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地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

公立はこだて未来大学

2010-03-19 | おでかけ
空間センターの合宿で,公立はこだて未来大学に来ています.センターOBの白石さんがホストです.学長先生を含む方々と交流の機会を得ました.函館には昨年の夏にも来ていますが,その時とは全く違う雪景色が印象的でした.

この大学は函館市の郊外にあり,バスでキャンパスに着いたときには,まるで大きな工場のような四角い建物が一つだけ見えることに驚きました.続いて中に入ると,建物全体が大きな階段のような構造になっていたので,再び驚きました.個々の段が個々の階に対応しており,下の階の屋上の一部を,上の階の「テラス」として利用しています.学生の机や作業の場は,このテラスの上にあり,その背後に教員の部屋があります.

テラスを大きく確保するために,段状の形態を持つマンションがたまにありますが,それを巨大な箱の中に入れたという感じです.また,机や椅子のデザインや配置も,細かく計算されているようです.講義室や教員の部屋はほとんどガラス張りのため,全体として人の行動がとてもよく見えます.この建物は日本建築学会で受賞しているそうです.

春休みのため学生は少数でしたが,白石さんによると,授業のある日には,かなり混み合っているそうです. 各学年の学生数は約250人とのことです.比較的少ない人数が,4年間を単一の建物の中で過ごすと,独特の一体感が生まれると思います.他の大学とはかなり異なる環境が,学生たちにどのように評価されているのかはわかりませんが,翌日の卒業式の準備を行っていた学生の表情は,とても明るく見えました.

I've got a mansion just over the hilltop.
In that bright land where we'll never grow old.
(Mansion over the Hilltop / Elvis Presley)

韓国国土研究院

2010-03-13 | おでかけ
ソウルの韓国国土研究院を訪問しました.韓国のGIS教育に関する調査のためです.空間センターのポスドクで,韓国出身の李さんと一緒でした.聞き取りや議論の際には,李さんが韓国語でやりとりをし,時々僕が李さんの通訳で加わるという形をとりました.一方,一緒に食事をとった際には英語で話しました.仕事に関する話は,韓国語で行った方が詳しいやりとりを誤解なくできると考えました.

インターネットの普及など,IT関係で有名な韓国では,必然的にGISもさかんです.また,GISの教育に国が積極的に関与しており,その実務を国土研究院が行っています.国土研究院はGIS教育のオンライン教材を開発するとともに,教育の拠点となる大学や大学院を認定し,その活動を支援しています.これらの場所での教育は,学部生や院生のみならず,中高の教員,公務員,企業人,一般市民も対象としています.時々開催される講習会は人気が高く,参加者を絞らないといけない状況だそうです.

オンライン教材の一部を見せてもらいましたが,講義が音声つきの動的なウェブページで行われるなど,いろいろ工夫されていました.かなりの予算をかけて作っているそうです.日本でも地理空間情報活用推進基本法の制定などに伴い,GIS関係には行政の予算が少なからず投入されていますが,GIS教育に対する投資は少ないようです.

先の冬季オリンピックにおける韓国の大活躍が,国による人材育成と関連していることが指摘されています.スポーツと同様に,学術や文化への投資の状況も,国の将来を左右します.日本のGISの将来を考えると,教育を重視している韓国の状況がうらやましく思えました.

You, who are on the road,
must have a code that you can live by.
(Teach Your Children / Crosby, Stills and Nash)

十津川流域

2010-03-03 | おでかけ
昨年度に引き続き,京大防災研の千木良先生および平石さんらと紀伊半島の十津川流域に行き,地形発達について議論をしました.谷壁斜面で見られる大規模な遷急線,尾根部の平坦面,河成段丘,河床の縦断面の関係が主な話題でした.この研究は平石さんと千木良先生が共同で進めています.まとまると画期的な仕事になると思います.

十津川流域には本流と支流との不協和合流が多くみられます.その一つは「みたらい渓谷」として知られており,複数の滝を連ねて急勾配で十津川に流入する支流が,観光地になっています.漢字の表記は「御手洗渓谷」で,かつて後醍醐天皇が北条征伐をしたときに,天皇の息子である護良親王が祈願のために手を洗ったことにちなむそうです.しかし現地では,ほとんど漢字ではなく平仮名で記されていました.なぜかは説明不要でしょう.

写真は,みたらい渓谷の最下端にある滝です.水が岩から離れる際に,ちょっと上方に跳ね上がっているのが珍しく思われました.バンクーバー・オリンピックを見ていたためか,スキーのジャンプを連想しました.

千木良先生によると,来年度もう一回,現地で議論ができるそうです.今から楽しみです.

But it's all right now.
In fact, it's a gas.
(Jumpin' Jack Flash / Rolling Stones)

オーフス大学農学部

2010-02-27 | おでかけ
北ドイツから電車に乗り,デンマークのオーフス大学を訪問しました.オーフスはデンマーク第二の都市ですが,僕が訪問した農学部はオーフス市内ではなく,約50km北西にあります.ヴィボーという小都市の郊外で,建物と施設の周囲には延々と農地が広がっています.

ここを訪れた理由は,地形学やGISを研究しているグループとの交流および議論です.このグループには,兼任教員としてレバノン人のラニア・ブヘが属しています.ラニアと昨年会った際に,デンマークのグループとの共同研究について話を聞きました.とても興味深く思えたので,ラニアを通じてグループのメンバーと連絡をとり,今回の訪問に至りました.

オーフス大学農学部の歴史は非常に新しく,2007年に国立の研究所を転換する形で創設されました.また,現時点ではキャンパスに学生があまりいません.このため,つくばの研究所のような雰囲気がしました.現在,学部や大学院を整備しつつあり.その中でGISが重視されています.よって,空間情報科学研究センターに強い興味を持ってもらいました.今後,交流を深めたいと思っています.

初めてのデンマーク訪問でしたが,コペンハーゲンではなく,デンマーク人もあまり行かない田舎に行きました.「がっかり人魚像」を見るよりも,実りが多かったのではと思います.

There's a pasture in the countryside.
(Anywhere Like Heaven / James Taylor)

北ドイツ

2010-02-21 | おでかけ
北ドイツのハノーファーとポツダムを訪問しました.ハノーファーでは,当地の研究所に勤めている塚本さんと,イタリアのプロジェクトのためにお願いした年代測定について議論をしました.ポツダムでは,少し前に来日したオリバー・コラップ氏と,研究の打ち合わせをしました.

いずれの都市も日本の歴史と強い関係を持っています.写真の建物は,1945年7月に米英露の首脳が集まって「ポツダム宣言」を作成した場所です.中には当時の会議場が,ほぼそのまま残されています.ポツダムの会議の主な議題はドイツの戦後処理であったため,日本への宣言の話は,ドイツ人にはあまり知られていないようです.宣言と原爆の投下が関連していることを,オリバーと彼の奥さんに話したところ,ちょっとびっくりしていました.

また,会議は当初はベルリンで行う予定でしたが,戦争末期の市街戦による破壊のために適切な建物が残っておらず,郊外のポツダムにある旧ドイツ皇太子の宮殿を使うことにしたそうです.ポツダムは幸運にも破壊を免れ,歴史的な建物が多く残っているため,世界遺産になっています.

一方,ハノーファーの中心部は繰り返し空爆を受けたため,歴史的な建物が非常に少なく,雰囲気がヨーロッパの他の都市と違う感じがしました.このため,ハノーファーは広島と姉妹都市になっています.実際,当時破壊されて壁だけが残っている教会が,原爆ドームのように保存されていました.

平和の大切さを改めて感じました.

War is stupid.
(War Song / Culture Club)

謹賀新年

2010-01-01 | おでかけ
あけましておめでとうございます.昨年に引き続き,諏訪の実家で新年を迎えています.

関東平野の温暖な気候に慣れてしまったので,この時期に寒い場所に来るのは,ちょっと大変です.とくに今年は,年末に娘が持ち込んだ風邪が家族全員に広がり,それがようやく一段落したところなので,例年よりもきつい感じです.でも,正月を実家で両親と過ごすのは,年の初めの基本です.

今日は安曇野にドライブに行きました.写真のように,田んぼに白鳥がたくさん集まっていました.背後には,修士論文のフィールドであった北アルプス・常念山脈の山麓が写っています.真冬には調査をしなかったので,懐かしいというよりも新鮮な風景に見えました.

昨年は良いことと試練が交錯した年でした.でも,大晦日の夕方に,研究室の元メンバーから素晴らしいニュースが届いたので,良い年として締めくくることができました.

今年もよろしくお願いします.

She sits by the fireside.
The room is so warm.
There's ice on the window.
(Passing the Time / Cream)

カリフォルニア科学アカデミー

2009-12-14 | おでかけ
先日,田代先生から「神出鬼没」とのコメントをいただきました.その状態が続いており,昨日からサンフランシスコに来ています.フランス+レバノンの出張からあまり間がなく,その後の日本滞在中には中国からお客さんが来ていたため,自分でも頭が混乱しています.

今回はAGU(アメリカ地球物理学会)の学術大会への参加が主な目的ですが,もう一つの目的は,カリフォルニア科学アカデミー(California Academy of Sciences)と呼ばれる博物館の訪問です.この博物館は150年を超える歴史を持ち,自然環境に関する質の高い展示と,貴重な資料の保有で有名です.約3年間,改装のために休館していましたが,昨年9月に再開しました.自然史博物館,水族館,プラネタリウムを一ヶ所に併設している点がユニークです.

実は,来年春の日本地理学会の際に,自然保護助成基金の目代さん,琵琶湖博物館の宮本さんと,「博物館の地理学」というシンポジウムを行います.そのこともあり,ちょっと気合いを入れて展示や資料を見てきました.

博物館は評判の通り良くできていて,子供から老人まで,多数の人で賑わっていました.自然史博物館と水族館が同居しているメリットを強く感じたのは,熱帯に関する展示です.地下一階の水族館では,熱帯の川魚を展示した水槽の中にアクリル張りのトンネルがあり,そこから頭上を泳ぐ魚を観察できます.一方,水槽の上には熱帯雨林を再現した自然史博物館の温室があり,その上部から水槽を見下ろせます.樹冠から川底まで,熱帯の環境を総合的に把握できます.

プラネタリウムも立派で,遠近の変化を取り入れた映像を用いて,地球や太陽系を含む宇宙の特徴を詳しく説明していました.昔訪れた別のプラネタリウムでは,夜空を単純に再現し,代表的な星や星座の解説に終始していたのとは対照的でした.

ただし,プラネタリウムでは個人的な問題が生じました.座席が天井を眺めやすいように深くリクライニングしていて,部屋も当然真っ暗です.それに時差ボケが重なったため,解説の途中でしばらく寝てしまいました.

There's a whole generation with a new explanation.
(San Francisco / Scott McKenzie)

小平市の玉川上水

2009-12-11 | おでかけ
約1年前に担当した国土交通大学校の講師を,再び担当しました.さまざまな官庁・自治体から研修のために派遣されて来た方々に,GISを用いた地形解析について解説しました.

国土交通大学校は東京西部の小平市にあります.大学校の入口に予定よりも少し早く着いたので,近くにある玉川上水を見に行きました.現在,この区間の玉川上水には下水の高度処理水が流されており,江戸時代のように多摩川から引いた水が流れているわけではありません.とはいえ,水路に沿って木が生い茂っている様子は,まるで天然の河川で,眺めていると山の中にいるような気分になります.

天気も穏やかで,わずか10分間ほどでしたが,とても安らぐ時間でした.ただし林の中に,本来の武蔵野の植生にはないシュロが生えているのを見つけたときには,都市にいることを実感しました.以前,目黒の自然教育園に行ったときに,外来のシュロが多数侵入しているのを見ました.鳥が民家の庭などに植えられたシュロの実を食べ,その糞が園内に落ちることが原因とのことです.

Now he walks in quiet solitude.
The forest and the stream.
(Rocky Mountain High / John Denver)

冬のパリ/冬の大学

2009-11-26 | おでかけ
パリに来ています.昨日まで,S4(Spatial Simulation for the Social Sciences)というグループの国際学会に参加していました.自然地理学を専門とする僕が,社会科学系の学会に出るのは少々奇妙ですが,空間情報科学研究センターがS4に加入しており,地理系の研究者が環境を含む問題を取り上げているので,議論と情報交換のために参加しました.副センター長の浅見先生と,先生の学生さん2名も一緒でした.

僕の発表は地形の傾斜の統計分布に関するもので,haya君およびlinさんと連名でした.他の発表とは対象が異なるため,最初に「これはStudy on Simple Statistics of Slope なので,S4で発表して良いはず」と述べました.場違いでなければと思っていましたが,発表後には質問が多数出たのでホッとしました.対象が何であれ,地理情報の分析として相互理解が可能なようです.参加者の多くはヨーロッパ人でしたが,北米,オセアニア,タイなどからの参加もあり,なかなか面白い学会でした.

パリの天気はどんよりとしていますが,お洒落な人たちが行き交う街を歩いていると,気分が明るくなってきます.一方,宿に戻ってパソコンをネットにつなぎ,「国立大運営費にも厳しい仕分け」という日本のニュースを見たときには,一気に憂鬱になってしまいました.

日本の大学は欧米の大学に比べて,教員に対する事務職員や技術職員の比率が小さく,教員が研究や教育に集中しにくい環境になっています.この話を欧米の研究者にすると,先端的な経済大国という日本のイメージと合わないらしく,とても驚かれます.大学運営費の削減は,この奇妙な状況をさらに悪化させることを意味します.

I was so hard to please.
(Hazy Shade of Winter / Simon & Garfunkel)

済州島

2009-11-06 | おでかけ
地理情報システム学会と,韓国GIS学会の合同シンポジウムのために,済州(チェジュ)島の西帰浦(ソギポ)市に来ています.

済州島に来るのは約20年ぶりです.前回は院生の時で,早稲田大学の大矢先生が韓国本土で企画した巡検に参加した後,一人でやってきました.多数の滝や洞窟を持つ火山島に,興味があったためです.

その時,ローカル・バスに乗ってガイドブックを開き,宿の候補を探していると,「あなたは日本人ですか」と現地の人に声をかけられました.日本語を少し勉強した方で,後は英語にスイッチして話をしました.当時の僕の英語はひどかったはずですが,何とか意思疎通をし,結局,その方の家に泊めてもらいました.外国の普通の家に泊まった最初の経験で,統治時代に学んだ日本語を話す彼の両親にも会いました.旅先での親切のありがたさを実感しました.

時はかわり,今回は大韓航空(KAL)のホテルに泊まっています.部屋の窓から見える漢拏山がきれいです.20年前には山頂まで歩いて登りました.途中で下方を見たら,側火山がとても密に並んでいたのが印象的でした.

今回の学会では,最初のセッションで座長を担当し,次にフィリピンのピナツボ火山における噴火後の植生回復について発表しました.ロンさんらと行った研究です.リモセンのデータ解析に基づき,植生の完全な回復には50~100年を要すると推定しました.ただ,発表時間が12分しかなく,ジョークを入れるのは困難でした.最後に「この火山は安全であってほしい」というコメント付きで,漢拏山の写真を出したのが唯一の遊びでした.

実は,小泉首相が女優のチェ・ジウに,「チェジュ(島)とあなたの名前は似ていますね」という,カタカナの発音から発想したジョークを言ったけれど,彼女は理解できなかったことを紹介しようと思いました.でも,内容がちょっと複雑で,時間を浪費しそうだったので,やめました.一応,ジウ姫の写真も用意したのですが...

Take me back to waterfalls in volcanic canyons.
(Island Life / Michael Franks)

イタリア・サルノ

2009-10-09 | おでかけ
イタリアに来ています.3/13の記事に書いた,ヴェスヴィオ山麓の考古発掘に関連した調査のためです.対象となっている遺跡は,主に土石流堆積物によって埋められています.そこで今回は,ヴェスヴィオ山の東方に位置し,1998年に土石流で被害が生じたサルノの山地にも足を運び,遺跡周辺との比較を試みました.

この山地は石灰岩からなり,斜面が急なため表層の堆積物は薄い場所が多いですが,尾根に近い場所などにはヴェスヴィオ山起源の火山降下物が載っています.1998年には,このような堆積物が土石流となって流下し,山麓の複数の扇状地に到達して約150名の死者が出ました.

一昨日,土石流研究で有名な京大の諏訪先生,最近フィールド調査を共にすることが多い新潟大の片岡さん,および発掘隊の杉山さんと,代表的な扇状地の源流域に登りました(写真).途中から,現地の斜面でオリーブなどを作っているおじさんが,道を案内してくれました.おじさんは,1998年より前にも小さな土石流が何度か発生したが,扇状地までは達しなかったと,通訳の杉山さんを通じて語りました.

写真で見られるように,扇状地の上には陸上競技場のような形の穴があります.これは災害後に掘られたピットで,今後は土砂が流下してきても,ここで貯めて下方の集落を守ることが想定されています.ピットを近くで見ると,実に異様な風景ですが,地元の人の不安を取り除く効果はあるでしょう.ただしピットには,写真の谷とは別の谷の土砂も集まるようになっています.諏訪先生の試算によると,1998年と同等の土石流が発生したら,ピットはすぐに一杯になり,土砂が再び集落に流下してしまいます.

You know I'm gone like a cool breeze.
(You Can't Catch Me / Chuck Berry)

台北

2009-09-21 | おでかけ
台北に来ています.Land Dynamics in Mountainous Watersheds: Typhoons, Landslides and Land Use(山地流域における土地の動態:台風,斜面崩壊,および土地利用) という会議に参加中です.一昨日までは国立台湾大学で発表と討論が行われ,昨日は台北の西方の流域に行って議論をしました.写真は,現地で見た河岸の崩壊地と小扇状地です.

この会議は,集々地震から10年目に際して企画された,大きな学会の一部をなすもので,国立台湾大学の張教授(Karl Chang)が企画しました.彼は国際的な人脈が広く,発表者にはマスムーブメントや土砂流出の分野の有名人が多く含まれています.僕以外の発表者を下記に列記します.

Marco Borga, Fausto Guzzetti(イタリア)
Karl (Kang-tsung) Chang, Hongey Chen, Jiun-Chuan Lin, Meei-Ling Lin(台湾)
Lieven Claessens(ベルギー)
Niels Hovius(イギリス)
Oliver Korup(スイス)
Jeroen Schoorl, Tom Veldkamp, Cees van Westen(オランダ)

Fausto GuzzettiとOliver KorupはGeomorphologyの編集委員なので,これまで何度もメールをやりとりしていましたが,会うのは初めてでした.これだけでも参加した価値がありました.

会議の内容は斜面崩壊の統計モデルが中心で,似た仕事をしている研究者間での突っ込んだ議論には,ついて行けない部分もありましたが,とても面白く聴けました.僕は台湾と日本を比較し,過去の気候変化の違いと,それが現在の崩壊や土砂流出に与える影響について話しました.

また,国立台湾大学の林教授(Jiun-Chuan Lin)の研究室で,台風8号による台湾南部の大災害に関する資料を見せてもらいました.土砂移動の規模の大きさに唖然とさせられました.最大の被害が生じた小林村の土石流は,元の地形からは予測できないような場所で生じていました.

I just didn't expect.
(Sick Heart River / Soilwork)

首都大学東京

2009-08-12 | おでかけ
今日までの3日間,首都大学東京の大学院で集中講義を担当しました.お盆の直前でしたが,修士課程の学生さん4名と,僕の研究室とも交流がある博士課程の齋藤君が参加してくれました.松山さん,中山さんらにお世話になりました.また,僕の研究室に10ヶ月ほどポスドクとして滞在し,数年前から首都大に勤めている伊藤さんにもお会いしました.

担当した講義は「空間情報科学特論」.GISを用いたデータ解析について,特に地形学における応用を中心に話しましたが,昔行ったフィールドワークや,地図の重要性といった内容にも触れました.

「特論」という言葉は,大学の授業の名前にしばしば使われますが,ATOKでは読みから直接変換できませんでした.他の用途ではほとんど使われないためと思います.そういえば,以前に別の大学で,「地理学特殊講義」という授業を担当したことがあります.この「特殊」は「高度」という意味なのでしょうが,個人的には「特殊=風変わり」というイメージが強く,違和感がありました.確かに講義内容は風変わりでしたが...

首都大学東京は,南大沢の駅に隣接しています.しかしキャンパスが細長いため,地理の建物に行く際には構内をかなり歩く必要があります.この時に,キャンパスの南縁にあるルートを使うと,密な林に覆われた斜面を見下ろしながら歩くことができます.この斜面には多摩丘陵の原風景が残されています.周囲の地形や植生は大幅に改変されているので,この斜面を間近に観察できることは貴重です.途中には写真のような斜面を下る小道もあります.毎日このルートを通って講義室に向かいました.

With life's best side on the downward slope.
(Early Morning Cold Taxi / The Who)

阿蘇

2009-07-27 | おでかけ
週末,十数年ぶりに阿蘇に行きました.生産研の沖先生が主宰している「東大水フォーラム」の合宿に参加したためです.

見学した場所は,熊本市の水源地,サントリーのビール工場,中央火口丘の山麓にある湧水地などでした.天気は降ったり曇ったりで,ニュースにもなったように非常に強い雨も降りましたが,雨の合間には視界が開けて地形を観察できました.阿蘇は卒論の研究を行った場所なので,懐かしい風景や地名を見て,当時のことをいろいろ思い出しました.もし改めて調査を行えば,当時よりも良い研究ができる感じがしました.

日程のうち半分ほどは,ホテルの会議室での研究発表会でした.工学系の内容が多く,GISに関係したものが1/3くらいありました.僕は地形・地質情報を用いた古水文復元の概要を話しました.10年くらい前に,国際第四紀学会(IUQUA)の全球大陸古水文研究グループ(GLOCOPH)で勉強した内容が中心だったので,こちらも懐かしく感じました.

約20名の参加者のうち,事前に僕が面識があった人は2名のみでしたが,サントリー提供の飲み物もいろいろ出て,楽しい時を過ごしました.企画と運営をされた方々,ありがとうございました.

なお,「卒論を阿蘇でやっていました」と話すと,「あーそーなんですか」という返事がほぼ常に来ました.

The only thing we need is water.
Cool, clear water.
(Old Dirt Road / John Lennon)

若手地形学者セミナー

2009-07-15 | おでかけ
国際地形学会議の翌日に,メルボルン大学で若手地形学者のためのセミナーが開かれました.これは,国際地形学会が企画した「若手地形学者のための集中コース」の一部で,初日がセミナー,続く2日間が巡検というものです.

セミナーは,中堅~長老の講演を院生などの若手が聴くという企画で,講演者は僕を含む7名でした.長老はJohn Chappell(オーストラリア国立大学,日本では太田先生との共同研究で有名)とJim Bowler(メルボルン大学).また,少し若い今の権威として,Andrew Goudie(オックスフォード大学,前国際地形学会会長)とMike Crozier(ヴィクトリア大学,現国際地形学会会長)という蒼々たるメンバー.そこに,中堅としてZongyuan Chen(華東師範大学),Kirstie Fryirs(マッコーリー大学),および僕が加わりました.僕より若いKirstieがいたので,ちょっとホッとしました.

講演の内容は,各自の体験と若手へのアドバイスが中心でした.講演者の大半が英語圏の人なので,僕は非英語圏の研究者の立場で話をしました.前半では,自分の生い立ちや,最初は英語の壁が大きかったことを語りました.たとえば,初めて参加した国際学会で,緊張しながら原稿を持って発表している写真を示し,最初はこの形でしか出来なかったと話しました.後半では,Geomorphologyのエディタの経験を踏まえ,論文を書くコツを話しました.

今回は研究発表ではなかったので,ジョークを多く入れました.たとえば,日本人がエルヴィスのLove Me Tenderを歌うと,Rub Me Tenderのように聞こえ,もっと魅惑的(?)だとか(それくらい日本人は英語で苦労しているという意図です).みんな何度も笑ってくれました.講演中には真面目なGoudie氏が,呆れたような顔をしているのが目に入りましたが,後で「良いプレゼンだった」と言ってくれました.

セミナーの後は,レストランとパブ2件をハシゴし,参加者と深夜まで飲みました.オーストラリアの学生が村上春樹について語ってきたり,パブでギターを弾いていたお兄さんに曲をリクエストし,みんなで踊ったりと,実に楽しい時間でした.

唯一残念なことは,30人近い若手の中に日本人がいなかったことです(日本在住のSongさんはいましたが).同世代の世界中の研究者と一気に知り合えるなんて,僕の経験からみて,全く夢のような機会です.4年後のフランス大会の際にもコースがあると思うので,そのときには日本の若手にも参加してほしいです.

Teach your kids how they're all young enough to fight.
Talk about the answer.
Tell them they're alright.
(Lazy Gun / Jet)