goo blog サービス終了のお知らせ 

地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

エアーズロック(Ayers Rock)の発音

2010-07-15 | つれづれ
先日,ツイッターでグーグルアースに関する話を書いた.その際に,オーストラリアのエアーズロックをエイヤーズロックとタイプした.少し後に,誤りを指摘して下さった方がいた.

僕は現地に行ったことがなく,この地名を意識したこともなかったが,会話ではずっと「エイヤー」のように発音していた.その方が言いやすいので間違えたのか,どこかでエイヤーのような音を聞いたのかが気になった.

そこで,元の綴り Ayers Rock の発音を,オンライン辞書で調べてみたところ,エイヤーズのようなものと,エアーズのようなものが両方あることがわかった.

さらに,この発音についてはネイティブの間でも議論があり,アメリカ人が「エイヤーズとエアーズの中間の音だろう」と書いていることもわかった.

一方,日本語ではエアーズで統一されているようだ.そのことが,「空気の岩の意味」という誤解を一部で生んでいることも,ネットの検索でわかった.実際にはオーストラリアの政治家 Henry Ayers にちなんだ名前である.最近はアボリジニの呼び方であるウルル(Uluru)も広く使われている.

結局,自分がなぜエアーズではなくエイヤーズと憶えたのかは判然としない.でも,二つ思い当たることがある.一つは以前にダウンロードした,エアーズロックが出てくる英語の動画.改めて見たところ,そこでの発音はエイヤーズに近かった.もう一つは,地理学教室の元教授の話.それは,「研究に行き詰まったら,細かく考えるのはやめて,エイヤーとやればいいんだよ」というもの.それを聞いて以来,エイヤーという言葉が頭から離れない気がする.

It's so good to know there's still a little magic in the air.
(Brighton Rock / Queen)

*写真はウィキペディア・コモンズのパブリック・ドメインです.

センター勤務

2010-06-03 | つれづれ
4月より空間センターの体制が替わり,浅見先生がセンター長になり,僕が副センター長になりました.副センター長の主な役目はセンター長の支援です.浅見センター長が多忙のため,代理で会議に出る機会が増えています.先週は,国立大学法人の主要な研究所とセンターの代表が集まる会議に出席しました.

研究所やセンターは,大学におけるユニークな存在です.学部や研究科に比べて規模が小さく,特定の役割に尖っています.センターは特にその傾向が強く,政治力は限られていますが,機動力を発揮しやすい組織です.今回,会議に参加した80強の研究所・センターのリストを見て,面白い尖り方をしているものが多いと感じました.たとえば僕の分野に近いところでは,岡山大の地球物質科学研究センターや,高知大の海洋コア総合研究センターが含まれていました.

会議では,今年度設立され,会議に新たに参加した組織とその長が紹介されました.その中には京大・iPS細胞研究所の山中先生がおられました.スーパースターが紹介された際には,会場の空気がちょっと変わった感じがしました.

大学の中でセンターに勤めている人は少数派ですが,僕の家内や,最近共同研究をやっている片岡さんもセンターの所属です.学部時代に地理学教室に進学した際には,小さなユニットで頑張りたいと考え,それが僕にはとても合っていました.その流れが今も続いている感じがします.

'Cause I want to be the minority.
(Minority / Green Day)

ブログとTwitter

2010-04-26 | つれづれ
僕はこのブログに,およそ週2回のペースで記事を書いている.それに要する時間は長くはないが,その時間を研究などに使えば,そちらが少し進むのも事実である.したがって,ブログは時間の浪費と考えることもできる.ただ,以前書いたように,ブログも学問に貢献すると僕は本気で考えている.また,ブログにときどき記事を書くのは,精神のリフレッシュにもなっている.よって,今後も同様のペースでブログを続けたいと思う.

関連して,何人かの尊敬する先生がブログをやられていることは,自分に安心感を与えてくれる.たとえば日本地球惑星科学連合会長の木村先生.若々しい感覚で,面白く,時には鋭い記事を書かれている.その木村先生が最近の記事で,Twitterを始めたと書かれていた.びっくりした.その昔,自然地理の大御所の野上先生が,Javaが流行りだした頃に自作のスクリプトをウェブに載せているのを見て,驚いたことを思い出した.お二人とも,心と行動が実に若い.

Twitterは情報や考えを即座に入手できる点が魅力ではあるが,ちょっと落ちつかない感じがするので,僕は参加しない予定である.もっとも,僕はかつてブログが嫌いで,自分がやるとは夢にも思っていなかった.よって,いずれ考えを変え,Twitterに参加する可能性は残っている.

僕は,一度拒絶したものを後で受け入れる柔軟さはあるようだが,木村先生や野上先生のように,新しいものに積極的になるタイプではないと思う.でも,僕がパワポのようなスライドを学会発表で使ったり,大学のサイトに個人のホームページを作ったのは,周囲に比べてかなり早かった.たとえば上の画像は,1994年にイギリスの学会で使ったスライドであるが,他の出席者は全員,地味なブルー・スライドやOHPを使っていた.発表の後に,「どうやって作ったのか?」と聞かれるような時代だった.

どうやら僕も,若い頃は先取の精神を持っていたが,次第に時代の変化に追いつけなくなってきたようだ.これは人生の自然な流れだから,無理に逆らわない方が良い.よって,Twitterで「つぶやく」のではなく,今まで通りブログで「ささやく」ことにしよう.

Whispering bells, loud and clear.
(Whispering Bells / Del-Vikings)

物理地理学?

2010-04-20 | つれづれ
先日,このブログのコメント欄で,田代先生が昔,翻訳書で「物理地理学」という言葉を見つけたことが話題になりました.Physical Geographyは「自然地理学」ですが,Physicalには「物理学の」という意味もあるので,事情を知らない人が誤訳したのだと思います.田代先生によると,翻訳サイトでもPhysicalのデフォルトの訳は「物理」とのことです.

この件が気になったので,「物理地理学」をウェブで検索したところ,それなりに出てきました.日本のサイトとともに,中国にもあり,欧米の地理学科や研究者に関する記事での使用が目立ちました.これは英語の誤訳という仮説を支持しています.実際,Physical Geographyの訳として「物理地理学」と記したことが明白な例もありました.上の画像がそうで,中国の図書館のウェブページです.ここでは「Human Geography = 人文地理学」も「人口地理学」になってしまっています.

念のため,北京の中国科学院にいる友人の自然地理学者,Xiaoping Yangにメールで聞いてみました.やはり中国でも「物理地理学」という専門用語はなく,誤訳といえるそうです.

ただし地理学の中には,物理学とも関連がある地形学や気候学のような分野があるので,「物理地理学」を定義しても良いかもしれません.でも,その英訳はPhysical Geographyなのでしょうから,とても混乱しそうです.

なお,Physicalには「肉体の」という意味もあります.土壌調査のための穴掘りといったフィールドワークは,まさに「Physical Geography = 肉体地理学」です.

I'm sure you'll understand my point of view.
(Physical / Olivia Newton-John)

カテゴリー

2010-02-04 | つれづれ
本ブログに9個のカテゴリーを設定し,記事を分類するようにしました.以前は「Diary」という一つのカテゴリーに全ての記事が入っていました.研究に関連したことを書くという一貫性があるので,記事の分類は不要と考えていました.

しかし「おもしろ写真」を掲載し始めるなど,記事が多様になってきました.また,記事が100件を超え,整理すべき状況になりました.そこで,記事の分類を試みました.ただしカテゴリー9個は多い感じもします.しばらくこれで試しつつ,調整しようと思います.

昔,地形分類図をよく作りましたが,その分類基準の作成も容易ではありませんでした.詳細さを求めるとカテゴリーが増えますが,カテゴリーが多い図は判読が困難になります.最適値の選択が重要です.

学生時代に読んだ本に,「分類=分割という印象が強いが,実際にはグループにまとめる作業である」と書かれていました.鋭い指摘です.

Why are you trying to classify it?
(Animato / Hikaru Utada)

斜め空中写真

2009-11-10 | つれづれ
7月の若手地形学者セミナーの際に,国際地形学会の会長であるMike Crozierが,「地形学者は飛行機の窓側の席にいつも座る」と講演の中で話しました.

自分も以前はそうで,スチュワーデスに「映画をやるから日よけを下げて」と言われても,スキをみて日よけを少し上げ,地形を見ていました.しかし今は,フライトのルートや時間によっては動きやすい通路側の席をとります.Mikeの話を聞き,自分の熱意が落ちてしまったように感じました.

先週,済州島での学会に向かう時のフライトでは,窓際を確保して地形を見ていました.我が郷里である諏訪盆地の少し南側を通過しましたが,伊那市付近の風景をみて驚きました.天竜川,三峰川,小沢川の河道と段丘崖が作る,十字架のような形が見えたからです.はくちょう座か南十字星,という感じがしました.

その後,伊那市付近の地図や衛星画像を見てみましたが,十字のパターンに気づくのは困難でした.どうやら,飛行機で斜めから見ないと,認知できないようです.

地表のパターンを知るのに斜め空中写真が使えるというのは,新たな認識でした.もちろん,斜めから見るとバイアスがかかるので,読み取ったパターンの客観性は高くないのでしょう.伊那の場合にも,実際には屈曲のある地形が,斜めから見ると直線的に見えるという効果に起因するようです.それでも,予想外のパターンが見えるのは面白いと思いました.

なお,この「十字」を地形学的に説明するのは難しそうです.黒部の十字峡のように,岩盤を刻む谷であれば,方状節理などで説明できそうです.しかし伊那の場合は,河川堆積物に覆われた盆地の中なので,たまたま本流と支流がそう分布している,ということに尽きる気がします.

All right.
Sail away to the sign.
(The Sign of the Southern Cross / Black Sabbath)

トンボロと陸繋島

2009-10-21 | つれづれ
ウィリーウィリーほど頻繁ではありませんが,ときどき誤用される地理用語の一つにトンボロがあります.写真は8月に北海道に行った際に撮影した,函館の夜景です.陸繋島(りくけいとう)である函館山から,陸繋砂州(りくけいさす)である低地の市街地を眺めています.トンボロは陸繋砂州のみを意味する言葉ですが,誤って陸繋島もしくは陸繋島+陸繋砂州の意味で使われることがあります.たとえば,ウィキペディアの「トンボロ現象」の記事は次のようになっています.

***

トンボロ現象とは、普段は海によって隔てられている陸地と島が、干潮時に干上がった海底で繋がる現象。陸繋島(りくけいとう - トンボロ)の成立過程の過渡的な状態に起こる現象と考えられている(以下略)。

***

この他にも,「陸繋島(トンボロ)」のような書き方をしているウェブの記事が多数あります.さらに,陸繋砂州のことを「陸繋島(トンボロ)」と書いたと読める例もあり,かなり混乱している感じです.

これは日本人が,トンボロという音からは意味を全く連想できないのが原因と思われます.トンボロ(tombolo)は元々はイタリア語とのことですが,英語,ドイツ語,フランス語などでも同じ単語が陸繋砂州の意味で使われています.また,tomboloはラテン語のtumulusに由来し,後者は小丘を意味するそうです.したがって,ヨーロッパ系の言語を母国語とする人であれば,音から意味を連想できるのかもしれません.ただし,小丘の形状を考えると,tomboloは陸繋砂州ではなく陸繋島のように思えます.

しかし,tumulusは古墳のような盛り土による小丘であり,基盤岩の高まりではないので,語源からみても「トンボロ=陸繋砂州」で問題ないようです.

Would you like to go on the Coney Island Steeple?
Go and have a good time.
(Coney Island Steeplechase / Velvet Underground)

タモ江地形クラブ

2009-10-16 | つれづれ
地形学連合の大会の際に,東京農工大の古市さんが「タモリは地形が大好きで,番組で特集もやってるんですよ」と教えてくれました.僕は最近はテレビをほとんど見ないので,この種の情報に疎いのですが,学生の頃にはタモリ倶楽部をよく見ていたので,とても気になりました.

先日,2/27のタモリ倶楽部で放映された「国分寺崖線を行く!! 桃栗3年崖10万年」のビデオを見ることができました.驚きました.かなり本格的です.複数のローム層や礫層などが記された崖の地質断面や,等々力渓谷の河川争奪の話まで出てきました.地質断面は一部が不正確でしたが(武蔵野礫層の上に下末吉層が載っているように見える場所あり),ほとんど気になりませんでした.

番組の中で披露された話ですが,タモリは高校時代に地形図に示された沼田の河岸段丘に魅せられ,大学入学のために上京した直後に,現地に足を運んだとのこと.

関連情報を調べてみたところ,次のような話も出てきました.

*タモリは江川達也氏,出版社社長の芳賀 啓氏と,地形を楽しむ「タモ江地形クラブ」を創設."Tamoe Geomorphology Club"という英語名まで定義."Landform"ではなく,"Geomorphology"となっているのが素晴らしい!

*今月からNHKで「ブラタモリ」が始まった.古い景観を思い浮かべながら,東京の各地を散歩する楽しみをタモリが紹介する番組で,地形についてもときどき語られるらしい.昨日見たところ,二子玉川が取り上げられており,タモリが人工堤防の上で「自然堤防じゃなさそう」と話す場面があった.

いやー,嬉しくなりますね.このような番組を通じて,地形学=Geomorphologyの人気が上がってほしいです.

Stand on a cliff and look down there.
(Electrolite / REM)

海岸段丘と海成段丘

2009-09-29 | つれづれ
都内の有名高校で地理を教えられている田代先生から,このブログに時々コメントをいただいています.

6/16に記したように,室戸の海岸段丘の解説を帝国書院の資料に書きました.その中にある「海岸段丘は海成段丘とも呼ばれる」という記述について,田代先生からメールをいただきました.高校の教材では,以前は海岸段丘の語のみが使われていたが,最近は海成段丘も使われる.しかし,河岸段丘や海岸平野を,河成段丘や海成平野と記した教材はない.用語の使い方は統一した方が良いのでは,という内容でした.

実は僕の最初の原稿では,海岸段丘の語のみを使っていましたが,帝国書院の担当の方から,海成段丘を使う例もあるので併記してほしいと言われました.確かにそうだと思い,併記しました.

この件を少し考えてみました.まず,海岸ではなく海成を使うと,位置ではなく成因による定義になります.これには妥当な面があり,たとえば標高数百メートルの場所にある海成(海岸)段丘は,比高からみて海岸とは呼べません.上の画像はGoogle Earthによる奥尻島の鳥瞰図で,矢印で示した最高位の段丘面は標高500m台です.

同様の状況は,河成(河岸)段丘についても生じますが,河成段丘の語は,なぜかあまり使われません.ネット上での言葉の登場頻度をGoogleで調べると,次のようになります.

海岸段丘=15300件,海成段丘=26400件,比率約3:5

河岸段丘=55900件,河成段丘=6090件,比率約9:1

また,地形学の論文や学会発表では,扇状地,河岸段丘,沖積平野といった河川が作る地形の総称として,河成地形の語がしばしば使われます.しかし,海成地形という語はほとんど使われません.耳で聞いたら,海底地形と間違えそうです.

結局,専門用語であっても,論理性や一貫性を考慮して使われるとは言えないようです.海成段丘の語は,単に相対的な使用頻度が高いので,高校教育にも入ってきたと考えるべきでしょう.

教育現場を混乱させてしまうのは,地形学の研究者として申し訳なく思いますが,この種の問題を意識的にコントロールするのは,とても難しいと思います.

余談になりますが,昔,「火星の河成地形」という学会発表をやりました.ウケたので喜んでいましたが,今思うと,火山も取り上げて「火星の河成・火成地形」とすべきでした.

The reality that will bring us all together.
Oh, have you heard the word?
(Have You Heard the Word / Fut)

一年経過

2009-08-07 | つれづれ
このブログを始めてから,ちょうど1年が経ちました.かつてはブログなど絶対にやらないと思っていましたが,ちょっと複雑な理由により始めることになりました.当初はやはり迷いがあり,記事もあまり書かず,内輪以外には公開せずに細々とやっていました.でも最近は一つの習慣になっていて,ストレスがたまった時に記事を書くと,心が落ち着く感じすらします.

このブログは「地形学とGIS / Geomorphology & GIS」という堅苦しいタイトルになっていますが,これは研究に関係する記事のみを書くというポリシーのためです.ほとんど音楽やワインの話であっても,何かは必ず研究と関係しています.一般ウケを狙うのであれば,タイトルや執筆のポリシーを変えるべきでしょうが,そうしようと思ったことはありません.

研究者のブログがずいぶん増えてきましたが,その意義については未知の点が多いようです.ある意味では個人の戯言ですが,僕は学問に貢献すると本気で考えています.学術的ではない内容が多くてもです.なぜなら,研究者はジョークを言ったりする普通の人間でもあり,人としての生き方が,研究活動にも反映されると思うからです.

このブログは,大げさに言えば一つの実験です.たとえば,地形学,地理学,地球科学,GISといった面白い分野があることが,少しでも世に伝わるきっかけになればと願っています.また,僕は個人の逸話を読むのが好きなので,そのような感じで記事を読んでくれる人がいれば嬉しいです.

なお,ブログにどこからアクセスがあったのかは調べていませんが,日と週のアクセスの総数が編集用の画面に表示されるので,それは時々見ています.それなりに読んでもらっているようなので,学問への何らかの貢献を信じつつ,今後もじわじわと記事を書こうと思っています.アクセスしてくれた皆様,ありがとうございます.

And from one year into another I think of you when I feel summer.
(Warmth of the Sand / Dashboard Confessional)

室戸の海岸段丘

2009-06-16 | つれづれ
帝国書院から依頼された地形写真解説の締切が迫り,急いで原稿を書きました.今回の写真は室戸岬付近の海岸段丘です.執筆にあたり,日本の地形学の古典を久しぶりに読みました.吉川虎雄氏らが1964年に発表した「土佐湾北東岸の海岸段丘と地殻変動」(地理学評論,37,627-648)です.

もし日本の地形学の歴史を作った論文を10編選ぶとしたら,この論文はその一つに入るでしょう.長期にわたるほぼ一様な隆起と,氷河性海面変動を組み合わせると,海岸段丘の分布が説明できることを示した研究です.これは,地形の分布から地殻変動や海面変動を復元する研究にも応用でき,世界各地でその後に行われた多数の研究の先駆けになったものです.残念ながら世界的には,後で欧米人が行った同様の研究を最初の例とみなす傾向があります.でも,日本が元祖と正しく理解している人もいるようです.

この論文を読むのは学部生のとき以来と思います.改めて読み,やはり良くできていると思いました.地形の分布の記載,昭和南海地震の前後の水準測量データ,およびFairbridgeが描いた初期の海面変動曲線を組み合わせて,一貫したストーリーを組み上げた過程が見事です.地形面の年代を直接示すデータがないことは,今の目で見ると弱点でしょうし,議論が大ざっぱなことも否定できません.しかし,それらが全く些末に思われるほど,組み合わせの妙が素晴らしい論文です.

この論文を改めて読むにあたり,JSTのジャーナル・アーカイブから論文のpdfをダウンロードしました.古い出版物なのに,pdfが鮮明で感激しました.良い時代になったものです.最新の国際誌の論文も重要ですが,若い学生さんには日本語・英語を問わず,一流の古典も読んでほしいと思います.その際には,今の科学のレベルに基づいて評価するのではなく,なぜその論文が当時重要であったのかを理解してほしいです.研究者が後生に残せるものは,未来永劫に有効な論文ではなく,その時代には先端的であった論文のみなので.

I'm learning again.
(The Heart of the Matter / Don Henley)

赤色地形?

2009-06-12 | つれづれ
少し前の記事で紹介した,中国の Danxia Landform(丹霞地貌)に関する話の続きです.丹霞山を含む地域を,暫定の世界遺産として紹介しているユネスコのウェブサイトには,次のようなDanxia Landformの定義が出ています.

Danxia landform is a unique type of petrographic geomorphology; it could be defined as "landform consists of red bed characterized by steep cliffs".

"could be"と控えめにはなっていますが,「赤色の成層した岩石で構成され,急な崖で特徴づけられる地形」という定義です.先日参加したDanxia Landformに関する学会では,さらに砂岩という定義も加わっていました.

一般に地形の種類の定義は,形態と形成プロセスに基づきます.たとえば,扇形という形態で扇状地と三角州が定義され,さらに海のプロセスが関与しているか否かで,両者が個別に定義されます.一方,構成物質を考慮することもあり,石灰岩の地域に発達するカルスト地形のような例もありますが,あまり一般的ではありません.とりわけ,構成物質の色による定義は皆無と思われます.この点で,上記のDanxia Landformの定義は奇妙です.学会のランチタイムに,この件を国立シンガポール大学のDavid Higgittと話しましたが,彼も変だと言っていました.Danxia(丹霞)の丹は赤を意味するので,その点では色が重要なのでしょうが...

上の定義によれば,グランドキャニオンやモニュメントバレーもDanxia Landformになります.実際,学会ではコロラド高原の地形に関する発表がありました.「日本にはあるのか」と参加者に聞かれたので,「日本では地殻変動が激しく,古い堆積岩があまり変形せずに風化している場所は希なので,ないと思う」と答えました.

ところが先週末,写真のような立派なものを日本で発見しました.赤色の成層した岩と急な崖で構成されています.場所はTDLのウエスタンランドです.

High up on the red rock.
Stands the shadow with the spear.
The land here is strong.
(Rhythm of the Heat / Peter Gabriel)

さらば ArcView IMS

2009-05-22 | つれづれ
長年稼働させていた,ArcView IMS(インターネット・マップ・サーバ)を停止しました.このサーバは,日本の地形データ(露頭,扇状地,地形写真),ポーランドの歴史的景観データ,および世界の古水文データを,縮尺可変の地図画像とともに提供していました.稼働の開始は1999年でした.

元々はWindows NT Server + ArcView IMSという環境で動いていましたが,2004年にNT Serverのセキュリティパッチが提供されなくなりました.そこでOSを最新のWindows 2003 Serverに変更したところ,IMSが作動しなくなりました.ArcViewは1990年代のソフトなので,無理もない話です.ところがOSを一代前のWindows 2000 Serverにしたところ,再び作動するようになりました.2000 Serverのパッチは2010年まで提供されるので,最近までその状態で運用していました.

しかし先日,ハードに問題が発生しました.RAIDに関するエラーが出たので状況を調べたところ,RAIDを制御している部分に問題があり,ディスクの交換では対応できません.修理も考えましたが,NetBrainという古いマシンですし,来年にはOSのパッチも提供されなくなります.そこで本日マシンを止め,ウェブページに告知を出しました.

IMSのエンジンを現行のArcIMSに換えておけば,マシンの変更のみでOKでしたが,僕が時間を割けず,さらに「古いものを動かしていることに歴史的価値がある」と開き直っていたため,乗り換えが進んでいませんでした.

このサーバは,地学雑誌,ポーランドの地理学の雑誌,埼玉大の紀要,CSISのDiscussion Paper,Wileyの本などに紹介されました.Minaさん,原さん,Linさん,斉藤先生など,データの整備に際してお世話になった方もたくさんいます.よってサーバが止まったのは寂しいですが,時代遅れになったら消えるのが,ネットの世界の運命です.

もちろんコンテンツは残っているので,いずれArcIMSを使って復活という展開もあり得ます.ただ,今はウェブでのIMSの利用が当たり前になっているので,10年前のような熱意は出てきませんね.

You're obsolete, my baby.
(Out of Time / Rolling Stones)

研究グループHP

2009-05-14 | つれづれ
研究室のホームページがリニューアルされました.作業の担当はhaya君で,いつものようにプロフェッショナルな仕事をしてくれました.

今回の変更は大々的です.まず,URLとサーバが変わりました.一種のモニターになるという条件で,マイクロソフトからサーバを提供していただきました.また,WordPressが導入されたため,更新がブログ感覚でできるようになりました.

次に,デザインが一新されました.ライトブルーが基調で,爽やかな青空といった感じです.

さらに,サイトの名前を「小口研究室」から「地形学・地理学研究グループ」に変更しました.理由は,4月から空間情報科学研究センターの助教になったhaya君と,一種のグループを編成したためです.我々のセンターは講座制をとっておらず,haya君は特定の研究室ではなくセンター全体に属しています.しかし,専門が同じで小口研のOBでもあるhaya君とは,研究や教育の場で積極的に連携していきます.そこで,サイトを共同のものにしました.

グループの名前を「地形学・地理学」としたのは,地形学を中心に地理学の諸分野に取り組むという,従来からの研究スタイルを踏まえたものです.

ホームページが変わると新鮮な気持ちになります.本研究グループをよろしくお願いします.

Look all around, there's nothing but blue skies.
Look straight ahead, nothing but blue skies.
(I Can See Clearly Now / Johnny Nash)

BからAへ

2009-04-27 | つれづれ
以前も書きましたが,帝国書院が中高の地理教員向けに発行している小冊子「地理・地図資料」に,地形写真の解説を執筆しています.先日,養老山地の解説が載った今年最初の号が届きましたが,封筒を開けたとたん,「何だ?」と思いました.従来のB5版がA4版になっていたからです.

90年代に官庁の文書の大きさがB版からA版に変わった影響が,多方面に及んでいるようです.僕も以前はプリンタにB版の紙をよく入れましたが,最近はほとんど入れません.

A版は国際規格で,B版は日本独自の規格とのことですが,官庁が「日本独自」をやめる動きは他にもあったようです.大学では中央の事務が最も官庁的な組織ですが,以前はそこから来る文書ファイルは某国産ソフトの形式でした.しかしある時から,WORDやEXCELの形式に変わりました.また,以前は事務の部屋には国内某社の似たパソコンが並んでいましたが,今は多様な感じです.

ところで僕は,国際的にもB版からA版への移行が進んだような錯覚を持っています.オンライン・ジャーナルがまだなく,海外の雑誌を頻繁にコピーしていた頃には,A3とB4の紙を両方使いました.冊子を広げて2ページ分をコピーすると,それぞれの紙にほぼ収まる2種類の雑誌があったためです.しかし最近は,広げるとほぼA3になる大きなものが増え,B4になるものは減りました.僕の身近な雑誌では,Catenaのサイズが数年前に大きくなりました.その時にはとても違和感があり,表紙をわざと拡大コピーしたように見えました.

紙のサイズが揃うと,整理が楽になるといった利点があります.しかし大きさは出版物の一つの個性なので,それが失われる点は残念です.街角の小さなお店が,チェーンのコンビニやファストフード店に変わると,便利になるとはいえ,陳腐でチープになったと感じます.紙の件はそのレベルの画一化ではありませんが,少し反発してみたくなります.たとえば,授業の配布資料をあえてB版にすれば,今の学生には意外で面白く見えるのかもしれません.

I don't claim to be an "A" student.
(Wonderful World / Sam Cooke)