自身をその作品に身を捧げている。

「僕の場合のやり方だ」とは言っているが、
普遍的なことに溢れていると思う。

具体的な映画をあげての部分は、ワクワク、ドキドキの連続だ。

「オリエント急行殺人事件」で列車が出発するシーンは本番1発。
ロケ地の都合で時間との戦いで、リハーサルもぜず1発本番。
読んでいるこっちがハラハラするほど。

「狼たちの午後」の衣装は自前。
元々あった脚本を元にリハーサル中にアドリブを書きとめながら撮影台本を作ったこと。
電話のシーンの撮影を長回し1テイクで撮影する為の工夫。
アル・パチーノの演技を最大限に活かすための気遣い(いや、撮影方法かな)
二つの電話のシーンと、現場へ来る母親、そしてラストのソニーの表情。
ジリジリとネジを締めてゆくように、孤独のみが増す心情。
本を読んだあと、DVDを何度か観ると、また見えてくるものも違う感動。

はぁーー面白い。力強い!

「評決」のポール・ニューマンの部屋の色調は、、、
キャサリーン・ヘップバーンへの出演依頼は、、、
サブリミナル効果を最初にやったのは監督なんだ、、、
具体例が宝の山のよう。

20歳のころ、イーサンが本屋の床に座って夢中になって読んだ本を、
40代半ば越えのわたしが夢中でいま読んでいる。

いくつかの映画はまだDVDが手に入れられず観てないものもある。
VHSにすらなっていない作品も。

どのページをめくっても、
監督の情熱がほどばしるようで元気になってくるし、
「あああーーーーー現場行きてぇーー!仕事欲しい!」と叫び出したくもなる(笑)


「映画作りにおいてなにひとつ必要のない決定はない」
「みんなが同じ方向をむいてこの映画を作っている喜び」
「映画が当たるか当たらないかの理由は、実際のところ分からない」


ページの最初から最後まで一貫して監督の思いや、根本は変わらない。
作ると決めたからには、最善を尽くす、泣き言言うな、どうにかしよう、アイディアを練ろう、
出来ることと出来ないことがある。演技は動詞だ。演技に命はあるか? 
俳優は自分をさらけ出す勇気を持て。信頼しよう。、、、、、etc

一貫して、その選択のすべては
「この映画は何が描かれているか?」を表現するためにあるのだと。


日本人だし、黒澤監督や、小津映画のことを知ることも必要なのだろうけど、
こうしてシドニー・ルメット監督の本を読んで学ぶ機会が得られたのも、イーサン繋がりで、
どういうわけか勝手に大スターの話を親近感を持って読める日が来るなんて、
妙な話だけど、自分にとってはすごく良かった。


『その土曜日、7時58分(Before the Devil Knows You're Dead)』の特典で、
イーサン・ホーク/フィリップ・シーモア/ホフマン/シドニー・ルメット監督の音声解説がある。
これもすごーく面白く、私は前から大好きだった。
話の中で、デジタル撮影について触れられていた。
「フィルムにこだわる監督も居るけれど、デジタルじゃなければあのシーンは撮れなかった。」
ラストシーンのショットだったと思うが、奥に居る人物はデジタルじゃなければ撮れなかった、
だから新しい技術は使えばいいんだよ。そんなような事を言っていた。
本は96年出版なのでこの映画のことは書かれていないが、
その話ぶりには、軽々と技術の進歩や変化を受け入れて楽しんでるさまが感じられた。

もし本を読む時には、
you tubeででも監督が実際に話してる映像や、音声解説を聞いてからがおすすめだ。
早口で、陽気で、少し高めの声で、情熱を感じる監督の話し方、表情を思い浮かべながら、
読み進めると、更に書かれていることが立体的になるかな。



「彼のアプローチには決してウソがなくて、雑音や大げさなことや不思議なこともなく
て、まさに核心を突いてる。映画を作るのは家を建てるようなものだって。」
とイーサンが言ってたけど、本当にその通りだった。

まだ観られていないDVDをコツコツ観るのも、これからの楽しみのひとつ。
俳優、技術スタッフは多くのアカデミー賞などを取りながら、
監督自身は、ノミネートはされても実際の賞(最優秀賞とでも言うか)を手にすることがなかった。
それでも、2005年にはその生涯における業績を評価され、アカデミー名誉賞受賞。 


作り続けてこそ。やり続けてこそなのだ。

さて、自分は何する? どうする?

そんなことも突きつけてきた。

イーサンからのアドバイスを、監督の情熱を感じながら受け取って、
要は自分がどうすんだ?ってことである。

多くのことを残してくれてありがとう、シドニー・ルメット。













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