地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

夢の追求

2010-07-23 | ひと

昨年,スーザン・ボイルが話題になりました.47歳の無職のおばさんが,一夜にして世界的なスーパースターに.この話は,とりわけ歳をとっても夢を追求している人たちに,大きな感動を与えました.

僕の身近にも,似た感動を与えてくれた人が二人います.先日,その二人と研究室のメンバーで懇談しました.

一人はアメリカ人のマイケル・グロスマン.写真の左端です.彼は間もなく60歳になりますが,6年前に南イリノイ大学の専任講師になりました.今年の4月にはテニュア(終身雇用の資格)をとり,准教授に昇進しました.彼は元々は英語教育の仕事をしていましたが,40代で地理学を学ぶためにウィスコンシン大学の大学院に入り,50歳を過ぎてから博士号をとりました.博士論文の内容は日本の河川地形と古環境で,奥さんが日本人ということもあり,日本に何度も来ています.僕は15年前から彼と交流しており,さまざまな苦労も見てきたので,彼の近年の成功をとても嬉しく思っています.アメリカの大学には定年がありません.彼は70歳くらいまで働き,退職までに教授に昇進できればと語っていました.

もう一人は中国人の林さんで,写真の左から3人目です.彼女は僕の最初の指導学生で,30代で来日し,それから大学院に入って修士号と博士号をとりました.その後は東大や産総研の任期つきの職を経験し,これまで日本に12年間滞在しました.このたび,中国の名門である浙江大学に教授として着任することになり,来月帰国します.彼女は40代半ばで大きな夢を実現しました.

お二人をこれからも応援します!

Sing with me, sing for the years.
Sing for the laughter and sing for the tears.
(Dream on / Aerosmith)


カール参上

2010-06-30 | ひと
日曜日から昨日まで,台湾の研究者,カール・チャン(K. Chang)が研究室に滞在しました.カールはニックネームで,本名はカンツン(Kang-Tsung)ですが,台湾人の中には西欧的なニックネームを頻繁に使う人がいます.カールもその一人です.彼は以前にアイダホ大学の教授だったこともあり,考え方も西洋的です.

カールはGISや統計を用いた斜面崩壊の分布解析を主に行っていますが,"Introduction to Geographic Information Systems"というGISの有名な教科書も執筆しています.McGraw-Hillが出版している本書は,すでに5版を重ねており,もうじき第6版が出るそうです.GISの基本の解説と,ArcGISの実習教材を含み,アメリカの大学などで広く利用されています.

今回の来日の主な目的は,教育に関する情報収集でした.カールの大学には国際的な教育プログラムがあり,彼はその責任者の一人です.そこで,英語の授業が多く行われている柏キャンパスにやってきました.せっかくの機会なので,地形学の共同研究の可能性についても少し議論をしました.

カールには昨年9月に台北で開かれた国際学会で,大変お世話になりました.今回,成田への出迎えや宿舎のお世話などをし,少し恩返しが出来たように感じました.

Let that record roll around.
(Let That Jukebox Keep On Playin' / Carl Perkins)

コリン降臨

2010-06-17 | ひと
昨日の研究室のゼミに,米国コロンビア大学の地形学者,コリン・スターク(C. Stark)が参加してくれました.彼は,博士課程の在学中にNatureに単著論文を書いたという実力の持ち主で,最近も河川の蛇行と降雨強度に関する論文をScienceに主著で発表しました(共著者にHaya君が入っています).今年2月のハイチの地震の際には,CNNのコメンテータを務めるなど,「時の人」になっています.彼は研究のために日本や台湾を頻繁に訪れていて,今回もHaya君とのフィールドワークや学会参加を兼ねて来日しています.

ゼミの前半は博士課程のWenさんとOGのLinさんの発表でした.コリンが多くの質問やアドバイスをしてくれたので,ゼミの雰囲気が普段と変わりました.続いてコリンが最新の研究を発表してくれました.地震計に記録された斜面崩壊で生じた震動のデータから,崩壊土砂の移動過程とその規定要因を推定するという研究で,前例がほとんどない画期的なものです.

その後は飲み会になりました.コリンは会話の中で日本語や中国語の単語をときどき発し,そのたびに笑いが起きました.

真に良いものに触れる機会は魅力的です.

Everybody had a good time.
(I've Got a Feeling / Beatles)

鈴木秀夫先生

2010-05-07 | ひと
学部と大学院で地理学を教えていただいた,名誉教授の鈴木秀夫先生を訪問しました.鈴木先生は多数の先駆的な研究を行われ,その内容は気候区分,周氷河地形,気候と宗教・言語・歴史との関係といった広い領域に及んでいます.

僕を含め,鈴木先生に感化を受けた地理研究者が多数います.僕は自分のGISの授業の中で,鈴木先生の研究を必ず紹介しています.GISがなかった時代のものですが,分布図の作成の科学的意義を示した先生の研究を,GISと共に教えるべきと考えています.

先生の影響は,著書などを通じて今の若手にも及んでいます.そこで,鈴木先生に一度お会いしたいと望んでいた若手と先生との面会を,約20年前に先生の授業を受けた江崎さんと企画しました.若手の参加者は目代さん,財城さん,赤坂さんでした.

当初は横浜の居酒屋での開催を予定していましたが,鈴木先生がわざわざ自宅によんで下さいました.かつては年に一度,鈴木先生のお宅でパーティがあり,学部生は全員が招待されました.その時の定番だったエチオピア・カレーを,ビールやワインと共にいただきました.江崎さんと,懐かしさに感動していました.

食事をしながら鈴木先生の著書や留学時代に関するお話を,いろいろ伺いました.目代さんは著書の一つにあった鈴木先生の写真が,今とほとんど変わらないと言っていました.話し方も以前と変わらない感じで,大変お元気でした.

結局,5時間近くも談笑し,最後は写真のようにサイン会になりました.ほぼ終電で帰宅しましたが,実に楽しい時間でした.鈴木先生と奥様には大変お世話になりました.ありがとうございました.

I remember once, as a child at school.
My teacher calling me.
(I Remember Once / Gilbert O'Sullivan)

田代先生

2010-03-05 | ひと
昨日,筑波大附属高校の田代先生を訪問しました.昨年来,田代先生とはブログで「おやじギャグ」などをやっていましたが,お会いするのは初めてでした.

案内していただいた田代先生の研究スペースは,写真のように,教室の黒板と生徒用の机の間にありました.地理専用の教室ですが,授業がない時にも田代先生はここで仕事をされるそうです.小中学校では,教壇の脇に教員の机があり,休み時間や給食の時に教員が生徒と一緒に過ごす形が,ごく普通にみられます.しかし,教員が常駐する大きな机が黒板の前にあるのを見たのは初めてで,とても驚きました.

僕の母校である諏訪清陵高校では,教室がクラスごとではなく科目ごとに割り振られているため,休み時間に生徒全員が廊下をぞろぞろ移動します.また,教員は大きな職員室ではなく,科目ごとの「研究室」に机を持っています.母校の先生は,これを「大学と同じ形」と誇りにしていました.一方,田代先生の「地理専用教室および個人研究室」は,大学とも異なり,実にユニークです.授業中に資料を即座に出せるなど,メリットが多いように思います.一度授業の様子を拝見したくなりました.

また,教室のいろいろな掲示物から,「田代先生=富士山」を再認識しました.入口のドアにも富士山の写真が貼ってありました.

もう一つ驚いたのは,田代先生が実年齢よりも遙かにお若く見えることです.還暦とのことですが,写真のとおりです.会話は穏やかに進みましたが,富士山級のインパクトがある訪問でした.

When I start erupting ain't nobody gonna make me stop.
(Fujiyama Mama / Wanda Jackson)

王さん

2010-02-17 | ひと
今月の初めから,中国海洋大学の王永紅さんが,空間情報科学研究センターに特任准教授として滞在しています.期間は2ヶ月間です.王さんは沿岸~海洋域を対象に,堆積学,地形学,GISなどを組み合わせた研究を行っています.僕は5年ほど前に彼女と知り合い,研究交流をしたり共著を書いたりしてきました.

当初はもう少し早く来日する予定でしたが,都合により2月からになりました.一方で僕は,2月の前半は修士論文,卒業論文,博士課程の入試などに関連した行事が詰まっていて,王さんと仕事をする時間がほとんどとれませんでした.王さんは一人でパソコンに向かっていましたが,申し訳なく思いました.

そこで,お詫びを兼ねて日本食のコースをおごることにしました.小皿や刺身類から始まりましたが,王さんは食事は温かいのが基本と考えているようで,低温のものには抵抗があるようでした.しかしその後,鍋などの温かいものが出てくると,彼女の調子が上がりました.そして,残していたイカの刺身を鍋に入れて煮始めました.「こうした方が美味しい.中国人は冷たいものには慣れていない」と話しながら.確かに中国の大学に行くと,学生が保温水筒を持ち歩き,お湯やお茶を頻繁に飲んでいるのを目にします.

そこで,「デザートのアイスクリームも冷たいからダメでしょ」と言ったら,「それは別」という返事が来ました.温度の話なので,日本語の「別腹」とは意味が違いますが,似た発想だと思いました.

僕は2月の後半も,海外出張などで多忙ですが,食事をとりながら共同研究の方針を固めたので,メールで連絡をとりながら前進したいと思います.

And the food is on the table.
But the food is cold.
(Repetition / David Bowie)

地形学習シートと松宮先生

2010-02-08 | ひと
このブログで数回取り上げた話ですが,約3年前から,帝国書院が中高の地理の先生のために発行している「地形学習シート」の作成に関与しています.教育現場でシートの評判が良いのが励みになっています.

このシートはB3サイズで,片面には地形写真が全面に印刷され,片面には地形図,地形の解説,および地形図を利用した実習の展開例が印刷されています.僕の担当は地形の解説の執筆です.一方,実習の展開例は,仙台市にある尚絅学院中学・高等学科の松宮正樹先生が執筆されています.これまで取り上げた地形は以下のとおりです.

  • 砂嘴(天橋立)
  • 河岸段丘(沼田)
  • 自然堤防と後背湿地(阿賀野川)
  • 台地(磐田原)
  • 浜堤列(九十九里浜)
  • マール(目潟)
  • 隆起珊瑚礁(南大東島)
  • 陸繋島・トンボロ・砂嘴(室積半島)
  • 扇状地(御勅使川)
  • 断層山地(養老山地)
  • 海岸段丘(室戸岬)
  • 三角州(雲出川)

先週末,松宮先生が東京出張の途上で僕のオフィスに立ち寄られました.ずっと共同でシートを作ってきましたが,お会いするのは初めてでした.松宮先生も学部と大学院修士課程で地形を研究されていたので,共通の知り合いが多いことがわかりました.約一時間半,楽しく会話が進みました.

中高での地理教育を取り巻く状況は厳しいようです.たとえば,東京都や神奈川県の公立高校では,地理が地歴科の必修科目から唯一はずれるという状況になっています.歴史の重要性は理解しますが,地理を相対的に軽視することは誤りだと思います.国際化や地方の重要性を叫ぶ一方で,地理を軽んじる風潮があることに大きな矛盾を感じています.

もしかすると,地形学習シートをみて「地理や地形は面白い!」と感じる中高生が,全国に何人かいるかもしれません.そのような希望を持ちつつ,松宮先生と協力して作業を続けたいと思っています.

以前も書きましたが,タモリは高校生の時に沼田盆地の河岸段丘の地形図を見て,地形に興味を持ったそうです.最近,建築を専攻する学生の間で,地形がブームになっていると聞きました.タモリ倶楽部やブラタモリの影響ではないでしょうか? そうだとすると,1枚の地形図が個人に与えた感動が,後に一つの流れを作ったことになります.

Carrying a message.
Message of hope.
(Hope for the Future / Marillion)

さよならフェムケ

2009-12-29 | ひと
学術出版社のエルゼビアで,地球科学関係の雑誌のマネージャーであったフェムケ・ウォリエン(F. Wallien)博士が,今月末で退職します.彼女は雑誌Geomorphologyの担当だったので,僕は10年来にわたって交流を持っていました.20以上の雑誌を担当していたそうなので,彼女と交流があった日本人が他にもいるでしょう.

フェムケはまだ定年を迎えていませんが,少々残念な理由のために早期退職することになりました.昨年の今頃,自転車でアムステルダムの街を走っていた彼女は,路面の氷のために転倒し,頭を強く打ってしまいました.しばらく入院するほど悪い状況でしたが,徐々に回復し,今では見かけは以前と変わりません.しかし,目などが疲れやすくなり,出版のブランクを避けるために彼女の以前の仕事が他人に移されたため,復帰後に上司から別の仕事を提案されましたが,退職を決意されました.

今月のAGUの大会でフェムケに会い,Geomorphologyのもう一人のエディタであるリチャード・マーストン(Marston, R.)とディナーに行きました.写真はその時のもので,デザートを食べる前に撮影しました.この組み合わせは二度とないと思うと,寂しい気持ちになりました.

フェムケと最初に会ったのは,2001年に東京で開かれた国際地形学会議のときでした.それまではメールや郵便で連絡をとっていましたが,てきぱきとした仕事ぶりから,タフな男性と勝手に想像していました.しかし実際には,スリムで繊細な感じの女性だったので,驚いた記憶があります.

フェムケは,Geomorphologyがお気に入りの雑誌だったと話してくれました.最近のインパクト・ファクターの上がり方は,彼女にも印象的だったそうです.

フェムケ,お元気で.新たな人生を楽しんで下さい.

Makes me feel so free.
Makes me feel like me.
And lights my life with love.
(Brand New Day / Van Morrison)

いただきもの

2009-12-24 | ひと
メリークリスマス!

年末のいただきもの定番はカレンダーです.今年はとても興味深いものを2ついただきました.

ひとつは,シンガポール国立大学のリモートセンシング研究所(CRISP)のものです.この大学の元教授で,今はCRISPの研究員であるアヴィジット・グプタ(A. Gupta)氏が送ってくれました.東南アジアの面白い画像で構成されていて,特に印象的だったのが,ジャワ島のバトック火山(Gunung Batok)の画像です.放射状の開析谷が見事で,南西方向と北東方向の谷密度の非対称が明瞭です.

もう一つは,朝日航洋(株)の空撮カレンダーです.Dosi君や千木良先生を通じて共同研究を行うことになった,中村さんからいただきました.最初のページは富士山の斜め空中写真で,雪のつきかたから,これまた開析谷がよくわかります.

開析谷に目がいくのは,現在Kota君が火山の開析に関する修論を書いているためでしょう.今年は修論生2名,卒論生1名を担当しているので,忙しい年末・年始になりそうです.

富士山といえば,このブログにときどきコメントをくださる田代先生から,「今日はなんの日,富士山の日」という最新の御著書をいただきました.田代先生は,山に関する多数の著書を書かれ,テレビや新聞にもしばしば登場されます.田代先生の本は,「こだわり」が素晴らしいのですが,今回の本でもマニアックな富士山論を展開されています.

他の方からも最近,書籍,報告書,カレンダー,おやつなどをいただきました.ありがとうございました.

What's he got in his great big bag for me?
(Last Night I Saw Santa Claus / New Kids on the Block)

アエラと男女共同参画

2009-12-03 | ひと
最新号のアエラに,成蹊大学の紹介が十数ページにわたって出ています.その中の1ページがzaikoさんの研究紹介になっています.歴史時代の古気候復元に関する内容です.着任初年度の若い教員をフィーチャーするところに,大学のポリシーの良さを感じます.

メジャーな雑誌でzaikoさんが紹介されるのは,ときどき一緒に研究をしてきた僕にとっても嬉しいことですが,より重要な側面は,地理学や地球科学を社会にアピールする機会になることです.

記事を眺めていて,女性をこのように積極的に登用していくことが,日本の学問の将来にとって重要と感じました.僕が関係している学会の役員や代議員の中には,女性は1割未満しかいません.また,多くの日本の大学では女性教員の比率が低く,とくに職位が上がるほど下がります.この比率は,全研究者の中で女性が占める比率よりも明らかに小さく,男女が対等に扱われていないことを意味します.

日本地球惑星科学連合では,男女共同参画委員会が女性を支援する活動を行っており,僕の家内も関与しています.地球科学は,より巨大な物理,化学,生物といった分野に対して,名実ともに「地の塩」の役割を持つと思います.女性や若手の支援について,地球科学が先導的な例を示せると良いと考えます.

Girls who are boys who like boys to be girls who do boys like they're girls who do girls like they're boys.
(Girls and Boys / Blur)

ベイルート

2009-11-30 | ひと
パリの学会の後,レバノンのベイルートにやってきました.目的は,レバノン人の地形学者,ラニア・ブヘ(Bou Kheir, R.)との議論です.中近東では,イスラエルを除くと国際的に活躍している地形学者がとても少ないのですが,ラニアは例外です.彼女は多数の論文を国際誌に執筆しており,デンマークの大学の客員教員でもあり,フランスやアメリカの研究者とも共同研究を行っています.とても貴重な人材です.

そんなラニアも,かなり苦労してきたことが今回わかりました.彼女はイスラム教徒ではなく少数派のキリスト教徒で,かつ女性であるため,レバノンでは不利な扱いを受けることが多いそうです.そこで彼女は,国内よりも国外で理解されることを目指してきたそうです.実に共感する話でした.

ラニアはGISを用いた侵食地形の研究を行っています.今回,ベイルートの郊外の山地に連れて行ってもらい,侵食の実態を見ることができました.写真の斜面には全面的に人の手が加わっており,多数の段々畑が分布しています.しかし農業の従事者が減ったため,写真の手前側の斜面や,奥側の斜面の左側のような放棄された畑が増え,侵食の原因になっています.彼女の論文には,この問題に関する記述があり,僕はそれを事前に読んでいました.しかし今回現場を見て,初めて具体的なイメージを得ました.フィールド調査の大切さを再認識しました.

レバノンというと,ヒズボラの存在やイスラエルとの争いが報道される機会が多いため,危険な国というイメージがあるかもしれません.しかし現地はすこぶる平和です.また,僕は2004年まではシリアに頻繁に行っていたので,久しぶりに味わう本場の中東料理に感激しました.ただし,ベイルートの海岸を歩いていた時には,古い建物の壁に,内戦の時代の銃撃でできた多数の穴や窪みがあるのを見ました.また,2006年にイスラエルがレバノンを空爆した際には,ベイルートも標的になりました.平和の時代は決して長くないといえます.

This-ism, that-ism, ism ism ism.
All we are saying is give peace a chance.
(Give Peace a Chance / John Lennon)

オリバー

2009-11-16 | ひと
ドイツ人の地形学者であるオリバー・コルップ(Korup, O.)が日本にやってきました.土木研究所と国際砂防シンポジウムで招待講演を行うためですが,昨日,自由な時間が半日あるというので東京を案内しました.オリバーとは5年ほど前からメールをやりとりしていましたが,会ったのは今年9月の台湾の学会が最初でした.

オリバーは学位をニュージーランドで取得した後,スイスの研究所に勤務していましたが,最近,母国のボツダム大学に異動しました.経歴のみならず研究も国際的で,ニュージーランド,ヨーロッパ,ヒマラヤなどの山地や河川を研究しています.チベット高原が平坦な理由について,新たな解釈を提示した論文をNatureに執筆するなど,30代後半にして地形学のスーパースターの一人になっています.

最初にランチに行き,「日本のシュニッツェル」としてトンカツを食べました.カツという名前をオリバーに教えたところ,彼は「ドイツ語の猫(Katz)と同じ」と言いました.僕はその時,シュヴァルツェ・カッツという黒猫の絵のドイツワインを連想しました.今度,このワインとトンカツの組み合わせを試してみたいと思います.

食事の後,都庁の展望台,原宿,神宮外苑,銀座の順に移動しました.オリバーの3歳の娘さんがハローキティが大好きなので,銀座駅の近くに最近オープンしたサンリオワールドに行き,お土産を買うのを手伝いました.その後,回転寿司で夕食となりました.

神宮外苑からはhaya君も合流しました.初対面でしたが,すぐに研究に関する会話が始まりました.寿司屋ではhaya君がオリバーに,「どうしたら論文をたくさん書けるのか」と質問しました.僕はhaya君の論文執筆の実績を知っているので,イチローが王貞治にバッティングの極意を尋ねているような感じがしました.オリバーは,自分の時間の配分法や,草稿をどのようにポリッシュしていくかを,haya君に丁寧に説明していました.

二人のハイレベルな会話を脇で聞きつつ,寿司とビールを楽しんでいた僕は,地形学の将来が明るいことを確信しました.

It's a professional career.
(Oliver's Army / Elvis Costello)

ファウスト

2009-10-27 | ひと
台北の学会で会ったイタリア人の地形学者,ファウスト・グツェティ(Guzzetti, F.)が東京にやってきました.国土交通省とのプロジェクトのためです.

彼はGeomorphologyの編集委員なので,会う前からメールで時々コンタクトしていました.また,先日はナポリの研究者を紹介してもらうなど,いろいろお世話になっています.そこで,しゃぶしゃぶのお店に連れて行きました.彼の同僚のマウロ・カルディナリと,イタリア在住で一時帰国中の小松吾郎さんも同席しました.

ファウストにはお土産として,漫画「ファウスト」を渡しました.若き日の手塚治虫が,ゲーテの戯曲を漫画にしたものです.彼はアストロボーイ(鉄腕アトム)を知っていたので,とても喜んでくれました.

ファウストは,EGU(欧州地球科学連合)の雑誌であるNatural Hazards and Earth System Sciencesのエディタをやっています.また,彼が1999年にGeomorphologyに書いた斜面崩壊に関する論文は,すでに200回以上も引用されています.影響力のある地形学者で,会話も実に知的ですが,写真のとおり,愛嬌と気さくさも持ち合わせています.

Reasonable and sensible.
(Faust Arp / Radiohead)

ナポリの研究所

2009-10-11 | ひと
遺跡での調査の合間に,ナポリ市内にあるリモートセンシングの研究所に行きました.先日,台湾で,斜面崩壊の研究で有名なFausto Guzzettiに会った際に,ナポリに知り合いのRiccardo Lanariがいるので,会ってみたらと言われました.そこで,FaustoからRiccardoに連絡をとってもらいました.

Riccardo(写真の左から2人目)は合成開口レーダー(SAR)の専門家で,地殻変動の検出などの地学的な応用を行っています.スペースシャトルが取得した世界の地形データ(SRTM)の初期処理にも関与した人で,その際にNASAから贈られた感謝状が彼の部屋に飾ってありました.

最初に,彼のグループのメンバーの前で僕がプレゼンをしました.陰影図を用いた活断層の認定に関する研究で,金沢大の青木君や国立台湾大の松多君と行ったものです.途中のジョークで,元ローマ教皇のヨハネ・パウロ二世の写真を出したところ,とてもウケました.これは以前にイギリスでも試したジョークですが,やはりイタリアの方が反応が良好でした.

次にRiccardoが,イタリアやカリフォルニアを対象とした研究を発表してくれました.最近,日本でもALOS衛星(だいち)のSARを用いた地盤変動の検出がしばしば行われますが,この分野はヨーロッパの方が活発といえます.検出の時空間解像度の高さに感心させられました.

その後,Riccardoが同じビルの中にある「ヴェスヴィオ火山観測所」に連れて行ってくれました.この観測所は,元々はヴェスヴィオ山の中腹に1845年に設置され,世界最古の火山観測所として知られています.今はナポリ市内に移りましたが,名前は維持されています.ここには,ヴェスヴィオ,エトナ,ストロンボリといった火山に設置された地震計のデータが,リアルタイムで送られてきており,写真のように多数のスクリーンに表示されています.火山性地震,斜面崩壊による震動,および車の通行による震動の波形の違いを教えてもらいました.

And earthquakes are to a girl's guitar.
They're just another good vibration.
(Californication / Red Hot Chili Peppers)

Dosi君の送別会

2009-09-26 | ひと
10月から,つくばの防災科学技術研究所の研究員になるDosi君の送別会を,昨日行いました.1年半弱,院生室の「ぬし」として活躍してくれました.彼の存在感は非常に大きいです.その理由の半分は,元ラグビー選手ならではの重量感なのですが.

科研費による雇用は続きを保証できないので,「来年度からは何もないかもよ」と話していたのですが,良いタイミングで新しい職が見つかりました.斜面崩壊やGISが注目を集めていることもあり,タイムリーな募集が出たのも幸いでした.昨今の状況を反映し,次の職も任期付きとのことですが,ステップアップしてくれればと願っています.

昨日はガンダムの話で盛り上がりました.詳しく知っているのはDosi君だけでしたが.Dosi君はプラモデルまで作っていて,写真のようにそれを見て悦に入っていました.先日の台湾での学会の際には,GISを使って崩壊を研究している国立台湾大の院生が,ガンダムのオタクと判明しました.国境を超えて似たヤツがいるものです.

あと,Andyが中国内陸から買ってきてくれた2001年産のピノ・ノワールが,良い感じに熟成していました.極東のワインも向上しています.あのロバート・パーカーらのお墨付きを得て,甲州ワインがEUに輸出され始めるなど,状況が変わりつつあります.もっとも台湾で甲州の話をしたら,居合わせたオランダ人に「ヨーロッパでホームシックにかかっている日本人向けの輸出だろ」と言われてしまいました.ワイン文化の中枢から来たフランス人やイタリア人に言われるなら仕方ないですが,オランダ人はないだろうと...

それでは最後に,Dosi君に贈る言葉を.

Scientists must write!

あと,後輩の面倒見を今後ともよろしく.

I am writing in ecstasy.
(Passion / All That Remains)