地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

ラベル買いしたワイン

2010-09-30 | お酒
「ジャケ買い」という言葉があります.ジャケットだけを見てCDを買うことです.最近はCDの評判がネットで簡単に見られるので,僕はジャケ買いはしません.

しかし学生の頃にはやっていました.中古のLPをよく買ったためです.1枚500円以下で,アーチストを多少知っていれば,ジャケットを見て買うことがありました.音楽が期待はずれでも,素敵なジャケットを入手できればOKでした.

先日,家の近くのお店に行ったところ,魅力的なラベルのワインが目に入りました.カリフォルニア産で,ヨセミテ国立公園のハーフドームが描かれています.知らないブランドでしたが,宣伝文には「ブッシュ大統領の専用機に乗っていた」と書かれていました.割引価格とはいえ,2000円台のワインを大統領は飲まないと思いました.でも,ラベルが山の朝のように美しく,地形学的で,ブドウは僕が好きなソーヴィニヨン・ブランだったので購入しました.

飲んでみたところ,なかなか興味深い味でした.口に含んだ瞬間は辛口ですが,後から甘口に変わる感じでした.また,舌では甘く感じ,喉では辛く感じるとも思いました.

写真の左側は,同時に冷蔵庫に入っていたチュニジア産の赤ワインです.チュニジア産はコスパが高いと思いますが,同じものを数本買ったときの個体差が大きい気がします.アラブ圏なので,ビンへの詰め方などが気分次第で変わるのかもしれません.

It's a frosty morning.
I can almost see the sign.
(Ozark Mountain Jubilee / Oak Ridge Boys)

信州ソーヴィニヨン・ブラン

2010-05-28 | お酒
世界のワインを紹介する有名な本,Hugh Johnson's Pocket Wine Bookには,日本のワインに関する簡単な記述があります.そこでは主要なワイン産地として,最初に山梨と長野が記されており,次に山形と北海道が記されています.

山梨と長野では,内陸で相対的に乾燥した気候とともに,火山灰に覆われた扇状地の存在がブドウの栽培に寄与しています.15年くらい前に,アメリカとヨーロッパの地形学者を塩尻市の扇状地に連れて行き,最終氷期に形成された地形面を見せました.その時に,面の上のワイナリーに行って「五一ワイン」を買いました.日本の昔のワインで多かった,マスカット系の超甘口でしたが,外国人も「これはこれで良い」という感じで飲んでいました.

最近は辛口の日本ワインが増え,質も向上しています.とくに甲州種の白ワインの進歩が顕著です.しかし,僕が個人的に好きなソーヴィニヨン・ブランの白ワインは,ほとんど見たことがありませんでした.

ところが連休に実家に帰省した際に,近くのデパートでハーフ・ボトルの「信州ソーヴィニヨン・ブラン」をみつけました.産地は松本市の北方にある池田町で,僕の修論の調査地です.さっそく購入し,実家でいただきました.味は紛れもなくソーヴィニヨン・ブランでした.ニュージーランド産やチリ産の風味とは異なりましたが,よくここまで頑張ったと思いました.

ネットで調べたところ,山梨や長野で,ソーヴィニヨン・ブランのワインが少しずつ生産されているようです.日本の自然条件に適しているのかはわかりませんが,困難があっても日本人のお家芸である繊細な工夫により,質が上がっていくのではと期待しています.

Where is the wine.
The new wine.
(An American Prayer / Doors)

世界地図ワイン

2010-03-16 | お酒
スペイン産のMapa Mundo(世界地図)というワインを飲みました.雑誌でコストパフォーマンスが高いと紹介されていたものです.スペインらしい重厚な赤ワインで,約1500円という値段を考えると確かに良質でした.ただし名前と同レベルの壮大さを望むのは無理です.

ラベルにある世界地図のイラストは,19世紀によく使われた,半球図2枚で世界を表す方式に似ています.高橋景保の「新訂万国全図」がその一例です.ただし明らかな違いもあります.本物の地図では高緯度にいくほど緯線の湾曲が大きくなりますが,イラストではそうなっていません.デザイナーの判断なのでしょうが,違和感があります.酔って視覚が歪んだ?

一方,よく知られているように,オーストラリアでは南を上にした世界地図が出版されています.これと同様に,南半球産なのでラベルの上下を逆にしたというワインがあります.Kono Baruというブランドで,日本ではあまり見ませんが,アメリカなどで安旨として人気だそうです.写真のリースリングは約1000円で,日常用としては十分でした.ボトルの裏側にある説明のラベルも上下が逆で,徹底ぶりに感心しました.

Turned my whole world upside down.
(Layla / Derek and the Dominos)

1 + 1 = 3

2010-01-08 | お酒
Orvalビールおよびカナのワインに続く,特定のお酒の話です.スペインのスパークリング・ワインには,シャンパンと製法は同じで,値段が相対的に安い「カバ」があります.そのカバの中でも,コストパフォーマンスが高いと評判なのが「ウ・メス・ウ・ファン・トレス・ブリュット」です.呪文のような名前ですが,辛口のスパークリング・ワインを示す「ブリュット」の前は,スペイン語で「1 + 1 = 3」の意味だそうです.ラベルには,この間違った数式が大きく書いてあります.

先日,これを夕食時に飲んでいたら,小4の娘が数式を見て笑い始めました.一方,一緒に飲んでいたカミさんは感心していました.以前,カミさんの先輩の研究者が「1 + 1 = 2 は間違い.もっと大きくなる」と話していたそうです.共同研究からは,個人研究の総和よりも多くが生まれるという意味です. これは僕の経験からも正しいです.

一方,カミさんは先輩に「1 + 1 < 2 もあり得ますよね」と言ったそうです.ネガティブな見方ですが,これも正しい.二人の組み合わせが悪ければ,相互理解に時間を要したりするので,かえって効率が下がってしまいます.

また,厳密には「1 + 1 = 3」ではなく「1 + 1 = A(1) + A(2) + アルファ」と記すべきなのでしょう.A(i)は個人i の力量に比例するパラメータで,標準を1とします.一人でもきちんと仕事ができる人たちが良いコンビを組むと,最強になるはずです.

ところで,ワインに記されている数式はワイナリーの名前で,そのホームページには次のように記されています.

As far as the name 1 + 1 = 3 is concerned, we set ourselves the challenge to convert our business into something more than two.

仕事の中で 1 + 1 を 2 以上にしたいという願いが,名前の由来とのことなので,僕らが飲みながら話したことは適切だったようです.

One and one is two.
What am I to do, now that I'm in love with you?
(One And One Is Two / Strangers with Mike Shannon)

大失敗と小失敗

2009-12-08 | お酒
このブログを読んだ人は,僕は常に楽しく過ごしていると思うかも知れない.確かに研究者の生活は,基本的には楽しい.しかし常に絶好調ということはあり得ない.僕の周囲の人は,落ち込んだり疲れている僕の姿を何度も見ているはずである.

このブログでは,ネガティヴなことは極力書かないようにしている.ネットには多様な情報があふれているが,僕が読みたいのは明るく楽しい話である.よって,自分から暗い記事を発信したくない.結果として,このブログは明るい内容に偏った記録になっている.

しかし先週の金曜日に,自分が大失敗をしたことが判明したため,今は明るい記事を書く気分になれない.この失敗は,大学の事務手続きに関するもので,多くの人が時間をかけて準備してくれたことが,僕のポカにより無に帰してしまった.お詫びを含めて,その件を書こうかとも思ったが,内容が暗いし,僕以外の個人が特定されて不都合が生じる可能性もある.そこで代わりに,別の小さな失敗について書こうと思う.

***

先日のレバノン出張の際に,Clos de Cana(カナのブドウ畑)という銘柄のワインを見つけた.カナは以前の記事でも触れた,キリストが水をワインに変えた場所の地名である.Clos de Canaの産地はレバノン南部のカナ村で,位置的にも聖書の舞台と考えてよい.値段も約600円と安かったので記念に購入した.帰国時には経由地で液体として没収されないように,クッションにくるんでスーツケースに入れた.

ところが帰国後に調べたところ,聖書に出てくるカナはレバノンのカナ村ではなく,イスラエルにあるクファル・カナ町であることが判明した.無意味に安物のワインを運んだことを知り,失敗したと感じた.

しかし栓を開けて飲んでみると,予想外の美味で,まるで3000円台のワインのように感じられた.すごいコストパフォーマンス! 2002年というヴィンテージをきちんと反映した,良い熟成感も持っていた.こんなことなら複数買ってくるべきだった.失敗した.

With every mistake we must surely be learning.
(While My Guitar Gently Weeps / Beatles)

神聖ビール

2009-11-02 | お酒
9月の台北での学会のときに,発表者が集まって夕飯を食べていたところ,「後でオデオンに行こう」という話が出ました.「オデオンっ て劇場?」と思いましたが,行ってみたらパブでした.

驚いたことに,そこにはさまざまなベルギー・ビールが置いてあり,一緒にいたベルギー人も品揃えに感心していました.僕はChimay(シメイ)というアルコール度が高いものを飲み,隣に座ったオランダ人はOrval(オルヴァル)を飲みました.

これらは共にトラピスト・ビールと呼ばれ,カトリックの修道院が醸造しています.神聖な修道院に俗的なビールは似合わない気もしますが,聖書には,婚礼の宴会でワインが不足した時に,キリストが水をワインに変えた話が出てきます.よって,ビールを作る修道院を異端視する必要はありません.

先日,ヨーロッパの調査から帰国したカミさんが,Orvalを専用グラスとともに持ち帰りました.このため,和食とベルギー・ビールの組み合わせが実現しました.日本の普通のビールよりも濃厚な味ですが,あっさり系の和食と意外によく合います.

グラスの形はキリスト教の聖餐で用いられる「聖杯」を模しており,一本分を一度に注ぐのがベルギーでの流儀です.ただし写真では,グラスの文字がよく見えるように途中で止めています.

なぜOrval?とカミさんに聞いたところ,Orvalを作っている修道院の建物の風化を,フランス人らと調査し始めたとのこと.風化は僕の領域ではありませんが,調査地がめちゃくちゃうらやましい! 僕も,「斜面地形学からみたワイナリーの立地」を,次の研究テーマにすべきかもしれません.

There was nothing left to eat.
Suddenly two angels walked in.
With a loaf of bread and meat.
(Dominique [originally in French] / Soeur Sourire)

シャトー・パルメ

2009-07-30 | お酒
3月のOB/OG会の際に,後輩一同から1998年ヴィンテージのシャトー・パルメをいただきました.ワインはほぼ毎日飲んでいますが,このランクのものを買うような経済的状況にないので,何か特別の日に飲もうと考えていました.

昨日,ボトルを開けました.理由は,娘(りさ)が10歳の誕生日を迎えたためです.娘は生後間もなく入院し,その後も通院や検査を繰り返しました.立つのも言葉を発するのも遅く,いろいろ心配しましたが,今は小学校に普通に通っています.いくつか苦手なこともありますが,先生や友達に暖かく見守ってもらい,毎日楽しく過ごしています.このような経緯があるので,娘の年齢が2桁になるのは感無量です.

シャトー・パルメの味ですが,高級ワインに関する経験不足のため,適切な表現がわかりません.あえて書けば,重くしっかりしているのにクセの類が皆無で,口に含むたびに至福という感じでした.普段飲んでいるものとは明らかに違う領域にありました.後輩の皆さん,ありがとうございました! なお,OB/OG会の際に同時にいただいた高級ワインオープナーも,ありがたく活用しています.

10年後,さらに元気に育った娘と高級ワインを飲めたら良いなあと思いました.一つ夢ができました.

Lisa, it's your birthday.
God bless you this day.
(Lisa It's Your Birthday / Michael Jackson)

ラクリマ・クリスティ

2009-04-11 | お酒
再びイタリア・ヴェスヴィオ火山とワインの話です.家の近くのスーパーに行ったら,ワインの棚でラクリマ・クリスティを発見.ヴェスヴィオ山麓の火山灰土で育ったブドウから作ったワインです.昔,ポンペイの貴族も似たものを飲んでいたことになります.日本ではあまり見ないし,懐かしかったので,一本買ってきました.

ヴェスヴィオ山の調査を始めた時に,このワインの存在を知りました.日本のロック・バンドという認識しかなかった「ラクリマ・クリスティ」が,イタリア語では「キリストの涙」だと聞き,なるほどと思いました.クラシック・ギターの小品に「ラグリマ」というのがあり,それが涙を意味すると聞いていたからです.「ク」の音が濁るかどうかは,スペイン語とイタリア語の違いとのこと.

その後,現地で合同調査をしているときに,イギリス人のヘレン(=ハムスター嬢)がイタリア人のステファノに,このワインの名前の由来を尋ねました.ステファノは,「天にいるキリストが泣き,その涙がヴェスヴィオ山に落ちたので,良いブドウが採れる土地になった」という伝説を教えてくれました.そこで僕が,「本当の理由は,キリストが死んだ場所が実はエルサレムではなく,ここだったから」と冗談を言ったら,二人に妙にウケてしまいました.

以前ラジオで武田鉄矢が,外国に行った時の話をしていました(どこの国かは覚えていませんが).食事の場で,「この雰囲気はキリストの最後の晩餐みたいだ」と彼が言ったら,同席していた外国人が,いたく感心したとのこと.日本人がキリストを語る意外性が,外国人には面白いのかもしれません.

Oh Jesus.
Do you know Him today?
(Without Him / Elvis Presley)

桜とアーモンド

2009-04-02 | お酒
大学周辺の桜がほぼ満開です.名実ともに新学期です.

今年は3月にイタリアで,一足お先にお花見をしました.ヴェスヴィオ山麓の調査地に,三分咲きくらいのアーモンドの木があり,その下に座って昼食のパンと赤ワインをいただきました.写真はその時に撮影したものですが,ごらんの通り花や枝が桜にそっくりです.実際,アーモンドはバラ科サクラ属の植物です.アーモンドの粒から桜は連想できませんが...

アーモンドの木はヨーロッパの各地にあります.一昨年の3月には,ブダペストで見事な満開の花を見ました.でも,海外で花見と称して木の下で飲食したのは,今回が初めてでした.

昼にワインを飲んだのは,現地の習慣に従ったためです.「仕事中なのに」と呆れないで下さい.同じくイタリアの習慣に従った某閣僚とは違い,午後もきちんと働きました.それに,少し前の記事で書いたように調査地はとても寒く,体を芯から温める必要がありました.

調査地が暑ければ,やはり体を守るために冷えた白ワインを飲みます.イタリア万歳!

Cherry oh, cherry oh, baby.
Don't you know I'm in need of thee?
(Cherry Oh Baby / Eric Donaldson)